All Chapters of やり直せますか?冷戦3年越しの愛に謝罪: Chapter 461 - Chapter 470

481 Chapters

第461話

宗也は答えた。「信じるよ」「夏川美咲さん、ご同行願えますか」美咲の顔色がさっと変わった。彼女は本能的に一歩後ずさり、すがるような目で宗也を見た。「宗也、助けて……私、こんなにあなたのこと愛してるのに、どうしてこんなことするの……」「愛してくれたことには感謝する」宗也は表情ひとつ変えずに遮った。「だが、お前の愛は毒が強すぎる。重すぎて、俺には受け止めきれない」「宗也、ごめんなさい……」「謝る相手が違うだろう。一番ひどい目に遭わされたのは美月だ」美咲は悔しさを噛み殺したが、迫りくる刑罰を思えば逆らう余裕もなかった。美月の方へ向き直り、頭を下げる。「お姉ちゃん、ごめんなさい。私が間違ってた」「ねえ美月、美月だって反省してるのよ。どうか許してやって」八重が美月の前に駆け寄って膝をつき、スカートの裾にすがりついた。「美月、母さんの躾が足りなかったわ。こうしてお願いしてるの、どうか……」「結構よ」美月がその手を払いのけた。「あの頃、あなたが私の家庭を壊して母を追い詰めたことはまだ何も清算してないのよ。自分の心配でもしたら?」八重は言葉を失った。顔から血の気が引き、両手が力なく落ちた。この話になると、長義もさすがにばつが悪いらしい。彼は八重と美咲を見やった。どう見ても、今回は逃げようがない。わざとらしく咳払いをひとつして、警察官に促した。「連れて行ってくれ。早く頼む」「あなた……」「お父さん……」八重と美咲は一瞬で取り乱した。一番身近な人間にまで見放された――もう終わりだ。二人は口々に許しを乞いながら、連行されていった。廊下がしんと静まり返った。音が足早に歩み寄り、美月に声をかけた。「美月さん、まだお体が本調子じゃないんですから、早くベッドに戻ってください」「そうだ美月、早く横になりなさい」長義が調子を合わせるように言った。「安心しろ。あの二人のことは、絶対にうやむやにはしない」「そうであることを祈るわ」美月は素っ気なく一瞥だけくれると、病室へ足を向けた。長く立ちすぎていたのだろう。一歩目で膝が崩れ、そのまま倒れかけた。咄嗟に支えたのは宗也だった。「気をつけろ」「……ありがとう」美月が感謝の目を向ける。「気
Read more

第462話

「美咲が君の虐待された写真を見せてきて、音がやったと吹き込んできたんだ。怪しいと思って、ついでにあの事故の真相も洗い出させた」「そうだったのね。ありがとう、本当に助かったわ」「礼はいい。俺がやるべきことだった」宗也は少し間を置いて、すまなそうに続けた。「それに、君があの事故に遭ったのは、俺にも責任がある」「宗也、そんなふうに思わないで。美咲が私を消そうとしていた以上、あなたと一緒にいようがいまいが、パーティーをどこで開こうが、彼女はいずれ手を下していたはずよ。あの子は夏川家に足を踏み入れた時から、私に取って代わるつもりだったの。まさか本当に命まで狙ってくるとは、さすがに思わなかっただけ。でも、もう終わったこと。これからは絶対に幸せになるわ。だから……」美月は目の前の二人に視線を移した。彼女は穏やかに微笑んで言った。「二人とも、私のことで気まずくならないでくださいね。私は引きずるような女じゃありませんし、一つの恋に縋って自分を壊すつもりもありません。あなたたちが一緒に幸せになりたいなら、私は喜んで送り出します。心からそう思っていますよ」音の胸にじわりと温かいものが広がった。見た目はあんなに儚げなのに、こんなにも芯が強くて潔い人だったなんて……ふと宗也に目を向けると、彼の顔に驚きの色はなかった。まるで最初からわかっていたかのように。どうして?ふいに、宗也の言葉が蘇った。「安心しろ。俺の目はそこまで節穴じゃない。どんな女でもいいわけじゃないんだ」と。あの時は美月を庇うための言葉だと思っていた。でも今日、ようやくわかった。美月は本当に、いい女性だ。「美月、安心しろ。俺と音はちゃんとやっていく」宗也は穏やかな声で言った。「君もこれから元気でな。何か困ったことがあれば、いつでも俺たちを頼れ。力になるから」そう言いながら、宗也の大きな手が音の手をそっと包んだ。音もすぐに頷いた。「そうです、美月さん。これからどんなことがあっても、私にできることは何でもしますから。それから……身を引いてくださって、ありがとうございます。私、宗也を大事にします」美月はくすっと笑った。「どうしてお礼を言うんですか?二人は愛し合ってるんですから、私がどうしようと関係なく上手くいきますよ」宗也
Read more

