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All Chapters of BL小説短編集: Chapter 91 - Chapter 100

106 Chapters

不器用なふたり 新たなる挑戦6

アピールするように上目遣いで何度も瞬きする女に、俺は眉根を寄せた。「俺はもう、白銀の流星じゃないです。乗ってる車も違いますし……。今は三笠山のインパクトブルーなんです」 驚く橋本を尻目に、俺は微笑みながらインプのボンネットを愛おしそうに撫でる。「重量のあるその車で、私のワンエイティにちゃんとついてこられるかしら?」「陽さんとふたりなら、きっとついていくことができます」 迷うことなくハッキリと言い切った。普段は見せない頼もしさを感じさせる俺の横顔に、橋本の胸は高鳴り、頬が赤く染まる。「まーくんってば挑戦的なんだから! だったらついてきて。スタートするときに、クラクションを鳴らしてあげる」 女はちらりと橋本の様子を見たあとに愛車に戻り、派手にアクセルをふかす。「陽さん、行こう!」 運転席のドアを開け放ちながら、爽やかに微笑む。赤ら顔を隠すように俯いた橋本は返事をせずに、慌てて助手席に乗り込んだ。インプに乗ったふたりがシートベルトをして出発できる準備ができたのを確認してから、ワンエイティがゆっくり発進する。「雅輝は走ることになると、マジで挑戦的になるよな。見ていてハラハラする」「走ることだけじゃないっスよ。陽さんを責めるときも、ここぞとばかりに――」「あー、はいはい。そうですね!」「陽さんありがと。くだらないやり取りして、俺の緊張を和らげてくれて」 橋本があらぬところを見ながら腕を組むと、俺の顔がだらしなく緩んだ。助手席からそれを横目で眺めつつ、橋本から弾んだ声をかける。「なんだ、雅輝らしくないな。いつも空気の読めないおまえが悟るなんてさ」 ふたりが他愛のない会話を交わす間に、インプは峠の頂上の入口に到着する。目の前でワンエイティが、派手なクラクションを鳴らした。「陽さんの気遣いくらい、俺にだって読めますよ」「気遣いじゃねぇよ。愛だ」 優しい橋本の声が、俺の胸にじんと染み渡った。「雅輝、出遅れてる。あの女にハンデをやったつもりか?」「違うよ。陽さんの愛を、もう少し噛みしめたかったんだってば」 宮本はインプのシフトレバーをいつも通りに操作しながら、ゆっくりと峠を下りていく。ワンエイティは傾斜を利用してスピードを上げ、かなり前方を走っていた。しばらく直線の続く道路だと宮本の頭で記憶していたので、思いきってアクセルを開けて走行した
last updateLast Updated : 2026-01-13
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不器用なふたり 新たなる挑戦7

 ワンエイティが横付けされたのをきっかけに橋本が助手席から降りると、バトル後でぼんやりしていた俺も、慌てて運転席から降り立った。「まーくん、お待たせ♡」 泣き真似した女が宮本に抱きつこうとしたので、橋本は無言のまま女の襟首を掴んで、素早くそれを引き留めた。「おじさんってば、ちょっとくらいいいじゃない。私の完敗だったんだし、まーくんに慰められたいんだってば」「余計な刺激を与えるな。バトルしたあとで、雅輝は疲れてるんだから」「とかなんとか言っちゃって。本当は恋人のまーくんに、触れられたくないだけでしょ?」 女が告げたセリフに橋本はたじろぎ、掴んでいた襟首から手を放すと、すかさず腕を掴まれて豊満な胸に挟まれた。「あっ!」 俺はその行為にいち早く反応して橋本の反対の腕を引っ張って、女から引き離そうとした。「雅輝っ」「だって!」「まーくんってば、おじさんにぞっこんなんだ。へえ」 橋本はしたり顔する女を無視して自力で腕を奪取し、俺の隣に並んだ。「ねえねぇ、どっちが下になってるの? おじさんがまーくんを抱いてるの?」「そんなこと関係ねぇだろ。それよりもこのこと――」「陽さんには、もう手を出さないでください! 俺のなんですから!!」 俺の爆弾発言に、橋本はその場で頭を抱えたくなった。嫉妬心に駆られた恋人を止める術がわからず、白目を剥いて失神しそうになる。「まーくんはおじさんにぞっこんだけど、おじさんてば最初逢ったときに、私の躰をじろじろ見てたよ。やっぱり男よりも、女のほうがいいんじゃない?」 メガネの赤いフレームを上げながら指摘した言葉をきっかけに、俺は橋本に鋭い視線を飛ばした。「陽さん、見てたんですか?」「目の前にいたんだから、普通に見るだろ……」「おじさんってば、絶対に普通じゃなかったぁ。エッチな目で見てたもん。揺れるおっぱいを物欲しそうに、じーっと見てた!」「陽さんっ!」「見てねぇよ。この女の自意識過剰に、まんまと踊らされるんじゃねぇって」(雅輝の持ってる美少女フィギュアに似てるから見てただけなのに、なんでこうなっちまうんだ)「だからまーくん、おじさんと別れて」「へっ?」 俺は食ってかかっていた橋本から、女に視線を移す。橋本は恋人の様子を、ドキドキしながら横目で眺めた。なにを言いだすかわからなくて、さっきから動悸が止まら
last updateLast Updated : 2026-01-14
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不器用なふたり 新たなる挑戦8

