音は廊下の椅子に座り、ひたすら待ち続けた。一時間以上が過ぎて、ようやく田中おばあさんが治療室から運び出されてきた。音は思わず立ち上がり、駆け寄った。ベッドの上でぐったりと横たわる田中おばあさんの姿を見た瞬間、涙があふれ落ちた。「おばあさん、大丈夫ですか?」田中おばあさんはすでに目を覚ましていて、穏やかに微笑みながら首を縦に振り、問題ないと示した。そばにいた佐藤医師が、にこやかに口を開く。「藤堂奥様、ご安心ください。皮膚の表面上の怪我だけですから、数日休めば回復しますよ」「よかった……本当に、ありがとうございます」音は胸をなで下ろしながら、田中おばあさんの手をぎゅっと握った。「おばあさん、本当に怖かったですよ……もし何かあったら、私はきっと、一生自分を許せませんでした」田中おばあさんは優しく笑い、彼女の小さな手を軽く叩いた。そして周囲を見回し、宗也の姿がないことを確認すると、手話で尋ねた。「さっきの人は、誰なの?」音の表情が一瞬だけ曇る。「ごめんなさい、おばあさん……今まで本当のことを話していませんでした。あとで、ちゃんと私の話を聞いてもらってもいいですか?」田中おばあさんは微笑んで首を振り、話さなくても構わないと示した。若い人には、誰にだって事情がある。怪我は軽かったものの、医師の勧めで田中おばあさんは一、二日入院することになった。音は身の回りを整えたあと、小さな庭の家へ戻り、着替えを取りに行くことにした。家に戻ると、遠くから人が物を運び出しているのが見えた。胸騒ぎがして、音は急いで駆け寄った。「ちょっと待ってください。あなたたち、誰ですか?勝手に人の物を運ぶなんて」その声を聞き、中から一人の中年男性が出てきた。彼は音をじろりと見下ろす。「俺はあのばあさんの実の甥だ。あんたこそ誰だ、人の家のことに口出しするな」田中おばあさんの、実の甥。音は、あの日に怒鳴り込んできて田中おばあさんを罵っていた、あの女の顔を思い出した。――なるほど、夫婦だったのか。「田中さん、おばあさんの物を勝手に運ばないでください」「ばあさんが俺の家を長年占拠してただろ。ようやく消えたんだ、家を取り戻して何が悪い」「誰が出て行ったって言いましたか?」「頭を割ったんだろ。まさ
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