Home / BL / 血と束縛と / 第24話(10)

Share

第24話(10)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-04-08 20:00:34

 こう告げた瞬間、既視感に襲われる。なんのことはない。和彦は鷹津にも同じ台詞を言っていたのだ。その鷹津は、里見の存在を内密にしてほしいという和彦の頼みを無碍にはしなかったようだ。もし鷹津が賢吾に告げていれば、今のこの状況はもっと早くに訪れていたはずだ。

 鷹津の意外な義理堅さに報いろうというわけではないが、里見の調査を頼んだことまでは、賢吾に打ち明けられなかった。鷹津は嫌な男だが、こちらの問題に巻き込んでおきながら、長嶺組から何かしらの報復を受ける事態になれば、さすがに申し訳ない。

 和彦は震える唇をきつく噛んでから、強い眼差しを賢吾に向ける。

「関係を持っていたのは、高校卒業までの話だ。それ以来、ずっと会ってなかった。最近になってぼくと連絡を取ろうとしたのは、父と兄から頼まれたからだ。ぼくは、佐伯家の情報が欲しかったから、里見さんを利用するつもりだった。あの人も、佐伯家への義理もあって、ぼくと連絡を取り合える立場を確保したがってた」

「無謀だな。会いに行って、佐伯家が待ち構えていると思わなかったのか」

「…&hel
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 血と束縛と   第25話(22)

     忘れてならないのは、同じ店で和彦は、秦に薬を飲まされて淫らな行為に及ばれたことがある。あの頃はまだ秦の正体も知らず、律儀に敬語を使って話していたのだ。 それが今では――。 自分の痴態も含めていろいろと脳裏に蘇り、危うく体温が上がりそうになった和彦は、慌てて頭から追い払う。『予定では一か月ほど店を閉めることになるので、昨夜はお客様たちを招いて、派手に騒いだんです。そして今夜は、わたしも経営者という肩書きを忘れて、先生と楽しく飲みたいと思いまして』「……今回も、中嶋くんは?」 和彦の問いかけをどう受け止めたのか、電話の向こうから微かに秦の笑い声が聞こえてくる。『残念ながら、中嶋は今夜は仕事だそうです。――大丈夫。中嶋がいないからといって、先生に変なことはしませんよ』「そんなことは心配していないっ」『でしたら、おつき合いいただけますか?』 秦は、和彦が断るとは思っていない口ぶりだった。和彦の機嫌が悪いと聞かされながら、あえて電話をかけてきたぐらいだ。やはり賢吾から、気分転換させてやれとでも言われているのかもしれない。「――つき合ってもいい」 そう和彦が答えると、また電話の向こうから、秦の笑い声が聞こえてきた。『料理や酒を準備しておきますから、いつでもいらしてください。あっ、護衛の方の分も用意しておきますよ。中嶋が一緒じゃないので、護衛をつけないと夜遊びはできないでしょう、先生は』 気が利くなと呟いて、電話を切る。和彦は携帯電話を握ったまま、すぐには動き出さず、ぼんやりとしてしまう。 秦の優しい口調で問われると、言わなくていいことまで話してしまいそうで、隠し事をしているときに会うには、意外に厄介な相手だ。やはり断ればよかっただろうかと、ちらりと頭の片隅で考える。 しかし、秦はどこまでも気が利いていた。握っていた携帯電話が再び鳴り、和彦は反射的に電話に出る。今度は、いつも護衛を務めている組員からだった。 すぐに出発しますかと問われ、力なく笑ってしまう。「三十分後に迎えに来てくれ」 そう答えて電話を切ると、今度こそ立ち上がった。

  • 血と束縛と   第25話(21)

