和彦は、自分が長嶺の男二人の間を取り成せるなどと、大それたことは考えていない。しかし、守光の腹の内は知っておきたいし、自分にできることがあるなら、可能な限りのことはしておきたかった。 そう、考えたのだが――。「健気なことだな、先生」 和彦の葛藤を見透かしたように、皮肉っぽく南郷が洩らす。首の後ろを掴んでいた手は、今は和彦の頬を撫でてくる。 再び唇を塞がれそうになったが、和彦は必死に顔を背けた。南郷はくっくと声を洩らして笑ったあと、前を開いたマウンテンパーカーの内側に和彦を抱き込んだ。煙草とコロンが混じり合った匂いと、南郷自身の体臭を嗅ぎ、ゾッとして体を離そうとするが、頑として南郷の腕は外れない。「〈今〉は、もう何もしないから、そう体を硬くしないでくれ。さすがの俺でも傷つく」 言葉とは裏腹に、どこか楽しげな南郷から、和彦は不穏なものを感じ取る。 危険だとしても、やはり夜のうちに別荘を抜け出すべきなのだろうが、こちらが諦めるまで、南郷は体を離す気はないようだ。上目遣いにちらりと見た途端に、食い入るように自分を見つめている視線とぶつかる。やむなく和彦は、南郷との抱擁をおずおずと受け入れた。 今は、そうするしかなかった。**** 喉の痛みで目を覚ました和彦は、喉元に手をやって、自分が寝汗をかいていることに気づく。夢見が悪かったというのもあるが、何より暖房が効きすぎているのだ。 暖房をつけて眠った記憶はないので、和彦が寝入ってから、誰かが部屋に入ってつけたのだろう。眠りが浅いと思っていただけに、気配を感じさせなかった侵入者にゾッとする。 ベッドに入った時間は遅かったが、寝起きはいつもより早いぐらいで、もう一度寝直そうかとちらりと考えなくもなかったが、人が起こしに来る状況が嫌で、諦めた。 クローゼットにあったチノパンツとタートルネックのセーターを着て部屋を出ると、微かに人の気配が伝わってくる。 おそるおそる一階に下りると、朝食の準備が始まっているらしく、ダシのいい香りが漂っている。現金なもので、ここで自分が空腹なのを自覚した。神経をすり減らしても、食
Last Updated : 2026-08-13 Read more