――なんて感傷に浸っていた一週間後。なぜか私はコマキさんと再会していた。しかも、私のお見合い相手として、ホテルのレストランの個室で。「はじめまして。灰谷炯です」彼はことさら〝はじめまして〟と強調して爽やかに笑ってみせたが、どこからどう見ても胡散臭い。そもそもなんで、正体を隠して私を知らないフリをして、コマキなんて名乗っていたんだろう。もしかしてお見合いの前に、私と一緒で相手の情報を一切入れなかったとか?「は、はじめまして。城坂凛音、……です」彼に引き攣った笑顔で応える。あの日のあれやこれやが思い出され、今すぐこのテーブルの下に潜り込んで隠れたい気分だ。「私の妻になる女性がこんなに可憐な方なんて、光栄です」「うっ」さらににっこりと微笑みかけられ、息が詰まった。もう彼は私が、諦めの悪いお転婆娘だと知っているのだ。……そんなわざとらしく言わなくたって。無言で彼へ抗議の目を向ける。そのまま、続いていく話に適当な相槌を打って聞いていた。あの日、おそるおそる家に帰ったものの、父からは想像したほど怒られなかった。きっと、大事な見合いを勝手に抜け出して、激しく叱責されると思っていたし、覚悟もしていた。もうそれは、自分が悪いってわかっている。しかし、なにも言わずに、しかも携帯まで置いていなくなったことについて、心配するから二度としないようにと注意されるだけに終わった。朝帰りのお咎めもなしだ。こんなの、反対に気味が悪い。けれどなにか言って思い出したかのように怒鳴られるのも嫌なので、黙っておいた。さらに先方も急に都合が悪くなったらしく、土壇場で延期になったと教えられた。もしかしたらそれで、あまり叱られずに済んだのかもしれない。こうして一週間後、改めてお見合いとなったわけだが、なぜか私の前には灰谷炯という名のコマキさんが座っている。……もしかして、よく似た他人とかないよね?はじめましてって言っていたし。よくよく自分の前に座る人物の顔を見る。上部が太いメタルハーフリム眼鏡も長めのスポーツカットも同じだが、それだけで判断してはいけない。けれど何度見てもその顔はあの日、私を連れ出してくれた彼そのものだ。いや、一卵性の双子という可能性も捨てきれないが。しかし本当にコマキさんだとすれ
Last Updated : 2025-11-03 Read more