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第24話(4)

「興奮したか?」 煽るように囁くと、三田村の目の色は変わった。虎を背負った男らしく全身から猛々しい気を発し、威圧してくる。和彦は、三田村の変化に煽られ、興奮する。誠実で控えめで優しい男が、欲望に狂ったオトコになるのだ。全身で受け止めて、快楽で応えたくなる。 開いた両足の間に、三田村がぐっと腰を割り込ませてくる。肌に触れた三田村の欲望は熱くなり、力を漲らせていた。これ以上なくわかりやすい反応に、自分から煽っておきながら和彦は羞恥を覚える。うろたえて顔を背けたが、すかさず三田村に耳朶に噛みつかれた。「んっ……」 誘われるように三田村を見上げると唇が重なってきて、深い口づけを交わす。舌を絡め合いながら、和彦は三田村の背に両腕を回し、刺青を撫で回す。それだけで虎はさらに猛り、肉を求めてきた。 和彦の舌をきつく吸い上げ、歯を立てたあと、三田村が胸元に顔を伏せる。期待と興奮で硬く凝った胸の突起をベロリと舐め上げてから、露骨に濡れた音を立てて吸い始めた。「あっ、はあっ――」 肌に触れる三田村の荒い息遣いにすら感じてしまい、和彦は小刻みに身を震わせる。さらに三田村の片手が両足の間に入り込み、反応を示しつつある欲望を握り締められた。和彦は緩く腰を揺らし、吐息を洩らす。 期待通り和彦の欲望は、三田村の熱い口腔に含まれた。「うっ、うっ」 いきなりきつく吸引され、たまらず和彦は大きく背を反らす。恥知らずなほど大きく開いた両足の間では、三田村がゆっくりと頭を上下に動かし始めていた。 愛しげに欲望に舌が這わされ、丹念に舐められる。そのたびにゾクゾクするような快感が背筋へと駆け上がり、追い討ちをかけるように先端を吸われる。和彦は呻き声を洩らし、気が遠くなるような強烈な感覚を味わう。ひたむきで情熱的な三田村の愛撫に、あっという間に夢中になっていた。「……三田、村……、三田村っ……」 和彦の呼びかけに駆り立てられるように、三田村の愛撫が淫らさを増す。たっぷりの唾液を施しながら和彦のものを舐り、武骨な手つきで柔らかな膨らみを揉んでく
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第24話(5)

「まさか。……なんて言えばいいんだろう。貪り食っている感じが――すごく、いい」 三田村の体が大きく一度だけ震える。それが興奮のためだと知ったのは、次の瞬間に訪れた、快感の波のせいだ。「うあっ」 内奥深くを乱暴に突き上げられ、三田村の欲望にぴったりと吸い付いていた襞と粘膜を強く擦られる。まさに、内から貪り食われているようだった。圧倒的な逞しさを持つものに内奥をこじ開けられ、刻印を刻むように熱の塊を押し付けられるのだ。逆らうこともできず、身を差し出すことしかできない。 和彦は甲高い声を立て続けに上げて、必死に三田村の背にしがみつく。体の内も熱いが、のしかかってくる三田村の体も熱い。「んっ、くうっ。あっ、いっ、いぃ――。三田村っ、気持ち、い……」 三田村の肩に額を擦りつけてから、吸い寄せられるようにまた姿見のほうを見てしまう。一方の三田村は、姿見の存在などすっかり忘れたように、ひたすら和彦を見下ろしている。 自分だけを真摯に見つめ続けてくれる三田村の姿に、和彦は体だけではなく、心で感じてしまう。どれだけ言葉を交わすより、これは自分の唯一の〈オトコ〉なのだと実感していた。「――先生」 切望するような声で呼ばれ、鏡に映るものから視線を引き剥がした和彦は今度こそ、本物の三田村をしっかりと見つめる。 狂おしく唇を塞がれ、口腔を舌で犯され、唾液を流し込まれる。内奥深くには、たっぷりの精を注ぎ込まれる。和彦は、三田村のすべてを嬉々として受け入れ、熱い吐息とともに囁きをこぼす。「もっと、虎を撫でたいんだ……」 荒い息をつきながら、三田村は欲しい答えをくれた。「先生の、望む通りに」** 汗に濡れた体を擦りつけるように密着させ、それでも物足りないのか、三田村の力強い両腕にしっかりと抱き締められる。まるで縛めのような抱擁が心地よくて、吐息を洩らした和彦は、すぐに、内奥深くに埋め込まれた逞しい欲望の存在を意識させられる。 体の奥から尽きることなく官能が溢れ出し、それは熱い蜜となって反り返った先
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第24話(6)

