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第16話(44)

 長嶺組という看板に守られている和彦は、エレベーターの中で南郷に話しかけられたとき、ひどく不安だった。その理由が、今ならわかる。  長嶺組を恐れない男の前では、自分があまりに無防備で、危険を避けようとする本能が働いたのだ。  力があるのは長嶺組の男たちで、和彦自身ではない。頭ではわかっていても、あまりに周囲の男たちから大事にされ、少し浮かれていたのかもしれない。 「――……やっぱり、ヤクザは怖いな……」  声に出して呟いて、苦々しく唇を歪める。  カーテンを開けたままの窓から夕日が差し込む。眠るには明るすぎる気もするが、もう起き上がるのも億劫で、そのまま毛布に包まって一眠りしようとする。  すぐにウトウトとし始めた和彦は、インターホンの音に驚き、大きく肩を震わせた。思わず体を起こしはしたものの、夢と現実の区別がつかない。半分寝ぼけた状態で所在なく室内を見回してから、再び横になろうとする。すると、今度こそはっきりと、インターホンの音が耳に届いた。  こんな時間に――と言いたいところだが、まだ夕方だ。来訪者を責めるのは酷だろう。  今日はもう、組員は来ないはずだがと思いながら、ベッドから下りた和彦は寝室を出る。 「はい――……」  インターホンに出た和彦は、画面に映っている人物を見て目を見開く。怖いほど真剣な顔をした中嶋だった。 『突然押しかけて、すみません。話したいことがあるんです。部屋に上がらせてもらってもいいですか?』  何事かと思ったが、インターホン越しに問いかけるわけにもいかない。和彦はエントランスのロックを解除した。  部屋にやってきた中嶋は、和彦の顔を見るなり、ちらりと笑みをこぼした。 「先生もしかして、寝てました?」  頭を指さされたので、慌てて髪を撫でる。濡れ髪のままベッドに潜り込んだため、ぐしゃぐしゃになっている。 「疲れたから、少し横になってたんだ。……入ってくれ」  中嶋をリビングに通した和彦は、すぐにキッチンに向かう。  湯を沸かしながらカップの準備をしていると、中嶋はダイニングにやってきた。 「すぐにコーヒーを淹れるから、座って待っていて――」
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第16話(45)

 中嶋の単刀直入な問いかけに、カウンターにカップを置いた姿勢のまま和彦は動けなかった。そんな和彦を、中嶋は食い入るように見つめている。  短く息を吐き出し、湯を沸かすのを止めた和彦は、カウンターにもたれかかった。 「どうしてそんなことを聞くんだ」 「先生なら、そうなっていても不思議じゃないと思ったからです」  ひどい言われようだと、腕組みしながら顔をしかめる。しかし、中嶋がこう言いたくなる気持ちはよくわかるのだ。実際和彦は、四人の男と同時に関係を持っており、秦とは、限りなくセックスに近い行為に及んでいる。自分でも呆れるほどの淫奔ぶりだ。  だが秦は、他の四人とは違う。これだけは断言できた。  和彦は緩く首を横に振る。 「秦とは一線を越えたことはない」 「微妙な言い回しですね」 「正確な関係を知りたいか?」  和彦がまっすぐ見据えると、初めて中嶋はうろたえたような、ひどく頼りない表情を見せた。それはほんの数瞬のことだったが、中嶋の心の内をうかがい知るには十分だ。  ヤクザでも〈女〉でもない、年相応の青年の顔だった。 「――……知りたいです。そのつもりで、ここに来ました。総和会の一員とはいっても、俺はなんの肩書きも持たないヤクザです。そんな俺が、長嶺組が庇護していて、総和会からも大事にされている先生の部屋に押しかけているんです。罰を受けるのは覚悟しています」  中嶋の覚悟に対して、和彦は容赦なく事実を告げることで応えた。 「秦は、組長からぼくに与えられた、〈遊び相手〉だ」  次の瞬間、中嶋に平手で頬を殴られた。和彦の体は簡単に横に吹っ飛び、壁に倒れかかる。顔の左半分が火がついたように痛み、頭がふらつく。必死に壁に手をついて体を支えながら、それでも和彦は口を動かす。 「ヤクザのくせに、ずいぶんお上品な殴り方をするんだな……」 「拳だと……、跡が残ります」  硬い声で答えた中嶋だが、和彦がなかなか顔を上げないため心配になったのか、腰を屈めるようにして様子をうかがってきた。 「先生……」  差し出された手を取ると、慎重にダイニングのイスに座らされる。
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第16話(46)

