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All Chapters of 血と束縛と: Chapter 1421 - Chapter 1430

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第40話(35)

 身近にいすぎて見過ごしてしまうが、千尋は外見も中身もまだ成長過程にある。犬っころのような青年が、背に彫った恐ろしくも献身的な獣を身の内に宿す日は、近いかもしれない。それとも、すでに棲みついて、息を潜めているのか。 それはとても怖いことだが、一方で、抗い難い魅力も感じてしまうのだ。 ふいに千尋の片手が伸びてきて、髪を掻き上げられる。「何か、考え事してる?」 少し怒ったような声で問われ、和彦はふっと我に返る。「お前も成長してるなと思って。体、鍛えてるだろ?」「最近、人に勧められてさ、ジムに通い出したんだ。スーツ着る機会も増えたし、ちょっとでも映える体つきになりたくて。何より、体力つけないと。この世界、化け物みたいな体力持ったオッサンたちが多すぎるんだよ」「……ほどほどでいいからな」 和彦の言葉に、千尋が意味ありげな笑みを浮かべる。「なんの心配してるの? いやらしいなー、和彦は」 ここでムキになっては相手の思うツボだと、和彦は自分を戒める。反論は、言葉ではなく行動で示した。 興奮して身を起こした千尋の欲望を優しく片手で握り込むと、ビクリと腰を震わせた千尋が短く声を洩らす。「お前もいやらしい。――もう、こんなにして」 握り込んだものを緩く上下に扱いてやると、素直に悦びを表し、硬さも重量も増していく。甘ったれの本領発揮とばかりに、掠れた声で千尋に求められ、ゾクゾクするような興奮を覚えて和彦は応じる。 頭の位置を下ろし、千尋の反応をうかがいながら、欲望の根元から丹念に舐め上げてやる。ときおり唇を這わせ、優しく吸いついてやると、それだけで千尋は切羽詰まった声を上げ、体を波打たせる。 先端から滲み出た透明なしずくを舐め取り、まず括れまでを口腔に含むと、指の輪で欲望を扱きつつ、唇で締め付ける。 たっぷりの唾液を絡ませた舌で、口腔に含んだ先端を舐める。千尋がうわ言のように『先生』と呼びながら、和彦の後頭部に手をかけてきた。望み通り、口腔深くまで欲望を呑み込み、熱く濡れた粘膜をまとわりつかせ、吸引する。 瞬く間に逞しく成長した熱い塊が、和彦の喉を圧迫す
last updateLast Updated : 2026-07-24
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第40話(36)

「千尋、もういいから……」 なんとか千尋の頭を上げさせようと、茶色の髪を梳いてやる。しかし千尋は確信を得たように、硬くした舌先で先端をくすぐってくる。ときおり歯が掠め、そのたびにヒヤリとする恐怖に襲われるが、同時に、先日の賢吾との淫靡な行為が蘇る。「あっ、それ、嫌だ、千尋。怖い……」「ウソ。いっぱい、濡れてきた」 わざと和彦に聞かせるように、千尋がピチャピチャと濡れた音を立てて、欲望の先端を舐めてくる。さらには爪の先でも弄られて、和彦は鼻にかかった甘い呻き声を洩らしていた。 まさか賢吾は千尋に話したのだろうかと、つい脳裏を過りはするものの、本人に確かめるわけにもいかない。「ああっ――」 先端から尽きることなく滲み出る透明なしずくを吸われ、さらに出せといわんばかりに舌先でくすぐられる。和彦は甲高い声を上げ、身悶えていた。 汗と、それ以外のものによって湿りを帯びた内奥の入り口を、千尋の指先が掠める。押さえつけるようにして刺激され、ときおり舐められて濡らされながら、ゆっくりと指を挿入されていた。和彦は小さく喘ぎながら、内奥を妖しくひくつかせる。 全身から熱気のようなものを立ち昇らせ、顔を上げた千尋が荒い息を吐く。内奥から指を出し入れしながら、思い出したように呟いた。「……行かせたくないなー。すごく心配だよ。誰かに連れ去られて、戻って来ないんじゃないかって考えると、気が狂いそうになる」 すぐには思考が追い付かなかった。肉を開かれ、擦られる感触に意識を集中していた和彦は、ぼんやりと千尋を見上げる。千尋は愉悦を覚えたように目を細め、もう片方の手を和彦の胸元に這わせてきた。触れられないまま硬く凝った突起を、てのひらで捏ねるように刺激され、意識しないまま内奥をきつく収縮させる。「こんないやらしい和彦を、一人で送り出すなんて、嫌だよ。……どんな男が食いつくか、わかったものじゃない」「人を、魚の餌みたいに言うな……。それに、実の父親と会うだけなんだから、余計な心配だ」「本当にそ
last updateLast Updated : 2026-07-24
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第40話(37)

