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第12話(13)

「可愛いな、千尋」 和彦は声に出して呟くと、千尋の引き締まった頬にそっとてのひらを押し当てる。すると、モゾモゾと身じろいだ千尋がまばたきを繰り返してから、ゆっくりと目覚めた。さっそく和彦は、千尋の頬を軽く抓る。「こら、お前、どうしてここで寝てるんだ」 千尋はまず大きなあくびをしてから、和彦にすり寄ってくる。胸にしがみつかれると、突き放す気にもなれない。「先生が起きるまで、隣で横になって待ってようかと思ったんだ。そうしたら、俺まで眠くなって、ちょっと昼寝」「……もう夕方だぞ」 ニヤリと笑った千尋が、胸にグリグリと顔を押し付けてくる。「お前、ぼくが寝ている側にいるのが好きだな。前も確か――」 言いかけて、秦のことを思い出す。千尋にとっても、いまさら聞きたい話題ではないだろうと考え、ため息をついた和彦は、千尋の髪をくしゃくしゃと掻き乱してやる。千尋とじゃれていると、すっかり馴染んだ自分の日常が戻ってくる気がした。 今朝まで、鷹津の腕の中にいて、与えられる快感によがり狂っていたのだ。 ふと、何かを思い出したように千尋が顔を上げ、和彦の片手を掴んでくる。手首を指先でなぞられ、わずかに体を震わせる。いつの間にか千尋は、目に強い輝きを取り戻していた。それだけでなく、苛立ちと怒りも入り混じっている。「千尋?」「手首にできた痣、見たよ。……赤くなってる。鷹津に、ひどいことされたんじゃ……」 和彦と鷹津の間で何があったか、千尋が知っていて当然だ。それでも、なんとも気まずい気持ちと羞恥を味わいながら、和彦は手を引く。千尋には、鷹津との行為の痕跡を見られたくなかった。「痛めつけられたりはしなかった。この点は、長嶺組長――お前のオヤジが、ぼくを拉致したときと同じだな。ぼくに傷をつけるようなことはしない」「だって手首に傷つけられてるじゃん……」「手錠をかけられたときについたものだ。痛めたというほどじゃない」 和彦の言葉を聞くなり、千尋は露骨に顔をしかめる。「&hel
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第12話(14)

 さすがの和彦も返事ができないでいると、千尋が恨みがましい目で見つめてくる。和彦は苦し紛れに、もう一度千尋の頬を軽く抓った。「そういうことを聞くのは、はしたないぞ、お前」「……俺、難しい言葉わかんない」「ウソを言えっ」 広いベッドの上で千尋と揉み合う――というより、じゃれ合っていると、柔らかなバリトンが割って入った。「仲がいいな、二人とも。母犬に、子犬がじゃれついているみたいだ」 ベッドの上をころりと転がった和彦は、ドアのほうに視線を向ける。薄い笑みを浮かべた賢吾が立っていた。「誰が、母犬だ」「絶妙な例えだと思うが」 ゆったりとした足取りで賢吾が歩み寄ってきて、ベッドに腰掛ける。見下ろされるのもなんだか嫌なので、賢吾の手を借りて和彦は起き上がる。すかさず、背後からぴったりと千尋が抱きついてきた。 その姿を見て、賢吾は低く声を洩らして笑う。「やっぱり仲がいいな」「好きに言ってくれ……」 寝乱れた髪を掻き上げた和彦は、気になっていることを率直に賢吾に尋ねた。「……鷹津は、どうしたんだ……?」「気になるか?」 賢吾から意味ありなげな眼差しを向けられ、反射的に顔を背ける。「あの男は刑事だ。何かあったら、ぼくが危ないだろ」「先生が心配するようなことにはなってない。なんといっても、先生の新しい番犬だ。大事にしてやる必要はないが、下手に扱うと、噛み付かれるからな。この先、しっかり躾けてくれよ」 賢吾の手があごにかかり、正面を向かされる。ベッドに乗りあがってきた賢吾の顔が間近に迫り、傲慢に唇を塞がれた。 痛いほど強く唇を吸われてから、差し込まれた舌で口腔を舐め回される。まるで、鷹津の名残りを消そうとしているかのようだと思ったとき、あごに手がかかって振り向かされ、口づけの相手は千尋に変わった。 すると、賢吾にTシャツをたくし上げられ、素肌を撫でられる。反射的に和彦は身を捩ろうとしていた。「あの男に可愛がられた
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第12話(15)