     もう二度と、あんな怖い目には遭いたくなかった。本来であれば、たった一度であろうが和彦が遭遇するはずのない事態だったのだ。 なんといっても和彦は、長嶺の男たちの〈オンナ〉だ。 その、長嶺の男たちに何も告げていないのには、理由がある。特に、賢吾には打ち明けたくなかった。 賢吾に隠し事はしないと心に決めたが、今回はいままでとは状況が違う。これまでの隠し事は、いわば保身ゆえの行動だったのに対し、和彦と南郷の間で起きた出来事は、一度公になれば、個人ではなく、長嶺組と総和会という組織の問題となる危険を孕んでいる。 男たちは事を荒立てない方法をいくらでも知っているだろうが、和彦の脳裏に浮かぶのは、花見会での賢吾と南郷が顔を合わせたときの光景だった。 あの場にいた者ならば――和彦以外の人間でも、どんな小さな諍いの火種も、この二人の間に作ってはいけないと感じるはずだ。 当人たちが何よりそれを知っているはずなのに、南郷は行動を起こしたのだ。よりにもよって、守光と同じ手段を使って。 南郷は、裏の世界での和彦という存在をよく把握している。抗えない力に対して逆らわず、巧く身を委ねるという気質も含めて。だからあえて、和彦を拘束することも、暴力を振るうこともなく、易々と動きを封じ込めたのだ。 和彦は激怒しているが、その感情は南郷だけではなく、自分自身にも向いていた。同時に、羞恥し、困惑もしている。 南郷の行為に、〈オンナ〉とはこうやって扱っていいものだと、現実を見せつけられた気がした。「――佐伯先生」 組員に呼ばれて顔を上げる。車が雑居ビルの前にちょうど停まるところだった。 和彦は促された外に出ると、やや緊張しながら、組員がドアを開けてくれた後部座席を覗き込む。そこには、誰も乗っていなかった。 こんなことでビクビクしている自分に忌々しさを覚えながら、何事もなかった顔をして和彦は車に乗り込む。すぐにドアは閉められ、速やかに車は走り出した。**** 目を通していたファイルを閉じて、何げなく時間を確認する。驚いたことに、もう夕方と呼べる時間だった。 

  • 血と束縛と   第25話(20)

    **** 男の腹部を慎重に押さえ、不自然な張りがないことを確認した和彦は、次に、手術の傷を覆っている大きなガーゼを剥がす。腸閉塞という事態には見舞われたものの、傷口は化膿しなかったようだ。 この調子なら、もう何日かすれば抜糸ができるだろうと思いながら、消毒をして、新しいガーゼを貼る。「手術の経過は問題なし。それと腸閉塞のほうも、便が出たと報告を受けたので、ひとまず安心はしていいだろう」 大人用のオムツをつけた患者の男は、やれやれ、という表情となる。内心では、和彦も同じ気持ちだ。 このとき、治療した側・された側と、まったく違う立場でありながら、同じ気持ちを共有したであろう二人の目が合う。 総和会に匿われる身で、暴漢に襲われて重傷を負うという凄まじい経験をした男は、いかつい顔に似合わない、妙に愛嬌のある笑みを浮かべ、軽く頭を上下に動かす。喉が渇ききって声が出せないなりに、和彦に対して感謝の気持ちを示したらしい。「……まだ油断はできない。手術のためにけっこう腹の中を弄ったから、またどんな影響が出るかわからないんだ。もう何事も起こらないかもしれないし、再発するかもしれない。なんにしても、腹の傷が完全に塞がるまでは様子見だ」 男に対してだけ説明しているわけではなく、ベッドの傍らに立つ監視役の組員にも聞かせているのだ。 和彦は輸液の確認をしてから、必要事項をメモ用紙に書き込む。「明日から、水分を口からとることにしよう。ただし一日で採れるのは、カップ一杯――の半分だけ。あくまで口を湿らせる程度に。引き続き、尿と便の様子を観察してほしい。何かあれば、連絡を」 淡々と告げてメモ用紙を一枚破ると、素っ気なく組員に押し付ける。和彦の態度に驚いたように目を丸くしたが、頭を下げて受け取った。「お疲れ様でした。車を呼びますから、コーヒーでも飲んでお待ちください」「――もし、呼んだ車の後部座席に誰か乗っていたら、タクシーで帰るからな」 和彦は、冷然とした眼差しを組員に向ける。普段であれば、こんな眼差しを他人に向けることはないのだが、この場所にいて

  • 血と束縛と   第25話(19)

