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Todos os capítulos de 血と束縛と: Capítulo 451 - Capítulo 460

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第12話(23)

「……悪い。本当は行きたいけど、ここ何日か、体調を崩しているんだ。あまり不景気な顔を、友人に見せるのも悪いしな」 『ということは、体調がよくなったら、俺と会ってくれるということか』 「ああ、約束する。美味いランチを奢らせてもらう」 『そういうことなら仕方ない。都合がよくなったら、いつでも連絡してこいよ。――忘れるなよ』  しっかりと釘を刺され、和彦は思わず笑ってしまう。 「大丈夫だ。なんなら、催促のメールをしてくれ」  近いうちに会う約束を交わして電話を切ると、ベッドの上に座り込んだまま、和彦はぼんやりとする。  澤村からの電話を切った瞬間、和彦にとっての日常が戻ってくるのだ。そのギャップに、戸惑っていた。  だがそれも、わずかな間だ。いつまでも寝室にこもっているのも不健康なので、書斎に移動しようかと思ったのだが、床に足を着ける前に、また携帯電話が鳴った。 「――……急に人気者になったな……」  そんなことを独りごちた和彦は、ベッドの上に放り出していた携帯電話を取り上げる。今度の電話は、長嶺組からだった。  これこそ自分の日常に相応しい電話の相手だと、自嘲でもなんでもなく、心底思ってしまう。 『先生、仕事です』 「相手の容態は?」  話を聞きながら和彦は寝室を出て、さっそく出かける準備を始める。 『怪我そのものは大したものじゃないと思います。顔をひどく殴られていて、鼻血がひどい。多分、骨が折れています』  クロゼットからバッグを出していた和彦だが、それを聞いて一旦動きを止める。 「……鼻が潰れた組員なら、何人か見たことがある。あれはあれで、凄みが増していいんじゃないか」  和彦の悪趣味な冗談は通じたらしく、電話の向こうで組員が低く声を洩らして笑う。こういう会話が交わせる程度には、長嶺組に馴染んでいるのだ。 『表で動く組員は、見た目も大事なんですよ。それに――うちの者じゃないんです。診てもらいたいのは。総和会から回ってきた仕事です』  なるほど、と声を洩らして、和彦はバッグを手にリビングに戻る。治療するなら、服装はラフなほうがいいので、洗濯したままソファの上に置いて
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第12話(24)

『総和会に依頼したのは、昭政組の難波組長です』  久しぶりに聞いた名に、つい和彦は眉をひそめる。かつて、難波の愛人――由香を治療したことがあるのだが、そのとき難波に侮辱されたことは、いまだによく覚えている。  難波個人にあまりいい印象は持っていないが、そんな男でも自分の愛人には甘いようだ。和彦に対する態度で由香から何か言われたらしく、治療をすべて終えたときには、一応礼を言ってもらえた。  その由香は、今でもときどき電話をくれ、美容関係の相談を受けている。すでに、和彦の顧客のようなものだ。 『先生の腕を買っているようですよ。外見に関わる怪我だから、佐伯先生に診てもらいたいと指名されたそうです』 「外見を気にかけるということは、まさか患者は女性じゃ――」 『いえ、難波組長のご子息のようです。まだ学生ですが、仲間と派手に暴れた挙げ句に、チンピラに殴られたと』  和彦の脳裏を過ったのは、千尋の顔だった。子犬呼ばわりされながらも、千尋も血の気は多いほうだが、それでも分別をつけるだけの思慮はある。  千尋が殴られて骨を折ったと知ったら、自分はこんなに冷静ではいられないだろうなと思いながら、和彦は電話を切る。  すでに迎えの車を向かわせていると言われたので、急いで準備をしないといけない。  ここまでぼんやりと過ごしていたが、そろそろ気持ちを切り替えるときが来たようだ。** 顔立ちが難波そっくりの青年は、非常に扱いにくい患者だった。父親に似て威圧的とか粗暴というわけではなく、反対に、臆病なのだ。  和彦が麻酔用の注射を手にしただけで、血の気が失せた顔をさらに蒼白にして、脂汗を流し、唇を震わせる。肌に針が触れてもいないうちに、小さな悲鳴まで聞かせてくれた。  和彦が注射を手にしたまま待っていると、難波の息子は言い訳するように言った。 「……別に、あんたの腕を信じてないわけじゃないんだ。ただ、一方的に痛めつけられるのは、誰だって苦手だろ」  大学三回生とは言いながら、留年を繰り返し、すでに二十三歳となっている青年の言葉に、マスクの下で和彦は苦笑する。派手な大乱闘を繰り広げたばかりの人間とは思えな
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第12話(25)

