横目で一瞥すると、千尋は特に感慨もなさそうな表情で応じる。「じいちゃんとオヤジがあれこれ手を回したみたい。えーと、稜人の養育費や、自分の親との関係について、水商売やってた頃の知り合いに相談して、そこで紹介された弁護士が――」「結婚相手か」「じゃなくて、組にちょっと弱みを掴まれてた弁護士で、その弁護士の友人という設定で結婚相手を紹介した、と」 簡単な関係図を頭の中で描いてから、和彦は顔をしかめる。 稜人の母親が相談したという『知り合い』に、長嶺組の息がかかっていたという可能性に気づいた。悟られないよう稜人の母親を囲い込むなど、抜け目ない男たちにとっては容易かろうと、自分の体験を踏まえてのことだ。そうするだけの理由が、長嶺の男たちには十分ある。そして上手く事が進んだ。いや、進めた。 いまさらながら、ヤクザとは怖い生き物だと、そっと和彦は嘆息する。実のところ、前に稜人の母親の結婚について聞かされたとき、なんの根拠もなく長嶺の男たちが手を回したのではないかと想像したのだ。千尋の話は、その想像が裏付けられたようなものだ。当の千尋も、話しながらややうんざりした顔をしている。言葉の端々に苦さが滲んでいるのは、罪悪感のせいか。 賢吾と守光が暗躍して上手くいかないことなどないだろう。結果として稜人は、長嶺の本宅の中庭でのびのびと遊んでいる。 子供は健全な環境下で、道徳心や倫理観を育まなければならないと、建前だとしても言うべきなのだ。その真逆にあるとも言えそうな本宅は、しかし稜人を守る堅牢な要塞であり、そこに棲まう男たちも盾となるだろう。綺麗事や一般論的な理屈ではない。稜人は、せめて自分で選択できる年齢になるまで、ここで生きなければならないのだ。 気持ちよさそうにブランコを漕ぎながら、稜人がこちらを見る。目が合うと、えへへという声が聞こえてきそうな笑顔を向けられる。「はあ、可愛い……」 心の底からの言葉を洩らすと、千尋がニヤニヤしながら肘で小突いてくる。「すっかり稜人に骨抜きじゃん、和彦」「子供の頃のお前に会っていたら、やっぱり頭を撫でて、可愛いと言ってたと思うぞ」「…&
Last Updated : 2026-10-20 Read more