長嶺組という看板に守られている和彦は、エレベーターの中で南郷に話しかけられたとき、ひどく不安だった。その理由が、今ならわかる。 長嶺組を恐れない男の前では、自分があまりに無防備で、危険を避けようとする本能が働いたのだ。 力があるのは長嶺組の男たちで、和彦自身ではない。頭ではわかっていても、あまりに周囲の男たちから大事にされ、少し浮かれていたのかもしれない。 「――……やっぱり、ヤクザは怖いな……」 声に出して呟いて、苦々しく唇を歪める。 カーテンを開けたままの窓から夕日が差し込む。眠るには明るすぎる気もするが、もう起き上がるのも億劫で、そのまま毛布に包まって一眠りしようとする。 すぐにウトウトとし始めた和彦は、インターホンの音に驚き、大きく肩を震わせた。思わず体を起こしはしたものの、夢と現実の区別がつかない。半分寝ぼけた状態で所在なく室内を見回してから、再び横になろうとする。すると、今度こそはっきりと、インターホンの音が耳に届いた。 こんな時間に――と言いたいところだが、まだ夕方だ。来訪者を責めるのは酷だろう。 今日はもう、組員は来ないはずだがと思いながら、ベッドから下りた和彦は寝室を出る。 「はい――……」 インターホンに出た和彦は、画面に映っている人物を見て目を見開く。怖いほど真剣な顔をした中嶋だった。 『突然押しかけて、すみません。話したいことがあるんです。部屋に上がらせてもらってもいいですか?』 何事かと思ったが、インターホン越しに問いかけるわけにもいかない。和彦はエントランスのロックを解除した。 部屋にやってきた中嶋は、和彦の顔を見るなり、ちらりと笑みをこぼした。 「先生もしかして、寝てました?」 頭を指さされたので、慌てて髪を撫でる。濡れ髪のままベッドに潜り込んだため、ぐしゃぐしゃになっている。 「疲れたから、少し横になってたんだ。……入ってくれ」 中嶋をリビングに通した和彦は、すぐにキッチンに向かう。 湯を沸かしながらカップの準備をしていると、中嶋はダイニングにやってきた。 「すぐにコーヒーを淹れるから、座って待っていて――」
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