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Todos os capítulos de 血と束縛と: Capítulo 421 - Capítulo 430

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第11話(31)

**** あの男は、優しいのか残酷なのか、よくわからないと、いまさらながら実感していた。 そもそも、あの男の中では、その二つは区別する必要がないのかもしれない。緩く溶け合い、一つの感情として存在していたとしても、不思議ではない。 一時間ほど前にかかってきた賢吾からの電話の内容を、和彦は頭の中で反芻する。『狂犬の対処で頭を悩ませているようだな、先生。俺としては、あんな物騒なものはいらない、という返事もありかと思っていたが、それすらないってことは、先生なりに、雑に扱える番犬の必要性を少しは感じているということか』 開口一番の相手の言葉は、これだった。数日ほど、和彦から反応を示さなかったことへの意趣返しも込められていたのかもしれない。大蛇を身の内に潜ませた男は、どこか楽しげに、和彦に言葉の爆弾を投げつけてきた。『思い悩む先生は色っぽくて好きだが、俺たちと違って繊細だからな。悩みすぎて寝込まれても困る。ここいらで、スパッと結論を出せるよう、手助けをしてやる。――先生の大事な〈オトコ〉を、今、そっちに行かせている。休みを与えているから、二人で過ごせばいい。そうしているうちに、いろいろと見えてくるだろう』 何が、とは賢吾は言わなかった。言う必要がないと思ったのだろう。 なんにしても和彦は、困惑の真っ只中にいた。まだ、すべてを打ち明ける心積もりができていなかったのだ。なのに賢吾が、強引にお膳立てをしてしまった。「……意地が悪すぎるんだ、あの男は……」 優しいとか残酷とか、そういうレベルではない。ただ、意地が悪い。 和彦が憎々しげに呟くと、スッと傍らに人影が立つ。「――睨みつけるほど、どのビールを買おうか悩んでいるのか、先生」 ハスキーな声をかけられ、和彦は我に返る。ビールの陳列ケースの前に立ち尽くし、じっと考え込んでいたらしい。顔を上げると、三田村が無表情で、缶ビールのパックを取り上げていた。 その姿を見て、和彦はほっと笑みをこぼす。賢吾の思惑はともかく、こうして三田村と二人の時間を過ごせているのだ。ぼ
last updateÚltima atualização : 2026-01-05
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第11話(32)

 飲むことばかり話しているなと思いながら、和彦は炭酸水のボトルもカゴに入れる。「あっ、チーズも欲しい」 和彦がぽつりと洩らすと、心得たとばかりに三田村は足早に行ってしまう。地味な色のスーツをしっくりと着こなした男の、あまりに堂々とした足取りに、他の客が何事かといった視線を向け、つい和彦は顔を伏せて笑う。 生活臭のない男二人が、平日の午後、スーパーでのんびりと買い物をしているというのは、妙な感じだ。他の買い物客の目には、友人同士か、似ていない兄弟とでも映っているのかもしれない。 ヤクザの組長のオンナと、そのオンナを護衛するヤクザとは、万が一にも思いつかないだろう。 笑みを消した和彦は、所在なく髪を掻き上げる。今のこの状況を喜んでいる反面、戸惑っていた。 賢吾が電話で言っていた〈オトコ〉とは、もちろん三田村のことだ。マンションまで来た三田村は、ただ賢吾から、和彦と一緒の時間を過ごすよう言われたらしい。そこにどんな目的があるのか、何も知らされていなかった。つまり、和彦の口から聞けということだ。 察しがよく、誰よりも和彦を気遣ってくれる三田村は、当然、自分から疑問をぶつけたりはしない。思いがけない形で手に入った二人きりの時間を、有意義に過ごすことを優先してくれる。 これから、三田村が借りている部屋に向かうのだが、そこで優雅に過ごすため、あれこれと買い込んでいる最中だ。一緒にいられる明日まで、一歩も部屋を出なくていいように。 和彦と三田村がどのように過ごしているか想像して、大蛇の化身のような男は、いまごろニヤニヤしているかもしれない。 戻ってきた三田村が、カゴを差し出して見せてくれる。「他に何か欲しいものは?」「うーん、酒には困りそうにないな。つまみも十分だし――、あっ」 声を上げた和彦がパッと顔を輝かせると、三田村が驚いたように目を丸くする。かまわず和彦は、三田村の腕を取って歩く。「先生?」「三田村、せっかくだから〈あれ〉を作ってくれ」「あれ……?」「〈あれ〉だ」 和彦が指さしたほうを見て、三田村は心底困ったような顔をした。
last updateÚltima atualização : 2026-01-06
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第11話(33)

