「可愛いな、千尋」 和彦は声に出して呟くと、千尋の引き締まった頬にそっとてのひらを押し当てる。すると、モゾモゾと身じろいだ千尋がまばたきを繰り返してから、ゆっくりと目覚めた。さっそく和彦は、千尋の頬を軽く抓る。「こら、お前、どうしてここで寝てるんだ」 千尋はまず大きなあくびをしてから、和彦にすり寄ってくる。胸にしがみつかれると、突き放す気にもなれない。「先生が起きるまで、隣で横になって待ってようかと思ったんだ。そうしたら、俺まで眠くなって、ちょっと昼寝」「……もう夕方だぞ」 ニヤリと笑った千尋が、胸にグリグリと顔を押し付けてくる。「お前、ぼくが寝ている側にいるのが好きだな。前も確か――」 言いかけて、秦のことを思い出す。千尋にとっても、いまさら聞きたい話題ではないだろうと考え、ため息をついた和彦は、千尋の髪をくしゃくしゃと掻き乱してやる。千尋とじゃれていると、すっかり馴染んだ自分の日常が戻ってくる気がした。 今朝まで、鷹津の腕の中にいて、与えられる快感によがり狂っていたのだ。 ふと、何かを思い出したように千尋が顔を上げ、和彦の片手を掴んでくる。手首を指先でなぞられ、わずかに体を震わせる。いつの間にか千尋は、目に強い輝きを取り戻していた。それだけでなく、苛立ちと怒りも入り混じっている。「千尋?」「手首にできた痣、見たよ。……赤くなってる。鷹津に、ひどいことされたんじゃ……」 和彦と鷹津の間で何があったか、千尋が知っていて当然だ。それでも、なんとも気まずい気持ちと羞恥を味わいながら、和彦は手を引く。千尋には、鷹津との行為の痕跡を見られたくなかった。「痛めつけられたりはしなかった。この点は、長嶺組長――お前のオヤジが、ぼくを拉致したときと同じだな。ぼくに傷をつけるようなことはしない」「だって手首に傷つけられてるじゃん……」「手錠をかけられたときについたものだ。痛めたというほどじゃない」 和彦の言葉を聞くなり、千尋は露骨に顔をしかめる。「&hel
Última atualização : 2026-01-09 Ler mais