「は、あぁっ、いっ、ぃ――……」 欲望を奥深くまで突き込まれ、三田村の腕の中で思いきり背を反らした和彦は、恍惚とするあまり、数秒の間、呼吸することを忘れてしまう。 ふっと我に返って三田村を見ると、驚くほど鋭い目をして姿見を凝視していた。荒い息の下、和彦はつい意地悪な質問をぶつける。「……見惚れているのか?」「ああ。先生の体に見惚れている。目に焼き付けている」 これ以上なく真剣な口調で三田村に返され、和彦のほうがうろたえる。三田村の頬を撫で、耳元に唇を寄せてぼそぼそと呟く。「意外に男たらしだな、若頭補佐は」「先生が……相手だからだ。俺みたいな男が持っている言葉も感情も、全部先生に与えたい。そうしても惜しくないと思っている」 ヤクザなどという物騒な存在のくせに、三田村は真摯で一途だ。対する自分は――。 いまさら、複数の男と関係を持っていることに後ろめたさはない。和彦がこの世界で安全に暮らすために必要なことだ。打算から始まった関係ではあるものの、どの男にも情を抱いているし、執着もしている。一方で、恐れてもいる。だからこそ、絶妙のバランスを保てているといえる。「――きっと、こう思っているのは俺だけじゃない。先生を大事にしている男たちは、先生にいろんなものを与えたいと思っているはずだ」「ぼくを逃がさないために?」 聞きようによって皮肉と取られても不思議ではない問いかけに、真剣な顔で三田村は頷いた。「ああ。先生を、この世界から逃がさないために」 三田村の言葉の響きは、冷徹ですらあった。そこから、この男が胸に抱える覚悟を推し量れるようだ。 そして和彦は、三田村の覚悟に触発される。この世界で生きていくためには、生ぬるい感傷と思い出にすら折り合いをつけ、利用するべきだと思い知らされるほどに。「……昔、逆のことを言った人がいたんだ」 三田村の背を撫でながら、甘く、一方でほろ苦くもある思い出をぽつぽつと語る。和彦の脳裏に浮かぶのは、里見の顔だった。「早く、この
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第24話(7)

 長嶺組の男たちには一切悟られないよう、佐伯家に対する対抗策を自ら講じるために、里見ともう一度会うことも仕方ないと思っている。 甘い感傷から、こんなことを考えたのではない。長嶺組と佐伯家との接触を避けるために、自分だけが事態を把握して動くのが最善だという結論を出したのだ。 街灯に照らされる道の先に、一際明るいコンビニが見えてくる。ほとんど小走りとなった和彦は、一台の車も停まっていない駐車場を横目に、公衆電話に駆け寄った。 受話器を手に、すっかり覚えてしまった番号を押す。呼び出し音を聞きながら、短く息を吐き出す。ふいに呼び出し音が途切れた。『思っていたより早く、電話がかかってきた』 里見は、相手が和彦だと確認しないで話し始める。こんな時間に、公衆電話からかけてくる相手は和彦ぐらいしかいないのだろうが、それでも警戒心がなさすぎではないかと、少しだけ心配になる。『――わたしが、連絡用の携帯電話を買おう。それを君が使えばいい。知りたいことがあれば、いつでもメールなり、電話をしてくるんだ。そうすればわたしは、佐伯家の動きについて教えてあげられる』「せっかちだ、里見さん……」『佐伯家の人たちも、せっかちだ。君の居場所を早く聞き出せと、急かされているところだ』 ああ、と声を洩らした和彦は、コンビニの店内へと視線を向け、所在なく前髪を掻き上げる。『わたしが君に肩入れしていると察したら、あの家の人たちはどんな手段を取るかわからない。ことを大げさにしたくないというのは本音だろうが、それ以上に、英俊くんの国政出馬が公になる前に、厄介事を片付けてしまいたいはずだ』「……ぼくは、厄介事か」 さすがに里見は、上辺だけの慰めの言葉は発しなかった。佐伯家の中での和彦の存在がどんなものか、里見はよく知っているのだ。『本当は、君が佐伯家に出向いて、安心してほしいと一言いえば一番なんだろうが』「会いたく、ない……」『だったら、わたしと連絡を取り合うしかない。それだけで、君の家族も少しは安心できるはずだ。言いたいことは、わたしの口を通して君
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第24話(8)