 賢吾の言葉通り、鷹津に好きに扱われたばかりの体を、今は誰にも見られたくなかったし、触れられたくなかった。自分の淫弄さをよく知っているからこそ、他人にそう指摘されることが、たまらなく苦痛なときがある。今がそのときなのかもしれない。 もっとも、大蛇の化身のような男は、和彦のそんな繊細な部分を弄ぶことを望むだろう。その証拠に、柔らかな笑いを含んだ声で、こう言うのだ。「――……先生が嫌がるからこそ、見て、触れたいんだ。誰に抱かれようが、先生は俺〈たち〉にとって大事なオンナだ。後ろめたさも屈辱も感じる必要はないと、そうしっかりと教えてやるのは、義務みたいなもんだ。それに先生は、自分で選んだんだろ。――鷹津を飼うと」 賢吾の言葉に反応して、和彦は眼差しに力を込める。唇を重ねている千尋と間近で目が合うと、父親には劣るものの、剣呑とした笑みを向けられた。「先生、怖い目」「ウソだ。ぼくは、そんな目はできない」「だったら、ゾクゾクするほど色っぽい目、って言い直そうか?」 そう言って千尋の唇が目元に押し当てられる。 こいつのどこが子犬なのかと、和彦は軽い腹立たしさを覚えながら、千尋の頬をまた抓り上げる。千尋は痛がる素振りを見せるどころか、くすぐったそうに首をすくめて笑い、和彦の唇を啄ばんでくる。 一方の賢吾は、和彦が穿いているスウェットパンツに手をかけ、下着ごと脱がせ始めた。「待てっ……、本気かっ」 慌てる和彦に対し、賢吾はニヤリと笑いかけてくる。「――怯えなくていい。お前は、俺と千尋のオンナなんだから、素直に体を任せればいい」 怖いほど甘い面を見せることもある賢吾だが、やはりこういう物言いをされると、背筋に冷たいものが駆け抜ける。図体の大きな子犬のような千尋は平気でも、賢吾には、逆らえない。 体を強張らせる和彦を宥めるように、千尋が背後から抱き締めてくる。その千尋の腕に手をかけながら、和彦は賢吾を睨みつけた。「そういう気分じゃないんだ。相手はしないからな」「もちろん。俺たちはただ、先生の体を心配しているだけだ」 ヌケヌケと
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第12話(16)

「解釈の違いだな。俺は先生に、一度だってひどいことをしてないだろ。目一杯甘やかしてはいるが」 腕力ではもちろん、口でも賢吾に勝てる気がしない。 賢吾に頭を引き寄せられ、唇を奪われる。ここまでの会話で、すっかり口づけに応える気が失せた和彦だが、ふいに、今朝までさんざん味わっていた鷹津との口づけを思い出し、体が熱くなる。 賢吾は、和彦の異変を見逃さなかった。髪の付け根を指でまさぐられ、思わず身震いしてしまう。「まだ、体に火がついたままのようだな、先生」 優しい声で囁かれ、その声に潜む残酷なほどの淫らさを感じ取った和彦は、本能的に賢吾の肩を押し退けようとする。すると、反対に軽く突き飛ばされ、和彦の体は千尋に受け止められた。 こういうとき、この父子は妙に息が合う。千尋にきつく抱き締められた次の瞬間、和彦は両足を大きく左右に開かれ、賢吾が頭を割り込ませてきた。「んっ……」 咄嗟に顔を背けて、唇を引き結ぶ。賢吾が内腿に唇を寄せながら、じっくりと体を検分しているのがわかった。一方の千尋は、胸元に手を這わせ、まだ疼いている二つの突起を弄り始める。「……こういうのは、嫌だ」 敏感なものをてのひらに包み込まれて扱き上げられたところで、たまらず和彦は訴える。そんな和彦を上目遣いにちらりと見て、賢吾は笑った。「今朝まで鷹津にさんざん抱かれているのに、それでもこうされると感じる自分が嫌、というところか?」「うるさい……」 素直だな、と洩らした賢吾の濡れた舌に、和彦のものは舐め上げられる。ビクリと体を震わせて背をしならせると、先端を柔らかく吸い上げられる。腰の辺りにじんわりと心地よさが広がり、それがあっという間に快感へと変わっていた。 疲れた体は、激しい愛撫に耐えられそうにはないが、甘やかすような愛撫は喜んで受け入れていく。「――先生」 千尋に呼ばれて振り向くと、唇の端にキスされる。軽く唇を啄ばまれていくうちに、和彦も千尋と唇を吸い合い、舌先を触れ合わせていた。 鷹津に染められていた体が、賢吾と千尋によっ
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第12話(17)

