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第16話(54)

 内奥の感触を確認するように慎重にまさぐり、襞と粘膜を指の腹で擦られる。 両足を開かれ、中嶋が腰を割り込ませてくる。高ぶった欲望同士を擦りつけながら、二人はしっかりと両手を握り合った。 もどかしい快感に息を弾ませて、唇を吸い合い、緩やかに舌を絡める。「先生、犯していいですか?」 口づけの合間に、荒い息の下、中嶋がそう囁いてくる。和彦はすかさず囁き返した。「君が秦に犯されたあとなら……」 中嶋は目を丸くしたあと、笑った。普通の青年の顔をしながら、眼差しは〈女〉のものとなっている。秦に抱かれる自分の姿を想像して、欲情しているのかもしれない。「先生を犯すのもいいけど、先生に犯されるのも、興奮しそうですね」「……君の物言いは、やっぱり秦に似ている」「これは、秦さんの影響じゃないですよ。俺の、先生に対する欲情は、俺だけのものです」 握り合っていた手を離した和彦は、中嶋の頬を撫でる。「慌てなくていいだろ。今だって十分に、セクシャルな関係だ。それに――気持ちいい」 和彦は中嶋をベッドに押し付けると、高ぶった欲望をてのひらに包み込んで上下に扱く。濡れた先端を指の腹で擦ってやると、喉を反らしながら中嶋は洩らした。「ええ、気持ちいいです……」 和彦は、乱れた中嶋の髪を掻き上げてやってから、腕を掴まれて引っ張られるまま、ベッドに横になる。中嶋と唇を吸い合い、互いの熱くなった欲望を刺激する。 艶かしく絡み合い、肌を擦りつけ合って生まれる心地よさと快感を、二人は貪り合っていた。当然のように遠慮やためらいの気持ちはあるが、それは〈気遣い〉という言葉に置き換えられる。 男を知らない中嶋に、男の肌と欲望の感触を教えているのだ。気遣って当然で、繊細な行為の合間から、悦びを掬い上げてくれたなら、この行為に意味が生まれる。 もっとも、心配するまでもないようだが――。 和彦は片手を取られ、中嶋と向き合う格好となりながら、再び欲望をてのひらに包み込む。一方の中嶋も、和彦のものに触れてきた。 和彦
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第17話(1)

 軽く肩を揺すられ、和彦はゆっくりと目を開く。なぜか、三田村に顔を覗き込まれていた。「――こんなところで寝ていたら、湯冷めする」 三田村に言われてようやく、自分が湯に浸かり、バスタブの縁に頭を預けた状態であることに気づいた和彦は、慌てて体を起こそうとする。つい居眠りをしてしまったようだ。 派手な水音を立てて身じろぐと、すかさず三田村が片手を差し出してくれる。和彦はその手を掴んで立ち上がった。 浴室を出てバスマットの上に立った和彦の体を、当然のように三田村がバスタオルで拭いてくれる。されるに任せながら和彦は、風呂に入る前までの自分の行動を思い返す。 中嶋とベッドの上で絡み合い、その中嶋を見送ったあと、ゆっくりと湯に浸かりたくなったのだ。 優しい手つきで髪を拭いてもらいながら、和彦はじっと三田村の顔を見つめる。三田村は、無表情だった。「……何があったのか、知っている顔だな」「中嶋が先生にひどいことをしていたなら、只じゃ済ませない」 ここで三田村が、軽く眉をひそめて和彦の左頬に触れてくる。「少し赤くなっている」「引っぱたかれただけだ。大丈夫。中嶋くんは力加減をしてくれた。……ヤクザのくせに平手で殴るなんて、ずいぶん良心的だ」「平手だろうが、先生に手を上げた」「一度きりだ。彼に、ぼくを殴らせるのは、今日が最初で最後。――前に、ぼくに同じことを言った男がいたな」 その場に居合わせた三田村は、和彦が誰のことを言っているのか、わからないはずがない。ようやく口元に微かな笑みを刻んだ。「相手が中嶋だったから、平手で済んだ。もし、本気で先生を傷つけようとしている相手だったなら、どうなっていたか……」「本物のヤクザは、容易に手を出さない。しかも、ぼく相手に傷をつけるような、下手なやり方はしないだろ」「傷をつけずに相手を痛めつけるやり方なんて、いくらでもある」「……あまり、怖い相手と向き合っているという意識はなかった。〈女〉なんだ。秦が絡むときの中嶋くんは。だか
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第17話(2)

