彩羽は鼻で笑った。「この前、美咲がわざと転んで私を陥れなければ、私もここまで悪く考えなかったけどね。でも今は、あの女の言うことは一言も信じてない。特に、あなたと宗也の仲をわざと引き裂くような言い方」「……」音は黙り込んだ。美咲が計算高くて性格が悪いことは、彼女自身も分かっている。それなのに、宗也に関する話だけは、なぜか疑おうとしなかったのか。写真、花、クローゼットの奥に押し込まれていた黒いレースの下着。あれが、すべて美咲が作り出した演出だなんて、考えもしなかった。けれど。宗也が彼女を藤堂家に留め続けているのは事実だし、悠人が美咲を「ママ」と呼ぶのを許しているのも事実だ。……もういい。こんな男に、これ以上期待するほうが間違っている。「音、まさか本気で、あの女をずっと青葉に住まわせるつもり?」「悠人が、今は彼女から離れられない」音は、仕方なさそうに言った。「子どもなんて、数日泣かせておけば終わりだよ」「ほんと、子どもって面倒。それに比べて、まるは可愛いよね」音は腰をかがめ、足元にすり寄ってきていたまるを抱き上げ、頬をそっと毛並みに擦りつけた。「……まるが、私の息子だったらよかったのに」彩羽は、吹き出した。「犬を産んだら、それこそ藤堂家に消されるでしょ」「想像くらい、してもいいじゃない」「はいはい、ご自由にどうぞ」彩羽はスマホをスクロールしながら、感心したように舌を鳴らす。メディアというものは、ここまで平気で白黒をひっくり返せるらしい。宗也というクズ男が、いつの間にか愛妻家に仕立て上げられ、ネットは称賛一色だ。「……もう見るのやめなよ」音は、彩羽の手からスマホをそっと伏せた。「もっと、意味のあるものを見なきゃ」彩羽は、またスマホを手に取った。「私だって、意味のあるものを見たいよ。でも、資格がないんだもん」「何を見る資格がないの?」「これ」彩羽は画面を音の前に差し出す。「全国でいちばん有名な服飾デザイナー、ヴィヴィアン。最近、世界中で講演してるんだけど、オンライン配信が一切ないんだって」その名前は、音も知っていた。一度は、直接話を聞いてみたい。けれど、彼女には彼女のやり方がある。「……やめとこ」音は小さく笑った。
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