第463話

音は頷いた。「そうですよね。私、ちゃんと宗也を信じなきゃ」このところ、宗也はこれまでにないほど優しかった。少し前までは、宗也の心にはまだ美月がいて、自分は永遠にそこへ入れないのではないかと怯えていた。けれど今、美月が目を覚ました。それでも宗也は迷うことなく自分を選んでくれた。もう、何も怖くない。「美月さん、教えてくれてありがとうございます。本当に……嬉しかったです」美月はふっと笑った。「二人が幸せなら、それでいいんですよ」二人は病院を出た。陽光の中をまっすぐ歩く宗也の背中を眺めながら、音はどこか夢の中にいるような心地がしていた。もう、二人の間に何の壁もないのだろうか。このまま、幸せになっていいのだろうか。もしそうなら――幸せになるって、案外そんなに難しいことじゃないのかもしれない。宗也がふいに足を止め、振り返った。ぼんやり立ち尽くしている音を見て、片眉を上げて笑う。「どうした?まだ帰りたくないのか」「ううん」「じゃあなんだ」「ただ……見ていたかっただけ」「俺を?毎日見てるだろう」「今日の宗也は、いつもと違うから」宗也は怪訝そうに自分の身体を見下ろした。「何が違う?」音もまじまじと彼を眺め――そしてふいに駆け寄って、その首に両腕を回した。耳元で、にっこり囁いた。「今日の宗也は私のものよ。美月さんのじゃない」宗也は笑い、自然と腕が彼女の腰に回った。「なんだそれ。じゃあ今までの俺はお前のものじゃなくて、美月のものだったのか?」「そうよ。だってあなた、いつも美月さんのことばかり気にかけてたでしょ。あなたの心には美月さんしかいないんだって、ずっとそう思ってた。美月さんが目を覚ましたら、私はあなたを完全に失うんだって――そう覚悟してたの」「……すまなかった」宗也は申し訳なさそうに、音の頭をそっと撫でた。「お前に安心を与えてやれなかった俺が悪い。それに、俺自身の執着が深すぎた。美月を忘れられないのは愛しているからだと思い込んでいた。でも実際は、その大半が罪悪感だったんだ。自分がとっくにお前を好きになっていたことにすら、気づけなかった」音は腕をほどき、彼の胸を軽く叩いた。「じゃあ、いつその気持ちに整理がついたの?」「美月が目を覚まして、お前
Read more