*** 車内に響く卑猥な水音に俺は眉をひそめながら、いつも以上にハンドルを両手で握りしめるしかなかった。「よっ、陽さん、もうやめないとっ! 危ないですって」 俺が運転中だというのに、突然はじまった遠慮のない行為。自分の下半身にむしゃぶりつく橋本に向かって懇願しても、まったく聞く耳を持たずに、じゅぷじゅぷとわざと音を立てながら感じやすい先端を狙って執拗に舌を絡める。「運転中なんですよ、はあぁっ…気持ちいぃっ」「俺なりの誠意を示しているんだけどさ」「誠意の示し方がおかしいですって。しかもなんでこのタイミングっ……んあっ!」 宮本は思わず一瞬だけアクセルを踏み込んでしまったが、前方に車がいなかったこともあり、挙動不審な動きをするインプは、誰の目にも止まらなかった。「あぶっ、危なぃっ……ってば!」「バケットシートで、躰が逃げようのない雅輝にとっては、もどかしさが快感に繋がってるだろ」「そんなことなぃっ!」「そんなことあるね。いつもよりギンギンになってるのはどうしてだ?」 痛いところを橋本にずばっと突かれたせいで、顔を真っ赤にしたまま、うっと言葉を飲む。昨夜散々いたしたというのに、引きずり出された快感に抗うことはおろか、このまま橋本によってイカされたいと思う自分もいた。「陽さんっ、も、気持ちいいんだからっ! ヤバいですって」「ほうか、ヤバいのか。大変らな」「陽さんってば、うンンッ!」 宮本はもどかしさをやり過ごすために、ハンドルをばしばし叩きながら視線を前方に走らせる。血まなこになって、停車できる場所を探しまくった。「く~~~っ、我慢ガマンがまんっ!」「わっ!」 宮本がインプのアクセルを一気に開けて、車体をドリフトさせながら対向車線に進路変更した反動で、橋本の口から宮本自身が外れた。 派手なドリフトをかましたせいで、環状線にスキール音が鳴り響く。そんな音を耳にしているのにもかかわらず、慌てて下半身にかぶりつこうとする恋人の動きを読み、橋本の頭を鷲掴みする。「陽さん、ちょっと待って!」「待たねぇ! 舐めさせろよ」 前を見据えたままでいる俺の我慢は限界だった。環状線から住宅街に向かう脇道に向かって、インプを必死に走らせる。しかしギアチェンジするのに、橋本を掴んでいる左手を外さねばならない。「陽さんお願いだから、このままでいて!」
last updateLast Updated : 2026-01-15
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不器用なふたり 預かりもの