 まだ言い足りないような顔をして、三田村がバスローブを肩にかけてくれる。和彦は袖を通しながら、三田村の様子をうかがう。 互いに落ち着いた様子で話しているが、妙な感じだった。和彦と中嶋の間にあった出来事を、当然のように三田村は把握している。それを隠す素振りも見せない。和彦も感づいていると思っているのだろう。 ドアを開けた三田村が振り返り、促がされるように和彦は廊下に出た。 まっすぐキッチンに向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。水を一気に飲んで喉の渇きを癒してから、ほっと一息をついた和彦はぼそりと洩らした。「やっぱり、盗聴器をつけたままなんだな」「あくまで、防犯のためだ」 ヤクザの口から『防犯』とは、どんな冗談だと、怒る気にもなれず和彦は苦笑を洩らす。賢吾のことなので、部屋に盗聴器は仕掛けたままだと思ってはいたのだ。「組長がこのマンションを選んだのは、近くに長嶺組が別名義で借りている部屋があるからだ。そこに盗聴器の受信用アンテナを置いてある。ただ、常に先生の部屋の物音を聞いているわけじゃない。異変があったときだけ組長に連絡して許可を取ったあと、録音している――らしい」「らしい?」「俺は、その方面の仕事には関わっていないから、詳しいことは知らされない。ただ今晩は、先生の状況を電話で知らされて、様子を見に行くよう言われた。……俺に求められているのは、必要なときに、こうして先生の元に駆けつけることだ」 賢吾や千尋が頻繁にこの部屋を訪れることを思えば、組が室内での様子に気を配るのも理解できる。決して気分はよくないが、こういう生活を送っているうえで和彦は、許容や諦観という感情と折り合いをつけることが上手くなっていた。 ただそれでも、三田村の律儀さと落ち着きぶりが、今は少しだけ腹立たしい。 意地悪をしてみたくなった――というわけではないが、和彦はわざと素っ気ない口調で三田村に問いかけた。「それで、ぼくのところにやってきて、何をしてくれるんだ?」「先生が望むなら、なんでも。……俺としては、風呂で居眠りしている先生を見つけられて、それだけで
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第17話(3)

 意地悪をするどころか、されているのかもしれない。三田村の口元がわずかに緩んだのを見て、和彦はあっさりと降参した。「三田村、頼みがある」「なんでも言ってくれ」「――あんたの虎を撫でたい。……クリスマスのとき以来、触れてないんだ」 一瞬のうちに三田村の顔つきが変わり、手荒く腕を掴まれて引き寄せられる。和彦を抱き締めてくる腕の力は、骨が軋みそうなほど強く、言葉よりも雄弁に三田村の気持ちを物語っていた。** 内奥に三田村の指が挿入され、和彦は甘い呻き声を洩らして腰を揺らす。何かを探るように指を蠢かされると、必死に締め付けずにはいられない。和彦の内奥は、強い刺激を欲していた。 指を出し入れしながら三田村は、和彦の胸元や腹部に何度となく唇を押し当ててくる。このとき上目遣いに強い眼差しを向けられて、和彦は、三田村が何を言おうとしているのか察した。「……もう、わかってるだろ。中嶋くんとは――寝てない。このベッドの上に転がって、じゃれ合っていただけだ」 三田村の指が内奥に付け根まで収まり、丹念に襞と粘膜を擦り始める。中嶋に触れられはしたものの、決定的な刺激を与えられなかったため、和彦の内奥ははしたないほど発情している。今頃、和彦から同じような愛撫を施された中嶋も、どこかで煩悶しているかもしれない。 淫らな衝動と肉欲のまま、ベッドの上で一つになろうとしたのだが、寸前のところで和彦は中嶋の肩を押し上げ、一方の中嶋も、我に返ったように動きを止めた。互いに顔を見合わせ、苦笑を交わしつつ体を離したあと、中嶋はスーツを着込んで帰った。 多分、行為を止めたのは間違いではなかったと思う。少なくとも和彦は後悔していなかった。だからこうして、三田村の愛撫に身を委ねられる。「どうしてだ、先生?」 三田村から返ってきたのは、率直な問いかけの言葉だった。和彦は震えを帯びた吐息を洩らしてから、片手を伸ばして三田村の頬に触れる。「秦の目論見どおりに、中嶋くんの〈教育係〉になるのが気に食わなかった」「本当に、そう思ったのか?」 ハスキーな声
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第17話(4)

