「さっさと帰れ。そして、ターナルテックへの投資は禁止だ。よく覚えておけ」「でも……」蒼真は冷ややかに笑った。「何だ、俺の言葉より小山の言葉のほうが、重みがあるというのか?」「そんなことはない」光一は肝を冷やし、押し殺した声で即座に否定した。「あいつが何者だ、俺の一番の友人と比べられるか。投資はやめる、わかったよ」「これは俺たち夫婦の問題だ。外野は口を出すな!」蒼真は光一を押しのけ、車のドアを開けた。土砂降りの中、再びターナルテックの扉をくぐっていく。光一は、怒りをはらみながらもどこか沈んだ男の後ろ姿を見送り、思わず小さく呟いた。「蒼真……お前、彩葉のことが気になって、仕方がなくなっているんじゃないか?」……社長室の中は、窓の外の嵐とは別世界のように心地よい温度で満たされ、淡い香りが漂っていた。彩葉が自分で調合した精油の香りで、心を落ち着かせるためのものだった。ターナルテックが日々様々な問題を抱えている今、この香りがなければ、頭痛に悩まされる日も多かっただろう。室内には彩葉と翔吾のふたりきりで、弘明は一人、社長室の外で待機していた。廊下では、弘明が背筋を伸ばして壁際に立っていた。前髪の先から顎の先まで脇に垂らした指先や、シャツの袖口から、雨水がぽたぽたと滴り続けている。「三好さん」弘明が目を上げると、はっとした。手には清潔なタオルと、湯気の立つコーヒーを持って、夢が穏やかに微笑みながら、目の前に立っていた。少女のように明るく、晴れやかな笑顔だった。弘明がこれまでの荒々しい日々の中で、めったに目にしてこなかった種類の温かい笑顔だった。「コーヒー、熱いですよ。早く飲んで体を温めてください。風邪をひいてしまいます」「ありがとうございます」弘明はどうしていいかわからず、濡れた両手をズボンの脇でそっと水気を拭い、両手で丁寧にコーヒーカップを受け取った。夢は仕事用のパンプスを履いていた。ヒールがあっても百六十三センチほどで、背伸びをしても弘明の肩先にやっと届くかどうかというくらいだった。彼女はちょっと唇を結んでから、「あの……少し、屈んでもらえますか?」と言った。弘明は意味がわからなかったが、素直に従った。腰を折った瞬間、目の前が暗くなった。夢がタオルをひょいと彼の頭にかけ、手慣れた手
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