寺の駐車場は、まだ早い時間帯ということもあってか停まっている車の数は少ない。和彦は反射的に背後を振り返る。男たちはあとをつけてきてはいないようだが、油断はできない。 山門を潜ると、境内には思っていたよりも人の姿がある。初詣目的の他に、近所の人たちにとっては散歩コースの一つなのかもしれない。 境内に設置された案内看板と、総子が書いた地図を見比べる。表からはわからなかったが、寺の敷地は広かった。和泉家から寺に向かう道中より、寺の敷地の中のほうがよほど迷いそうだ。 石畳に沿って移動する前に和彦は、参拝者たちに倣って手水舎で手を清めてから、本堂に目を向ける。実家で過ごしていて新年らしい行事どころではなかったため、せめてこれぐらいはと、賽銭箱に賽銭を入れ、本堂で手を合わせておく。 山門を出入りする人たちを確認してから、足早に移動する。 墓地はいくつかの区画に分かれており、古くからの檀家であろう和泉家の墓は、本堂から一番離れた区画にある。かつては旧本堂があった場所だと、案内看板には書かれていた。 石畳から砂利道に入って数分ほど歩くと、石段へと差し掛かる。両側には地蔵が何体も並んでおり、皆、可愛らしい毛糸の帽子と前掛けをしている。檀家や信者たちによって大事にされている寺なのだと、払い清められた石段や身綺麗にしている地蔵たちの様子から伝わってくる。 人影はなく、おかげで自分のペースで歩くことができる。霜で濡れた石段は意外によく滑り、これが革靴だったらと思うと、緩やかな勾配とはいえ上がるのに難儀したかもしれない。 手すりを掴もうとして、あまりに冷たくて飛び上がりそうになる。やむなくまた手袋をするしかなかった。 黙々と石段を上がり続けていた和彦だが、足元に伸びた影に気づいて顔を上げる。石台の上に据えられた観音像が、穏やかな表情を浮かべていた。長い石段の途中ということで休憩所を兼ねているのか、整備されたスペースにはベンチも置かれている。石台の高さもあってまるで観音像に見下ろされているようだが、どこに向けているとも知れない眼差しの柔らかさに、和彦は惚けたように見入ってしまう。 そのまま立ち去るのも忍びなくて、観音像の足元に置かれた小さな賽銭箱に小銭を入れた。
Zuletzt aktualisiert : 2026-08-31 Mehr lesen