「――……領分、というやつだな。ホスト時代から積み重ねてきたものがある二人に、知り合って間もないぼくが立ち入れる領分は限られている。今日、ぼくが中嶋くんと寝るのは多分、それを侵すことになると思ったんだ。……柄にもなく、甘いことを考えた。せっかく、総和会の中で利用できる手駒を手に入れられたのに」 あえて悪ぶって言ってみたが、本物のヤクザを楽しませただけらしい。三田村は低く声を洩らして笑った。「先生の甘さは、性質が悪い。男を蕩けさせて、骨抜きにする」「一応、相手は選んでいるつもりだ」 顔を伏せて、三田村が逞しい肩を微かに震わせる。笑われたことへのささやかな仕返しとして、和彦は三田村の髪を荒っぽく撫でてやったが、どうやら三田村は、それを愛撫の催促として受け取ったらしい。「あっ……」 両足を左右に大きく開かれ、三田村が中心に顔を埋める。熱くなって反り返ったものを舐められて、身震いしたくなるような心地よさが腰を這い上がってきた。 まるで獣のような舌使いで、和彦のものはしゃぶられる。先端から透明なしずくが滴り落ちそうになると、ねっとりと這わされる舌に舐め取られ、そのまま口腔深くに呑み込まれて吸引される。「あっ、あっ、いっ……、気持ち、いぃ――」 三田村の激しく濃厚な愛撫に、あっという間に和彦は奔放に乱れてしまう。 寝室に響く淫靡な濡れた音すら、盗聴器に拾われているのかと思うと、興奮を促す小道具になっていた。 柔らかな膨らみをきつく揉みしだかれ、仰け反りながら和彦は呻き声を洩らす。「……ふっ……、うっ、うっ、うっ……ん」 三田村の舌がさらに追い討ちをかけてきて、和彦の下肢は完全に蕩けてしまう。 内奥の入り口を唾液で濡らし、喘ぐようにひくつかせる頃、ようやく三田村は逞しい欲望を与えてくれた。 和彦は、声も出せずに快美さに体を震わせる。三田村に熱っぽく見つめられながら、反り返ったものの先端から、透明な歓喜のし
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第17話(5)

 これ以上なくしっかりと繋がると、三田村の両てのひらが肌をまさぐってくる。硬く凝った胸の突起を指の腹で擦られ、摘み上げられて、たまらず和彦は両手を伸ばして三田村の頭を引き寄せ、口腔に含んでもらう。このとき、熱い欲望に内奥深くを抉られて、全身を駆け抜ける快感に和彦は恍惚としていた。 夢中で三田村の背を掻き抱き、虎の刺青を撫で回す。三田村は深い吐息を洩らし、心地よさそうに目を細める。その表情にたまらなく愛しさを覚えた和彦は、三田村のあごの傷跡を舐める。「……ぼくの、〈オトコ〉の味だ」 そっと和彦が囁くと、三田村は欲望を抑えられなくなったのか、乱暴に腰を突き上げてきた。淫らに蠕動を繰り返す和彦の内奥は、〈オトコ〉の荒々しさに狂喜し、きつく締まる。 甘えるような声を上げてしまい、そんな自分を恥じた和彦は、照れ隠しのように三田村の背に爪を立てていた。 三田村が、緩やかに、しかし大きく律動する。内奥の襞と粘膜を強く擦り上げながら、和彦が欲望の逞しさと熱さを堪能するように、三田村もまた、多淫な内奥の感触をしっかりと味わっているのだろう。 二人は、敏感な部分を擦り付け合うだけの行為に、ひたすら耽る。それだけの行為が、たまらなく気持ちよくて、和彦の体だけでなく心も満たしてくれるのだ。「三田村っ……、お、く……、奥、してほしい……」 和彦が必死に訴えると、上体を起こした三田村に片足を高々と抱え上げられ、抉るように内奥深くを突き上げられる。和彦は悲鳴を上げ、身を捩るようにしてシーツを握り締める。そこをさらに突き上げられ、絶頂を迎えていた。 迸り出た精が下腹部を濡らすと、三田村の指に掬い取られる。すると、内奥から欲望が一度引き抜かれ、代わって指を挿入された。自分の放った精に塗れた指を、和彦の内奥は見境なく締め付ける。「あうっ――」 再び欲望を根元まで呑み込んだとき、和彦は三田村の意図がわかった気がした。繋がった部分に指先を這わせ、脈打つ三田村のものの根元にも触れる。「……ここに、あんたも出してくれたら、結
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第17話(6)