     内奥で円を描くように、大胆に指が動く。頑なだった肉は緩み、擦り込まれる唾液によって潤む。おそらく、いやらしく真っ赤に熟れてもいるだろう。そして侵入者は、そういった反応をすべて観察しているはずだ。「んっ……くぅっ」 肉を掻き分けるようにして、指が内奥に付け根まで収まる。その状態で欲望を擦り上げられると、和彦は呆気なく絶頂を迎え、自らが放った精で下腹部を濡らす。 激しく息を喘がせている間も、侵入者は容赦なく内奥を指で攻め、微かに湿った音がするほど蕩けさせてしまう。しかしふいに、指が引き抜かれた。 和彦の耳は、自分の乱れた呼吸音だけではなく、ファスナーを下ろす音も捉えていた。ビクリと体を震わせて起き上がろうとしたが、布越しに、侵入者の顔が近づいてきたのが見えると、それだけで動けなくなる。この状況で相手の顔を見た途端、暴力を振るわれて犯されると、確信めいたものがあった。 奇妙なことだが、顔が見えないからこそ和彦と侵入者の間には、歯止めのようなものが生まれているのだ。 布越しに何度目かの口づけを与えられる。片足を抱え上げられて、蕩けてひくつく内奥の入り口に、圧倒的重量を感じさせる熱い塊を押し付けられ、擦りつけられる。和彦は小刻みに体を震わせて、小さく呟いた。「――……嫌、だ……」 和彦の唇に、荒い息遣いが触れる。もしかすると、侵入者は笑ったのかもしれない。 侵入者は、和彦を犯しはしなかった。その代わりに屈辱と羞恥を与えることにしたのか、和彦の片手を取り、逞しい欲望を握らせた。 知らない男の欲望だった。手を取られ、扱くことを強要されながら、和彦は喘ぐ。被虐的な気持ちに陥りながら、倒錯した性的興奮を覚えていたのかもしれないし、熱を帯びる布越しの口づけに感じていたのかもしれない。 てのひらで感じる侵入者の欲望は、ふてぶてしく育ち、力強く脈打っている。 こんなものが自分の中に打ち込まれたら――。そう想像したとき、体の内を駆け抜けたのは、恐怖なのかおぞましさのか、和彦自身にも判断しかねた。あるいは、別の〈何か〉なのかも。 和彦が小さく身震いを

  • 血と束縛と   第25話(18)

     なぜこんなことを、と頭が混乱していた。それ以上に和彦を混乱させるのは、侵入者がなぜ、守光の取った方法を知っているのかということだった。眠っている和彦の元に忍び寄り、布で視界を覆うと、言葉を発することなく体をまさぐる。当然、和彦が抵抗できないことを知ったうえで。 患者の容態の急変は偶発的なものだが、今、和彦の身に起こっていることは、あまりにできすぎている。まるで事前に打ち合わせをしていたかのように。 熱い舌にベロリと胸の突起を舐め上げられ、小さく声を洩らした和彦は反射的に、侵入者の肩を押しのけようとする。大柄な体つきであることが容易に想像できる、逞しい肩だった。 和彦のささやかな抵抗を嘲笑うように、露骨に濡れた音を立てて胸の突起を吸われ、しゃぶられる。あっという間に熱をもった突起は、荒々しい愛撫になすすべもなく敏感に尖り、和彦にとって馴染みすぎている感覚を生み出してしまう。 両膝を掴まれて左右に大きく開かれ、腰を割り込まされる。侵入者がどういう意図で和彦に触れているか知らしめるように、硬いものを両足の間に押しつけられた。布越しとはいえ、はっきりと欲望の形を感じ取り、和彦は激しく動揺する。「や、め――」 上げかけた声は、再び唇を塞がれて抑え込まれる。唇と唇の間にある布のおかげで、相手の舌が口腔に侵入してくることはないが、唇をなぞる舌の動きは伝わってくる。あからさまに和彦を威嚇していた。 再び欲望を掴まれて扱かれながら、もう片方の胸の突起を口腔に含まれる。感じやすい先端を指の腹で擦られて腰を跳ねさせると、胸の突起をきつく吸い上げられてから、舌先で転がされる。 粗野で荒っぽい愛撫を執拗に与えられ、最初は頑なに体を強張らせていた和彦だが、侵入者の手が柔らかな膨らみにかかったところで、弱さを見せてしまう。「ひっ……」 潰されるかもしれない恐怖と、何度味わっても慣れない強烈な感覚への期待に、心が揺れていた。その瞬間を相手は見逃さなかった。 上体を起こした侵入者に片足をしっかりと抱え上げられ、大きな手に柔らかな膨らみを包み込まれる。「ううっ」 思いがけず巧みに指が蠢く。柔らかな膨らみを揉みしだ

  • 血と束縛と   第25話(17)