「弄らないと、骨を元に戻せない。鼻が曲がったままなのは、嫌だろ? それだけじゃなく、鼻の通りも悪くなる恐れがある」  説明しながら、消毒を終えた器具をトレーに並べていく。それをまた青年は、忌まわしいものがあるかのように、ちらちらと見ている。どんなふうにこれらの器具が使われるか想像しているのか、今にも失神しそうな様子だ。  難波には、きちんと治療してやってほしいと頼まれはしたが、子供扱いしてほしいとまでは言われていない。和彦は隙を見て、局所麻酔の注射を済ませる。  鼻に詰め物をしているため、鼻声となっている青年の抗議をたっぷりと聞いてから、組員たちに頼んで、しっかりと青年を押さえてもらう。  和彦が鉗子を手に取ると、それだけで悲痛な声が上がったが、わずかな間を置いてから、今度は絶叫が上がった。**「――派手でしたね」  楽しげな様子を隠そうともせず、ハンドルを握った中嶋がそう話しかけてくる。青年の悲鳴を間近で聞き続けたせいで、耳の調子が少し怪しくなっている和彦は、首を傾げて尋ねた。 「何か言ったか?」 「悲鳴ですよ。難波組長の息子さんの。別の部屋にいても、よく聞こえました」 「ああ。……麻酔を打っても、鉗子で骨を挟んで元に戻すときは痛いだろうな。ぼくなら、絶対こんな治療は受けたくない。鼻の骨折は、骨折した瞬間より、治療のときのほうがつらい。今夜は傷が痛むはずだ。渡した鎮痛剤が効けばいいが」 「……聞いているだけで、痛くなってきますね」  そう言って中嶋が肩をすくめる。そんなことを言いながら、ヤクザである中嶋が暴力沙汰と無縁でここまでのし上がってきたとは考えにくい。目の前で殴り合いが起ころうが、誰かが出血しようが、眉一つ動かさないように思える。  ただ、秦が怪我をしてボロボロになっていたときは、悲愴な様子だった。  あのときのやり取りを思い出していた和彦だが、バックミラー越しに中嶋と目が合い、ドキリとする。一瞬、自分の心の中を見透かされた気がした。  総和会から回ってきた仕事なので、長嶺組の組員との待ち合わせ場所まで送り届けてくれるのは、いつものように中嶋だ。
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第12話(26)

