「……悪い。本当は行きたいけど、ここ何日か、体調を崩しているんだ。あまり不景気な顔を、友人に見せるのも悪いしな」 『ということは、体調がよくなったら、俺と会ってくれるということか』 「ああ、約束する。美味いランチを奢らせてもらう」 『そういうことなら仕方ない。都合がよくなったら、いつでも連絡してこいよ。――忘れるなよ』 しっかりと釘を刺され、和彦は思わず笑ってしまう。 「大丈夫だ。なんなら、催促のメールをしてくれ」 近いうちに会う約束を交わして電話を切ると、ベッドの上に座り込んだまま、和彦はぼんやりとする。 澤村からの電話を切った瞬間、和彦にとっての日常が戻ってくるのだ。そのギャップに、戸惑っていた。 だがそれも、わずかな間だ。いつまでも寝室にこもっているのも不健康なので、書斎に移動しようかと思ったのだが、床に足を着ける前に、また携帯電話が鳴った。 「――……急に人気者になったな……」 そんなことを独りごちた和彦は、ベッドの上に放り出していた携帯電話を取り上げる。今度の電話は、長嶺組からだった。 これこそ自分の日常に相応しい電話の相手だと、自嘲でもなんでもなく、心底思ってしまう。 『先生、仕事です』 「相手の容態は?」 話を聞きながら和彦は寝室を出て、さっそく出かける準備を始める。 『怪我そのものは大したものじゃないと思います。顔をひどく殴られていて、鼻血がひどい。多分、骨が折れています』 クロゼットからバッグを出していた和彦だが、それを聞いて一旦動きを止める。 「……鼻が潰れた組員なら、何人か見たことがある。あれはあれで、凄みが増していいんじゃないか」 和彦の悪趣味な冗談は通じたらしく、電話の向こうで組員が低く声を洩らして笑う。こういう会話が交わせる程度には、長嶺組に馴染んでいるのだ。 『表で動く組員は、見た目も大事なんですよ。それに――うちの者じゃないんです。診てもらいたいのは。総和会から回ってきた仕事です』 なるほど、と声を洩らして、和彦はバッグを手にリビングに戻る。治療するなら、服装はラフなほうがいいので、洗濯したままソファの上に置いて
Última atualização : 2026-01-11 Ler mais