 熱いだけではなく、歓喜を知らせるように力強く脈打つ感触を身の内に感じ、和彦は声を震わせる。自分ではどうしようもない反応として、食い千切らんばかりに締め付けると、短く息を吐き出した千尋に、繋がった部分を指でなぞられた。「ねえ、俺の美味い? すげー、締まってる」 緩く腰を揺らされて、内奥の発情しきった襞と粘膜に刺激を与えられる。異物を咥え込んだ苦しさは、あっという間に肉の愉悦へと姿を変えていた。その証拠に、反り返ったまま震える和彦の欲望は、先端からとめどなく透明なしずくを垂らしている。 千尋のてのひらが、微かに震える下腹部へと押し当てられる。慰撫するように優しく撫でられたあと、濡れそぼった欲望を握られ、軽く扱かれる。「あっ……ん、千、尋っ――」「いいよ。先生、イッて」 ふとした拍子に呼び方が元に戻ってしまうが、今の和彦に指摘する余裕があるはずもなく、千尋の手の動きに翻弄され、内奥深くを突かれながら絶頂を迎えていた。迸り出た精で自らの下腹部が濡れるのを感じ、頭上の枕を握り締めてのたうつ。 そんな和彦の姿に誘われるように、千尋の刻む律動が力強さを増していく。射精の余韻で淫らな蠕動を繰り返す内奥を、抉るように突き上げ始めた。 若々しくも逞しいものが体の奥深くまで押し入ってくるたびに、意識が舞い上がる。和彦は恥知らずな嬌声を上げ、頭を左右に振る。千尋は息を乱しながら、小さく笑った。「そうしてると、俺より十歳も年上の男だってこと、忘れそうになる。……可愛い」 和彦は涙が滲んだ目で睨みつけたが、千尋が一瞬切なげな表情となったのを見て、片手を差し伸べる。千尋は素直にしがみついてきた。「……ほら、お前のほうが十歳下だ。……可愛いな、千尋」 最後の一言が決定的だったらしく、律動が激しくなる。和彦は体を揺さぶられながら、千尋の荒い息遣いを聞いていた。たった今、可愛いなどと言いはしたものの、獣じみたそれは粗野で、何かに追い立てられているかのように切迫感に満ちている。 和彦は茶色の髪に指を絡めようとしたが、唐突に
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第40話(38)

**** 金曜日、いつものようにクリニックを閉めた和彦は、いくぶん緊張しながらエレベーターで一階へと降りる。勤務を終えてしまうと、頭を占めるのは、今日は一体、俊哉から何を言われるのだろうかということだけだ。 いくら心の準備をしても足りない気がして、強烈な不安に襲われる。無意識に手は、ジャケットのポケットをまさぐっていた。すでに電源を切ってある携帯電話を入れてあるのだが、クリニックを出る寸前まで、賢吾と話していた。その行為が、今の和彦にとってのお守りのようなものだった。 エントランスを抜けてビルを一歩出たところで、ぎょっとして立ち尽くす。後部座席にスモークフィルムが貼られた高級外車が停まっていた。 唖然として立ち尽くしてしまった和彦だが、我に返ったあと、猛烈な怒りに駆られる。 総和会から、送迎のための車を待機させておくと事前に連絡はあったが、まさかビルの目の前に停まっているとは思いもしなかったのだ。意図があるにせよ、総和会は、和彦が大事にしている領域に対して、些か配慮に欠けている節がある。 先日の、クリニック近くまでやってきた小野寺がそうだった。その小野寺に指示したのは、第二遊撃隊を率いる南郷だ。 和彦は荒く息を吐き出して軽く周囲を見回し、誰もこちらを注視していないのを確認してから、足早に車に歩み寄る。すかさず後部座席のドアが中から開いた。「どうして……」 大柄な体を、悠然と後部座席のシートに収めている男の姿を見て、声を洩らす。「――早く乗ったらどうだ、先生」 空気を震わせる獰猛な声に、ビクリと肩を揺らしてから和彦は車に乗り込んだ。 車内は程よく暖められているが、寒気を覚えて仕方ない。首に巻いたマフラーを心許ない盾に見立て、口元まで引っ張り上げる。話したくないという意思表示のつもりだが、当然のように、男――南郷には通じなかった。「今日のあんたのお守りは、俺が任された。オヤジさんいわく、互いに最初に無難な手札を切ったあと、あんたの父親なら次は物騒な手札を切ってくるんじゃないかと言われてな。そういうことをやりそうな人物なの
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第40話(39)

