その夜、瑠璃子は光一との行為を終えると、彼のワイングラスに密かに睡眠薬を混ぜた。男が深い眠りの淵へと沈んでいくのを見計らい、彼女は音もなく部屋を抜け出した。蒼真は、約束を絶対に守る男だった。彩葉がオークションへの同行を承諾してから二十四時間後、樹は無事に保釈された。「先輩!」警察署の通用門から樹の姿が現れるや否や、彩葉と瑠璃子は駆け寄った。「彩葉!」樹の端整な顔立ちには薄く無精髭が浮いていたが、翳りのあった瞳には、いつもの理知的な輝きが戻っている。瑠璃子の姿に気づくと、樹はわずかに足を止め、穏やかな笑みを向けた。「小山さんも、来てくれたんですね」「さあさあ、先輩……まずはお清めです!頭を垂れて!」瑠璃子は神社の神主さながらの仕草で、手にした雑誌を大幣よろしく振った。そして「かしこみ、かしこみ……」などと口ずさみながら、樹の左右にバサリ、バサリと雑誌を振った。「ムショ帰りには厄がついてるって言うじゃない?こうして穢れを祓えば、はい、禊完了!またもや潔白な先輩の爆誕ってわけ!」彩葉は呆れたように苦笑した。「るりちゃんも先輩と呼ぶなんて……彼はたった一日拘留されただけで、刑務所に入ってたわけじゃないのよ。大袈裟なんだから」樹もつられて頬を緩めた。「小山さんの気遣いは嬉しいけど、清廉潔白とまで言われると少しくすぐったいな」ふと、彩葉が薄着で夜風に吹かれている姿が目に入り、樹の胸が締めつけられた。彼は慌ててジャケットを脱ぐと、彼女の華奢な肩にかけようとする。「大丈夫よ、先輩。そのままでいて。寒くないから」彩葉は優しく、けれどきっぱりと拒んだ。樹の表情に、気まずさと羞恥の色が浮かぶ。彼は手を引っ込めた。「そうだよね。二日も着替えてないし、留置場で一晩過ごしたから……臭うよね」「ええ、確かに」瑠璃子が身を乗り出し、小さな鼻をくんくんと樹の肩に近づける。そして、思ったことをそのまま口にした。「なんだか、生乾きの雑巾みたいな匂いがする」樹は力の抜けた笑いを漏らすしかない。瑠璃子は悪びれもせず、笑いながらフォローを入れた。「まあ、運動部の男子が一週間履きっぱなしの靴下よりはマシよね」彩葉と樹は、顔を見合わせて沈黙した。「……」……瑠璃子がハンドルを握り、彩葉と樹は後部座席に並んで座った。車は樹の自宅マン
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