 それが気遣いからくることなのか、ヤクザの所有欲からの行動なのか、和彦にはわからない。わかっているのは、自分の中で官能が高まりつつあるということだった。「鷹津に、ここは舐めてもらったか?」 先端を舌先でチロチロと舐められながら賢吾に問われる。和彦は正直に答えた。「……舐められて、ない……」「先生を抱く楽しみがわかってないな、あの男は。尻に入れればいいと思ってるのか」「品のない言い方をするなっ」「極道相手に、上品さなんて求めているのか」 なんとも言いようがなくて和彦が眉をひそめると、千尋がそっと耳打ちしてきた。「先生、あいつのは、舐めた?」「バカっ……」 冗談で聞いてきたのかと思ったが、千尋は真剣だ。毒気を抜かれた和彦は、小さく首を横に振る。 何を求められるのか、予測はついた。 和彦はうつ伏せにされ、これ以上なく高々と尻を突き出した姿勢を取らされながら、千尋の両足の間に顔を埋める。すでに興奮のため身を起こした千尋のものに、丹念に舌を這わせ始めると、和彦は後頭部を押さえつけられ、口腔深くまで呑み込むことを求められた。 口腔を、千尋の欲望に犯されているようだと思うと、気が遠くなるような高揚感を覚える。こんなふうに扱われることは、嫌ではなかった。それに、不思議なほど屈辱感もない。 この男たちに求められ、応えるということは、同じだけの〈何か〉を与えられるということなのだ。 現に今も――。「んんっ」 千尋の欲望を口腔に含んだまま、和彦は呻き声を洩らす。突き出した尻を手荒に割り開かれたかと思うと、内奥の入り口に柔らかく濡れた感触が触れたからだ。それがなんであるか理解する前に、痺れるほどの快感が背筋を駆け抜ける。「――まだ、柔らかいな。トロトロだ。それに、発情しまくっている。舌を這わせただけで、ひくついてるぞ」 背後から、楽しげな口調で賢吾が言う。そして、内奥の入り口にたっぷりの唾液を施され、舌がいやらしく蠢く。それだけではなく、内奥に舌先が入り込むのだ。浅い侵入とはい
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第12話(18)

 頭を上げさせられた和彦は、賢吾に引っ張り起こされ、向き合う形となって抱き締められる。その背後で千尋が身じろぐ気配と衣擦れの音を聞いた。「俺の息子に対しては、先生は徹底して甘いな。俺が妬けるほどだ」 賢吾の肩に額を押し当て、息を喘がせていた和彦は、その言葉を聞いて顔を上げる。楽しげに見える賢吾だが、大蛇を潜ませた目はじっとりとした熱を孕んでいる。この男も興奮しているのだ。 今朝まで、別の男に抱かれていた和彦の体に触れながら、賢吾は何を思っているのか。 想像の余地はあるが、深い闇を覗き込むような行為に思え、怖かった。 ただ、和彦にも一つ言えることがある。「あんたといい、千尋といい、性癖が特殊すぎるんだ」 精一杯の和彦の嫌味だが、賢吾にはまったく通用しなかったようだ。短く声を洩らして笑われた。「――少なくとも、先生が言えることじゃねーな」「うるさい……」 ここで和彦は、背後から千尋に腰を引き寄せられる。思わず賢吾の肩にすがりつくと、しっかりと和彦を抱き締めてくれた。 千尋の行為を咎める気はないが、それでもこう訴えずにはいられない。「千尋、ゆっくり、してくれ。体がつらいんだ」「安心して。乱暴にしない。それに、ゴムつけたから」 賢吾にたっぷり舐められたばかりの場所が、今度はその息子の千尋によって押し開かれる。 千尋は言葉通り、ゆっくりと内奥に押し入ってくる。まるで、鷹津を受け入れた場所の感触を確かめるように。 苦しさに小さく喘ぐと、賢吾の指先にうなじをくすぐられる。「……腰つきが色っぽいな、先生。そうやって、鷹津のものも咥え込んでやったのか」 ふいに賢吾が話しかけてくる。千尋に腰を抱え上げられた和彦は、賢吾の肩に必死に掴まりながら応じる。「秘密だ」「可愛い言葉だ。秘密、か――」 ぐうっと腰を突き上げられ、和彦は千尋と深く繋がる。鷹津にも、こんな形で背後から貫かれたが、やはり全然違う。腰を掴む手の力強さも、内奥で刻まれる律動も、何より、奥深くに当たる逞しいものの感触が
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第12話(19)