 会話する気はないという拒絶を明確に態度に示したが、かまわず南郷は話しかけてくる。「俺が近くにいると、あんたはいつだって毛を逆立てた猫みたいな感じだが、今日は特にピリピリしているな。そんなに、自分の父親に会うのが怖いか?」 努めて冷やかな視線を向けると、南郷は唇の端に笑みを浮かべていた。まるで嘲笑されているようだと感じ、それでなくても憂鬱な気分に拍車がかかる。「教えてくれ、先生。前に話したが、俺は〈父親〉という存在を知らない。それが高級官僚の肩書きを持つ父親ともなると、想像も及ばないんだ」「――……少し、黙っていてください」 堪らず和彦が窘めると、一気に車内の空気が凍りつく。そのことに気づかないふりをして、再び外の景色に目を向けようとしたとき、聞き覚えのない携帯電話の着信音が車内に鳴り響いた。次の瞬間、和彦の隣で荒々しい気配が動いた。 いきなり南郷が片足を上げ、助手席のシートを後ろから蹴りつけると同時に、怒鳴った。「今回の任務についたら、終わるまで携帯の電源は切っておけと言っただろうがっ」 まるで、獣の咆哮だった。シートの上で飛び上がらんばかりに驚いた和彦だが、すぐに今度は身を竦めて怯えていた。 自分の前では、皮肉屋ではあるものの、慇懃なほど紳士的に振る舞っていた南郷が突然〈キレた〉ことに、衝撃を受ける。隣で聞いた怒声の凄まじい迫力は、まさに雷で打たれたようだと錯覚するほどだ。暴力にも大声にもあまり免疫がないだけに、体が極端な反応を示す。 反射的にシートベルトを強く掴んでいた。心臓は痛いほど早打ち、呼吸が止まりそうになる。和彦は目を見開いたまま、南郷の横顔から視線を離せなくなっていた。目を合わせたくないと、本能が訴えているにもかかわらず。 和彦の様子に気づいたのか、姿勢を直した南郷が何事もなかったように、また唇の端に笑みを浮かべた。「すまなかった、先生。今みたいな姿は見せたくなかったんだが、ふとした拍子に、地金ってもんが出ちまう」 返事もできず、顔を強張らせていると、途端に南郷の目に残酷な喜悦の色が浮かぶ。本人いわく、地金が出たということだろう。大仰に感心したように言われた。
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第40話(40)

「今ので、俺はますますあんたに怖がられたな。最初から嫌われてはいたが」 当て擦りのようなことを言いながら南郷は、明らかに和彦の反応を楽しんでいた。お守りどころか、南郷自身が、和彦の脅威となっているのだ。だからといって、車から降りるわけにもいかない。 早く目的地に着かないだろうかと一瞬願い、そんな自分に気づいてゾッとする。一方の南郷は、和彦を言葉で嬲って満足したのか、前列に座る男たちに短く指示を出したあと、ふうっと息を吐いてシートに身を預けた。 前回同様、車がどこに向かっているのか、和彦は知らない。南郷は何も言わないし、また聞こうとも思わない。 俊哉に関わることでは、どうしようもない無力感と諦観が、和彦を支配する。それでもなんとか自分を保ち、ささやかな抵抗ができるのは、情愛を注いでくれる男たちの存在のおかげだ。その熱さと甘さと狂おしさを知ってしまったら、失うことなど考えられなかった。 だから、今晩も抗うのだ――。 和彦は、膝の上に置いた手を、硬く握り締めた。** 人目のない場所で、二人きりで語り合いたいと伝えられた時点で、会える場所は限られてくる。互いに仕事を終えてからという時間も考えれば、喉を通るかはともかく食事をしないわけにもいかない。 あれこれと想定はしていたため、南郷の案内によって、裏路地にひっそりと佇む料亭に連れて来られても、驚きはなかった。 玄関へと続く露地を歩いていると、きれいに剪定された南天の木が目に入る。樹木に詳しくない和彦だが、印象的な実ぐらいは知っている。すっかり日が落ち、屋外灯の明かりがぼんやりと辺りを照らす中、南天の実の赤さはハッとするほど鮮やかだった。つい目を奪われ、歩調を緩めかけると、気配を察したように南郷が振り返った。「――先生」 南郷は、建物の外で待っているのかと思ったが、和彦と一緒に暖簾をくぐって玄関に入り、しかも靴まで脱ぎ始めた。物言いたげ――というより非難の眼差しを向ける和彦に対し、南郷はふざけたように軽く肩を竦める。「あいにくだが、部屋の近くで待機していろと、オヤジさんから言われている。どんな輩が駆け込んでくるかわからないからな。いざとなれば俺
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第40話(41)

