再び歩き出したとき、南郷はいくらか歩調を緩め、こちらのペースに合わせ始める。この男の見た目に似合わぬ気遣いがもともと苦手だったが、今はさらに拍車がかかっていた。和彦自身のことなどどうでもよく、守光と賢吾のために、〈オンナ〉を丁寧に扱ってやっていると、そんな南郷の心の声が聞こえてきそうなのだ。 自意識過剰だと、あるいは被害妄想だと嗤われるかもしれないが――。 ふと南郷が振り返り、何もかも見透かしたような一瞥を寄越してくる。和彦は身構えた。「何か……?」「いや……。あんたは、この先にある場所に行ったことがあるか?」 南郷が指さしたのは、車も通れないほどの細い道だった。一瞬、和彦が表情を緩めると、それで南郷は察した。「あるようだな。この先は、いい散歩コースになってる。暖かい時期は釣りや水遊びが楽しめるんだが、さすがに今はな」 知っていると、心の中で頷く。和彦にとっては、微笑ましい思い出を作った場所でもあるのだ。千尋とは雪に塗れてはしゃいだし、三田村や中嶋とはのんびりと釣りを楽しんだ。 そんな場所に南郷と行きたくないなと思ったが、あまりに子供じみた感傷かと、表に出さないよう努める。「――俺はもう、何者にもなれない男だ」 数歩先を歩く南郷が唐突に切り出す。それが自分にかけられた言葉だとわかり、和彦は軽く目を見開いた。「えっ……?」「薄汚い野良犬が、ここまで成り上がれたんだ。望外の出世というやつだ。それもこれも、オヤジさん……長嶺の男たちのおかげだ」「ぼくは……、あなた個人に興味はありません」「だが、俺が、長嶺の男たちに与える影響には、興味があるだろ?」 南郷は前を向いたままで、どんな表情で言ったのか知ることはできない。ただ、和彦を挑発するために言っているわけではないと、不思議な確信はあった。「俺は、オヤジさんが築いてきたもの、築こうとしているものを守りたい。要はそれだけだ。結果としてそれが、あとに続く長嶺の男たちのためになる」「&
Last Updated : 2026-08-17 Read more