第464話

雅代の声を耳にした途端、音の心はずしりと重くなった。危うく忘れかけていた。自分と宗也の間には、まだ雅代という大きすぎる壁がある。雅代は自分を心底憎んでいる。そう簡単に受け入れてくれるはずがない。「宗也、私……」言いかけて、口をつぐんだ。宗也は音の不安を見て取り、その手をそっと握りしめた。「怖がるな、俺がいるから」力強い指の感触が、確かな安心をくれた。音は背筋を正し、小さく頷いた。「うん、怖くない」二人で本家に戻ると、雅代はすでにリビングで待ち構えていた。繋がれた二人の手を一瞥し、雅代の表情がわずかに険しくなる。だが何事もなかったかのようにティーカップを手に取り、軽く口をつける。カップの縁越しに、冷たい視線が二人を射抜いた。その目を見ただけで、音には嫌な予感しかなかった。思わず宗也の手を強く握り返し、それでも礼を失わぬよう頭を下げる。「お義母さま、ご無沙汰しております」雅代は鼻で嗤い、宗也に向かって言った。「よくも平然とその女を連れてこられたものね」宗也は音を引き寄せ、淡々と返した。「音は俺の妻だ。母さんがこの先も受け入れられないなら、もう俺を呼び出さなくていい」「あら。本当にまだあなたの妻のつもりなのかしら?」雅代が冷たく笑った。「それはさておき、今日話したいのは夏川家との縁談よ。その女を同席させていいの?」「夏川家との縁談だと?」宗也の眉が不快げに寄った。「母さん、まともな話をする気がないなら帰る」そう言って踵を返しかけた。雅代がすかさず口を開く。「うちと夏川家はもともと縁組みの話があったでしょう。美月が目を覚ました今、その話を進めるのは当然じゃないの?」宗也の足が止まった。振り返り、雅代を冷ややかに見据える。音の胸もぎゅっと締まった。やはり――雅代がこんなことで簡単に引き下がるはずがない。「その件なら心配は要らない。俺と美月はきちんと話をつけた」「宗也、よくもまあそんなことができるわね。美月に申し訳ないと思わないの?」雅代は声を硬くした。「美月が優しいのをいいことに、好き放題傷つけて、挙げ句捨てるなんて許されると思って?他の女なら、あれだけの仕打ちを受けて別れに応じるわけがないわ。美月が眠っている間は、あなたが何
Read more

第465話

宗也は音に優しい視線を落とした。「俺たちの人生は俺たちのものだ。どう生きるかは、誰にも口出しさせない」そう言って、再び鋭い目で雅代に目を向けた。「母さんに他に用がないなら、俺たちは帰る。今後、こんなことでいちいち呼び出さないでくれ」宗也は音の手を引き、きびすを返した。「待ちなさい!」雅代が甲高い声を上げ、二通の書類をローテーブルに放り出した。「これが何か、よく見てみなさい」宗也はまともに取り合うつもりはなかった。だが、書類に記された「離婚」の文字が、否応なく目に飛び込んできた。音も息を呑み、その場で凍りついた。宗也がいぶかしむ間に、音が先に手を伸ばして書類を開いた。そこに自分と宗也の名前が並んでいるのを見た瞬間、音は大きく目を見開いた。離婚届受理証明書?自分と宗也の?どういうこと?宗也は音の血の気の引いた表情を見て書類に目を落とし、すかさずそれを奪い取った。愕然と紙面を見つめ、次いで射抜くような視線を雅代に向ける。書類を突きつけるように掲げた。「これは何だ。本物なのか」「本物に決まっているでしょう。わざわざ偽物を用意するとでも?」「俺はサインしていない。本物であるはずがない」「離婚協議書にはサインしたでしょう?しかも二人揃って。あなた自身が弁護士に預けて、手続きを進めさせたじゃないの」「あの手続きはストップさせたはずだ!」「私が弁護士に命じて続行させたのよ」雅代は優雅にカップを置き、立ち上がって二人の前に歩み出た。「宗也、私にとって、たかが離婚の手続きを完了させるくらい、造作もないことよ」宗也は絶句した。まさか雅代が裏で弁護士に手を回し、勝手に離婚手続きを成立させていたとは。書類に印字された「離婚」の文字が、痛いほど目に突き刺さる。ギリッと奥歯を噛み締め、ようやくスマホを取り出してすぐさま弁護士に電話をかけた。弁護士はしどろもどろになりながら、雅代からの強引な指示があったことを白状した。宗也は最後まで聞く気にもなれず、怒りのあまりスマホを握り潰しそうになった。音がとっさに彼の手首を掴み、ふるふると首を振った。「宗也、落ち着いて。こんなの、大したことじゃないわ」手のひらから伝わる温もりに、宗也はかろうじて冷静さを取り戻した。音の言う通
Read more

