**** あの男は、優しいのか残酷なのか、よくわからないと、いまさらながら実感していた。 そもそも、あの男の中では、その二つは区別する必要がないのかもしれない。緩く溶け合い、一つの感情として存在していたとしても、不思議ではない。 一時間ほど前にかかってきた賢吾からの電話の内容を、和彦は頭の中で反芻する。『狂犬の対処で頭を悩ませているようだな、先生。俺としては、あんな物騒なものはいらない、という返事もありかと思っていたが、それすらないってことは、先生なりに、雑に扱える番犬の必要性を少しは感じているということか』 開口一番の相手の言葉は、これだった。数日ほど、和彦から反応を示さなかったことへの意趣返しも込められていたのかもしれない。大蛇を身の内に潜ませた男は、どこか楽しげに、和彦に言葉の爆弾を投げつけてきた。『思い悩む先生は色っぽくて好きだが、俺たちと違って繊細だからな。悩みすぎて寝込まれても困る。ここいらで、スパッと結論を出せるよう、手助けをしてやる。――先生の大事な〈オトコ〉を、今、そっちに行かせている。休みを与えているから、二人で過ごせばいい。そうしているうちに、いろいろと見えてくるだろう』 何が、とは賢吾は言わなかった。言う必要がないと思ったのだろう。 なんにしても和彦は、困惑の真っ只中にいた。まだ、すべてを打ち明ける心積もりができていなかったのだ。なのに賢吾が、強引にお膳立てをしてしまった。「……意地が悪すぎるんだ、あの男は……」 優しいとか残酷とか、そういうレベルではない。ただ、意地が悪い。 和彦が憎々しげに呟くと、スッと傍らに人影が立つ。「――睨みつけるほど、どのビールを買おうか悩んでいるのか、先生」 ハスキーな声をかけられ、和彦は我に返る。ビールの陳列ケースの前に立ち尽くし、じっと考え込んでいたらしい。顔を上げると、三田村が無表情で、缶ビールのパックを取り上げていた。 その姿を見て、和彦はほっと笑みをこぼす。賢吾の思惑はともかく、こうして三田村と二人の時間を過ごせているのだ。ぼ
Última atualização : 2026-01-05 Ler mais