**「――ごちそうさまでした」 箸を置いた和彦が手を合わせると、小さなテーブルの向かいに座り、ずっと物言いたげな顔をしていた三田村が、やっとちらりと笑みをこぼす。「お粗末でした」「美味しかった。若頭補佐お手製のヤキソバは」 明らかに動揺した三田村が咳き込み、まるで急き立てられるようにテーブルの上を片付けると、キッチンに行く。こちらに背を向け、慌ただしく洗い物を始めてしまった。和彦は必死に笑いを堪えながら、声をかける。「手伝おうか?」「それより先生は、シャワーを浴びてきてくれ。その間に、片付けておく」 三田村と二人きりになると、自分は大事に――甘やかされていると肌で感じる。この部屋に入ってしまうと三田村は、和彦に何もさせたくないようだ。 これが三田村なりの愛情の示し方で、和彦もすべて委ねることで、三田村の愛情に応えている。 着替えを抱えた和彦はバスルームに向かおうとしたが、ふと足を止め、三田村の背に声をかけた。「三田村、本当に美味しかった」 肩越しに振り返った三田村が、不器用な笑みを見せる。「先生にそこまで言われたら、俺はレパートリーを増やさないといけないな」「なんでもいい。……ぼくのために、キッチンに立ってくれているあんたの姿が見られるなら」 三田村の表情の変化を目にする前に、和彦のほうが照れてしまい、逃げるようにバスルームに入っていた。 湯を頭から浴びながら、ほっと息を吐き出す。鷹津の件をどう切り出そうかと考えると緊張するのだが、明日まで三田村と過ごせるという純粋な期待が、その緊張を突き崩してしまう。この部屋にやってきてから、ずっとその繰り返しだ。 顔を上向きにして、叩きつけるような勢いの湯を受ける。息苦しさに小さく喘ぐと、ふいに背後でドアが開く気配がした。次の瞬間、和彦の体は背後からきつく抱き締められた。 振り返ると、すかさず唇を塞がれた。頭上から降り注ぐ湯に混じり、三田村の唾液が口腔に流し込まれる。あっという間に意識が舞い上がった和彦は、体の向きを変え、夢中で三田村と口づけを貪り合う。
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第11話(34)

 自分がこれから慈しむ――もしくは慈しんだ体を洗っていると、とても優しい気持ちになれる。自分がこんなにも愛情深い人間だったのかと、驚かされたりもするのだ。何より、三田村が惜しみなく与えてくれる愛情を、触れ合う肌から感じ取れる。 三田村の頬を撫でてから、軽く唇を吸い上げた和彦は、スルッと腕の中から抜け出して、三田村の背に回り込む。泡だらけとなった手で濡れた虎を撫でると、湯の熱でいつもより赤みを帯びた筋肉質の体がビクリと震える。「動くなよ、三田村。洗えない」 背後から三田村の耳元に囁いた和彦は、子供のように楽しみながら、三田村の背をてのひらで丹念に洗ってやる。 賢吾の背にある大蛇の刺青は、強烈な魅力を放つ分、怖くもある。だが、三田村の背で咆哮を上げている虎の刺青は――どこか温かみがある。それは、刺青を通して感じる、三田村自身の温かさだ。だから、この虎は怖くはない。むしろ、愛しい。 三田村の虎を泡だらけにしてしまうと、シャワーヘッドを手に、一気に洗い流す。和彦は、気持ちの高ぶりのままに虎の刺青に舌を這わせ、舐め上げる。 優しい男が、獰猛な虎に変わるのは早かった。 まだ泡も洗い流していないというのに、三田村に強引に腕を掴まれてバスルームを連れ出され、床を水浸しにしながら部屋へと戻る。濡れた体のまま和彦はベッドに押し倒され、のしかかってきた三田村に片足を抱え上げられた。「あっ……」 秘裂を指先で撫でられる。ボディソープの滑りがたっぷり残っているのを確認したらしく、三田村は何も言わず、二本の指をゆっくりと内奥に挿入してきた。「うっ、あぁっ、あっ――」 おそろしく発情している和彦の内奥は、嬉々として三田村の指を締め付け、さらに奥へ誘い込もうと蠢く。しかし、あっさりと指は引き抜かれた。 肌に残る泡を掬い取り、内奥の入り口に擦りつけられる。次に押し付けられたのは、三田村の熱い欲望だった。「んああっ」 肉の悦びを欲して淫らに収縮を繰り返す内奥が、張り詰めた逞しいものによって掻き分けられ、閉じられないよう呑み込まされる。両足を押し広げられた姿で和彦は腰を揺らし、間欠的に体を震わせる。
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第11話(35)