「あれに言う必要がどこにある。――鷹津くんとの連絡役をさせたことがあるが、あとから、ずいぶん露骨に探りを入れられて、辟易したんだ。総和会と接触を持って、お前と会ったなどと知ったら、もっと面倒なことになる」 鷹津と英俊が接触していたと知り、不可解な感情が和彦の中で芽生えたが、それがなんであるか分析するには至らなかった。ただ、英俊は鷹津のような男は苦手だろうなと考え、ふっと苦笑が洩れる。かつての自分がまさに、鷹津を毛嫌いしていたことを思い出したのだ。 ここで和彦は、こちらをじっと見つめている俊哉と目が合った。途端に、怜悧な眼差しを意識することになる。 食欲はなかったが、自然に視線を逸らすために料理に手を伸ばす。胡麻豆腐に箸を入れようとして、隠し切れないほど手が震えた。「――何をそんなに緊張することがある。久しぶりの、父親との食事だろう。この間会ったときは、自分が囲われ者になっていることに対する後ろめたさ故かと思っていたが、それだけではないな」 俊哉はさらに声を潜め、探るように言った。「怖い夢でも見たか?」「……夢?」「お前がずいぶん小さい頃、よく夢を見てはうなされて、飛び起きてもいた。小学校に入ってしばらく経った頃には、忘れたようにそんなこともなくなったが。一度、どんな夢を見ているのか、お前に聞いたことがある。そのときお前は――」 父親と向き合って話していた実家の書斎の光景が蘇り、忌避感が和彦の口を動かす。「聞きたくない。……というより、思い出したくない。ううん。覚えてないんだ、ぼくは。父さんが言おうとしていることを」「そういうことにしたい、ということか。現状、それが最善の手だろう。もし、お前が何か重大な秘密を隠していると知ったら、お前の周囲にいる男たちは、鬼に変わるかもしれない。それこそ、お前に痛みを与えて、強引に口を割らせるかもな」 どうしてこんなことを言い出すのか、ひどく和彦は気になった。同時に、胸騒ぎを覚える。俊哉は何か、とんでもないことを言い出すのではないだろうか、と。 急に席を立ちたくなったが、実行に移す前に俊哉がこう続けた。「今、
last updateLast Updated : 2026-07-25
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第40話(42)

「お前に行ってもらう場所がある。どこに、とはまだ言えない。誰にも……、総和会や長嶺組だけでなく、家の者にも悟られたくない」「……家の者というのは、母さんや兄さんのことだよね」「そうだ。ある人物と約束した。絶対に和彦を行かせると。その約束を守るために、お前もなんとしても、長嶺の人間たちを説得しろ。もっとも、お前が逃げ出さないという保証のために、何を欲しがるやらわかったもんじゃないが。さすがに、体の一部を置いていけとまでは言わないだろう」 仮に言ったとしたら、それでも俊哉は、従えと命令するのだろうか。 我ながら悪辣ともいえる想像に、和彦はゾッとする。ゾッとするといえば、いまさら実家にどんな顔をして出向けばいいのかということだ。 和彦は、英俊や母親から投げつけられるであろう蔑みの眼差しを想像して、吐き気を催しそうになる。いや、どんな眼差しにしろ向けられるだけ、マシなのかもしれない。いないものとして扱われる可能性の高さを思えば。「――……父さん、数日だけでも、ぼくは家に帰るつもりはないよ……」「わたしが、帰って来いと言っている。拒否することは許さん」 予期した通りの答えに、震えを帯びた息を吐き出す。俊哉に対する、和彦なりの控えめな怒りの発露だった。「説得する気もなく、一方的に言って済ませるなら、電話でもよかったはずだ。こんな……、手のかかることをして」「お前が無事なのか、この目で確かめる必要がある。それに今回は――」 意味ありげに俊哉が視線を向けたのは、さきほど南郷も気にしていた部屋の奥にある襖だった。「どうしても、お前に会いたいという人間を連れてきた」「……誰?」「お前もきっと、また会いたかったはずの人間だ」 咄嗟に頭に浮かんだ男の名を、俊哉にぶつけることはできなかった。困惑する和彦に対して、俊哉は軽くあごをしゃくる。「どうせ、食欲はないんだろう。久しぶりの〈逢瀬〉を楽しんできたらどうだ」 にこやかな
last updateLast Updated : 2026-07-26
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第41話(1)

