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第31話(16)

 和彦の足掻きなどものともせず、南郷は悠々と背に覆い被さってきて、肩に唇を押し当ててきた。腰を抱え上げられ、胸元から腹部にかけて荒々しくてのひらを這わされる。「あっ……」 尻の肉を鷲掴まれて声が洩れる。内奥に三本もの指を挿入してきながら、南郷が背骨のラインをベロリと舐めてくる。和彦を襲った鳥肌が立つような感覚は、おぞましさと、肉欲の疼きだった。「――もう少ししたら、吾川が呼びに来るかもな」 南郷の言葉に、内奥に収まった指をきつく締め付ける。背後で南郷が低く笑い声を洩らした。「先生、艶やかで浅ましいオンナらしく、乱れて見せてくれ。俺が満足したら、吾川が来る前に解放してやる。……俺は別に、見られても気にしないが、あんたはそうでもないだろ。外面ぐらいは、取り繕っておきたいはずだ」 煽られた和彦は、唇を噛み締める。南郷は、和彦が本気で抵抗をしないとよく知っているうえで、言っている。返事ができない和彦にかまわず、南郷は両足の間に片手を差し込み、欲望に触れてきた。「あんたは本当に、物騒な男好みの性質だな。……屈辱を与えられて――感じてやがる」 南郷の手の中で、和彦のものは形を変えつつあった。なんとか愛撫の手から逃れようとしたが、腰が甘く痺れて動かない。内奥で揃って三本の指を曲げられると、もう限界だった。「あうっ、ううっ」 鼻にかかった呻き声を洩らすと、南郷に唆されるまま自ら足を開いて楽な姿勢を取る。すると南郷に片手を取られ、自分の両足の間に導かれた。「自分で弄ってみてくれ。あんたの全身を撫で回したいが、手が足りない」 頭で考えるより先に、和彦は首を横に振る。すると南郷の手が欲望にかかり、たまらず和彦は弱音を吐いていた。「もっ……、嫌、だ……」 次の瞬間、体をひっくり返されて、間近から射抜かれそうな鋭い視線を向けられた。縊り殺されるのではないかと、本能的な危機感に和彦は息を詰め、南郷をじっと見つめ返す。 何秒か――何十秒だったかもしれないが、二人の間に緊迫した
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第31話(17)

**** 異常に精神が高揚していた。 患者への施術を行ったあと和彦は、手を洗いながら、正面の鏡に映る自分の姿をじっと見据える。 満足に眠れず、肉体的にも精神的にも疲弊しているはずなのに、なぜだか疲労感が訪れないのだ。そのことになんら疑問を感じていなかったが、何げなく鏡を見てやっと、今の自分はおかしいのだと気づいた。 自分ではそう思ったことはないが、周囲の男たちからさんざん優しげだと評される顔立ちは、今は様相が違う。やけに目つきが険しくなり、強い光を宿している。目の下にうっすらと隈が出来ているせいか、荒んで、どこかキツイ顔つきとなっていた。 緊張と興奮と苛立ちと、どうやっても消せない欲情の残り火が、体の内から和彦を燃え上がらせ、神経を高ぶらせ続けているのだろう。 まるで自分の顔ではないようだと思いながら、午前中の予約がすべて終わったこともあり、ついでなので勢いよく顔を洗った。 濡れた前髪を掻き上げて、午後の予約を確認する。午前中が忙しかった分、午後は余裕のある状況となっており、少し考えて和彦は、昼休みの電話番として残っているスタッフにこう告げた。「調子が悪いから、午後の予約の時間まで、仮眠室で横になるよ。誰から電話がこようが、起こさないでくれ」 スタッフは何か言いかけたが、和彦の顔つきの険しさに察するものがあったのか、頷いた。 仮眠室に入って鍵をかけた和彦は、すぐにネクタイを解き、ワイシャツのボタンも上から二つほど外す。横になろうとして、エアコンをつけてからブラインドを下ろした。 倒れ込むようにベッドに横になると、あっという間に眠気が押し寄せてくる。意識がなくなる前に、目覚ましのタイマーをセットしておいた。 すぐに眠れると思ったが、こんなときに限って、やけに自分の息遣いが気になった。普段より速く、荒い息遣い。まるで、快感に浸っている最中の、切迫したときのような――。 目を閉じたその瞬間に、昨夜、南郷に嬲られた光景が、体に刻みつけられた感覚とともに一気に蘇った。もちろん、和彦自身の痴態も。** 総和会本部では、和
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第31話(18)