** 何度となく、惜しみなく口づけを与え続けてくれた三田村が、物音を立てないよう慎重にベッドから抜け出す。半分瞼を閉じた状態で、和彦はその姿をぼんやりと見つめる。どうやら和彦が眠ったと思い、帰り支度を始めるようだ。 連絡を受けてから、仕事を投げ出して駆けつけてくれたのだろうなと思うと、別れ際まで三田村に気をつかわせるのが申し訳なくて、和彦は眠ったふりをしておく。 三田村は、和彦の髪をさらりと撫でてから、静かに寝室を出ていった。 このまま本当に眠ってしまおうと、広いベッドの上で思いきり手足を伸ばす。だが目を閉じたところで、微かな物音を聞いた。三田村が行き来している音だと思い、さほど気にもかけなかった和彦だが、寝室のドアが開いたことで、ようやく異変を知る。 三田村が戻ってきた――わけではなかった。 ベッドが小さく軋む音を立て、思わず和彦は目を開く。視線を動かすと、大きな人影がベッドに腰掛けていた。カーテンを開けたままの窓から月明かりが差し込んでおり、かろうじて相手の顔が見える。「……何、してるんだ……」 和彦が問いかけると、賢吾はひっそりと笑った。「ひどい言い草だな。ここは、俺のオンナを住まわせている部屋だぜ。当然、勝手に入る権利はあるだろ」「誰も、あんたがここに来たことを責めてない。純粋に……何をしに来たのかと思ったんだ」「先生の様子を見に来た。まさか、三田村が先生を抱き殺すとは思えないが、一応俺なりに、アフターケアをしてやりたくて」 もったいぶったような賢吾の物言いが、緩慢な思考の動きをさらに鈍くする。和彦は一声唸ると、前髪に指を差し込んだ。「そういえば、盗聴器を仕掛けたままなんだな。全部聞いたってことか……」「誤解するなよ、先生。長嶺組長の身の安全のために、仕掛けてあるんだ。何かあったら、組員が踏み込めるようにな。その盗聴器を通して、組長のオンナの艶かしい声が聞こえたところで、それはアクシデントというんだ」「……あんたを咎め
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第17話(7)

「先生は大したものだ。骨抜きにされた男がみんな、金では買えないものを先生に差し出してくる」「ぼくはズルイ人間だと自覚はあるが、誰かに、何かを差し出せと命令したことはない」「男が自分の意思で差し出すから、性質が悪いんだ」 ベッドに座り直し、体の向きを変えた賢吾が、和彦の体を覆っていた毛布を剥ぐ。三田村に愛されたばかりの体を晒してしまい、さすがに羞恥で身じろいだが、そんな和彦の体を愛でるように、賢吾は目を細めて見下ろす。「千尋は、若い情熱とひたむきさを。結果として、長嶺組と先生を繋ぐ役割を果たした。三田村は、安らぎを。先生が俺のオンナである限り、あの男は命をかけて組と俺に忠誠を尽くす。鷹津は、刑事という肩書きを。先生のために働きながら、その先生のバックにいる長嶺組に、使える情報を運んでくる。本人は不本意だろうがな」 話しながら賢吾の手が、まだ汗ばんでいる和彦の体を這い回る。三田村に愛されたばかりの体を、そうやって検分しているのだ。促されるまま両足を立てて開くと、内腿に残る愛撫の痕跡にまで指先が這わされ、和彦は体を強張らせる。「……秦は、中嶋を。正確には〈弱み〉だな。あの男は、厄介なトラブルを抱え込んでいるが、けっこうな金脈も背負っている。身の安全と引き換えに、長嶺組が利用させてもらうことで話はついている。先生と知り合ってなかったら、とっくに殺されていても不思議じゃない男だ。なんだかんだで先生に頭が上がらない」 いきなり、賢吾の手が両足深くに差し込まれ、柔らかな膨らみをまさぐられる。巧みに揉みしだかれ、一気に下肢から力が抜けた和彦は、意識しないまま腰を揺らしていた。三田村にもさんざん弄られ、愛された場所だ。そこをさらに賢吾に弄ばれると、背徳感と、抗いがたい快感が生まれる。「うっ……」「そして、中嶋だ。あの男は、総和会の中での、先生の手駒としての自分を差し出した。今はまだ必要を感じないだろうが、使い方を覚えろ。いい手駒――というより、先生の兵隊になってくれるぞ、中嶋は。さぞかし立派な、総和会内での長嶺組の勢力にもなってくれるだろう。あいつも、先生と長嶺組の力を利用したがっているしな」 楽しげに、
last updateLast Updated : 2026-02-22
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第17話(8)

