** 昼頃まで横になっていた和彦だが、朝方、総子に言われていた予定が気になり、起き上がっていた。 慎重に布団から出てみたが、心配していたような眩暈はなく、足のふらつきもない。やはり身体的に問題が起こったというより、精神的なショックが強すぎた故の失神だったのだろう。 枕元に残っていた湯呑みと急須がのった盆を抱えて部屋を出ると、廊下に、窓ガラスの向こうをじっと見つめている白猫がいた。昨日玄関で見かけた猫かと思ったが、一回り小さくまだ若い猫のようだ。和彦に気づくと、小さな声で鳴いてから、素早く側にやってくる。身を擦りつけるようにして和彦の足元にまとわりついてくるため、できることなら撫でてやりたいが、盆を持ったままでは叶わない。 どうしようかと立ち往生していると、ふいに若い白猫は身を離し、ひときわ甘い声を上げた。見れば、総子がこちらに向かってくる。「あら、置いたままでよかったのですよ」 そう言いながら和彦からさりげなく盆を受け取った。「もう起きて大丈夫ですか? 顔色はまだよくないようですけど」「動ける程度には、もう……。午後から、弁護士さんが来られると聞いていたので、気になって」「それは、明日に変更していただきました。今日は近くにある宿に泊まってゆっくりされるそうなので、あなたが心配しなくても大丈夫ですよ」 当然のように、和彦がこの家にもう一泊することは決定しているようだ。「……すみません」 お腹は空いていないかと問われ、正直、食欲はまったくなかったが、少しでも血の巡りをよくするためにも胃に何か入れておこうと考えた。 若い白猫は途中まで和彦たちに同行していたが、ふいに廊下を曲がってどこかに行ってしまう。「母親を探しているのですよ、あの子は。家の中で見かけませんでした? 大きな白猫。それが、あの子のお母さん。あんまりあの子が甘えるから、母親のほうが逃げるように移動していて、まるで追いかけっこをしているみたい」「そう、ですか……」 つい和彦は視線を伏せた。今、母子の話題を出されると
Last Updated : 2026-09-02 Read more