 こういう状況にあっても、総和会に取り込まれたくないと、心のどこかで抵抗感があるのだ。「二階と三階は、先生が立ち入ることはあまりないでしょう。ご覧になりたいとおっしゃるなら、ご案内しますが」 三階で一旦エレベーターの扉を開けた吾川が、こちらを見る。和彦は困惑しつつ、エレベーターの外の様子に控えめに視線を向ける。 守光の居住スペースがある四階はまだ、多数の人間が宿泊できる研修施設だったというだけあって、ラウンジからしてホテルのような雰囲気も残しているのだが、三階はまさに会社のオフィスだった。 エレベーターホール自体は狭いと言えるが、そのスペースを囲む透明な仕切りの向こうは、整然とデスクが並んでいる。パソコンに向かっているスーツ姿の男たちの姿もあり、この場面だけ切り取ってみれば、自分は一体どこに足を踏み込んでしまったのかと、混乱しそうだ。「間仕切りで、階全体を見渡せないようにしていますが、総本部で活動している委員会の連絡所があったり、それぞれの組や隊の詰め所もあります。二階も似たような感じですが、来客を出迎えるために、こういう表現も妙ですが、少し開放的な造りになっています。この建物はもとは研修施設だったので、普通の会社として捉えると混乱するでしょう。四階の雰囲気はホテルのようですからね。今日は案内をしていませんが、食堂や風呂もあります。が、これらを先生が利用することはないでしょう」「ない、ですか……」「ないですね。先生は特別な方ですから、すべて四階でおもてなしさせていただきます」 はっきりと言い切られ、和彦は曖昧な表情を浮かべるしかできない。 今日は、検査入院を終えた守光が、体調に問題がなければ本部に戻ってくる日だ。クリニックでの仕事を終え、本部に〈立ち寄った〉和彦だが、その守光の姿はまだなかった。 吾川なりに気をつかってくれたのか、本部内を案内すると申し出てくれ、和彦はそれを受け入れた。本部に興味があるからというより、主のいない住居で一人で過ごす居たたまれなさを、少しでも和らげるためだ。「二階は午後から慌しくなり、夜も人の出入りは頻繁です。仕事でお疲れの先生にとっては、気忙しい思いはしたくないでしょうから
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第31話(19)

 これまで、室内にいても、まるで自らの存在を消しているかのように振る舞っていた吾川が、ここにきて突然、和彦と言葉を交わすようになったのは、やはり理由があるのだろう。当然、総和会本部内を案内すると申し出てきたことも。〈あれ〉のせいだろうか、と和彦は心の中で呟く。 守光のオンナであることは、あくまで和彦と守光の私的な繋がりだ。いままでは、この理屈が優先されていた。だが現在、総和会出資によるクリニック経営を和彦に任せたいという話が持ち上がっている。これを引き受ければ、和彦は総和会という組織とも堅固に繋がる。総和会会長という絶対的な存在の後ろ盾を得たうえで、確たる肩書きを持つのだ。 総和会に属する男たちは、嫌でも和彦を値踏みすることになるはずだ。組織内の力のピラミッドの中で、和彦はどこに位置することになるか。そのうえで、どう接し、扱えばいいのかと。 地下についてエレベーターを降りると、いつだったか千尋が言っていた通り、ジムもプールもあった。本格的なスポーツジムとまではいかないが、それでも、十分に体を動かせる広さがあり、マシーンも種類が揃っている。実際、トレーニングルームでは、Tシャツ姿で体を動かしている男たちの姿がある。 普通のスポーツジムと違うのは、Tシャツから伸びた腕に、堂々と刺青が彫られている点だろう。刺青を見たぐらいでは、すでに驚かなくなっている自分に、和彦は密かに苦笑を洩らす。「今はどこの施設も厳しいですからね。体に墨を入れていると。肌を晒して思う存分体を動かせる場所は限られます」 和彦が視線を向ける先に気づいたのか、吾川が抑えた声で言う。「ここは、二十四時間いつでも使えます。先生もご自由にお使いください」「……ありがとうございます」 吾川の言葉に、和彦はある予言めいたものを感じ取っていた。深読みと呼べる類のものかもしれないが、ただ、確信はあるのだ。 水飛沫が上がっているプールに漫然と視線を向けていると、傍らに立った吾川がさりげなく腕時計を見る。そして、こう切り出した。「そろそろ夕食をご用意しましょうか」「えっ、ああ、はい……」 吾川に促
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第31話(20)