 襖を閉めた和彦は、涙が出そうになるのを堪えながら里見に詰め寄った。「どうして、里見さんがここにっ?」 感情の高ぶりのままに声を荒らげたが、すぐに、襖一枚を隔てた俊哉の耳を気にする。 突然の里見との再会に動揺する和彦とは対照的に、里見は落ち着き払っていた。こういう状況になることは織り込み済みだったのだろう。すべてを俊哉に打ち明けて、今晩のことも打ち合わせをしていたのだ。 南郷の迎えの件も含めて、和彦だけが何も知らされていなかった。 ふうっと深く息を吐き出した途端、足元が軽くふらつく。当然のように里見の手が肩にかかり、和彦の体を支えた。このとき互いの距離の近さを意識し、反射的に後ずさろうとしたが、里見にぐっと肩を掴まれた。 包容力と知性を兼ね備えた、年齢を重ねた分だけ深みが増した容貌は、抗い難いほどに和彦の視線を奪ってしまう。一度目が合えば、もう逸らせなかった。記憶にある優しげな眼差しは、今は燃えるような熱情を湛えている。 この男は、こんな目をする人だっただろうかと違和感を覚え、どうしてだろうかと疑問に感じたが、それも一瞬だ。 和彦はすでに、里見に甘やかされていた子供ではない。大人となり、里見以外の男たちと関係を持つという経験を経てきたのだ。昔と同じような目で見てほしいとは、口が裂けても言えない。 里見は、かつての和彦との関係を話した対価として、俊哉から一体どれだけの事情を聞かされたのだろうかと、自虐的に和彦は想像する。 軽蔑の眼差しを向け、罵ってもいいはずなのに、それでも里見は、会いたかったと言ってくれた。嬉しさよりも、ただ胸が苦しくなってくる。「……父さんから、全部聞いたんだろう? 里見さんを、これ以上巻き込みたくないんだ。すぐ近くに、ぼくの見張りが……、ヤクザがいるんだ。目をつけられたら、厄介なことになる」「気にしてないし、平気だ」「気にしてよっ」 再び声を荒らげてから、襖の向こうの俊哉を気にかける。「覚悟は決めている。――君のお父さんから、協力してほしいと言われたときから」 里見は慎重に言葉を選ぶよう
last updateLast Updated : 2026-07-26
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第41話(2)

 里見の真意はわかっているつもりだ。生々しい話をするのに、俊哉の耳を気にしたくないということだ。和彦も同じ気持ちではあるが、逡巡する。 今晩は俊哉と二人で話をするために場が設けられたはずなのに、里見がいて、さらに部屋を抜け出そうというのだ。俊哉の反応も気になるが、それ以上に、南郷に知られたときが怖い。「佐伯さんには事前に相談して許可はもらったし、店にも協力を取り付けてある。ここは、いろんな立場の人間が密談で使っている店だ。抜け出してもバレないはずだ」 里見にここまで言われて、結局和彦は頷いていた。 取られた手を引かれるまま、里見が待機していた部屋から、来たときとは違う廊下へと出る。客同士が顔を合わせないよう、かなり配慮した造りになっているようだ。 廊下を通っていくと、狭い玄関へと出る。隣には板場があるらしく、威勢のいい声がときおり聞こえ、仲居も出入りしているが、客である和彦と里見の姿を見ても、驚くでもなく会釈をして通り過ぎていく。こっそりと客がここから出入りすることに、どうやら慣れているらしい。 並んで置かれたサンダルを履いて外に出ると、緩やかな勾配の坂があり、そこを下ると車がやっと通れるほどの道に出られる。辺りに人影はおろか、通りかかる車もなく、街中だというのに非常に静かだった。「――今なら、怖い連中に悟られることなく、君を連れ去ることができる」 坂の途中まで下りたところで、ふいに里見がそんなことを言い出す。和彦はピタリと足を止め、先を歩く里見の背を凝視した。 体つきが変わったことを、よりはっきりと感じられる後ろ姿だった。会わないままに流れた十三年という年月に思いを巡らせたが、あまり時間がないことを思い出す。 和彦は意を決して、同じ質問をもう一度里見にぶつけた。「ぼくたちのことを、父さんに話したんだね……?」 ゆっくりと振り返った里見は微苦笑を唇の端に刻み、首を縦に動かした。「話した。だけど、君のお父さんは――、佐伯さんは、全部知っていたよ」 思いがけない告白に、和彦は絶句する。そんな和彦の顔を、里見は気遣わしげに覗き込んでくる。「驚いたよね。わたしは、
last updateLast Updated : 2026-07-26
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