橋本のハイヤーを使ってるお客様から――正確にはそのお客様の知人から、変なものを預かった。 パッと見はただの黒い手帳で、開かないように大きな鍵がつけられていた。しかも見た目はただの手帳なのに、中に何が入っているのか分からないくらい、異常に重たいものだった。 お客様の話によれば持ち歩ける金庫になっているそうで、大型トラックが踏んでも潰れない上に、炎の中に投げ込んでも燃えたりしないらしい。 そんな異質なものを、1週間も預かれという。(藤田さんはトラブルに巻き込まれたことがないと言っていたが、きな臭さを感じさせる物を傍に置きたくはない――) そう思わせる理由のひとつは、お客様の知人の職業にヤがつくせいだ。もしくは暴でも可。性格も相当イカれているのは、ちょっとの間ソイツをハイヤーに乗せたことで分かった。 もうひとつの理由は『中身は知らないほうがいい。じゃないと、ヤクザと警察の両方に狙われる』という言葉を、藤田の口からきいたせいだった。「木を隠すなら森の中、ヤバいものを隠すなら、同等のレベルでヤバいものの中に紛らせたら大丈夫だろ」 ハイヤーの中で、こそっと呟いたひとりごと。最後に乗車させた榊を降ろした足で、宮本が住んでるアパートに向かった。 ピンポーン♪ インターフォンを鳴らしたタイミングで開けられた、アパートのドア。事前に行くことをアプリのメッセージで知らせておいたせいだろうが、宮本が玄関で待ち構えていたことに驚きを隠せず、橋本は顔を引きつらせた。「陽さんいらっしゃい! 今日逢えると思ってなかったから、とっても嬉しいです」「ぉ、おう ( ̄_ ̄ i)タラー」(平日はよほどのことがない限り、俺から逢いに行くことがなかったせいか、喜び方が半端じゃねぇな。厄介な物を置いたらすぐに帰る予定だったのに、これじゃあ言い出せやしない……)「この時間帯だと、仕事が終わったばかりですよね。疲れてるのに、わざわざ来てくれてありがとうございます」 やたらと弾んだ声で言いながら橋本の肩を抱き寄せるなり、さっさと室内に誘う。「まぁな……」 以前よりもヲタクグッズが片付けられた室内は、初めて来た当初よりも居心地のいい場所になっていた。 メッセージで来ることを知らせていたからか、美少女フィギュアも後ろ向きに設置されていて、宮本のヤル気があからさまに分かってしまった。
last updateLast Updated : 2026-01-16
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不器用なふたり 預かりもの2

***「おまっ、しつこいぞ。あっ、そんなコトしたら、持たなっ…うぅっ、ぃ、イくぅっ!」 浴室でも散々感じさせられたというのに、ベッドに移動しても宮本の執念深いといえる責めが、ここぞとばかりに橋本の感じるところへと繰り出されていた。「ゴックン( ‘ч’ )ふぅ……。陽さんってば、1回目よりも量が多かったですよ。やっぱり横たわったままのほうが、気持ち良かったんですか? それとも――」 ベッドで思いっきり脱力する橋本に顔を寄せた宮本が、にんまりと笑いかけてきた。「……なんだよ。変なツラして、顔を近づけてくるなんて」 薄暗がりでも分かる宮本の表情に、眉根を寄せながら文句を言ってやった。「暗がりだからこそ俺に見られないのをいいことに、思う存分に腰を動かして気持ち良くなったから、たくさん出たんでしょ」「いちいちうっせぇぞ、クソガキ! そういうのを口にするなって」「陽さん、声が上擦ってますよ。照れちゃって可愛い」(あーもー雅輝のヤツ、調子に乗りやがって!) 頭に敷いていた枕を手に取り、顔を隠すようにぎゅっと抱きしめた。「何をいまさら隠してるのやら。ココもアソコも、俺は全部知ってるのに」 枕で顔を覆い隠した、隙がありまくりの橋本の足の間に宮本は素早く移動して、迷うことなく自身を挿入する。「くぅっ!? 躊躇なく突っ込むなよ」 まるで、急なコーナーを果敢に攻めるような感じで橋本の中に挿入した宮本に驚き、枕を投げつけながら声を荒げた。「優しく突っ込んでも、結局陽さんから腰を動かすくせに」 橋本の全部を知ってると豪語しただけあって、ひとつになれるところへと寸分の狂いもなく自身を挿れた宮本の行動は、呆れ果てる前にお手上げ状態だった。 橋本を困らせるようにじりじりと自身を挿れて感じさせる恋人に、文句のひとつすら今は言えない。「ああっ、んんっ…っぁ!」「やっとひとつになれましたよ。さっきは後ろからシたけど、このまま続行してもいいですよね?」 両膝を軽々と持ち上げながら、さらに奥のほうを狙って腰を押し進めてくる。「もうそれ以上挿らないっ、ぅん、ひっ、動くな! 待てって」「だって陽さんの中がヒクついて、俺のを奥に導こうとするから」「そんなつもりはっ、ねぇよっ! やぁっあっ…」 タチだった自分がネコになり、感じて声をあげていることが最初は恥ずかしく
last updateLast Updated : 2026-01-17
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不器用なふたり 預かりもの3