 あえて考えないようにしているが、意識すればするほど、中嶋とキスしたときの光景が蘇る。だからといって、露骨に中嶋を警戒しているわけではない。むしろ和彦が警戒しているのは、自分と秦とのセクシャルな出来事はもちろん、賢吾によって秦が、〈遊び相手〉となったという事実を知られることだ。  中嶋自身は有能で頭が切れ、損得を考えられる男だが、そこに秦が絡むと様子が変わる。和彦は、できることなら中嶋を傷つけたくなかった。中嶋からされたキスによって、この青年が抱え持つ柔らかな部分を知った気がするからだ。  こう思うこと自体、傲慢なのかもしれないが――。  ふっと息を吐き出して和彦が前髪を掻き上げると、信号待ちで車を停めた中嶋が、急に振り返った。 「――先生、よければ夕飯につき合ってくれませんか?」  思いがけない申し出に、和彦は目を丸くする。 「これから……?」 「これから。実は先生にお話したいことがあって、総和会には許可を取ってあります。あとは、先生が長嶺組に話を通してくれれば……ありがたいです」  平均を上回るハンサムではあるものの、どこにでもいそうな青年の顔で中嶋は笑う。身構えながら和彦は、慎重に尋ねた。 「ぼくを不愉快にしない話なら、聞いてもいい」  中嶋は前に向き直り、ハンドルを握りながら応じる。 「先生には直接関係ない話ですが、悪い話ではないです。少なくとも俺にとっては、いい話です」 「……そう言われると、気になるじゃないか」  これで話は決まりだ。和彦はすぐに自分の携帯電話を出すと、和彦の護衛兼運転手を務めている組員に連絡を取り、中嶋と食事をするため、待ち合わせ場所に着くのが遅れることを告げる。  総和会の中嶋が同行するということで止められはしなかったが、結局、食事する店まで、組員が迎えに来ることになった。これについては、特に不満はない。食事後の中嶋も、和彦を送り届ける手間が省けていいだろう。  中嶋が連れて行ってくれたのは、有名ホテル内にある中国料理店だった。席に案内される前に、組員に居場所をメールで知らせておく。これで、豪華な夕食をゆっくりと楽しめる。 「――自分の都合だけで、こうして先生を連れ回して
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第12話(27)

 ああ、と声を洩らして中嶋は苦笑する。怪我をした秦の治療を、和彦に頼んだことを思い出したらしい。 「今になって考えるんですよ。あのときの俺の選択は正しかったのかどうか、と。結果として、秦さんは無事だったし、先生との距離も近くなりましたが……その分、しっかり代償を払ったような気もします」 「君と秦さんとの距離間が、わからなくなってきたか」  中嶋は驚いたように和彦を見て、皮肉っぽく唇の端を持ち上げた。 参ったな……。先生と秦さんが、普段どんなことを話しているのか、すごく気になりますよ。その様子だと、俺のことも聞いているんでしょう?」 「彼の秘密を知りたくなったんだろ」 「秦さんが、長嶺組長とも関わりを持ち始めたみたいなので、今のうちに、あの人の秘密を握れるだけ握っておこうと思いまして――と言っても、先生なら信じないでしょう」 「半分だけ、信じてもいい」  和彦と中嶋は、テーブルを挟んでじっと互いの目を見つめ合う。そうやって、互いの腹を探り合っていたのだが、食事前の〈遊び〉としては、少々胃にもたれそうだ。  先に降参したのは、和彦だった。 「――……ぼくは、何も聞かされてない。信じるも信じないも勝手だが、ぼくにとって、彼のことを知る利点はないしな。唯一知っているのは、長嶺組が彼の後ろ盾になったということだ」 「それは、いいことを聞きましたね」 「ウソだ。ぼくを試したんだろう。とっくに、秦さんから聞かされているんじゃないのか」  中嶋は楽しげに顔を綻ばせるだけで、肯定も否定もしなかった。それが、中嶋なりの返事なのだろう。  ここで会話は秦のことから飛んで、中嶋が総和会という組織について教えてくれる。内密に、と念押しされるような類のものではなく、ヤクザの世界で半ば常識となっているような情報だ。ただそれでも、長嶺父子や三田村からも聞かされたことのない内容で、和彦としては非常に興味深いし、おもしろいと感じる。 「総和会は、眠らない組織なんですよ。常に、人が蠢いている。むしろ、夜のほうが活気があるんです。ただ、総和会と名のつく唯一のオフィスは、勤務時間は普通の企業と同じなんです。朝、出勤して、夕方になると退勤する」
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第12話(28)