第466話

今度こそ、宗也はもう一度も振り返ることなく、音の手を引いて正面玄関へと歩き出した。車が本家を離れてしばらくし、宗也はようやく隣に座る音に視線を向けた。彼女は窓の外を見たまま淡々とした表情を浮かべており、胸の内は読めなかった。宗也は、彼女が膝の上で組んでいる手をそっと自分の掌で包み込み、優しく語りかけた。「音。さっき母さんが言っていた『離婚か跡取りか』という話だが、誤解しないように少し説明させてくれ」音は彼を見つめ返し、小さく首を横に振った。「説明ならいらないわ。理解できるもの。恋愛より仕事の方が大切だなんて、当たり前のことだわ。私だってあの時、自分の仕事を選んだじゃない」「俺は……」宗也は言葉を切り、それでも説明を続けた。「だが、俺にとってはどちらも手放せないものだった。藤堂グループがなくても、俺は生きていける。あの時、お前があまりにも自由を渇望していて、去る決意が固すぎたから……お前の意思を尊重するために、あえて跡取りの座を選んだ振りをしただけだ。その後、お前の手術が成功したこと、そしてそれをわざと俺に隠していたことを知って、俺は京ヶ丘まで追いかけ、弁護士に離婚手続きを止めさせた。怒りからだったが、どうしてもお前を手放したくなかったからだ……とにかく、本気でお前と一緒にいたいんだ」宗也は音の指を掌に包み込み、やさしく揉みほぐすように撫でた。「音、離婚届が受理されたことも気にしているようだが、すぐにまた再婚の手続きをとればいいだけの話だ」音はうつむいたまま黙り込んだ。彼女の胸の奥では、複雑な感情がぐちゃぐちゃに渦巻いている。しばらくしてようやく顔を上げると、思い詰めたような眼差しで彼を見つめた。「宗也……私たち、やっぱり、やめにしない?」「なんだと?」宗也の顔色がさっと変わり、険しい目で彼女を見据えた。「どういう意味だ?もう俺とはやり直さないってことか?」音はさらに深く頭を垂れ、消え入りそうな声で言った。「お義母さまの言う通りだと思うの。美月さんが身を引いてくれたからって、それに甘えるわけにはいかないわ。最愛の人を失えば、彼女の心はきっとひどく傷つく。あんな大病からようやく目を覚ましたばかりなのに、そんな残酷なこと、私には……」「音」宗也は氷のように冷たい声で彼女
Read more

第467話

音は唇を噛み、黙り込んだ。彩羽は自分の勘が図星だったと確信した。興味津々な様子で身を乗り出す。「ちゃんとやり直すって決めたんじゃないの?今は何が原因で揉めたのか、さっさと吐きなさいよ」「私……」音は打ち明けるべきかためらった。絶対に彩羽から説教されるとわかっていたからだ。だが彩羽のしつこい追及に根負けし、結局、本家での出来事を洗いざらい白状した。彩羽は案の定、呆れ果てて盛大にため息をついた。そして最後に一言、吐き捨てるように言った。「音、あんたやっぱり離婚した方がいいわ。恋愛にも結婚にも向いてない」音はすっかり意気消沈した。彩羽がここまで怒るのだから、自分がよほど酷いことを言ってしまったのは間違いない。彼女はご機嫌を取るように彩羽にすり寄り、その腕に抱きついて軽く揺さぶった。「ねえ彩羽、私どうすればいい?」「離婚のままでいれば?あんたがずっと望んでたことでしょうが」彩羽はその手を振り払い、絵筆を手に取って指先でくるりと回すと、再び絵を描き始めた。音はさらにすり寄って甘えた。「ねえ彩羽、そんな意地悪言わないでよ。私が悪かったって反省してるから」彩羽は首を横に振って、深くため息をついた。「意地悪なんて言ってないわよ。ただ、開いた口が塞がらないだけ。前はいつも宗也のやつをボロクソにけなしてたし、実際あいつにはそれだけのことを言われる筋合いがあったわ。でも今、私がボロクソに言いたいのはあんたなのよ。とはいえ親友のあんたを相手に、あの時みたいに容赦なく罵倒するわけにはいかないじゃない」「じゃあ……少し手加減してお願いできるかな?」音は愛想笑いを浮かべた。「で、あの時あんたは一体どういうつもりだったの?本気で離婚する気だったわけ?」「違うわ。本当に、ただの意地で出まかせを言っちゃっただけなの」「でもね、つい口から出た言葉っていうのは、心の中で何度も何度も考えていたことの表れだって言うわよ。宗也がそれを聞いてどう思ったか、わかる?」音は肩を落としてため息をつき、再び彩羽の腕にすがりついた。「だから宗也、あんなに怒ってたんだ……ねえ、どうやって埋め合わせしたらいいと思う?何かプレゼントでも買ってご機嫌を取るとか?」「本当にあんたには呆れるわ。こっちが一番忙しい時に
Read more