     せめて、賢吾にメールを送っておこうと思いはするものの、体がもう動かない。ふっと和彦の意識は遠のく。 普段であれば、このまま深い眠りについてしまうはずなのだが、意識の一部はひどく研ぎ澄まされている。慣れない場所で一人ということもあり、絶えず辺りの様子をうかがっているのだ。 総和会の男たちが同じ階に控えていて、何か起こるはずもないのに――。 自分が起きているのか眠っているのかわからない状態に陥り、浸っていると、前触れもなく異変は起こった。 マットの傍らに誰かが立っている気配を感じたのだ。 本能的な怯えから和彦は体を強張らせる。次にどんな行動を取るか、ほんの数瞬の間に考えて実行に移そうとしたが、その前に動けなくなった。顔全体にふわりと柔らかな感触が触れたからだ。それが薄い布の感触だとわかったとき、和彦の中で蘇ったのは、守光宅の客間での出来事だった。 驚きと戸惑いによって和彦が動けないのをいいことに、侵入者はいきなり大胆な行動に出る。マットの上に上がり、和彦の体にかかった毛布を剥ぎ取ったのだ。 急速に恐怖に支配され、顔にかかった布を外そうとしたが、すかさず片手で手首を掴まれてマットに押さえつけられる。大きくて力強い男の手だった。和彦の手首を折るぐらい簡単にできそうだ。言葉も発さない相手の意図を察し、和彦はささやかな抵抗すらできなくなる。 トレーナーの下に分厚く硬い手が入り込み、肌をまさぐられる。生理的な反応から鳥肌が立つが、相手は意に介さず、トレーナーをたくし上げて、無遠慮に撫で回してくる。手つきも、手の感触すらもまったく違うというのに、和彦の存在を探るかのように触れてきた守光のことが、頭から離れない。 手つきの荒々しさとは裏腹に、男は時間をかけて和彦の体に触れてきた。そして興味をひかれたように、胸の突起を特に念入りに弄り始める。 てのひらで捏ねるように転がされ、自分ではどうしようもできない反応として硬く凝ると、指の腹で押し潰され、再び反応を促すように乱暴に摘み上げられて、引っ張られる。痛みに小さく呻いた和彦は、ここでようやく、頑なに閉じたままだった目を開けた。 薄い布を通した電気の光に、一瞬目が眩む。だがすぐに、自分の上に馬乗りになっ

  • 血と束縛と   第3話(7)

    **** テーブルに肘をついた千尋は、おもしろくなさそうに唇を尖らせていた。あえてそれに気づかないふりをして、和彦はコーヒーを啜る。  平日の昼間から、ホテルのレストランで優雅な昼食をとれるとは、自分の境遇も変わったものだと内心で皮肉っぽく思いはするのだが、こんなことが当たり前になる日がくるのだろうかと興味深くもある。  生活そのものが大きな変化の過程にあるため、毎日慌ただしく過ごしていても、何もかもが新鮮に感じられるのだ。たとえば、こうして千尋と向き合って、食後のコーヒーを味わっていても。  

    last updateLast Updated : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第3話(25)

    「ここは、気に入ったか?」  顔を間近に寄せた賢吾に囁かれ、さすがに意地は張れなかった。 「……ああ」 「この物件を見つけて、手付を打った俺に感謝しているか?」  和彦は賢吾を睨みつけながら、乱暴に答えた。 「しているっ」  このあと賢吾がなんと言うか、わかっているのだ。案の定、賢吾はニヤニヤと笑いながらこう言った。 「なら、ご褒美をくれ、先生」 「くれ、と言いながら、いつも強引にもぎ取っていくくせに――」  唇を塞がれて、和彦はあとの言葉を奪われる。痛いほど激しく唇を吸われ、あまりの勢いに和彦の後

    last updateLast Updated : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第3話(3)

     もう一度賢吾に唇を吸われてから、伴われて寝室へと向かう。この部屋だけは殺風景さとは無縁で、過不足なく家具が調えられ、小物に至るまですべて賢吾の好みで統一されている。深みのある赤を基調とした空間は和彦には渋すぎるように感じられるが、賢吾のほうは非常に満足そうだ。  ドアを開けたままなのを気にしながらも、ベッドに腰掛けた賢吾が両足を開いて鷹揚に構えたのを見て、和彦はため息をついて、これからの時間に集中することにする。  賢吾の両足の間に身を屈め、カーペットに両膝をつくと、スラックスのベルトを緩めて前を寛げる。何も言わず、引き出した賢吾のものに舌を這わせた。  

    last updateLast Updated : 2026-03-18
  • 血と束縛と   第3話(18)

     引っ張り込まれたのは、まだ開店準備をしているカラオケボックス店だった。驚いたように若い従業員が目を見開き、相手が三田村だとわかると、大げさなほど勢いよく頭を下げた。 「お疲れ様ですっ」 「部屋の一つを貸してくれ。話がしたいんだ」  従業員が、手首を掴まれ、肩を押さえられている和彦を見て、すべてを理解したように頷く。 「一番奥の部屋を使ってください。もう掃除が終わってますから」  大股で歩く三田村の迫力に圧されて、促されるまま部屋に足を踏み入れた和彦は、狭いうえに、きれいとは言いがたい部屋を見回す。このときになってようやく三田村の手から解

    last updateLast Updated : 2026-03-18
More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status