** 深夜だというのに、本宅の空気はピンと張り詰めていた。 玄関に一歩足を踏み入れただけで和彦はそれを感じ取り、体が強張って動けなくなる。そんな和彦を追い立てるように、組員が声をかけてくる。「先生、組長がお待ちです」 立ち竦んでいたところで、みっともなく引きずられていくだけだろう。微かに震えを帯びた息を吐き出してから、和彦は靴を脱いだ。 賢吾の部屋の前まで行くと、何も言わず組員は立ち去り、廊下には和彦だけが取り残される。なんと声をかけようかと逡巡していると、中から声がした。「――入ってこい」 ビクリと身を震わせてから、まるで操られるように障子を開ける。一瞬意外に感じたが、賢吾はまだ浴衣に着替えてはいなかった。もしかすると、すでに寝る準備を整えていたものの、和彦の行動を知って再び着替えたのかもしれない。 とにかく賢吾は、一見平素と変わらない様子で座卓についていた。ぎこちなく障子を閉めた和彦は、賢吾の正面に座る。賢吾は、すぐには口を開かなかった。 息も詰まるような緊張感に押し潰されそうになりながら、和彦は視線を伏せて耐える。激しい動揺に、膝の上に置いた手は小刻みに震え、心臓の鼓動は壊れそうなほど速くなっている。 ただ、深夜に部屋を抜け出して、外から電話をかけていただけなのだ。 状況を端的に説明するなら、それだけだ。しかし、賢吾にとって重要なのは、和彦がそんな行動を取った理由だろう。だから本宅に連れて来られたのだ。〈オンナ〉の裏切りを疑って――。 頭に浮かんだ言葉に、ゾッと寒気がする。目の前にいる男が、どれほど危険な執着心を持っているか、和彦は知っている。 警戒心が強く慎重でありながら、獲物を絞め殺し、丸呑みできるほど凶暴で冷酷な大蛇を背負った男だ。殺されるかもしれない、と本気で和彦は思った。 いよいよ恐怖と緊張で呼吸困難になりかけたとき、唐突に賢吾が沈黙を破った。「俺は、自分が執念深い性格だということも、厄介な独占欲を持っていることも自覚している。だからこそ、大事で可愛いオンナを窒息死させないために、寛大であるよう心がけている。お前の淫奔ぶりは、責めるべき
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第24話(9)

「さっきも言ったが、夜、部屋を抜け出して、こっそり散歩をするぐらい、口うるさく言うつもりはない。だが、妙な艶っぽさを見せて、ときどき俺の反応をうかがうような表情を見せられると、知らん顔はできねーんだ。俺のオンナは、何かと妙な男に絡まれては、それを隠そうとする癖があるから、俺が気にかけてやらないと。だから――玄関にも、盗聴器を仕掛けさせた」「えっ……」 全身の血が凍りつきそうな感覚を味わっている中、さらりと衝撃的なことを告げられて、和彦の思考は停止しかける。どういうことなのか考えるまでもなく、賢吾が説明を続けた。「もちろん、会話を聞くためじゃない。お前が部屋にいる間の、玄関のドアの開け閉めをチェックするためだ。何事もなければ、すぐに外すつもりだったが、そうもいかなくなった」「……そこまで、するのか……?」 慄然としつつ和彦が洩らすと、表情を消した賢吾が断言した。「当たり前だ。お前は、長嶺賢吾の特別な〈オンナ〉だからな」「そんな――」 ここまで聞けば、自分なりに考えたつもりのカムフラージュがいかに無駄なことであったか、理解するのは難しくない。 かつて三田村は、和彦の部屋に仕掛けられた盗聴器の受信アンテナが、マンション近くの物件に置かれていると言っていた。和彦が考えているより、その距離は近いのだろう。玄関のドアの開閉する音を、盗聴器を通して聞いてすぐに、和彦の尾行につけるほどに。 気づかれないまま長嶺組の男たちは監視網を敷き、和彦は呆気なく引っかかったのだ。「少し舐めていたようだな。長嶺の男が、面子をかけて〈オンナ〉を大事にするってことは、こういうことだ。どんな手を使ってでも手に入れるし、逃がさない。お前の場合、長嶺の男三人分の執着を、その体に背負っているということだ。なんなら色っぽく、恋着と言ってやろうか?」 見えない手に、肩を押さえつけられたようだった。和彦は身じろぎもできず、それどころか瞬きも忘れて賢吾の顔を見つめる。一方の賢吾も、わずかに目を細めて和彦の顔を見据えてくる。 このまま眼差しの威力だけで、呼吸を止められてしまう
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第24話(10)