 ドクンと何度も注がれる熱を感じつつ、大好きな男をとことんまで感じさせることができた幸せを、じんわり噛みしめていたら――。「ねぇ陽さん、どうするのコレ?」「コレ?」 呆れた声に導かれて顔を上げながら宮本の視線の先を辿ると、橋本の下半身をねっこり見ているのが分かった。(ヤバいと思って慌ててソレを隠しても遅いけど、隠さずにはいられねぇだろ!)「こっこれについてはだな、刺激を与えずに放っておけば、そのうちにでも落ち着くだろう、うん!」 宮本のラストスパートで感じてしまったせいで、思いっきり完勃ちした自身について、視線を右往左往して必死に誤魔化す。今更感が否めないのはご愛嬌にしてほしいと思っても、恋人はそれを見逃すはずがないだろう。 だって、宮本なんだから――。 両手でソレを隠していても恥ずかしさが拭えなかったので、掴まれていた片足を何とか奪取し、もじもじしながら両膝を使って下半身を覆い隠した。 すると繋がれていた宮本のモノが引き抜かれたので、今だと言わんばかりにさっさと布団をかぶせて、もう寝るぞということを自動的にアピールする。「ほらほら、お前もさっさと後片付けして寝なきゃダメだろ。寝不足はドライバーとして、絶対にやっちゃいけないことなんだからな!」「そういう陽さんこそ、ドロドロになってる部分を拭かなきゃダメですよ。はい、テッシュ!」「ぉ、おう……」 手渡されたテッシュで指摘されたところを拭おうとした途端に、布団がたくし上げられた。「雅輝、これ以上刺激を与えるなって。放置してくれよ」 間髪入れずに懇願した橋本を尻目に、手早くゴムをつけた宮本が、イヤらしさを漂わせるにんまりとした笑顔で迫ってきた。「恋人のモノが完勃ちしているのに、そのまま放置なんてありえないでしょ。とことんまでイかせてあげなきゃ!」「わざわざイカせなくていいって! お前だってイったあとでそんなのっ、ああああああっ」「目の前に美味しそうなコーナーがあったら、攻めずにはいられないでしょ。そういうことですっ!」 宮本の告げた『美味しそうなコーナー』の意味が分からないまま、第四回戦が続行され、円座クッションを用意しなきゃいけないだろうなと思わされた橋本だった。
last updateLast Updated : 2026-01-18
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不器用なふたり トリプルバトル

 預かっていた物の返却する日が来た。仕事が終わった足で宮本の自宅に寄り、玄関前で黒い手帳を引き取ろうとした。 そしたらやけに難しい顔をしながら、これまでの経緯を訊ねてきたことに、橋本は疑問を感じたのだった。 普段なら、素直に言うことを何でも聞く宮本の奇異な言動を目の当たりにして、キョトンとするしかない。「だっておかしいでしょ。こんな遅い時間帯に、漬物石みたいに重たい手帳の受け渡しをするなんて。ソイツはきっとこの手帳で陽さんを殴って、あんなコトやそんなコトとか、口では言えないコトをしまくるかもしれない!」 重い手帳を片手に持った宮本は、ダンベルトレーニングをするみたいな感じでリズミカルに上下させながら、暑苦しい口調で熱弁した。「安心しろ。その男はネコらしいから、俺は襲われることはない」「もっと危ないじゃないか。陽さんが襲うかもしれないでしょ」 呆れ返った橋本を尻目に無駄な動きを続けつつ、目を大きく見開いて声を荒らげた宮本。これまでの流れで今後の展開が予想ついたが、文句を言わずにはいられなかった。「バカを言うな。誰が好きこのんで、目つきの悪すぎる暴力団幹部を襲うかよ」 舌打ち混じりに告げたセリフを聞き、宮本は持っていた黒い手帳を背中に隠す。「……なんで、そんな人と関わり合いになってるの? 危ないを通り越して危険でしょ、デンジャラスじゃないか!」「金を持ってる客の知り合いで、どうしてもって頭を下げられたからだ。仕事上の付き合いも絡んでいるし、断れなかったんだって。仕方ねぇだろ」 これ以上の炎上を避けるべく、感情を押し殺して語りかけながら右手を出した。「雅輝、いい加減にそれを渡してくれ。約束の時間に遅れたら、それこそ俺は殺されるかもしれない」「一つだけ条件があります。俺をその場所に連れて行ってください」「Σ( ̄ロ ̄lll)ゲッ!!」(危なそうな場所と人間がいるところに、大事なコイツを連れて行きたくねぇっていうのに――それは雅輝も、同じ気持ちなんだろうな……)「分かった。下に停めてるハイヤーで待ってるから、出かける準備をしろよな」 こうして黒い手帳ごと、宮本と一緒にそこに向かったのだった。
last updateLast Updated : 2026-01-19
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不器用なふたり トリプルバトル2