** 風呂から上がった和彦は客間に入ると、延べられた布団を横目に見つつ、逡巡しながらも携帯電話を取り上げた。 電話に出てほしいような、そうではないような、複雑な心理に心が揺れる。しかし、呼出し音が途切れ、耳に届いた魅力的なバリトンに、あっという間に心は搦め捕られた。『――帰してもらえなかったか』 開口一番の賢吾の言葉に、吐息を洩らすように笑ってしまう。「会長が検査入院から戻ってきたから、それではお暇します、とは言えない。ぼくが帰ったところで、側近の誰かが側についているんだろうけど……」『そういうことは、本来は家族の役目なんだろうがな。俺がずっとついているわけにはいかねーし、千尋じゃ心許ない。結局、先生に頼むことになる。こう言っちゃなんだが、先生の存在は、使い勝手がよすぎる』「別に、咎めはしない。ぼくみたいな医者でもいいから、側にいてほしいと言われるんだ。……長嶺の人間ではないのに、こんなに信頼されていいんだろうかと、戸惑ってはいるけど」『ヤクザに信頼されても、嬉しくねーだろうがな』 返事がしにくいことを言わないでくれと、和彦は心の中で呟く。『夕方ぐらいに、オヤジから連絡はもらっている。来週、検査結果を聞きに行くのは、俺が付き添う。すまないが、先生にはその日まで、本部に滞在してもらいたい』「……あんたに、すまない、と言われるのは、ちょっと気分がいい」『こんなことで気分がよくなってくれるなら、今度は土下座でもしてやろうか? きっと先生は、晴れやかな笑顔を見せてくれるだろうな』 そんなわけないだろうと、和彦は電話の向こうにもしっかり聞こえるよう、大きくため息をついた。「もういい……」 本当は、言いたいことは他にあるのだ。ただ、守光が倒れたと聞かされてから、そこから検査入院となり、すぐに命の危険が脅かされる状態ではないとはいえ、それですぐに心配が払拭されるわけではない。組織を背負っている者なりに、和彦ではわからない気がかりもあるだろう。そんな賢吾に〈あんなこと〉
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第31話(21)

 書き損じた便箋を破りながら守光が問いかけてくる。なんとなく部屋を出ていくタイミングを失った和彦は、守光の斜め後ろに正座する。「ええ、つい今しがた、ぼくから電話をしました」「仲睦まじくて、微笑ましいことだ」 さりげなく守光から言われた言葉に、十秒ほどの間を置いて和彦は顔を熱くする。「いえっ……、来週まで会長のお側にいることを、報告しただけですから……」 振り返った守光が薄い笑みを浮かべている。翻弄されているなと、和彦は苦笑で返す。「それでは、ぼくは客間に戻ります。何かありましたら、遠慮なくお呼びください」「ありがとう」 和彦が立ち上がったとき、守光が文箱に道具を仕舞って蓋をする。その文箱は、木目の美しいシンプルなデザインのものだった。中に収まっているものも、まさに手紙を書くために必要なものだけだ。 ふいに胸の奥で湧き起こった妖しいうねりを、和彦は必死に抑え込む。守光がちらりと意味ありげな視線を向けてきた。「あんたは、手紙はよく書くほうかね?」 突然の守光からの問いかけに面喰いながらも、和彦はぎこちなく首を横に振る。「いえ……。大半の用事は、電話かメールで済ませる癖がついて、改まって文章を書く機会はほとんどなくなってしまいました」「少しずつ、書く習慣をつけていくといい。あんたの存在は、長嶺組だけではなく、総和会にとっても特別になる。そのうちあんたの名で、人や組織に対して、挨拶状や礼状を出す機会もあるだろう。……ふむ。あんたに似合う花を選んで、透かし入りの便箋を作らせるというのも、風情があるかもな」「……もしかして、会長がお使いになっている便箋は……」「総和会の代紋が透かしで入っている――と言いたいところだが、牡丹の花だ」 見てみるかねと問われ、頷く。立ち上がった守光が飾り棚に歩み寄る。「まとめて作らせてあるから、一冊あんたにあげよう。それで思いつくまま書いてみるといい」「ぼくにはもった
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第31話(22)