** 料理が美味しかったこともあり、すっかり食べ過ぎた和彦だが、デザートを前にしても手と口を止めることはできなかった。  杏仁豆腐のさっぱりとした甘さと滑らかな舌ざわりを、中嶋とともに褒め合ったところで、この食事のメインへと入る。 「――で、話というのは?」  さりげなく和彦が切り出すと、フルーツを食べた中嶋が片方の眉を動かしてから、ナプキンで口元を拭った。 「実は、先生の送迎をするのは、今日で最後になります」 「……突然だな」  中嶋はちらりと笑みを浮かべる。 「少しは、寂しいと思ってくれますか?」 「君とは、ジムでけっこう顔を合わせているしな。どうだろう……」 「そうですね。俺と先生は、健全なジム仲間ですから」  これは中嶋なりの冗談なのだろうかと、和彦は首を傾げる。ここで中嶋は表情を一変させ、真剣な顔となる。ビジネスライクなヤクザの顔ともいえる。 「端的に言うなら、出世したんです。いままでの俺は、組預かりということで、何をするにも、総和会の前にいた組の名がついて回っていたんですが、来週からは、総和会の遊撃隊の所属になります」 「遊撃隊?」 「必要とされれば、なんでもやりますよ。物騒なことでも。しかし、俺に期待されているのは、情報収集でしょう。だからこそ、いままでより制約を受けずに活動ができます。先生とも、いままで以上に遊べますよ」 「……遊び相手なら間に合っている」  和彦は小声で呟いたが、中嶋には聞こえなかったようだ。もしかして、秦が和彦の〈遊び相手〉になったと知っているのではないかと疑いもしたが、秦に関することで、中嶋がドライな反応を示すとも思えない。  中嶋は、秦が関わることに関してだけ、ねっとりと絡みつくような〈女〉を感じさせるのだ。 「冗談抜きで、先生とは今以上にいい関係を築きたいんですよ。俺には、ホスト時代に築いたコネがせいぜいで、特別な大物と顔が利くわけでもないので」 「出世した君にとって、ぼくの必要性が増したということか」  悪びれた様子もなく中嶋は頷く。下手に誤魔化しを口にされるより、よほど気持ちいい態度だ。
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第12話(29)

**** 取り寄せた医学書をラックに並べた和彦は、一歩引いてから、デスクとのバランスを確認する。医者として、使い慣れた医学書を手元に置いておきたいというのもあるが、堅苦しくない程度に知的な空間を演出するための、ちょっとした小道具だ。  無機質な診察道具は、なるべく患者の目に入るところに置かないよう気をつけ、緊張感を与えないために、壁もロールカーテンも柔らかな色彩で統一している。  診察室は、カウンセリング室でもあるのだ。かつて和彦が勤めていたクリニックは、設備は整っていたが、その点の配慮が少し欠けていた。だからこそ、このクリニックでは、できる限りの配慮をしたかった。  設置のために特別な許可を必要とするレントゲン以外の医療機器は、無事に運び込まれており、もうここは、どこから見ても立派なクリニックとなった。  念のため、早くから保健所に相談をしていたこともあり、開業届をいつ提出するかも見通しが立っている。それを受けて、看板のほうもすでに発注済だ。派手な広告は必要ないクリニックなので、あとは必要に応じて名刺とパンフレットを印刷すればいいが、これは慌てなくていい。  ここまで準備ができてしまうと、あとはインテリアの細かな部分に目を配るだけなので、難しい書類と首っ引きにならなくていい分、和彦は気楽だ。  こうして、クリニックで一人で過ごす時間は、楽しくもある。たとえ、自分の名を堂々と表に出せないとしても、他人から与えられたものだとしても、ここは和彦のクリニックなのだ。  イスに腰掛けた和彦は、改めて診察室を見回す。  自分の力で手に入れたわけではなく、それどころかヤクザの組長の打算の賜物である場所だが、和彦はこの場所が好きだった。こうして一人で過ごしながら、悦に入るのは簡単だ。  コーヒーでも入れてこようかと思っていると、クリニックのインターホンが鳴った。設備が整ったのを機に、防犯対策として警備会社と契約をしたのだが、それに伴いインターホンのシステムも一新した。  本当は監視カメラを勧められたが、夜間に組の人間が出入りするとき、かえって映像が残っては困る。そこで、テレビモニター付きのインターホンを選んだのだ
last updateÚltima atualização : 2026-01-13
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第12話(30)

