わずかに目を眇めた南郷の一瞥を受け、鷹津は不快そうに眉をひそめた。互いが、忌むべき存在に出会ったと認識した瞬間に、和彦は立ち会ってしまったのだ。 不気味な沈黙を残した南郷の車が走り去り、鷹津と二人きりになる。 和彦は横目で鷹津を見ると、何事もなかったふりをしてマンションに戻ろうとしたが、案の定、肩を掴まれて引き止められた。「また、ヤクザをたぶらかしたのか、佐伯」 鷹津の言葉に、パッと振り返った和彦は鋭い視線を向ける。「変なことを言うなっ」「そうか? さっきのはどう見ても、でかい図体のヤクザが、お前の色香に迷って襲いかかろうとしているように見えたが」「……目が腐ってるんじゃないか」 小声で毒づいた和彦に対して、鷹津が意味ありげにニヤニヤと笑いかけてくる。最初は気づかないふりをしていた和彦だが、立ち去ることも許されず、仕方なく水を向けた。「何か、言いたそうだな……。ぼくは早く部屋に帰って休みたいんだ。用があるならさっさと言ってくれ」「助けてやった俺に対して、何か忘れてないか?」 鷹津を睨みつけると同時に、和彦の頬は熱くなる。この男が何を言おうとしているか、一瞬にして理解してしまったのだ。「……茶ぐらい出してやろうかと思ったが、気が変わった。さっさと帰れ」「そうやってとぼけて、俺を焦らす作戦か」 鷹津に動揺した姿を見せた時点で、和彦の負けだ。 唇を引き結ぶと、促されるまま鷹津の車に乗り込んだ。** 鷹津と一緒にいることをメールで賢吾に知らせて、ぼんやりと携帯電話の画面を眺めていた和彦は、ウィンドーを軽く叩かれた音で顔を上げる。先に車から降りた鷹津が腰を屈め、車内を覗き込んでいた。 和彦は携帯電話をコートのポケットに突っ込むと、勢いよく車を降りる。「ダンナに、しっかり居場所は伝えておいたか?」「うるさい。ぼくが連絡しておかないと、あんただって面倒だろ」「いいところで、ヤクザに踏み込まれるのは迷惑だな」
Last Updated : 2026-02-26 Read more