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血と束縛と의 모든 챕터: 챕터 891 - 챕터 900

924 챕터

第24話(14)

**** 座卓についた和彦は、何度目かのため息を洩らすと、所在なく室内を見回す。 監禁されているわけではないため客間を出てもいいのだが、夜、あんな騒動があったあとで、組員たちとまともに顔を合わせられない。いつも和彦の食事の面倒を見てくれている組員も、そんな和彦の心情を慮ったらしく、朝食をわざわざ客間に運んでくれた。ただ、その朝食は喉を通らなかった。 衝撃的な出来事の余韻は、数時間ほど布団に入ったぐらいで消えるはずもなく、まだ呆然としているような状態だ。クリニックのスタッフや、予約を入れていた患者には申し訳ないが、今日は無理をして出勤したところで、仕事にはならなかっただろう。 賢吾は和彦の状態を見越すだけではなく、隠し事すらを見透かしてしまう。いまさらながら、自分はとてつもなく怖い男の〈オンナ〉なのだと痛感していた。 針が刺さった腰の辺りを、羽織ったカーディガンの上からまさぐる。針は決して深く刺さったわけではないし、もしかすると肌の上を滑っただけなのかもしれないが、和彦の全身を駆け巡った鋭い痛みは本物だ。 周囲の男たちに大事にされているせいで、最近はすっかり痛みに対して無防備になっていたと和彦は思う。皮肉にもその男たちは、必要であればいくらでも、他人に痛みを与えられる非情さを持っている。 それどころか、あえて痛みを自分の身に受け入れる男もいるぐらいだ。痛みの果てに、おぞましくも艶かしい刺青を体に宿すために。 これまで目にした男たちの生々しい刺青が脳裏に蘇り、眩暈にも似た感覚に襲われる。 急に居たたまれない気持ちになり、慌てて立ち上がった和彦はやっと障子を開ける。視界に飛び込んできた中庭は、春らしい柔らかな陽射しに溢れていた。 少しの間、立ったままぼんやりと中庭を眺めていた和彦の耳に、慌ただしい足音が届く。何事かと思って廊下に顔を出してみると、スーツ姿の千尋が血相を変えてこちらに向かってくるところだった。 側まできた千尋に、いきなり強く抱き締められる。「おい――」「……よかった、無事だったっ……」
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第24話(15)

** 和彦が事情を説明している間、千尋は威圧的な態度は一切取らなかった。畳の上にあぐらをかいて座り込み、真剣な顔で黙って話を聞き続けていた。一方の和彦は、正座だ。 普段、喜怒哀楽をはっきりと表に出すタイプの千尋だが、いざとなればいくらでも感情の抑制が利くのだ。里見の存在を知り、胸の内でどんなことを思ったのかすら、和彦は読めなかったぐらいだ。「――……刺青を入れられそうになった」 この話題を切り出すとようやく、千尋は顔をしかめる。「オヤジが先生に刺青を入れさせてたら、俺は絶対、オヤジに殴りかかってたな」 その賢吾は、和彦が朝目を覚ましたときには、すでに出かけていた。「操を立てろと言われたんだ。刺青を入れることで組長が納得するなら、ぼくは受け入れるつもりだった。でも結局……」「勢いだけでタトゥー入れた俺が言えた義理じゃないけどさ、理由を他人に求めると、絶対後悔する。俺は、オヤジが嫌がる顔を見たかったんだ。先生は、オヤジに対する操立てで。病気になるかもしれないリスクを背負って体に墨を入れるなら、自分自身がそうしたいと思えるまで気持ちを突き詰めないと、理由を求めた相手を――恨むことになる」「……そうだな」「もっとも、先生はもうとっくに、オヤジを恨んでるかもしれないけどさ」 千尋がちらりと笑みをこぼし、つられて和彦も笑ってしまう。賢吾のせいで裏の世界に引きずり込まれたことを思えば、心底恨んでも仕方がないのだろう。だが、その賢吾の強引さと、残酷なまでの優しさに翻弄されているうちに、恨みの感情を抱く暇すら与えられなかった気がする。 突然千尋が、芝居がかった動作でポンッと手を打つ。「そうなると、俺も先生に恨まれるかもしれないのか」「恨まれたいのか?」「先生の特別な男になれるなら、それもいいかも」 苦い表情で返した和彦は、ここでやっと、肝心の質問を千尋にぶつけることができた。「――……千尋、怒っているか?」「俺の分まで、オヤジが暴れたよ
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第24話(16)