*** 橋本の運転するハイヤーの後部座席に乗り込んだ宮本は、顔を思いっきり背けて車窓を眺めていた。(陽さんってば、どうして平然としてられるんだろ。いくら喧嘩慣れしてるからって、相手は暴力団幹部でしょ。こんな夜更けに逢うなんて、危ないじゃないか。消される可能性だってあるというのに――)「ドンケツ」という極道(ヤクザ)漫画を頭の中で思い出しながら、膝の上に乗せた黒い手帳の重みを感じつつ奥歯を噛みしめる。そうしていなければ、恐怖で躰が震えそうになった。「雅輝、明日は仕事だろ?」「はい。そうですけど……」 ガチガチに緊張しているところに投げかけられた質問は、すぐに答えられるものだった。「だったら手帳を返したら、そのままお前の家に帰らなきゃな」「陽さんも仕事? キョウスケさんを朝一で乗せる感じですか?」「ああ、しかもいつもより15分早く来てくれって頼まれてる。俺も大変だけど、それ以上にアイツのほうが大変だろうな」 毎月ノルマに追われてさ、なんてぶつぶつ言いながら左ウインカーを出す後ろ姿を、切ない気持ちで眺めた。 恋する相手をほぼ毎日乗せていたハイヤーのハンドルを、どんな想いで握りしめていたのかと考えずにはいられない。『白銀の流星』というあだ名がつく前は、江藤と別れたショックで何も手につかなかった。 憧れていたインプを手に入れるためとデート代にするために、バイトをかけ持ちして精を出していたのが、江藤と別れたことによりまんま車代になった。そのため、予定よりも早く愛車を手に入れられそうだった。 それなのに大学に行く途中にある、個人で経営している自動車整備工場に停められたシルバーのRX-7に、心が奪われてしまったんだ。その車は助手席のドアに、円形状のものをぶつけたような大きな凹みと擦り傷がある状態で、1か月以上放置されたままでいた。 その姿が失恋で傷ついている現在進行形の自分とダブって見えたため、ずっと気になってしまった。 ある日、意を決して整備工場に乗り込み、どうして修理しないのか理由を訊ねてみた。すると車の持ち主は新しいものを購入したそうで、手が空いたときに車を直し、中古車として販売するとのことだった。「すみません。この車が欲しいんですけど、おいくらで売るつもりでしょうか?」 GC8型インプレッサ、通称『文太インプ』を買おうと決めていたのに、
last updateLast Updated : 2026-01-20
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不器用なふたり トリプルバトル3