「……どちらさまですか」  思いきり皮肉を込めた声で問いかけると、モニターに映った人物はニヤリと笑った。 『お届けものです』 「へえ。警察から、運送業に転職したのか」  和彦の言葉に、運送業者――ではなく、〈まだ〉現役刑事であるはずの鷹津は肩をすくめた。 『いいから、早く開けろ。ここは寒いんだ』  仕方なく和彦は玄関の鍵を開けてやる。すかさず外からドアが開けられ、まるで獣のような荒々しい空気を振り撒きながら鷹津が入り込んできた。鷹津とともに入り込んできた冷たい風に首をすくめ、小さく身震いする。ここ数日、急に寒さが増してきた。  和彦は軽く眉をひそめながら、鷹津を頭の先から爪先まで眺める。  今日はくたびれたスーツを着た男は、相変わらずオールバックの髪型をしてはいるものの、不精ひげは剃っている。見た限り、どこか怪我をしている様子はない。鷹津に一切手を出していないという賢吾の言葉は、どうやら本当だったようだ。  和彦が向ける眼差しをどう解釈したのか、ニヤニヤと笑いながら鷹津は言った。 「元気そうな俺を見て、感動して抱きついてもいいんだぞ?」 「……バカか、あんた」  素っ気なく言い捨てて、和彦は待合室へと移動する。何も言わなくても、鷹津もあとに続いた。 「そう冷たくするな。これでも忙しい中、お前が心配していると思って、わざわざ顔を出してやったんだぞ」 「電話一本で済んだんじゃないか」 「俺とお前の仲で、それはないんじゃねーか」  振り返った和彦は、鷹津を睨みつける。 「ぼくに、馴れ馴れしくするな」 「だが、嫌でも俺とつき合わざるをえない。そういうことで、長嶺と話はついてるんだろ。お前は、俺を飼うしかない、ってな」  蛇蝎同士、一体どんなことを話し合ったのだろうかと思いながら、ふいっと顔を背けた和彦は、待合室のソファに腰掛ける。当然のように鷹津も隣に腰掛けた。それどころか、和彦の肩に腕を回してくる。  やはりこの男は嫌いだと、改めて和彦は痛感していた。触れられただけで、鳥肌が立ちそうだ。  鷹津の指に髪先を弄ばれたところで、ぴしゃりと手を払い除けて本題に入る。
last updateÚltima atualização : 2026-01-13
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第12話(31)