「先生、刺青を入れられそうになって、うちの組のこと、嫌いになったりしてない?」 和彦は声を洩らして笑ってしまう。「この状況で、嫌いになったなんて、言えるわけないだろ。というか、言わせるつもりがないだろ」「俺は、ヤクザだからね。先生から欲しい答えをもぎ取るためなら、なんでもする。――痛いこと以外は」「紳士だな……」「先生に嫌われたくないから」 返事のしようがなくて唇を引き結ぶと、かまわず千尋は言葉を続けた。「俺が起きたら、気分転換に買い物行こうよ。前に約束した通り、ゴルフを始めるなら、いろいろ揃えておかないと。今日はクリニック休みにしたんだろ?」「……あまり、外出したい気分じゃないんだ」「だからこそ、出かけるんだよ。先生まだ、オヤジにされたことにびっくりして、感情が麻痺しているように見える。放っておいたら、一日中でもこの部屋でぼうっと座り込んでそうだ。今のうちに刺激を与えて、元の先生に戻ってもらわないと」 和彦を外に連れ出すための詭弁に思えなくもないが、子供が駄々をこねているような、どこか甘えたような口調で千尋に言われると、無碍にもできない。 どうしようかと迷っているうちに、千尋があくびを洩らす。いかにも眠そうな千尋相手に理屈をこねるわけにもいかず、和彦は小さく頷いていた。 千尋の髪を撫でながら、中庭に視線を向ける。まだ朝の慌ただしい時間だというのに、この部屋だけは緩やかな空気が流れ、静かだった。だがそのうち、子供のように健やかな寝息が聞こえてくる。 男の膝枕など感触がいいとも思えないのだが、関係ないとばかりに千尋は寝入っていた。和彦を心配して一睡もできなかったというのは、どうやら本当だったようだ。 再び罪悪感が疼き、千尋の髪にそっと指を絡める。この罪悪感が和らぐのなら、いくらでも膝枕ぐらい提供しようと思った。 だがその気持ちは、十分もしないうちに揺らぐことになる。 正座をしたままのうえに、男一人の頭を膝にのせているせいで、足が痺れてきたのだ。しかし、千尋を起こしたくないので足を崩すことができない。 実はこ
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第24話(17)

 イスに腰掛けた秦は品のいい苦笑いを浮かべ、紙皿にオードブルを取り分けると、和彦の隣に座った中嶋にさっそく差し出した。喉が渇いていたのか中嶋は、缶ビールを開けて勢いよく呷る。「ここで輸入雑貨屋を開くんです」 中嶋の飲みっぷりに目を奪われていた和彦の耳に、予想外の言葉が届く。一瞬、聞き間違いかと思ったぐらいだ。「……誰が、何を?」「わたしが、この場所で、輸入雑貨屋を開くんです。親会社は、起業したばかりの小さな輸入商社で、事業計画としては、今後さらに店舗を増やしていく予定です。オーナーの名義はわたしではなく、別人になりますが。先生のクリニックと同じ方式ですよ」 秦の話によって、和彦の脳裏に浮かぶ人物はたった一人だ。わずかに顔をしかめると、こちらの言いたいことを察したのか、秦はニヤリと笑った。「そんな顔しないでください。真っ当な商売をするつもりなんですから」「正体不明の実業家とヤクザが組んでいる時点で、信じられるわけないだろ」「客として来る人間には、そんなことはわかりませんよ。あくまで、正規のルートで仕入れたものを売るだけですから。必要なのは、海外からあれこれ輸入して販売している業者がここにいる、という既成事実ですよ。扱う物によっては、きちんと役所に届け出て、許可をもらいますし」「……本当に、扱うのは『雑貨』だけなのか?」 露骨に怪しむ和彦の問いかけに、秦はこう応じた。「女性向けの雑貨を充実させていく過程で、おいおい扱う商品の種類も増えていくでしょうね。そのためにも、医者の診断書も必要になることがあるでしょうから、そのときはよろしくお願いします」「医者の診断書が必要になるのは、薬事法が関わってくる商品を扱うときだ」 秦が妖しさをたっぷり含んだ流し目を寄越してくる。それを見た和彦は改めて確信する。秦と賢吾――長嶺組が組んで、真っ当な輸入雑貨屋を営むつもりはないのだと。女性向け商品で薬事法が関わってくる商品として、まず化粧品が頭に浮かぶが、それらを輸入したところで、組のビジネスとして満足できる売り上げがあるとは思えないのだ。 だとすれば、大掛かりな準
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第24話(18)

