静奈が真剣な顔で送金してきた時のことを思い出し、不快感は少しずつ消え、理性が戻ってきた。自分は一度も彼女に本心を明かしていない。彼女の目には、ただの「親友の兄」で「頼れる弁護士」としか映っていないのだ。なのに、隠している気持ちを察しろと要求するのも、彼女の水臭い態度に怒るのもおかしな話だ。そう気づくと、謙は迷わず立ち上がった。椅子の背にかけたジャケットを掴み、大股でオフィスを出た。静奈が山のような会社資料を前に頭を抱えていると、インターホンが鳴った。ドアを開けると、謙が立っていた。「浅野先生、どうしたんですか?」謙は廊下の薄暗い灯りの下、いつもの様子で立っていた。「近くに来たんでな。朝霧グループのことで話があると思って寄ってみた。上がってもいいか?」「どうぞ」静奈は招き入れた。リビングのテーブルにはノートパソコンが開かれ、画面には朝霧グループの資料が表示されていた。謙は何食わぬ顔で一瞥し、予想通りだと確信した。やはり会社の奪還で悩んでいるようだ。「お茶かコーヒー、飲みますか?」静奈がキッチンへ向かう。「水でいい」謙はソファに座り、画面を見た。静奈が水を持って戻ると、彼は淡々と切り出した。「資料を見ていたのか?会社を取り戻すつもりか?」「はい」静奈は向かいに座り、正直に頷いた。「でも今の朝霧グループは酷すぎて、どこから手をつけていいか……」謙は水を飲み、落ち着いた声で言った。「良平は数日前に破産申請をした。破産清算で借金から逃れようとしている。会社はもう助からないと知っているんだ。債権者に追われるより、破産して裁判所に丸投げした方がいいと考えたんだろう。だがお前にとっては好機だ。破産清算の際、資産は分類される。そこでお前は『クリーンな資産』だけを狙って競売に参加すればいい」「クリーンな資産?」静奈は首を傾げた。「担保に入っておらず、債務トラブルのない資産だ。核心技術の資料とかな」謙は水を置き、テーブルのメモ帳とペンを取り、図を描きながら説明した。「担保に入っている工場や借金のあるプロジェクトは『有毒資産』だ。手を出せば債務トラブルに巻き込まれる」一呼吸置き、続ける。「アドバイスだが、まず新会社を設立し、その名義で競売に参加しろ。そ
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