「もしかして、壁に頭をぶつけましたか? すみません、力加減ができませんでした」 中嶋は、わざわざタオルを濡らしてきて、手渡してくれる。それを頬に押し当てて、和彦はようやく顔を上げた。「……気にしなくていい。こう見えて、意外に殴られ慣れてるんだ、ぼくは」 殴られた痛みで吐き気がしてくる。殴った本人である中嶋は、眉をひそめながら和彦の右頬を撫でてきた。「顔が真っ青ですよ、先生」「大丈夫。――話を続けよう」 和彦が向かいのイスを示すと、ためらいがちに中嶋は腰掛ける。 和彦は、秦との関係について、明け透けなほどはっきりと説明した。長嶺組と関わりを持つために秦が和彦に近づき、薬を盛られた挙げ句に、体に触れられたこと。それ以来、危うい関係が続いていること。一線を越えないのは、賢吾が秦に釘を刺していることも告げた。「求め合って、というわけじゃない。秦との行為は、いつも打算含みだ。だからこそ救われた部分があるが。……友人のようでもあるが、やっぱり遊び相手なんだろうな。それにぼくは、秦にとって使い勝手がいいと思われているようだ」「どういう意味です?」「そのことに答える前に、今度はぼくからの質問だ」「……どうぞ」 口が動かしにくいので、頬に当てたタオルを除ける。多少熱を持っているが、口の中が切れたわけでもなく、痛みも治まっているので、やはり中嶋はずいぶん力加減をしてくれたらしい。かつて、和彦に手を上げていた人間たちとは大違いだ。 左頬を軽く撫でた和彦は、元日からずっと感じていた疑問を中嶋にぶつけた。「正月に、長嶺の本宅で君と会ったとき、様子がおかしかった。そのあとの電話でも……。そして今のこの状況だ。――何かあったのか?」 中嶋は唇を歪めるようにして笑うと、イスの背もたれに体を預けて天井を見上げた。和彦に表情を見られるのが嫌なようだ。「元日に先生と秦さんが、長嶺組長の本宅近くを仲良さそうに歩く姿を見かけたんです。だけどそれは、大したことじゃない。……年末
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第16話(47)

 そんなこと、と言ってしまっては語弊があるが、どれだけ重大なことを切り出されるのかと身構えていた和彦としては、意表をつかれる。目を丸くすると、ようやく中嶋はこちらを見た。「なんとなく、気になったんです。先生が、あの店にわざわざ行って、ツリーの飾りつけを手伝うことになった経緯が。先生と秦さんが、ただならぬ関係だというのは薄々わかってはいたんですが、それでも自分では、平気なつもりだったんです」 和彦は弁解しようとしたが、それを制止するように中嶋が片手を上げ、言葉を続ける。「……俺、先生が好きですよ。陽の下を堂々と歩いているのが似合いそうな、どこから見ても堅気の色男なのに、ヤクザに囲まれても物怖じしないところや、商売女も裸足で逃げ出しそうな、したたかでズルイところとか。本当に、不思議な生き物って感じなんです、先生は」「ぼくが周りからどう思われているか、よくわかるな」「だからこそ、得体の知れない秦さんと馴染みそうなんです。あの人も一応、青年実業家なんて肩書きを持っていて、見た目はあの通り、惚れ惚れするようなイイ男です。ヤクザなんてものと関わらなくてもいい生き方ができるはずなのに、ヤクザと関わって、とうとう長嶺組なんてものを後ろ盾にしてしまった。……先生を利用して」 淡々と話す中嶋の口調からときおり滲み出るのは、悔しさと嫉妬だ。中嶋の生の感情を感じ取るたびに、和彦は奇妙な安堵感を覚える。自分が向き合っているのは、ヤクザでありながら、〈女〉を感じさせる青年なのだと実感できるのだ。 中嶋に感情移入しすぎて、和彦はふっと気を緩める。しかし中嶋は、見た目はともかく、中身は上昇志向の強いヤクザなのだ。まるで切りつけてくるかのように、鋭い眼差しを向けてきた。「――先生は、秦さんが今、どこで暮らしているか知っていますよね」「あ、あ……。長嶺組の指示で引っ越したと言っていた。前に住んでいたところは危険だと判断したんだろう」「俺は、秦さんが今どこに住んでいるか、教えてもらっていません」 強い苛立ちを示すように中嶋が指先でテーブルを叩く。神経質なその動作を、和彦はつい目で追って
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第16話(48)