 桜が開花を始めてから、あまりにさまざまなことがあり、物理的にも精神的にも忙しすぎた。ようやく金曜日かとほっと一息をついたところに、絶妙のタイミングで秦から連絡が入り、約束通りこうして夜桜見物をするに至ったというわけだ。「心配といえば、今夜先生を夜遊びに誘うことを長嶺組長に報告したら、たっぷり息抜きをさせてほしいと頼まれましたよ。様子を気にかけてやってほしいとも。ああいう方なので、感情を表には出さないでしょうが、なんとなく、先生を心配しているように感じました」 あくまで自然な調子で秦が切り出し、身に覚えがありすぎる和彦は苦い表情を浮かべ、そんな和彦を、中嶋は興味深そうに見つめてくる。 この二人はどこまで知っているのだろうかと、左右に座る男たちの様子をうかがいつつ、仕方なく口を開く。「……いろいろと、あったんだ」 まさか、浮気を疑われて大変だったと正直に答えるわけにもいかない。大雑把すぎる表現をしてみたものの、当然のように二人が納得するはずもなかった。特に中嶋は、すでにアルコールが回り始めているのか、やけに楽しげな顔で切り出してきた。「今週の日曜日、長嶺組の本宅に、妙な時間に彫り師が呼ばれた、という情報を耳にしたんですが――」「ぼくは、何も彫られてないからなっ」 思わずムキになって和彦が反応すると、数秒の間を置いて中嶋がくっくと声を洩らして笑う。これでは、何かあったと白状したも同然だ。そんな和彦に追い討ちをかけるように、秦までもがこう言った。「先生は正直だ」「二人して、ぼくをからかって楽しんでいるだろ……」 自分で紙コップにワインを注ぐと、勢いよく飲む。どうせ明日はクリニックは休みだと思うと、多少ハメを外してみたくなった。賢吾にしても、息抜きをさせてほしいと秦に頼んだということは、こういうことを望んでいたはずだ。なんといっても秦と中嶋は、今いる世界での和彦の数少ない友人だ。 多少、〈特殊〉な友人ではあるが――。 紙コップを置こうとした和彦はここで、あることに気づいた。「ところで、長嶺組の本宅に彫り師が呼ばれたなんて情報、どこから君の耳に入った
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第24話(19)

「先生は、あの桜みたいなものですよ。場違いなところに咲いて、寂しげに見えるどころか、堂々としている。そういう姿に、俺たちは親しみを覚えるし、憧れもする。触れてみたい、枯れないように世話をしたい。手折りたい衝動にも駆られる。風が吹いたら花びらは散るでしょうが、根っこはしっかりとして、見た目の可憐さとは違って逞しい。まさに、先生でしょう」「それは……褒めすぎだ」「先生は、自分の存在を過小評価しすぎですよ」 中嶋がちらりと秦を見る。さりげないその仕種に〈女〉を感じ取り、ドキリとする。漂う空気が緩やかに変化し、妖しさを帯びていく。「……この世界の人間は、ぼくを過大評価しすぎだ」「先生がどう思おうが、俺は、先生が好きですよ。長嶺組の人たちも、きっと同じだ。だから先生を側に置きたがる。どんな手を使ってでも。――本当に刺青を彫られてないんですか?」「彫られてないっ」 否定した途端、秦の手がTシャツの下に入り込んできた。「だったら、確認してみましょう」 タイミングを計っていたように中嶋の片手が首の後ろにかかり、あっという間に唇が重なってくる。喉の奥から驚きの声を洩らした和彦は、反射的に立ち上がろうとしたが、膝を二人がかりで押さえ込まれて動けない。 素肌を秦のてのひらにまさぐられながら、口腔には中嶋の舌の侵入を許してしまう。最初は二人を押しのけようとしていた和彦だが、自分でも抵抗は弱々しいものだと感じていた。 里見の存在を賢吾に明らかにしたうえで、操を立てるために、危うく刺青を入れられそうになったショックを、いまだに和彦は引きずっている。賢吾はそれを見抜いたうえで、秦に頼んだのだ。「んっ……」 Tシャツをたくし上げられ、いよいよ秦の両手が胸元に這わされる。優しく撫でられているうちに敏感な部分が反応し、待ちかねていたように秦の指先に探り当てられていた。口腔では中嶋の舌が蠢き、情熱的に舐め回される。唆されるように和彦も応え、舌先を触れ合わせていた。 合間にTシャツを脱がされ、それをきっかけに口づけの相手が秦へと替わる。すると中嶋が胸元
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第24話(20)