** 和彦が深く息を吐き出すと、それが肌を掠めてくすぐったいのか、賢吾が小さく体を震わせた。顔を上げると、微かな笑みを返される。うろたえるほどの気恥ずかしさを覚えた和彦は、再び賢吾の胸に頬を押し当てた。 大きなベッドの上で三人で淫らに絡み合い、快感を極め合ったあとだけに、とにかく体が重い。まるでたっぷりの蜜を吸ったようだ。 今は賢吾がこうして和彦の枕になってくれているが、さきほどまで枕になっていた千尋は、シャワーを浴びに行っている。 賢吾の肩にまで彫られた大蛇の巨体を撫でてから、そっと唇を押し当てる。すると賢吾に髪を掻き上げられた。「俺の大蛇をこんなに可愛がってくれるのは、先生だけだな。まるで、先生のペットだ」「こんな物騒なペットを持った覚えはない」「でも、嫌いじゃないだろ」 その問いかけには答えず、和彦はもう一度唇を押し当て、賢吾が提供してくれる腕枕に頭をのせた。剥き出しになっている賢吾の逞しい胸元に手を押し当てると、ドクッ、ドクッという鼓動が伝わってくる。思わず胸元をまさぐっていた。「――鷹津には、一切手を出していない」 前置きなしに賢吾が切り出したが、和彦は驚かなかった。そこまで意識が明瞭ではないというのもあるが、賢吾に限って、下手なことはしないと簡単に予測がついていたからだ。「そうか……」「ただ、いろいろと込み入った話があるから、うちの事務所に連れて行きはしたがな。俺もその場にいたが、相変わらず嫌な男だ」「鷹津も、同じことを思ってるだろうな」「仕方ない。悪党同士だからな」「……知ってる」 賢吾は声を洩らして笑い、何度も和彦の肩先を撫でてくる。「どんな気分だ。物騒な男を番犬にした気分は。鷹津はヌケヌケと、先生の命令になら尻尾を振って従ってやると言っていたぞ」「嬉しくないのは、確かだ。手首に強引に巻きつけられた鎖の先に、狂犬がいるんだ。いつその狂犬が暴れるか、気が気じゃない」「飼い主の腕の見せ所だ」 和彦を飼い主と言いながら、その和彦の飼い主は、
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第12話(20)

 だが、単なるカムフラージュではない。和彦は、鷹津と体を重ねたのだ。 そうやって容易には切れない関係を結び、和彦を取り巻く男たちの関係はより複雑に、濃密になる。 限界まで駆り立てられ、欲情は尽きたはずなのに、和彦の中で妖しい感覚がうねる。そんな和彦に向けて、大蛇の気質を持つ男は、ヒヤリとするようなことを言った。「――今から、三田村を呼んでやろうか?」 和彦は大きく体を震わせると、顔を上げる。賢吾に対してきつい眼差しを向けていた。「ぼくと三田村の反応を楽しむつもりか?」「俺は先生に、よほどひどい人間だと思われてるようだな」「自業自得だ」「ひどい言われ方だ。俺は先生に対して、甘くて優しいだろ」 自分で言うなと口中で呟いて、和彦は眉をひそめる。そんな和彦の反応に、賢吾は薄い笑みを見せた。「いまさら三田村に見られたくないものなんてあるのか、先生? あの男は、先生をよく知っているぞ。したたかでズルイ性格も、そのくせ妙に道徳的な部分も。何より、どうしようもない淫乱だということも」「……三田村は、ぼくのオトコだ。だからこそ、心配をかけたくない。それに、どうせ会うなら、二人きりで会いたい」「妬けるな」 大蛇を身の内に潜ませた男らしくない言葉だった。賢吾なりの冗談かと思い、小さく笑い声を洩らした和彦は、賢吾の頬をてのひらで撫でる。「あんたの口から、そんな可愛い言葉を聞くとは思わなかった……」 賢吾は目を丸くしたあと、苦笑を浮かべた。「さっきの仕返しのつもりか、先生」「まさか」 頬を撫でる手を掴まれ、てのひらに唇を押し当てられる。その行為にドキリとした和彦は慌てて手を引き抜こうとしたが、もう遅かった。 ベッドに押し付けられ、賢吾がゆったりとのしかかってくる。いつの間にか、賢吾のものは熱く高ぶっていた。 目を見開く和彦の前で、賢吾は楽しげに言った。「――今日は、俺は先生に甘やかしてもらうつもりはなかったが、我慢できなくなった。千尋ばかりベタベタに甘やかされているのも、なんだか癪だ
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第12話(21)