**** パシャッと水音を立て、池で泳ぐ魚が跳ねた。鯉だろうかと、思わず身を乗り出しかけた和彦に、笑いながら守光が言う。「フナだよ。この池は釣りが禁止されているから、魚がよく肥えて育っている。跳ねたフナは、立派な大きさだったよ」「……あまり、詳しくなくて。池にいるといえば、鯉ぐらいしか思いつかないんです」 子供のような反応を見せたことに恥じ入りながら、和彦は小声で応じる。このとき風が吹き、紗の羽織をさらりと撫でていく。陽射しの強い夏の日に、羽織を着ての外出は暑くてたまらないのではないかと心配していたが、まだ着慣れない着物姿であるということを抜きにして、意外なほど着心地はいい。 守光が贈ってくれたのは、暑い時期に着るのだという紗という生地の着物と、羽織だった。着物は黒だが、透けて見えるほど薄い生地のためか重苦しい感じはない。着物の下に身につけた麻の長襦袢が、思いのほか肌触りがいいおかげでもある。和彦が特に気に入ったのは、淡い藤色の羽織だった。わずかに灰色が混じってはいるが華やかで、とにかく涼しげで美しい色合いなのだ。 いきなり着物一揃いを贈られて、目を白黒させる和彦に、共に着物を着て散歩に行こうと守光が言い出したときは、一体何事かと思った。吾川に手伝ってもらいながら着物を着つけ、なんとか車に乗り込んだときには、それだけで疲労感に襲われたが、こうして外の空気に触れていると、それも忘れてしまう。 客間の床の間にかかっている金魚の掛け軸を見て、池のほとりを散歩してみたいなと夢想していたが、今、守光とともに歩いているのは、まさに大きな池のほとりだった。 寺の敷地内にある池で、深緑の水を湛えており、木々の間から差し込む陽射しを受けて、神秘的な雰囲気を醸している。こういうところなら、ヌシともいえる生き物が棲みついていても不思議ではないなと、つい子供じみた想像をしてしまう。 静かなところだった。土曜日だからといって人が多く訪れるような場所ではないようで、この池にたどり着くまでの間、年配の婦人一人とすれ違っただけだ。散歩と言って連れ出された和彦としては戸惑うしかないのだが、連れ出した当人である
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第31話(23)

 雨の日に、三田村に見守られながら紫陽花を眺めたことを思い出し、慌てて意識から追い払う。守光と一緒にいて、他の男のことを思ったなどと、悟られるのが怖かった。「あんたとの約束は、できる限り果たしたいと考えていたが、結局、蛍を見ることはできなかったな」 蛍、と口中で反芻した和彦は、知らず知らずのうちに頬を熱くする。どういう状況で交わした会話か思い出したのだ。守光は穏やかな口調で続けた。「まあ、焦らなくてもいいだろう。また来年がある」「そうですね……」 頷いたところで、まだ鮮やかな色を残している数少ない紫陽花に目を止める。見入ってしまい、足元への注意を怠ったところで、小石につまずいて軽くよろめく。転ぶほどではなかったが、和彦の腕を取って支えたのは、さきほどから二人の側に付き従っていた南郷だった。 顔を強張らせながらも、頭を下げて礼を言う。「……ありがとうございます。大丈夫です」 南郷は何も言わず手を離し、和彦はさりげなく身を引く。 護衛の男たちが待機を命じられた中、南郷だけは当然のように同行し、守光もまた何も言わなかった。南郷だけは、やはり特別なのだ。 特別だから、〈あれ〉に触れることも許されているのか――。 守光の部屋の飾り棚に仕舞われている漆塗りの文箱を思い出し、そっと身を震わせる。あのとき守光は、和彦の戸惑いの理由を把握しているような口ぶりだったが、それ以上は何も言わなかった。 自分のオンナと、自分の側近との間に淫らな行為があったとしても許容しているのだと、和彦は感じた。 そもそも、守光に忠義を尽くしている南郷が、守光を裏切るような行為を積極的に行うとは考えにくい。何もかも、守光に報告していた――いや、守光の命令によるものだったのかもしれない。 急に空恐ろしさを感じ、着物の下でざっと肌が粟立つ。和彦は足を止め、先を歩く二人の男の背をじっと見つめる。なるべく考えないようにしていたが、いよいよ現実を真正面から受け止めるときがきたのだ。 和彦がそうすることを、〈オモチャ遊び〉を仄めかした守光は望んでいるのだろう。 自分から
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第31話(24)