 逞しい欲望を再び内奥に受け入れながら、和彦は細い声で鳴く。三田村に見下ろされながら、反り返らせた欲望から精を迸らせていた。この瞬間、内奥はきつく締まり、三田村が唇を引き結ぶ。 和彦は濡れたシーツの上でしどけなく身悶えながら、三田村に向けて片手を伸ばす。意図を察した三田村に抱き締められると、ほっと吐息を洩らした和彦は、すがりつくように両腕を背に回した。 内奥が蠕動し、多淫な襞と粘膜が、大事な〈オトコ〉を愛し始める。和彦の率直な気持ちの表れだ。「はっ……、あっ、いっ……、い、ぃ――。気持ちいい、三田村」 奥深くに到達した三田村のものが、感触を堪能するようにゆっくりと何度も突き上げてくれる。湧き上がる快感に和彦は陶酔し、悦びを言葉にする。「……奥、好きなんだ。あんたに、そんなふうにされると、ゾクゾクする」「ああ、よくわかる。先生の体は素直だから、俺みたいな不器用な男でも、先生を感じさせてやれる。それが俺は、嬉しい」 虎の刺青を撫でた和彦は息を弾ませながら、そっと三田村の唇に噛みつく。「ぼくより料理ができるくせに、どこが不器用なんだ……」 欲情のため余裕のない表情をしていた三田村だが、このときだけはふっと優しい笑みを浮かべた。「先生と比べて、というのは、基準として喜んでいいのかな」「失礼な、男だ……」 本気で言ったわけではないが、三田村は機嫌を取るように和彦の唇を啄ばんでくれる。微かに声を洩らして笑った和彦は、三田村のあごの傷跡に舌先を這わせてから囁いた。「――でも、ぼくの大事なオトコだ」 三田村の逞しい腰に両腕を回し、わずかに力を込めて促す。緩やかに律動が繰り返され、和彦は伸びやかな悦びの声を上げ、送り込まれる快感に陶然としていた。そんな和彦を追い上げるように三田村は、緩やかに、しかし大きく腰を突き上げてくる。 内奥深くの襞と粘膜が強く擦り上げられていた。三田村は、和彦が感じる部分を容易に探り出し、愛してくれる。和彦の体は、甘く溶かされる。
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第11話(36)

「あっ、あっ、あぁっ――……」 肉の悦びを与えてくれた男のものが、脈打ち、震えている。和彦の内奥もまた、淫らな蠕動を繰り返しながら、ひくついている。二人は唇を啄ばみながら、互いが与え合った快感の余韻を堪能していた。 抱き合うと、ボディソープの香りが鼻先を掠める。ついでに、濡れた肌がヌルヌルしていた。三田村も同じことが気になったらしく、和彦の顔を覗き込み、苦笑交じりで提案してきた。「先生、シャワーを浴び直さないか」 もちろん、和彦に異論はなかった。** ベッドのマットレスが濡れてしまったので、床の上に毛布を敷き、その上に座り込んで二人は寛ぐ。今夜は、ここで眠ることになりそうだ。 和彦はワインを、三田村は缶ビールを一本開けたあと、今はハイボールを味わいながら、身を寄せ合い、他愛ない会話を交わしていた。特別なことをしなくても、それだけで楽しい。 両足を投げ出し、壁にもたれかかった和彦は、三田村の手首に手をかける。すると、心得たように三田村は、手に持ったグラスを差し出してくれる。和彦は、自分の手で持つ必要もなかった。三田村にグラスを傾けてもらい、ハイボールを少し飲ませてもらう。「うん、美味しい」「もっと飲みたいなら、作ってくるが……」「いい。あんたのを飲ませてもらうから」 和彦の言葉に、三田村は柔らかな笑みを浮かべる。少し前まで、激しく自分を貪っていた男とは思えない表情だ。一方の和彦も、激しく求めていたのだから、お互い様なのかもしれないが――。 グラスを少し離れた場所に置いた和彦は、三田村の肩に頭をのせる。すぐに、自然な動作で肩を抱かれた。 二人が黙ってしまうと、この部屋は静かだった。テレビもラジオもない部屋なので、相手の息遣いすら感じることができる。 突然、三田村が切り出した。「――先生、俺に話したいことがあるんじゃないのか」 和彦は頭を上げ、間近にある三田村の顔を見つめる。三田村は、少し困ったように笑った。「組長直々に、先生と過ごすよう言われたんだ。何かあると思うだろう」
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第11話(37)