 こう告げた瞬間、既視感に襲われる。なんのことはない。和彦は鷹津にも同じ台詞を言っていたのだ。その鷹津は、里見の存在を内密にしてほしいという和彦の頼みを無碍にはしなかったようだ。もし鷹津が賢吾に告げていれば、今のこの状況はもっと早くに訪れていたはずだ。 鷹津の意外な義理堅さに報いろうというわけではないが、里見の調査を頼んだことまでは、賢吾に打ち明けられなかった。鷹津は嫌な男だが、こちらの問題に巻き込んでおきながら、長嶺組から何かしらの報復を受ける事態になれば、さすがに申し訳ない。 和彦は震える唇をきつく噛んでから、強い眼差しを賢吾に向ける。「関係を持っていたのは、高校卒業までの話だ。それ以来、ずっと会ってなかった。最近になってぼくと連絡を取ろうとしたのは、父と兄から頼まれたからだ。ぼくは、佐伯家の情報が欲しかったから、里見さんを利用するつもりだった。あの人も、佐伯家への義理もあって、ぼくと連絡を取り合える立場を確保したがってた」「無謀だな。会いに行って、佐伯家が待ち構えていると思わなかったのか」「……あの人は、ぼくの佐伯家での立場を知っている。だからこそ、ぼくを騙したりしない」「もし裏切られたら、そのときは捕まるのもやむなしと、覚悟していたか?」 賢吾にそう言われて、思わず和彦は目を丸くする。そして首を横に振った。「そんなこと……考えもしなかった」「つまりそれぐらい、信用しているということか。――妬けるな」 賢吾の声がゾクリとするような凄みを帯びる。次の瞬間和彦は、大蛇の巨体が大きく動く様を視界に捉えたが、もちろんそんなことがあるはずもなく、実際は、唐突に賢吾が立ち上がり、こちらに近づいてくるところだった。 殴られると思ったが、一瞬にして和彦は覚悟が決まり、傍らに立った賢吾を見上げる。しかし、賢吾はさらに容赦がなかった。冷めた目で見下ろしながら、喉元に手をかけてきたのだ。「うっ……」 わずかに力が込められ、さすがに和彦は声を洩らす。いつになく熱い賢吾の手は、内に抱えた激情を表しているようだった。〈オンナ〉の賢しい行動に対する
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第24話(11)

「……ケジメをつけるなら、ぼくだけにしてくれ。指を、落としてもいい。あんたの、気が済むように……」 和彦の真意を探るように、手荒く後ろ髪を掴んだ賢吾が間近から目を覗き込んでくる。向けられる静かな殺気に気圧されそうになりながらも、必死に和彦は見つめ返す。数分ほど見つめ合い――というより、睨み合ってから、後ろ髪から手が離れる。次に賢吾が掴んできたのは、和彦の指だった。「医者の指を落とすわけがないだろ。これは大事な商品だ。これから先も、物騒な男たちの面倒を見るんだ。何より、俺の背中のものを可愛がってもらわねーと」 魅力的なバリトンを際立たせる囁きに、和彦は目を見開く。そんな和彦の頬を、賢吾は手荒く撫でてきた。馴染み深いその感触に、一瞬だけ気が緩みかける。すかさず、冷ややかな声で賢吾が告げた。「俺は、〈オンナ〉には覚悟は求めない。求めるなら、操立てだ。いまさら、他の男と寝るなと言うわけじゃない。気持ちの問題だ。堅気の男に心を許さない、というな」「何を、すればいいんだ……?」 問いかけながら和彦は、確信めいたものがあった。一年に及ぶ賢吾との関係で、自分が何を求められてきたか、しっかりと覚えていたからだ。 賢吾が答える前に、廊下を歩いてくる抑えた足音がした。「――組長、準備ができました」 障子の向こうから声がかかると、賢吾は勢いよく立ち上がり、和彦に向けて手を差し出してくる。「行くぞ」 本能的な怯えから、座ったまま和彦は後退る。しかし有無を言わせず賢吾に腕を掴まれ、強引に引き立たされた。「どこにっ……」「客間だ。そこに準備を整えさせた」 何を、と問いかける間もなく、部屋から引きずり出される。半ばパニック状態に陥った和彦は、必死に賢吾の手を振り払おうとしたが、無情にももう片方の腕も組員に掴まれた。本宅に出入りをするようになってから、こんなに手荒な扱いを受けるのは初めてだった。だからこそ、何が待ち受けているのか怖くてたまらない。 賢吾に連れて行かれたのは、和彦がいつも泊まっているのとは別の
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第24話(12)