「……秦は、君の前では『おれ』と言うんだな」 中嶋は一瞬表情をなくしたあと、苦い顔となる。「気になるのは、そこですか……」「秦はどんなときでも、ぼくの前では『わたし』と言うんだ。丁寧な物言いしかできない男なのかと思っていたが、そうでもないんだな」「つき合いだけは、先生より長いですから」「そういう言い方は――」 中嶋は急に激高したように、両手でテーブルを叩いた。「俺だって、こんな女みたいなこと言いたくないんですっ。だけど、言わずにはっ……、先生にぶつけずにはいられない。きっと、先生があまりに〈オンナ〉だからですよ。俺は引きずられているっ。女々しくてくだらないことを、よりによって先生本人にぶつけなきゃいけなくなるんだっ」「ぼくからしたら、秦に関することだけは、君はずっと〈女〉だった。不思議な感じだったよ。順調に出世しているヤクザの君から、〈女〉の部分を感じ取るのは」「なっ……」 イスから腰を浮かせた中嶋の顔が、見る間に赤く染まっていく。怒りと羞恥、どちらの感情からの反応なのか、和彦にはわからない。ただ、秦のような男が、中嶋に捻くれた欲情を抱く気持ちはわかるような気がした。 元ホストのヤクザは、野心やプライド、他人を利用しようとする計算高さを持つ一方で、一途で健気だ。それらを抱え持っているのが、人当たりのいい普通の外見をした青年なのだ。 彼に快感を与えたら、どんな反応を示し、どんな生き物へと変化していくのか――。 抗いがたい欲情が、ふっと和彦の中にも芽生える。秦は、こんな欲情を愛でているのかもしれない。 自分が中嶋を見つめていたはずなのに、いつの間にかその中嶋が、じっと和彦を見つめていた。「――……先生今、何を考えてました? 顔つきが変わりましたよ。これが、ヤクザだろうが、元ホストだろうが、見境なく男を咥え込む〈オンナ〉の顔ってやつですか?」 ふらりとイスから立ち上がった中嶋が、和彦の側にやってきて、腕を掴む。「こんな顔で、秦さ
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第16話(49)

「どう、答えてもらいたいんだ? 君の気が済むように答えてやる。……ぼくも、君のことは好きだからな」 激情に駆られたように中嶋に肩を掴まれ、力を込められる。和彦はイスに座ったまま、中嶋を見上げた。「……秦が、好きなのか? 前に言ってただろ。秦の感触に興味はあると。それはつまり――」「先生は、本当に甘い。この状況で言い出すことじゃないですよ。野心満々のヤクザと二人きりで、そのヤクザは、先生相手に手酷いことをしたくてウズウズしている。一方の先生は……平手で殴っただけでおとなしくなるような人だ」「ぼくを殴って、キスするのか? だったらキスぐらい、いくらでもしてやる」 和彦は、あえて中嶋を挑発するような物言いをする。中嶋の感情を爆発させるためだ。 そして思惑通り、中嶋は理性をかなぐり捨てたような行動に出た。和彦の髪を鷲掴んだかと思うと、強引に唇を塞いできたのだ。 噛み付く勢いで唇を吸われ、口腔に舌がねじ込まれる。和彦はされるがままになっていたが、それが中嶋は気に食わないのか、唇を離して睨みつけられた。「いままでみたいに、俺のキスに応えてくださいよ」「君が、いままでみたいなキスをしてくれるなら」 中嶋がうろたえた素振りを見せる。和彦は両手で中嶋の頬を捉え、今度は自分から唇を重ねた。熱っぽく唇を吸い上げ、舌先でくすぐってやると、我に返ったように中嶋は軽く抵抗する素振りを見せたが、本気ではない。それどころか、和彦が唇を離そうとすると、中嶋に頭を抱え込まれ、一気に口づけが深くなる。 口腔に中嶋の舌を迎え入れ、甘やかすように吸ってやる。差し出した舌を絡め合い、唾液を交わし、互いの舌をきつく吸い合っていた。 二人は濡れた唇を啄み合いながら、乱れた息を整える。「どうして、こんな……」 中嶋が小さく呟いたのをきっかけに、和彦は囁くように問いかけた。「感じたか? これは、秦のキスのやり方だ」「……どうして知っているんですか、と聞くのは野暮ですね。俺、先生とするキ
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第16話(50)

