『どんな不祥事を起こそうが、悪さをしようが、親は簡単に子を見捨てない――と綺麗事を言うのは、お前に失礼だな。少なくとも、佐伯俊哉には思惑があってのことだ。そこに、俺のオヤジも噛んでる。気が張って仕方ないだろうが、踏ん張れよ』 ふっと沈黙が訪れる。和彦はベッドに腰掛けると、何を話そうかと言葉を模索する。俊哉の様子を伝えておくほうがいいのだろうか。長嶺組や総和会で変わったことはないかと聞くべきだろうか。あれこれ頭に浮かぶのだが、口には出せない。 結局、ぽろりと洩らしたのはこんなことだった。「――……早く、戻りたい。そっちに」『心置きなく戻れるように、用事を済ませてこい。待ってるから』 賢吾の声音が一際優しさを増す。「……今、あんた一人なのか」『どうしてだ?』「子供を甘やかすような声を出してるから、誰か聞いていたらびっくりするんじゃないかと心配になった」『別に、聞かれてもかまわねーがな。俺が甘いのは、お前にだけだって、みんな知ってる』 ヌケヌケと、と思いつつも、表情が緩んでしまう。「千尋はどうしてる?」『ようやく自分の部屋に戻った。ずっとお前の心配をしてたみたいだぞ。本当に戻ってきてくれるのか、ってな』「あいつらしい。……年越しの準備は進んでいるか?」『いつも通りだ。去年は、お前がいたおかげで華やいで、楽しかったのにな』 今朝、三田村を見かけたことは言わなかった。賢吾は把握しているのかもしれないが、自分と三田村の秘密にしておきたかった。 実家に滞在している間に、賢吾への隠し事はいくつ増えるのだろうか――。 和彦はこの瞬間、自分がとてつもなくしたたかでふてぶてしい、〈悪いオンナ〉に変化した気がして、ゾッとする。こんな変化を、和彦は望んでいない。『さすがにお前でも、今日は疲れただろうから、早く休め』「……まだそんな時間じゃない」『俺と話し続けると、興奮して眠れなくなるぞ』 艶のある笑い声に鼓膜を震わされ、甘い疼き
Last Updated : 2026-08-23 Read more