**** 次第に現実感が薄れているようだと、寝返りを打った和彦は、自分の手首に指先を這わせる。鷹津にかけられた手錠の痕は、すでにそこにはない。もともとひどい痕ではなかったので、数日ほどできれいに消えてしまったのだ。  残っているのは、手錠の感触の記憶だけだ。  痕が消えるのに比例するように、鷹津と体を重ねたという事実の重みが、和彦の中で失われていく。それが、現実感が薄れていくという表現になる。  別に鷹津と会いたいわけではないが、連絡も取り合っていないため、あの男は本当に無事なのだろうかと、気にならないわけではない。だが、それ以上に気になるのは、和彦の〈オトコ〉の存在だ。  いまさら自分が穢れたなどと、初心な小娘のようなことを言うつもりはない。ただ漠然と、三田村と合わせる顔がないと感じている。  鷹津とのことは、三田村はすべて承知のうえだが、だからといって何もかも平気というわけではない。  いつもなら和彦が望むときに、声を聞かせてくれ、会いに来てくれる三田村だが、鷹津とのことがあってからは、まだ電話すらかかってこない。いや、本当は和彦のほうから、大丈夫だと連絡を取るべきなのだ。  三田村は、これまで通りの優しい声を聞かせてくれるだろうか。  手錠の痕が消えるまで――こうして消えたあとまでも、この不安が和彦を苛む。だから行動が起こせない。  こんな気持ちになるのは、三田村だからだ。今の和彦に、特別な男は複数いるが、特別なオトコは一人だけ、三田村だけだ。  今日は何も予定が入っていないのをいいことに、和彦はベッドの上を何度もごろごろと転がりながら思い悩む。そしてやっと、サイドテーブルに手を伸ばした。  携帯電話を取り上げ、いつものように、何事もなかったように三田村に電話をかけようとした。しかし、もう少しのところで踏ん切りがつかない。仕方なく携帯電話を戻そうとしたとき、突然、着信音が鳴り響いた。  慌てて体を起こした和彦は、液晶に表示された名を見て、咄嗟にどんな表情も浮かべられなかった。  安堵したような、少しだけ拍子抜けしたような、そんな気持ちになったせいだ。 「
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第12話(22)

 生活が一変したあとも、何事もなかったように連絡をくれる友人の存在は、ありがたい。  和彦なりに、ヤクザに囲まれているうえに、複雑になる一方の人間関係とも、なんとかバランスを取って生活をしているが、精神的負担は少なからずある。普通の生活を送っていないという事実は、和彦に罪悪感のようなものを抱かせるのだ。  ただ、澤村との間にある境界線には、慣れた。諦観したと表現したほうがいいかもしれない。澤村がいる境界線の向こう側にある日常を、懐かしく、輝かしいものだと思いはするものの、もう恋しいという感情は湧かなくなっている。  それだけ和彦が、表の世界からますます遠ざかったのかもしれない。  澤村の声を聞くと感傷的になってしまうなと、和彦は密かに苦笑を洩らす。 「……ぼくも、いろいろと忙しいんだ。澤村先生ほどじゃないけど」 『おう、俺は忙しいぞ。患者の予約は常にいっぱい。プライベートも、身がもたないんじゃないかってぐらい、充実してる』 「モテモテの澤村先生が言うと、冗談に聞こえない」 『いや、そこは素直に信じろよ』  挨拶代わりの他愛ない会話を交わしてから、二人は同時に笑う。和彦は頭の片隅で、ちらりとこんなことを考えていた。  ほんの数分ほど前まで、自分は〈オトコ〉のことで思い悩んでいたと知ったら、澤村はどんな反応を示すだろうか、と。 『――たまには顔を見たいから、これから外で昼飯を食わないか』  澤村の提案に、和彦はハッと我に返る。 「えっ……、これから?」 『お前とは頻繁に会えないから、せめて二、三か月に一度ぐらいは、顔を見せろよ。いまだに俺は、お前がどこに住んでいて、勤務先はどこかすら、教えてもらってないんだ。電話やメールじゃ、本当に元気かどうかわからないしな』  澤村は、屈託なく和彦に連絡を寄越しているようで、しっかり気をつかってくれている。立ち入ったことを尋ねてこないし、無理に和彦を外に連れ出そうともしない。和彦の意思を尊重しているのだ。  普段であれば、即座に誘いに乗っただろう、しかしここ数日、和彦は組事務所とクリニックに足を運ぶぐらいで、外出そのものが気乗りしない状態だった。三田村とまだ話せていないと
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