 このとき、三田村にきつく手を握り締められ、危うく和彦は痛みに声を洩らしそうになる。それでも落ち着いた素振りで言葉を続けた。「組長は、あの物騒な男を飼うつもりらしい。いや……、ぼくに、飼わせるつもりなんだ。手荒に扱える番犬を持ったらどうだと言われた」 三田村の横顔には、もう表情らしいものは浮かんでいなかった。「拒否する権利はあると言われたが、あの組長のことだ。素直に聞き入れてくれるとは思わない」「先生の気持ちは、どうなんだ」 和彦は目を見開いて三田村を凝視する。三田村は、静かだが、凄みのある目をしていた。感情を排したヤクザの目だ。つまり今、そんな目をしなければならない状態なのだ。「――……あの男は……、鷹津は、嫌いだ」「だが、拒否はできない」 返事の代わりに視線を伏せる。そんな和彦の頬を、三田村はそっと撫でてきた。「先生ならわかっているだろ。俺の首には、組の名前が入った立派な首輪がついている。だからこそ、組長の許可の下、先生の〈オトコ〉でいられる。……俺は、組長や組の方針を受け入れるしかできない。情けなく感じるかもしれないが、それが俺の存在価値でもあるんだ」 だったら自分が、鷹津に好きに扱われてもいいのかと、問いかけることはできなかった。それは、恋人同士であればできる問いかけであり、和彦と三田村の関係はそうではない。 組という組織の中で、三田村は和彦に与えられた番犬で、その番犬に和彦は、〈オトコ〉という役割を与えているに過ぎない。どれだけ深く結びつこうが、この関係は絶対だ。 だからこそ、三田村には自分のオトコでいてもらいたかった。大事で愛しい、和彦にとって唯一の存在だ。 三田村と引き離されたくない――。 たまらない気持ちとなった和彦は、三田村にしがみつく。 少しだけ、賢吾が言おうとしていたことがわかる気がした。和彦は、三田村を番犬として扱いたくはなかった。三田村はあくまで、和彦の大事なオトコだ。だとしたら、代わりに動く番犬は必要だ。 その番犬は、情をかける必要の
last updateÚltima atualização : 2026-01-07
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第11話(38)

 苦しさよりも、早く三田村を悦ばせたいという感情が上回っていた。腰を緩く揺らして和彦は、熱い欲望を少しずつ内奥に受け入れる。 パジャマの上着を脱がされて、興奮のため、これ以上なく尖った胸の突起を音を立てて吸われた。「あっ……ん」 和彦は恥知らずな声を上げると、三田村の頭を抱き締める。すると三田村も腰を抱き寄せてくれた。二人は、これ以上なくしっかりと繋がった。 性急に快感を追い求めるのがもったいなくなるほど、三田村との一体感は深い陶酔を和彦に与えてくれる。三田村も似たような感覚を味わってくれているのか、大きく息を吐き出し、そっと目を細めた。 自分がこの男に与えてやれるのは快感ぐらいだと思うと、その快感のために、いくらでも尽くしたくなる。それほど三田村は、和彦にとって特別だ。 和彦が腰を動かそうとすると、三田村に背を抱き寄せられる。「……もう少し、こうしていていいか? 先生の中を、よく感じたい。俺みたいな男を甘やかして、愛してくれる、特別な場所だ」 三田村の言葉に愉悦を覚え、和彦は小さく喉を鳴らす。「当たり前、だ……。あんたは、ぼくのオトコなんだから。望むなら、なんでもする」 和彦の言葉に、今度は三田村が感じてくれる。その証拠に、内奥深くで息づく欲望がドクンッと脈打ち、逞しさを増した。**** 車から降りた和彦は腰を屈めると、護衛の組員に声をかけた。「ここで大丈夫だから、帰ってくれ。……あとは、予定通りに」 ドアを閉めると、速やかに車は走り去り、和彦はゆっくりと歩き出す。空はもう暗くなっているが、繁華街の近くのため、この辺りは店のネオンや車のライトのせいで明るい。夜とはいってもまだ早い時間帯のため、人通りも多かった。 それらの光景を横目に見ながら、和彦は足早に歩く。取り出した携帯電話で時間を確認したあと、電源は切っておいた。 ある建物の前で一度立ち止まり、見上げる。こんな目立つ場所で立ち止まっていると、見咎めら
last updateÚltima atualização : 2026-01-07
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第12話(1)

