すぐにバカらしくなった和彦は、短く息を吐いてから切り出した。「――中嶋くんを煽っただろ」「おや、なんのことですか」 白々しくとぼける秦の向こう脛を、和彦は遠慮なくテーブルの下で蹴りつけてやる。口元に笑みを湛えたまま眉をひそめるという、器用な表情を造った秦は、視線をちらりと他のテーブルへと向けた。二人からやや離れたテーブルについているのは、和彦の護衛の組員だ。 物言いたげな顔で再び秦がこちらを見たので、和彦はわざと意地の悪い笑みを浮かべた。「自分と会うのに護衛がいるのか、と言いたげだな」「先生と、せっかくシャレたカフェでお茶をしているのに、緊張すると思っただけです」「寒い中、車で待ってもらうのも悪いだろ――と、ぼくの護衛については、君に関係ない。それより、ぼくの質問に答えろ」 秦はキザな仕草で軽く肩をすくめたあと、一瞬にして真剣な顔となった。掴み所がなく得体の知れない秦だが、こういう表情になると、ヤクザ並みの修羅場をくぐってきた男に見えてくるから不思議だ。「……煽ったつもりはないですよ。ただ、クリスマスツリーの飾りつけを先生に手伝ってもらって、正月に先生と二人きりで散歩したことを、中嶋に知られただけです」「知らせた、の間違いじゃないのか」「間が悪い男なんですよ、わたしは」「自分が今どこに住んでいるのか、教えないこともか? ぼくを連れ込むことはできても、彼に住所すら教えられない理由は?」 手厳しい、と声に出さずに秦が呟く。和彦は、口が達者な秦を言い負かしたことに爽快感を覚えるでもなく、顔をしかめてカップに口をつける。 年が明けてからの気忙しさの原因の一つは、まず間違いなく、中嶋と秦のことがある。中嶋と肌を合わせてから、和彦は落ち着かないのだ。収まるべきところに、大事なものが収まっていないような、奇妙な居心地の悪さもある。 だから、クリニックの開業を目前に控えた忙しい中、こうして秦を呼び出して話していた。「深入りするな、厄介なことに巻き込みたくない――と、中嶋くんに言ったらしいな。そんなことを言われたら、かえって気になるし、冷静さを失う」
Last Updated : 2026-02-22 Read more