「性悪でもなんでもいい。お前は、俺のオンナだからな」 大蛇が巨体をしならせる。そんな光景が脳裏に浮かび上がるような動きで、賢吾がベッドの上に乗り上がってくる。和彦の片足を無造作に抱え上げて、蕩けた内奥に二本の指を挿入してきた。「ううっ」 三田村の欲望で擦り上げられた和彦の内奥は、ひどく感じやすくなっている。それがわかったうえで賢吾は、襞と粘膜をまさぐってくる。「――たっぷり三田村に愛してもらったようだな。あいつはいつも、俺の命令以上の働きをしてくれる」 和彦がきつい眼差しを向けると、悪びれた様子もなく賢吾は口元に笑みを湛える。「三田村は、俺の命令でもない限り、このベッドの上で先生を抱いたりしないだろ」 ああ、と思った。この部屋は賢吾のテリトリーだ。その賢吾に仕え、忠誠を誓っている三田村は自らの意思で、そのテリトリーの中で和彦を抱くことはない。そこには、三田村なりの複雑な気持ちがあるのだと思う。賢吾に対する遠慮や、男としてのプライドといったものだ。 それを曲げて、このベッドで和彦を抱いたということは、賢吾の言う通りなのだろう。 賢吾が、和彦との交わりにおいて、屈辱的な形で三田村を加わらせたことはこれまでもあったが、こんなことを告げられるとやはりショックは受ける。複数の男と関係を持っている和彦なりに、繊細な部分は持っているつもりだ。 内奥から指を引き抜いた賢吾が、和彦の顔を覗き込んでくる。表情を見られたくなくて横を向こうとしたが、容赦なくあごを掴まれて止められた。「……そんな顔をするな、先生。あんまり先生と三田村の仲がいいから、ちょっと意地悪を言ってみただけだ」「意地悪?」「俺は三田村に、先生の様子を見て、側についていてやるよう言っただけだ。――このベッドで先生を抱いたのは、あいつなりに思うことがあったからだろうな」 戸惑った和彦は何も言えず、視線をさまよわせる。そんな和彦の頬を、賢吾が優しい手つきで撫でてきた。「あいつも、厄介なものに惚れちまったもんだ。色男のくせして、男に対して滅多にないほど淫奔で、そのくせ、どれだけの男に注いでも尽きないぐらいの愛情を抱え
last updateLast Updated : 2026-02-22
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第17話(9)

「言っておくが、あんたに目をつけられるまで、ぼくはそれなりに慎み深く生きてきたんだ。しかも、平穏に」「いーや、先生ならそのうち絶対、男絡みで刃傷沙汰を起こされていたな。よかったな。そうなる前に、ヤクザに保護されて」 ニヤニヤと笑う賢吾の顔が本当に憎たらしい。バスローブを羽織った和彦はベッドから下りようとしたが、腰に賢吾の腕が回されて引きとめられた。「……まだ何かあるのか」「ゾクゾクするほど興奮したぞ。先生と中嶋が絡み合う声は」 ドキリとした和彦は、ぎこちなく賢吾を見る。すでにもう賢吾は笑っておらず、表情らしい表情は浮かべていない。しかし両目にちらつくのは、欲望の種火だ。明らかに賢吾は興奮していた。その目で見つめられると、息が止まりそうになる。「男でも雄でもない、〈オンナ〉同士の絡む声だ。あれは、録音する価値があった。映像に残せなかったのは残念だが――」 息もかかるほど間近に賢吾の顔が寄せられた。「機会があれば、目の前で見てみたいものだな」 一瞬にして、賢吾が本気で言っていると察した和彦は、顔を熱くする。こんなときに限って、上手い切り返しが思いつかない。「嫌……だ」「嫌か?」 賢吾の声が柔らかな笑いを含む。和彦は逃げるように寝室を出ようとしたが、ふとあることが気になって振り返る。どうした、と言いたげに賢吾が首を傾げ、なんでもないと和彦は首を横に振る。 大したことではないのだ。ただ、さきほどの賢吾の話で、和彦と関係を持つ男たちが金では買えないものを差し出していると言っていたが、肝心の賢吾は何を――と思ったのだ。 少しだけ期待を込めて。** 和彦が睨みつけると、華やかな美貌の男は大仰に目を丸くしたあと、柔らかな苦笑を浮かべた。和彦が何に対して怒っているか、すぐに察したようだ。 いや、察したというより、和彦の反応をあらかじめ予測していたのだろう。「機嫌が悪いようですね、先生」 頼んでいたカフェオレがテーブルに運ばれてくるのを待ってから、秦が口を開く。和彦はカップに手
last updateLast Updated : 2026-02-22
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