**** 座卓についた和彦は、何度目かのため息を洩らすと、所在なく室内を見回す。 監禁されているわけではないため客間を出てもいいのだが、夜、あんな騒動があったあとで、組員たちとまともに顔を合わせられない。いつも和彦の食事の面倒を見てくれている組員も、そんな和彦の心情を慮ったらしく、朝食をわざわざ客間に運んでくれた。ただ、その朝食は喉を通らなかった。 衝撃的な出来事の余韻は、数時間ほど布団に入ったぐらいで消えるはずもなく、まだ呆然としているような状態だ。クリニックのスタッフや、予約を入れていた患者には申し訳ないが、今日は無理をして出勤したところで、仕事にはならなかっただろう。 賢吾は和彦の状態を見越すだけではなく、隠し事すらを見透かしてしまう。いまさらながら、自分はとてつもなく怖い男の〈オンナ〉なのだと痛感していた。 針が刺さった腰の辺りを、羽織ったカーディガンの上からまさぐる。針は決して深く刺さったわけではないし、もしかすると肌の上を滑っただけなのかもしれないが、和彦の全身を駆け巡った鋭い痛みは本物だ。 周囲の男たちに大事にされているせいで、最近はすっかり痛みに対して無防備になっていたと和彦は思う。皮肉にもその男たちは、必要であればいくらでも、他人に痛みを与えられる非情さを持っている。 それどころか、あえて痛みを自分の身に受け入れる男もいるぐらいだ。痛みの果てに、おぞましくも艶かしい刺青を体に宿すために。 これまで目にした男たちの生々しい刺青が脳裏に蘇り、眩暈にも似た感覚に襲われる。 急に居たたまれない気持ちになり、慌てて立ち上がった和彦はやっと障子を開ける。視界に飛び込んできた中庭は、春らしい柔らかな陽射しに溢れていた。 少しの間、立ったままぼんやりと中庭を眺めていた和彦の耳に、慌ただしい足音が届く。何事かと思って廊下に顔を出してみると、スーツ姿の千尋が血相を変えてこちらに向かってくるところだった。 側まできた千尋に、いきなり強く抱き締められる。「おい――」「……よかった、無事だったっ……」
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