「ええ、そういうクリニックもあると思います。規模によっては、医療機器を揃えるために、軽く億単位の金額がかかるでしょう」「それは、魅力的な額だ」 守光の横顔にあるのは、怜悧な表情だった。和彦はその表情に見覚えがある。打算含みの話をするとき、賢吾もよく似た表情を見せるのだ。組の仕事について、賢吾はあまり深くは語らないが、それとなく和彦に匂わせるときがある。そんなとき和彦は、耳を塞ぎたい気持ちをぐっと堪え、なんでもない顔をして聞き流す。 自分は、決してきれいとは言えない組の金で生かされていると、頭では理解しているし、気持ちでも納得はしている。罪悪感と不安感を、苦い薬のように飲み下す術は身につけたつもりだ。 それでも、今和彦の隣にいるのは、十一の組で構成される組織の頂点に立つ男で、この先の会話を想像しただけで息が止まりそうになる。「総和会は、十一の組同士の抗争の抑止と監視を目的として設立され、そこに、互助会としての側面も加えることで、組織として上手く機能している。力のある組が主導権を握り、組織を回す。どうしたって、多少力の劣る組は相応の発言力や影響力となるが、それでも総和会にいる理由の一つは、実にわかりやすい」「恩恵があるからですね」「十一の組から上納金を吸い上げたうえで、配分をしている。総和会として得た利益も加えて。組織としての関係が強固であればあるほど、総和会という名の集金マシーンは威力も増す。だが、集めるだけでは金は使えん。まっとうな商売をして集めた金ばかりではないからな。そこで、世間に流せる金として、洗う必要がある」 マネーロンダリング、と和彦は心の中で答える。あえて声に出す必要もなかった。知っていて当然とばかりに守光は頷いたからだ。「方法については、あんたは知らなくていい。ただ、総和会が出資するクリニックには、多くのダミー会社が背後につくことを覚えておけばいい。あとは、専門の人間たちが上手くやってくれる。あんたはあくまで――医者だ。総和会の新しいビジネスの顔だ」 残酷だなと思った。守光にここまで話させたことで、和彦はもう完全に、断るという選択肢を失った。もとより守光は、和彦に否が応でも引き受けさせるつもりだったはずだ。それでも体裁としては、
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第31話(25)

 前を走っていた車が緩やかにスピードを落として停まる。素早く車から降り立った南郷が、和彦たちが乗っている車に向けて大きく腕を振り、先に行くよう示した。そして当人は足早に、男たちが集まっている一角に向かおうとする。和彦は悲鳴のような声を上げていた。「停めてくださいっ」 守光が訝しげにこちらを見る。「先生?」「……あそこにいるのは、ぼくの知人です。ぼくに用があって来たんだと思います」「対処は南郷に任せておけばいい」「南郷さんは――」 ダメだ、とはっきり口にすることはできなかった。その代わり行動に出る。和彦が飛び降りかねないと判断したのか、車が停まる。転がり出るように車から降りた和彦は、男たちのほうへ駆け出す。ただ、足元は草履のうえに、着物の裾が気になっておぼつかない。 和彦に気づいた南郷が皮肉っぽく唇を歪め、ゆっくりと首を横に振る。「先生、危ないから中に入ってくれ」「何が危ないんですか」 キッと睨みつけて、南郷の傍らを通り抜ける。呼びかける前に、男たちに囲まれた人物が振り返り、その顔を見た途端、和彦は怒鳴りつけていた。「こんなところで何をしてるんだ、あんたはっ」 男たちに威圧的に取り囲まれたことよりも、和彦に怒鳴られたことが不快だったらしく、鷹津が顔をしかめた。「何もしていない。ただここに立って、建物を眺めていただけだ。俺の記憶では、ここは公道のはずだが、こいつらは、立ち止まらずにさっさと行けと因縁をつけてきた」 鷹津は、男たちの神経を逆撫でするように睥睨する。そして、剥き出しの敵意を視線に込めて、南郷に向けた。この場にいる男たちの中で、少なくとも南郷は、鷹津の正体を知っている。 今のこの状況は、どちらにとってより危険なのか。和彦は瞬時に判断して、鷹津に詰め寄った。「ぼくの質問に答えろ。ここで何をしている?」 鷹津は、ひどく冷めた目で和彦を上から下まで眺めた。「……お前、そんな格好もするんだな」「何、言って……」 会話が噛み合っていな
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