**** さきほどから地図を眺めて、賢吾はひどく楽しそうだった。食えない男のその表情を、キッチンから缶ビールとグラスを取って戻ってきた和彦は、興味深く観察する。「――何か言いたそうだな、先生」 地図からちらりと視線を上げ、賢吾が口を開く。油断ならない男だと、いまさらなことを実感しつつ、和彦は賢吾の隣に座った。 グラスにビールを注いでやってから、一緒に地図を覗き込む。鷹津の乱雑な字がびっしりと書き込まれた地図は、執念のようなものが滲み出ているようだった。 鷹津は、表向きは暴力団組織――長嶺組を憎悪する悪徳刑事を演じている。事実、憎悪はしているのだろうが、長嶺組組長のオンナである和彦と関係を持ち、結果として長嶺組に情報を流している。 鷹津という男の屈折した感情を、この地図の存在はよく表しているのかもしれない。「さっきから、地図を眺めて楽しそうだな」 和彦の言葉に、賢吾は目元を和らげる。「先生が、ヤクザの組長のオンナらしい仕事をしたと思ってな。悪徳刑事を手玉に取って、自分の身を守るための情報を取ってきた」「……人聞きが悪い」「そうだな。鷹津が勝手に先生を気遣って、気を回した結果だ。先生は鷹津に何も頼んでいないし、媚びてもいない。手玉に取るなんて、失礼な言い方だった」「その言い方も――」 気に障る。心の中で洩らした和彦は、窓の外に目を向ける。すでに日は落ち、外は暗い。 本当であれば今日は、クリニックが終わってから弁当でも買って帰り、部屋で一人ゆっくりと過ごすつもりだったのだ。ところが夕方になって賢吾から連絡が入ったことで、和彦のささやかな予定は狂った。 外で待ち合わせて一緒に夕食をとったあと、少し部屋で寛がせてくれと賢吾に言われては、拒めるはずもない。 和彦はソファに深くもたれかかり、グラスに口をつけつつ相変わらず地図を見ている賢吾に視線を戻す。「その地図、役に立つのか?」「先生にとってはな。むしろ重要なのは、鷹津が話した内容だ。本当に、暴力団担当係の有能な刑事と〈仲良く〉なっ
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