 苦々しい笑みを唇に浮かべた中嶋は、何度も髪を掻き上げながら、ダイニングを歩き回る。そうすることで、自分の頭と気持ちを整理しているのだろう。ときおり横顔に、強い苛立ちを滲ませている。 和彦は立ち上がり、中嶋に歩み寄ろうとする。すかさず釘を刺された。「今、俺の近くにきたら、今度こそ拳で殴らせてもらいますよ」「……言っただろ。こう見えても、殴られるのは慣れてるんだ」「だったら、本当に犯しますよ。秦さんが原因で先生がそういう目に遭ったら――長嶺組が、俺だけじゃなく、秦さんを潰してくれるかもしれない」「それはそれで、君と秦の心中みたいなものだな」 カッとしたように中嶋のほうから歩み寄ってきて、拳を振り上げる。ここで和彦は、淡々とした口調で告げた。「――秦は、ぼくを利用したんだ。君が、男と寝るということを、リアルに感じるために。ぼくが秦と何かあるかもしれないと思ったら、いろいろと想像しただろ。どんなふうに秦に抱かれるのか、どんな声を上げるのか。秦の舌と唇の感触、貫いてくる性器の感触も。それこそ、獣みたいな行為だ。ただ、欲望をぶつけて、擦りつけ合う」 和彦の放つ言葉の生々しさに気圧されたように、中嶋はゆっくりと拳を下ろした。和彦は、そんな中嶋の拳を両手で握り締める。「どうして秦さんは、そんなこと……」「秦は、君を抱きたがっている。だけど君は、野心たっぷりに這い上がろうとしているヤクザだ。君が支えにしている矜持や価値観を、壊したくないと思っているんだろ。見た目とは違って、秦の中身は獣みたいだが、そんな男が君に対しては気遣いを示している。つまり……そういうことだろ」 本当は、ここまで説明する必要があるのだろうかと思わなくもないが、和彦を巻き込んだのは秦本人だ。好きにさせてもらう権利はあるはずだ。それに、和彦の性質ゆえなのか、秦と中嶋の関係に関わることで、性的な高ぶりを覚えてしまった。 秦を獣みたいだと言いながら、自分のほうがよほど、胸の内に手に負えない獣を飼っているようだと、わずかな恥じらいを覚えて和彦は手を引く。「…&hel
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第16話(51)

「――俺は先生と知り合ってから、嫌になるほどリアルに、男と寝るってことがどんなものなのか、想像してきましたよ。先生という、いい見本があるんです。先生みたいな色男が、長嶺組長や他の男にどんなふうに抱かれているのか、と。そして俺は、艶かしい気分になるんです。……先生のように男に抱かれたくて、他の男のように先生を抱いてみたくて」 中嶋の唇が耳に押し当てられ、熱い吐息を注ぎ込まれる。身震いしたくなるような強烈な疼きが、和彦の背筋を駆け抜けた。同時に、倒錯した欲情を抱えていたのは自分だけではないのだと、安堵とも歓喜ともつかない感情に胸をくすぐられる。「俺は、秦さん相手に確かに肉欲はありますが、どうしたらいいのか、よくわからないんです。秦さんに抱かれたら、俺は俺じゃなくなって、ヤクザですらなくなってしまうんじゃないかと、怖くなる。今の先生の話を聞いて、なおさら怖くなりましたよ。俺の知っている秦さんは、あくまで紳士ですから」 中嶋の告白に、和彦はゆっくりと振り返る。興奮しているのか、中嶋の目は熱っぽさを帯び、強い光を放っていた。まるで、獲物を前にして舌なめずりをしているような――。「先生、俺に教えてください」「……何、を……」「〈オンナ〉の悦びを。――俺と先生の関係は、単なる友人同士じゃ物足りない。きっと、もっとセクシャルな関係のほうが、しっくりきますよ」「ジム仲間じゃ、ダメなのか?」「俺は独占欲が強いんです。秦さんが、保身や欲望のために先生を必要だとしているんなら、俺も、先生が欲しい。そうすれば、秦さんとより強く結びつける。謎の多いあの人を知るために、先生は欠かせない」 普通の青年に見えても中嶋は、中身はやはりヤクザなのだ。秦のことだけではなく、総和会内での出世のためにも、和彦は利用できる貴重な存在だ。そこに欲情も絡んで、中嶋にとって和彦は、さぞかし使い勝手がよく見えるだろう。 中嶋と向き合った和彦は、表情を険しくして見据える。「自分のことばかり言っているが、ぼくにメリットはあるのか? 秦は、長嶺組に飼われているようなもので、いまさらぼく個人が秦と結びつく必要
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第16話(52)