第468話

「音さん、偶然ですね」美月の整った顔に、屈託のない笑顔が咲いた。「本当に。偶然ですね」音は丁寧に頷いた。美月は手にした紙袋をひょいと掲げて見せた。「これのこと。私もこのブランドのシャツとスラックスを買ったんですよ」「ええ、あそこの服は質がいいですよね。着心地もいいですし」「ええ」美月はふと思い出したように続けた。「そうだ音さん、来週の土曜日、私の誕生日会にいらしていただけませんか?」「誕生日会?」「はい。お忙しければ無理にとは言いませんけど」「大丈夫だと思います。ただ……宗也にはもう声をかけましたか?」「まだ伝えていないんです。当日、お二人揃っていらしていただければと」音は、自分の質問が少し野暮だったと気づいた。美月は宗也にとってかけがえのない人だ。彼女の誕生日を、宗也が忘れているはずがない。「わかりました」音は柔らかく答えた。「ありがとうございます。それじゃあ、また」美月は軽く手を振り、友人と腕を組んで店の奥へ歩いていった。彩羽は二人が遠ざかるのを見送りながら、音の袖をちょいちょいとつまんだ。「例の清純派っぽい元カノが、あの人ってこと?」音は小さく頷いた。「けっこう綺麗じゃない。いかにもお嬢様って感じ」彩羽は美月の背中をじっと見つめた。「ただ、ちょっと猫かぶってる匂いがするわね」「どうして?」「さあ。ああいう清純派っぽい元カノって、なんかみんな裏がありそうっていう先入観かしらね」「それは偏見よ」音は彩羽の腕を引いた。「行こっか。タピオカ飲みに」青葉の家に戻っても、宗也は帰っていなかった。やはり、本気で怒っているようだ。音はスマホを取り出し、メッセージを打った。【あなた、何があっても家出はしないって約束したでしょう?】返信はなかった。音は立て続けに何通も送った。甘えるような言葉も、素直に謝る言葉も、思いつく限り並べてみた。それでも宗也からは一切反応がなかった。最後に一言だけ送った。【家で待ってるから】そのままソファに膝を抱えて座って、宗也の帰りを待った。夜更けになって、京から電話が入った。「宗也がバーで酔い潰れているから、迎えに来てやってくれ」という知らせだった。音は迷わず車の鍵を掴み、家を飛び出
Read more