 ふんぞり返るように足を組んだ鷹津に、さらに肩を抱き寄せられる。油断ならない男の手は、和彦が着ている大きめのセーターの下に入り込んできた。 「俺は昔、ある組から当てがわれた女と寝ている最中に、組員に踏み込まれたことがある」  和彦は思わず、鷹津の横顔をまじまじと見つめてしまう。悪徳刑事だとわかってはいるのだが、こうして本人の口から聞かされると、やはり得体の知れなさを感じる。 「……ヤクザに踏み込まれるのは経験済みということか」 「美人局というやつだな。組員の女に手を出したということで、俺に因縁をつける気だったらしい。が、盛り上がっている最中を邪魔されて、俺は機嫌が悪かった。それで――どうしたと思う?」  ニヤリと笑いかけてきた鷹津の手に、素肌の脇腹を撫でられる。嫌な予感を感じた和彦は、答える気がないと顔を背けたが、かまわず鷹津は耳元に唇を寄せてきて、嬉々とした口調で言った。 「ヤクザが見ている中、女の口に銃口を突っ込んで、最後までヤッたんだ。あのときの女の締まりはなかなかだった」 「――下衆」 「他の奴に言われたら、顔の形がわからなくなるほどぶん殴ってやるところだが、お前にそう言われるのは、ゾクゾクする」  鷹津の手が無遠慮にセーターの下で蠢き、胸元を這い回る。指先に胸の突起を捉えられ、和彦はビクリと体を震わせた。 「俺の弱みを握って、俺を潰そうとする奴はいくらでもいた。そのたびに俺は、容赦しなかった。それ以上の弱みを握って、屈辱を与えて、クズどもを黙らせてきた。それが通じなかったのは――」 「長嶺組長だけ、か」 「えげつない男だからな、あれは。お前だって骨身に染みてそれがわかってるから、今みたいな暮らしをしてるんだろ」  賢吾は、鷹津に一体何をして、一時的とはいえ暴力団対策の前線から追い払ったのか、いまだにわからない。予測もつかない。知りたい気持ちは確かにあるが、知ってしまえば、これまで以上に賢吾を恐れるようになるだろう。あの男は、和彦にそんな反応は望んでいない。 「長嶺が俺に何をしたか、知りたいか?」  和彦の耳朶を舌先で弄りながら、鷹津が囁いてくる。その間も、胸の突起は刺激され、否応なく硬く凝る。その敏感な
last updateÚltima atualização : 2026-01-13
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第12話(32)

「……別に。あんたの過去に興味はない」 「賢い奴だな。危険な蛇の尾を踏まないよう、余計なことは耳に入れたくないってことか」 「サソリの尾だって踏みたくない。あんたも、長嶺組長も、物騒すぎるんだ」 「俺は物騒じゃないだろ。あんなに丁寧にお前を抱いてやったんだ。けっこう、紳士なつもりだぜ」  言葉とは裏腹に、和彦の体はソファに押し倒され、傲慢に鷹津がのしかかってくる。きつい眼差しを向けると、それ以上の眼差しの鋭さで言われた。 「あまり、俺と長嶺を同類で語るなよ。同じ悪党ではあっても、俺とあいつは敵対関係であることに変わりはない。手を組む気はないし、あいつのために何かしてやろうなんて気は、毛頭ない」  鷹津にセーターをたくし上げられる。ごつごつとした両てのひらに荒々しく胸をまさぐられ、和彦はソファの上で軽く仰け反っていた。 「だが、長嶺のオンナ相手なら、話は別だ。俺にも身を任せてくれた可愛いオンナの頼みなら、聞いてやる。上手く俺を使えよ。――あの長嶺のオンナってだけで、お前は一部の人間にとっては美味しい存在なんだ。それどころかお前本人も……いろいろあるだろ?」  間近に顔を寄せ、鷹津が意味ありげに囁いてくる。和彦は睨みつけてから顔を背けた。 「……別に」 「ヤクザと刑事、使い分けることだな。知りたいこと、困ったことがあれば、手を貸してやる。たとえ長嶺経由の頼まれごとだとしても、お前の口から頼まれればな。長嶺と馴れ合う気はないが、あの男あってのお前だ。多少の不愉快さは仕方ない」 「それはこっちの台詞だ」  耳元で、鷹津が低く笑い声を洩らす。次の瞬間、首筋を熱い舌で舐め上げられた。嫌悪感とも疼きとも取れる感覚が背筋を駆け抜け、和彦は鷹津の下から抜け出そうとする。 「そんな気分じゃない。ぼくに触るなっ……」 「そう言うな。俺はご褒美を期待して、仕事中だというのにこうして会いに来てやったんだ」  胸の突起を両てのひらで捏ねるように転がされ、手荒くまさぐられる。かと思えば、ふいに指で挟まれてから、軽く引っ張られていた。  和彦の胸の突起を執拗に弄りながら、鷹津が真上から見下ろしてくる。わずかに息を弾ませて和彦が睨みつけ
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