 一人ぼっちで落胆する宮本の前に現れたのは、峠の頂上で休憩していた年代を感じさせるデコトラだった。 興味に惹かれるまま傍に近寄り、運転手のおじさんと言葉を交わした。デコトラから受ける見た目の悪さで、最近はなかなか仕事がないこと。ある程度の年齢になったら躰にガタがきて、荷物の搬入をするのもつらい仕事だということ。 そんな境遇だけど楽しく仕事を続けていることなどなど、語られるものすべてが新鮮に聞こえた。『おじさんの後継者になりたい!』 真剣に話を聞いていた、はじめて逢ったばかりの若者の言葉とリアクションに、おじさんは笑ってやり過ごした。だが、宮本は本気だった。 数か月後ふたたび峠で休憩しているデコトラに、勇んで話しかけに行った。「おじさん俺、大型自動車の免許を取った。いつでもこのデコトラを運転できるよ」 情熱に押されたおじさんは、最初は仕方なく宮本を助手席に乗せて仕事を教えてくれた。 会社員として働きながらでは、やはりキツいこともあり、一般企業をすっぱり辞めてデコトラの仕事だけに集中した。するとそこから本格的な指導に変わり、身を入れてハンドルを握りしめながら仕事ができた。 そしておじさんが引退するにあたり、RX-7を手放した代金と引き換えにデコトラを手に入れた。(こうして改めて過去を振り返ってみると俺ってば、行き当たりばったりなことばかりしているんだな。だけど、そのすべてが宝物になってる――) 何かを失うとそれに見合う何かが必ず手に入り、宮本の人生に彩りを与えていた。 今一番の宝物である、大好きな橋本の背中に視線を移した。 自分にはない年齢の渋さを雰囲気に醸し出す、格好いい橋本。憧れていたインプの持ち主という付加価値も相まって、唐突に底なし沼に突き落とされた感じで恋に落ちた。 めでたく両想いになり、これからの人生を共有することにあたり、橋本は今までどんな生き方をしてきたのかが気になった。 そもそも橋本の家族構成も知らないばかりか、どんな恋人と付き合ってきたのかなど、知らないことがたくさんあるのを今更ながらに考えさせられる。 付き合う前にホテルにて押し倒された経緯があるせいで、遊び人認定しているものの、心から好きになった相手は、客であるキョウスケ以外にいなかったのであろうか。 だからといって、そこのところをズバリと訊ねる勇気が出なかった
last updateLast Updated : 2026-01-21
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不器用なふたり トリプルバトル4

***(ああ言って雅輝に助けを求めたが、5分以内に戻ることを前提に行動しなければ。まずは笹川さんに逢ったらこの手帳を押しつけながら適当にあしらって、さっさと逃げるが勝ちだろう) 古ビルの扉を開けて突き当りを右に曲がりながら、そんなことをぼんやりと考えた。「よぉ!」「くっ!?」 人の気配がなかったところから話しかけられたため、躰をぎゅっと竦ませて反応した橋本を、笹川は口元に微笑を湛えながら見下ろした。「時間ピッタリで登場してくれたことに感謝すべきなんだろうが、いやはや残念」「……何がですか?」 思いっきり訝しむ橋本に、満面の笑みで微笑みかける笹川が不気味すぎて怖かった。「1秒でも遅れたら、難癖つけてやろうと思っていたのになぁ」「たとえ遅れなかったとしても、あれこれ難癖つけるくせに」 言いながら、目の前に黒い手帳を差し出した。笹川はすぐさまそれを受け取り、しげしげと眺める。「何だろうなぁ。預けたときよりも、なぜだか綺麗になってるのは気のせいか?」「気のせいだろ。用事は済んだから、帰らせてもらうぞ」(――俺からの預かり物を大事にした雅輝が、丹精込めて毎日磨いていたに違いない……) 長居は無用と言わんばかりに踵を返した瞬間、躰を叩かれる衝撃を受けた。叩かれたというよりは背中の中央辺りを殴られた感じに近いそれに、橋本の足元がぐらりとふらつく。 何をするんだと文句を言う前に、頬の横を拳が掠めていった。慌てて躰をのけ反らせて攻撃を避けつつ、素早く背後に退いて距離をとる。「いい反射神経してるなぁ。そのファイティングポーズは、ボクシング経験者といったところだろ。戦う意思があると思っていい感じか?」 橋本を見据えながら同じように拳を顔顎の前近くに置き、脇を締めて目線を前に向けるポージングをとった笹川に、嫌な感じを覚えた。「……アンタもボクシング経験者なのか?」 次の攻撃をいつ受けてもいいように下半身に重心を落として、笹川の顔を睨みながら警戒した。すると顎近くにある右拳にキスをするという、余裕がある素振りを見せる。「こんな職業なんでね、ボクシングだけじゃない。攻撃系の武道やスポーツに関して、ひと通りこなしていると言ったら分かりやすいだろう?」「そりゃどうも!」「相手の手の内が分かったら、他のものは封印して合わせる。これが俺の流儀だ」「ちょ
last updateLast Updated : 2026-01-22
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