****「――両手に花です」 隣を歩いている〈彼女〉の言葉に、和彦は軽く首を傾げてから、斜め後ろを歩いている英俊にちらりと目を向ける。不機嫌そうに唇を歪めたまま反応しないため、仕方なく和彦が問いかけた。「何が……ですか?」「今のわたしが、両手に花ということです。よく似た素敵なご兄弟に囲まれて」 なんとも答えようがなくて、和彦は視線をさまよわせる。 英俊の婚約者は楽しそうだが、和彦はずっと困惑し続けている。前日に俊哉から、家族で出かけるとは言われていたが、場所については何も教えられなかった。そのことについては、もう仕方ないと受け入れている。和彦は従うだけだ。 しかし、困惑するぐらいは許されてもいいだろう。 英俊の婚約者と、その両親を交えての昼食会だと告げられたのは、移動中の車内でだった。向かう先は、婚約者両親が暮らす邸宅。 ハンドルを握る俊哉の横顔を一瞥して、和彦は心の中で呟いた。三日前に会ったばかりではないか、と。 和彦の言わんとしたことを表情から読み取ったらしく、俊哉は、お前はお嬢様の眼鏡に適ったようだと、シニカルな口調で応じた。 和彦は、前を走る英俊が運転する車にぼんやりと目を向けていた。その助手席には綾香が座っている。わざわざ二台の車に分乗したのは、和彦に言い含めておくことがあったからのようだ。 つまり面談で、和彦の存在が不穏当だと判断されていれば、婚約の話は流れていたかもしれないのだ。そんな場に、大した説明もなく連れて行かれたのかと、ゾッとするしかなかった。俊哉にも、兄の婚約者にも。 そして現在、一同に会して和やかな雰囲気の中で昼食をとったあと、親同士で大事な話があるということで、英俊と婚約者、そこに和彦も加わって、部屋を移動していた。 大企業の創業者一族という、華やかな家柄に相応しい邸宅だった。建物だけではなく、さりげなく置かれた調度品や美術品には手間も金もかかっているのだろうと、容易に想像できる。 佐伯家の場合、俊哉も綾香も家の中が片付いていればいいという考え方で、だからこそ飾り立てることに興
Last Updated : 2026-08-27 Read more