宗也は音の手から保温容器を受け取り、口角を上げた。「美咲の口に合うかどうかだな」お粥に塩でも大量に入れたと疑っているのか?音は罵倒したい気持ちをぐっと堪えた。「心を込めて作ったわ」「そう願いたいものだ」宗也は容器を提げ、大股で玄関へと向かった。宗也が去ったあと。音は悠人の部屋に戻り、悠人に数字遊びを教えた。宗也の圧力があったせいか、悠人は真面目に取り組んだ。音も真剣に向き合った。親子の時間は、比較的穏やかに過ぎた。勉強を終え、アトリエに戻ると、ちょうどスマホが鳴った。画面を見ると、また知らない番号からのビデオ通話だった。美咲だろうと見当がついた。少し躊躇したが、通話ボタンを押した。画面に美咲の華やかな笑顔が映し出された。「音さん、作ってくれた鶏肉と松茸のお粥、とても美味しいわ。気に入ったの」その淑やかな笑顔の裏に、得意げな色が瞬いた。「それはよかったわ」音は彩羽のことを思い、忍耐強く尋ねた。「他に何か?」「別に。ただ、宗也を見せてあげようと思って。今、洗い物をしてくれているのよ」美咲はわざと声を潜めた。同時にカメラを切り替え、宗也の背中を映した。「……」音は絶句した。あの誇り高き藤堂家の御曹司が、たかが身代わりの女のために、あの背筋を折り曲げてキッチンで真面目に皿を洗っているとは。どうりで、美咲がわざわざビデオ通話をかけてくるわけだ。「見たわ」音はスマホを握る手に力を込めた。「夏川さん、目的は達成されたんでしょう? いつになったら手を引くつもり?」「さあね」美咲は低く笑った。「私の目的が何か、あなたも知らないわけじゃないでしょ」音はそこでようやく、美咲が言っていたことを思い出した。美咲の目的は宗也と結婚し、悠人の母親になることだ。どうやら、その目的達成にはまだ程遠いらしい。「じゃあ、健闘を祈るわ」音は通話を切り、スマホを放り出した。机に座る。仕事をしようとしたが、どうにも身が入らない。そこでスマホを手に取り、彩羽に電話をかけた。応答はない。まだ出ていないのだろう。音は亮に電話をかけた。亮は、すでに釈放の手続き中で、今日中には帰宅できると教えてくれた。張り詰めていた糸がようやく解けた。たった
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