 秦と中嶋に交互に口づけを与えられ、愛撫を受けながら、和彦は求められるまま中嶋の体に触れる。煽られ、誘われているうちに、気がつけばソファの上で中嶋と絡み合っていた。和彦は身につけていたものすべてを奪われているが、中嶋はスラックスと下着を下ろしてはいるが、ワイシャツのボタン一つ外していない。秦にいたっては、まったく格好が乱れていなかった。 両足を抱えられ、腰を割り込ませてきた中嶋が胸元に舌先を這わせてくる。呻き声を洩らした和彦が仰け反ると、頭上から顔を覗き込んできた秦に唇を塞がれる。「うっ……、んふっ」 街中にある大通りに面したビルの一室で、よりによって窓際で男三人で睦み合う光景は、想像するだけで気が遠くなりそうなほどの羞恥に襲われるし――興奮する。向かいのビルの電気は消えているが、もしかすると人がいるかもしれないし、この情景に気づかれる可能性もある。 止めないと、と最初は思っていた和彦だが、二人から与えられる愛撫に体が馴染み始めると、思考は甘く蕩けてしまう。気づかれたところで、大通りを挟んでいるため、顔まで見えるはずがないのだ。 顔を上げた秦が低い声で中嶋を呼ぶ。中嶋も顔を上げると、和彦が見ている前で差し出した舌を絡め合う。口づけに夢中になっているように見える二人だが、それぞれの手が和彦の胸元を這い回り、左右の突起を指先で弄る。 再び秦に唇を塞がれ、口腔を舌で犯される。中嶋には、興奮に凝った胸の突起を舌先で転がされながら、熱くなって反り返った互いの欲望を擦りつけ合うように刺激される。 快感に溺れそうになり、咄嗟に片手を伸ばした和彦は、ソファの背もたれを掴んでいた。「……色っぽいですね、先生。その手つき」 口づけの合間に秦がそんなことを囁いて、背もたれを掴む和彦の手を握り締めてくる。「今いる世界の中で、理性的で、道徳的であろうと必死に足掻いてはみるものの、結局そんな姿すら、先生の周りにいる人たちにとってはたまらなく魅力的なんでしょうね。だから、いくらでも快感を与えて、悶えて足掻く先生の姿を見たがる――」「そんなことを考えるのは、秦静馬という男ぐらいじゃないのか」「ま
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第24話(21)

**** 夜桜見物と称して、深夜まで秦と中嶋と〈夜遊び〉をしていた和彦は、帰宅後、目覚まし時計もセットせずにベッドに潜り込んだ。クリニックが休みの土曜日ということもあり、時間を気にせず眠るつもりだったのだ。 だが和彦のささやかな計画は、携帯電話の無粋な着信音によって、あっさりと破綻した。 もそりと布団の中で身じろぎ、不機嫌な呻き声を洩らしながらも、わずかに頭を上げて周囲を見回す。カーテンの隙間から陽射しが差し込んでいるせいで、室内はぼんやりと明るい。 おそらくまだ昼にはなっていないだろうと見当をつけつつ、半ば寝ぼけた状態で携帯電話を探すが、いつもならあるはずの枕元やサイドテーブルにはなく、ここでようやく、着信音がベッドの下から聞こえてくることに気づく。 ベッドから身を乗り出して床を見ると、脱ぎ捨てたコットンパンツやTシャツが落ちていた。夜は酔っていたため、脱ぎ捨てたままにしたのだ。和彦は片手を伸ばすと、コットンパンツのポケットからやっと携帯電話を取り出す。 相手を確認しないまま電話に出た途端、寝起きの和彦よりも不機嫌そうな声が耳に届いた。『――おい、いつ餌を食わせてくれるんだ』 顔をしかめた和彦は、再び布団に包まりながら応じる。「寝ているところだったんだが……。今、確認しないといけないことなのか?」『当たり前だ。お前がいつまでも俺を無視しているから、こうして電話をかけたんだ。総和会の花見が終わって、もうすぐ二週間になるぞ』 もうそんなになるのかと、妙な感慨深さを覚える。花見会の最中ですら現実味が伴っていなかったうえに、その後、里見の存在を賢吾に知られるという出来事まであり、気持ちが落ち着かなかった。それに、特別な〈オトコ〉と花見もしていた。 桜の花も散ってしまうはずだと、わずかな寂しさが和彦の胸を駆け抜けた。「忙しかったんだ」『俺には関係ない』「……嫌な男だな」『いい〈オンナ〉に言われると、光栄だ』 本当に嫌な男だと口中で毒づいた和彦だが、もしかすると鷹
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第24話(22)