第469話

「あなたが言ったんでしょう。離婚したってまた婚姻届を出せばいいって」音は両手で彼の顔を包み込み、身を乗り出してその唇にそっとキスを落とした。「私が悪かった。離婚なんてしたくない。ずっと一緒にいたいの。ね、帰ろう?」宗也はソファにもたれたまま、とろんとした目で彼女を見つめ、ふてくされたように言った。「お前が離婚したいと言えば離婚で、したくなければしない。なんで俺がそれに振り回されなきゃならないんだ」「……」音は言葉に詰まった。「私が悪かったの。お願い、許して?」「どうして許さなきゃならない」「だって……私たち、ちゃんと想い合ってるでしょう。悠人もいるの。三人で幸せに暮らしたいの」宗也は彼女を見つめ、すぐに目を逸らした。長い指がテーブルのグラスに伸びる。音が慌ててその手首を掴んだ。「もう飲まないで。これ以上飲んだら、また胃がやられちゃうよ」「飲む」「じゃあ私が代わりに飲む」音は有無を言わさずグラスを奪い取り、そのまま一気に煽った。宗也が止めようとした時にはもう遅かった。強い酒が喉を焼き、堪えきれずに激しくむせ返った。宗也が眉をひそめ、傍のスタッフに目配せをした。スタッフがすぐに駆け寄り、水を差し出す。音はそれを飲んで、ようやく少し息をついた。「飲めないくせに無理をするな」宗也は素っ気なく言い捨て、ソファに身を沈めた。音は顔を上げて彼を見た。怒るでもなく、そっと彼の手を握る。「ね……帰ろうよ」「うるさい」宗也は苛立たしげに手を引き抜き、立ち上がろうとした。だが酒のせいで足元がおぼつかず、体が大きくよろめいて床に倒れかけた。「危ないっ!」音がとっさに飛び出して支えようとした。けれど宗也は背が高く、体重も音よりずっと重い。そのまま勢いで彼女ごと床に倒れ込んだ。鈍い音――けれど、後頭部に感じたのは硬い床ではなく、温かい掌だった。音は一瞬、きょとんとした。頭を打つ覚悟をしていたのに、宗也がとっさに手を後頭部に滑り込ませて庇ってくれたのだ。二人の体がぴたりと重なっている。宗也の表情がわずかに変わり、腕で身体を支えて彼女を覗き込んだ。「大丈夫か」音は「大丈夫」と答えるつもりだった。でも、ふと考えを変えた。「大丈夫じゃない。すごく痛
Read more

第470話

宗也は普段、酒癖はいい方だ。なのに今夜に限って、やたらと手を焼かせた。音がやっとの思いで服を脱がせ、浴槽に浸からせた途端、すぐに身をよじって出ようとする。必死に押し戻そうとしたが、逆に腕を引かれて自分まで浴槽に引きずり込まれた。びしょ濡れのまま這い上がり、外へ出ようとした瞬間、宗也にぐいと引き戻されて再び彼の下敷きになった。熱い吐息が、まとわりつくように降りてくる。「お前は誰だ。なぜ俺の体を洗ってる」身動きが取れないまま顔を上げ、間近にある熱を帯びた目を見つめて――音は素早く、その唇に軽くキスを落とした。「あなたの妻よ。他に誰がいるの。まさか別の女に洗わせたことでもあるの?」宗也は真面目くさった顔でしばし考え、首を振った。「俺に妻はいない。離婚したんだ。いるわけがない」「今日から妻になったなの」音は両手で彼の顔を包み、もう一度唇を重ねた。「ねえ、よく見て。今日から妻になった私、気に入った?」宗也はじっと彼女を見つめた。本気で品定めするような目で。それから、彼は首を横に振った。「気に入らない。まったく気に入らない」音の顔がしょんぼりと崩れた。「なんで?」「積極的じゃない。俺に冷たい。俺は積極的な女がいい」音は心の中でこっそり呆れ返った。これ、絶対にわざとでしょう。本当に酔ってるの?それとも演技?どちらにしても、その言葉は、地味に胸に刺さった。自分が積極的じゃないって?じゃあ、どうすれば「積極的」なの。こうすればいいの――?音は体を反転させて彼の上にまたがり、身を屈めて見下ろした。「じゃあ、もっと積極的にしてあげる。そしたら私のこと、好きになってくれる?」宗也が深い色をたたえた瞳で彼女を見上げた。「試してみろ」音は試すことにした。わずかにためらった後、手を上げて自分のシャツのボタンに指をかけた。ひとつ。またひとつ。ボタンが指の間からこぼれ落ちるように外れていく。あらわになる肌に、下にいる宗也の全身が一瞬で張り詰めた。微動だにせず、彼女を待っている。けれど音は、ふいに手を止めた。浴槽の中でするのは初めてだ。どうすればお互い痛い思いをせずに済むか、見当もつかなかった。「やっぱり……外に出ない?ここ、危ないし。お酒のあとだから風邪
Read more
PREV
1
...
444546474849
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status