 鷹津が住んでいるのは、見るからに古いマンションだった。周辺にいくらでも小ぎれいなマンションやアパートがあるためか、あまり人気のない物件なのだろう。歯が抜けたように、いくつかの部屋は空いている。 鷹津の素行に問題はあるだろうが、刑事といえば公務員だ。もう少しマシなところに住めるだけの稼ぎも、信用もあるはずなのに、どうしてこんなところに住んでいるのかと、薄暗い通路を歩きながら、和彦はささやかな疑問を感じる。 その疑問は、両隣が空き室となっている鷹津の部屋に足を踏み入れて、氷解した。 古いせいか、部屋のそこかしこが傷んでいるようだった。それに、どことなく殺伐とした空気が漂っている。散らかってはいるのだが、生活臭というものが乏しい。 ダイニングに接した二部屋のドアが空いているので、生活空間がほぼすべてが見渡せるが、おそらく鷹津は、ここに愛着や執着といった感情を持っていないのだろう。まさに、寝るためだけに必要とされている空間だ。 新聞も何日分か畳んだままテーブルの上に放置してあり、郵便物の封すら切っていない。ここで和彦は、郵便物の表に印字された文字に目を留める。このとき初めて、鷹津の名が〈秀〉であると知った。 視線だけを動かして観察している和彦に気づいたのか、ジャケットを脱ぎ捨てながら鷹津が言った。「ムサい男の一人暮らしなんて、こんなもんだぜ。広くてきれいな部屋に住んで、買い物から掃除まで、すべて組員にやってもらうような生活を送る奴なんて、そうそういない」 こんなときでも皮肉を忘れない鷹津を、和彦は睨みつける。しかし鷹津は鼻先で笑い、和彦の着ているコートの襟元を掴んだ。乱暴に引き寄せられ、眼前に鷹津の顔が迫る。 ドロドロとした感情の澱が透けて見える目は、相変わらずだ。だが今は、その感情はすべて狂おしい欲情に支配されているようだ。鷹津は、和彦に欲情していることを、隠そうともしていなかった。 それを感じ取った途端、嫌悪感から鳥肌が立った。 顔を強張らせる和彦に対して、鷹津はニヤリと笑いかけてくる。「そんな顔するなよ。お前は覚悟して、あそこに立っていたんだろ。番犬を伴わずに。……俺を番犬にしたいんじゃない
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第12話(2)

「……そのつもりだったが、やっぱり、あんたは嫌いだ」「俺だって、ヤクザのオンナになってぬくぬくと生きている男は嫌いだ。だが――たまらなく抱きたいんだ。お前を」 和彦が目を見開いた次の瞬間、鷹津の大きな手が後頭部にかかり、ぶつけるような勢いで唇を塞がれた。「んんっ」 和彦は必死で顔を背けようとしたが、鷹津に後ろ髪を鷲掴まれ、唇に噛みつかれる。そのまま、もつれるようにして隣の部屋に引きずり込まれ、突き飛ばされた。 簡素な作りのベッドに倒れ込んだ拍子に、鉄製のパイプと床が擦れ、不快な音を立てる。確実に階下に響いただろうが、鷹津は気にかける様子はない。その理由を、ネクタイを解きながら鷹津本人が口にした。「こんな汚いマンションだから、新しい住人が入らないんだ。下の階なんて、角部屋に一世帯入っているだけだ。つまり、近所迷惑なんて気にしなくていいというわけだ」 ワイシャツを脱ぎ捨てた鷹津が、和彦の上に馬乗りになってくる。薄笑いを浮かべた鷹津を睨みつけはしたものの、コートを脱がされ始めると、たまらず和彦は顔を背け、体を強張らせる。 長袖のTシャツをゆっくりと捲り上げられ、剥き出しとなった脇腹を撫でられてから、パンツと下着を手荒に引き下ろされて、脱がされた。粗雑な男らしくない手つきで靴下まで脱がされてしまうと、Tシャツ一枚という自分の姿が、ひどく心細くなる。和彦はぐっと奥歯を噛み締めていた。 スラックスのベルトを外す金属音が聞こえ、衣擦れの音に続いて、床に何かが落ちる重々しい音がした。 ふいに鷹津にのしかかられ、重みに息が詰まる。続いて、首筋に熱く濡れた感触が這わされた。「うっ……」 鷹津の舌だとすぐにわかった。首筋に、獣のような息遣いがかかるからだ。不快さと嫌悪感から、必死に唇を引き結ぶが、鷹津は和彦のそんな反応を楽しんでいた。「気持ち悪くてたまらない、って顔だな」 和彦の顔を覗き込んできて、鷹津が嬉しそうに囁いてくる。嫌悪感を隠そうとしない和彦の反応が、かえって鷹津を興奮させているのだ。「……あんたに触られると、吐
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