『まだ餌を与えていない番犬を、多少は労う気持ちがあるなら、そうだな――、腰にくるようないい声を、電話を通して聞かせてくれ』 和彦は一分近い時間をかけて、鷹津の言葉の意味を理解する。激しくうろたえながら怒鳴りつけた。「なっ……、何言い出すんだっ。できるか、そんな恥知らずなことっ」『ほお、お前でも、恥知らずなんて上等な言葉を知ってるんだな』 ためらいなく電話を切った和彦は、携帯電話を枕の下に突っ込む。「何考えてるんだ、あの男っ……」 すっかり眠気がどこかにいってしまい、少しの間未練がましくベッドの上を転がっていた和彦だが、諦めて起き上がる。 部屋のカーテンを開けて回ると、着替えを抱えてシャワーを浴びに行く。 熱めの湯を頭から浴びて、いくらか残っている酔いも、胸の奥の妖しいざわつきも勢いよく洗い流す。ただ、頭の片隅では考えてしまうのだ。鷹津に作っている借りを、早く返してしまわなければ、と。そこで、さきほど電話越しに言われた言葉が蘇り、和彦はまたうろたえてしまう。 シャワーを浴び終えると、ダイニングで一息つきながらオレンジジュースを飲む。窓の外に目を向けると、部屋でおとなしくしているのがもったいなくなるような天気のよさだ。 散歩も兼ねて、少し早めの昼食をとりに出かけようかと考えていると、電話が鳴る。一瞬、鷹津かと思ったが、あの男は固定電話にかけてくることはない。そうなると、電話の相手は限られていた。「もしもし――」『携帯にかけたのに、出なかったな。夜遊びのしすぎで、まだ寝ていたか?』 妙なところで、蛇蝎にそれぞれ例えられる男二人の行動は似ている。忌々しいほど魅力的なバリトンを電話越しに聞き、意識しないまま和彦は苦笑に近い表情を浮かべる。「シャワーを浴びていたんだ。夜遊びのしすぎ……は否定しないけど、秦と中嶋くんに、ぼくを誘えと言ったのは、あんたじゃないのか」『夜遊びを自重した先生に、塞ぎ込まれたら困る。奔放さは、先生の魅力の一つだしな』「……何か企んでるか?」
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第24話(23)

「……春を楽しみたいのはわかったが、ぼくのこの格好は関係あるのか?」「ずっと楽しみにしていたんだ。暖かくなったら、先生に着物を着せて連れ歩こうってな。――よく似合っている。惚れ惚れするような色男っぷりだ」 賢吾からの惜しみない賛辞を受け、改めて和彦は自分の格好を見下ろす。蓬色で揃えられた長着と羽織は、陽射しの下ではハッとするほど明るく目立ち、少し派手すぎではないかと和彦は臆したりもしたのだが、賢吾の感じ方は違うようだ。「若くて、いかにも品のいい先生が身につけるんだ。それぐらいの色目でちょうどいい。俺の見立ては正しかったな」「褒めてくれるのはありがたいが、着物を着ることになるなら、せめて事前に言ってほしかったな。こっちにも心の準備というものがあるんだ」 本宅に出向いた和彦は、賢吾と昼食をとったあと、何も言わずに客間に連れ込まれ、服を脱がされたのだ。そして今のこの姿だ。ちなみに賢吾は、堂々たるスーツ姿だ。慣れない着物で、着崩れが怖くてシートにもたれるのにも気をつかっている和彦としては、少々恨めしい。「そのわりには、着物を着たときは楽しそうに見えたぞ。普段とは違う格好で出かけるのも、気分が変わっていいだろ?」「それは、まあ……」「それでいい。どうせ出かける相手は俺なんだ。着崩れしようが、慣れてない草履で足元が覚束なかろうが、面倒は見てやるから、肩から力を抜いて楽しめ」 賢吾の口調が、まるで子供を言い含めているようだな思った途端、和彦は顔を綻ばせてしまう。運転席と助手席に座る組員たちにも聞こえているはずだが、さすがというべきか、肩をピクリと揺らしもしない。賢吾の言葉に素直に反応を示しているのは、和彦だけだ。その和彦の反応に、賢吾が目元を和らげた。「――機嫌は直ったか?」 そう問いかけてきながら賢吾は、今度は頬を撫でてくる。和彦はスッと笑みを消した。「直るも何も、ぼくは最初から不機嫌じゃなかった。……刺青のことなら、あれは最初にぼくが隠し事をしたせいだから、あんたに対して怒るのは筋が違う」「物わかりがいいな、先生は。むちゃくちゃな理屈
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