 ヤクザなんて食えない男たちばかりだと思っていたが、自分も立派にその一員だ。半ば自嘲気味にそう思った和彦だが、このしたたかさは賢吾によって磨かれたものだと感じ、感慨深さも覚える。 賢吾はきっと、中嶋と関係を持つことを許してくれると、確信があった。あの男は、和彦の淫奔さとしたたかさを愛でている。「――それで手を打とう」 和彦が答えると、まるで契約を交わすように中嶋がそっと唇を重ねてきた。** ジムでシャワーを浴びるたびに、中嶋の体は見ていた。細身だがしなやかな筋肉に覆われて、いかにも機能的に鍛えており、鑑賞物としても文句のつけようのないきれいな体をしている。かつての商売道具ですからね、と澄ました顔で中嶋は言っていたが、まさか、その体に触れることになるとは、想像もしていなかった。 どちらがリードしていいのかわからないまま、とりあえず和彦と中嶋は、何も身につけていない姿で抱き合いながら、ベッドの上を転がる。 なんとなく、千尋とじゃれ合っているようだなと思った和彦は、いつも千尋にそうしているように、頭を撫でる。すると、顔を覗き込んできた中嶋にベッドに押さえつけられ、唇を塞がれた。 のしかかってくる体を受け止めながら、刺青のない背にてのひらを這わせる。ふっと一瞬の違和感が和彦を襲った。 快感に身を捩り、悦びの声を上げる中嶋を、秦が見下ろしている光景が脳裏に浮かんだところで、違和感の正体がわかった。 和彦は、背から腰にかけて何度もてのひらを這わせたあと、中嶋の尻に触れる。ピクリと身を震わせた中嶋が、ああ、と声を洩らした。「……そうでした。俺は、〈オンナ〉になるんだ」「別に、そんなことは意識しなくていい。ぼくだって、ヤクザなんかと関わる前までは、男と寝ることに、理屈や役割なんて求めてなかったし、考えてもなかった。大事なのは、相手が快感を与えてくれるか、自分が与えてやれるか、それだけだ」 和彦は自分の指を舐めて唾液で濡らすと、中嶋の秘裂の間にそっと這わせた。「くっ……」 声を洩らした中嶋が背をしならせ、わずかに不安そうな
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第16話(53)

 中嶋の内奥の入り口を濡れた指先でまさぐり始めると、中嶋が腰を揺らす。二人の欲望が擦れ合い、もどかしい刺激を生み出した。 次第に二人の息遣いが妖しさを帯びる。今度は和彦が中嶋にのしかかり、狭い内奥にゆっくりと慎重に指を挿入する。何度となく、何人もの男を受け止めてきた和彦だが、反対の立場となるのは初めてだった。 控えめに、戸惑ったように反応する中嶋の姿に、つい見入ってしまう。自分も普段は、こんなふうに見られているのかと思うと新鮮だ。 きつく収縮する中嶋の内奥から、指を出し入れする。唾液で湿った熱い粘膜と襞が指にまとわりつき、吸い付く。指を付け根まで挿入してまさぐれば、うねるように内奥が蠢いた。「はっ……、あっ、あっ、変な、感じだ」 天井を見上げたまま、中嶋は困惑した様子で声を上げる。和彦は口元に笑みを刻むと、ゆっくりと指を動かしながら言った。「ぼくは、いまだにそう感じる。変な……、落ち着かない感じだと」「先生でも?」「この落ち着かない感じが――よくなる。自分の無防備な部分を晒してまで、男を受け入れていることが、快感に思えてくる」 内奥を掻き回すように指を動かすと、間欠的に上がる中嶋の声が、甘さを帯びる。次第にこの状況に、体と心が順応し始めたのかもしれない。 小さく喘ぐ中嶋に呼ばれ、和彦は唇を重ねる。差し出した舌を絡め合っていると、今度は中嶋に尻を揉まれ、内奥の入り口を指の腹で擦り上げられた。 慎重に、中嶋の指が和彦の中に侵入してくる。ゆっくりと息を吐き出し、下肢から力を抜くと、付け根まで収まった指が動き始める。「うっ……」 思わず和彦が腰を揺らすと、中嶋は感嘆したように言った。「中、熱いですね。俺の指をグイグイ締め付けてくる。そのくせ、柔らかい。……何人もの男を咥え込んでいる場所、ですね」「君も、同じだ。ぼくの指をよく締め付けて、ひくついていた」 中嶋は薄く笑うと、内奥から指を出し入れし始める。 二人は、初めての行為に没頭し、初めて味わう感触に夢中にな
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