** 和彦がゆっくりと目を開けると、視界に飛び込んできたのは、薄ぼんやりとした明かりで照らされる、見慣れた客間の天井だった。 いつ自分は、本宅に泊まることになったのか――。 緩慢な思考を働かせてそんなことを考えていたが、すぐに、自分の身に起こったことを思い出し、目を見開く。布団の中で身じろいだ拍子に、浴衣に着替えさせられていることを知り、慌てて腰をまさぐる。針が突き刺さった感触が蘇ったが、不思議なことに、痛みは残っていなかった。「――心配するな。針で一刺ししただけだ」 すぐ側から声がかかり、顔をそちらに向ける。布団の傍らに胡坐をかいた賢吾が、じっと和彦を見下ろしていた。 まだ少し、頭が混乱している。和彦は慎重に体を起こし、辺りを見回す。確かに、和彦がいつも使っている客間だった。それを確認してからもう一度、浴衣の上から腰に触れる。「先生に、こっちは本気だと信じ込ませるためにやったんだ」 賢吾の言葉に、和彦はただ困惑する。空しく唇を動かすと、自嘲気味に笑って賢吾は続ける。「が、実はギリギリまで迷っていた。この機会に、いっそのこと俺の証でも入れちまおうか、ってな。もっとも、痛いのが何より嫌だという先生が、針で刺されて声も上げずに気を失ったのを見たら、その気は萎えた。大事で可愛いオンナを痛めつけるのは、どうやら俺の趣味じゃなかったようだ」 ここで賢吾が片手を伸ばしてきたため、一瞬殴られるのかと思った和彦はビクリと体を震わせる。賢吾は、寝乱れた和彦の髪を撫でてきた。「先生はこの世界にいて、きれいな体でいるから価値がある。一時の独占欲に駆られて、無体なことはできねーな」 和彦は、優しい声で話す賢吾を、うかがうように見つめる。次の瞬間には様子が一変するのではないかと考えると、まだ怖いのだ。そんな和彦に対して賢吾は、辛抱強く髪を撫でてくる。「先生はいい加減、自分が隠し事に向かない人間なんだと理解するべきだな。秦や鷹津のときもそうだっただろ。自分の保身のためだけじゃなく、相手の男の心配なんてものまでするから、身動きが取れなくなる。最初から、なんでも俺に打ち明けておけば、悩まなくていいし、罪悪感も抱えなくて
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第24話(13)

「もっとぼくを泳がせて、里見さんと会っている現場を押さえようと思わなかったのか? そのほうが、ぼくからあれこれ聞き出すより、確実だったはずだ。ぼくが……ウソをつかないとは限らなかったはずだし」 肩を掴む大きな手にぐっと力が込められる。「自分のオンナが、よその男を想って心が揺れている様を、指を咥えてもっと見ていろと言うのか? それは拷問だぞ、先生。それに俺は、先生の昔の男となんとしても会いたいわけじゃない」「……そう、なのか……?」「今回のことは、ヤクザも組も関係ない。俺と先生の、信頼の問題だと思っている」 こう感じるのは変なのかもしれないが、賢吾の言葉が嬉しかった。本音を言っているとも限らないのに、胸の奥深くにズンと突き刺さる。これが本音であってほしいと、和彦自身が願ったせいかもしれない。「信頼、か……」「ヤクザが何を言ってる、なんて笑うなよ」「――……そんな命知らずなこと、するわけないだろ」「いつもの調子が出てきたじゃねーか、先生」 そうでもない、と和彦は口中で答える。こうして賢吾に身を預けていても、次の瞬間には大蛇の化身らしい本性を見せられるのではないかと、つい想像してしまうのだ。それほど、自分の体に馬乗りになり、刺青を入れると言った賢吾は怖かった。 しかしその怖さは、賢吾が抱える和彦への執着の強さを表してもいる。 賢吾の手が、肩から背、そして腰へと移動する。物騒な言葉が和彦の耳に届いた。「次にこんなことがあったら、何日だろうが部屋に閉じ込めて、先生の体に艶やかな絵を彫ってやるからな」 ハッとして顔を上げると、賢吾は薄い笑みを口元に刻んでいた。「そして――相手の男は殺す」 急に寒気を感じて和彦は身震いする。本当は賢吾から体を離したかったが、その途端、機嫌を損ねた大蛇の牙が首筋に突き立てられそうで、動けなかった。 賢吾は決して、和彦の背信行為を許したわけではないのだ。「先生にもう一台、携帯電話を用意してやる。
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