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BL小説短編集 のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

62 チャプター

両片思い24

☆∮。・。・★。・。☆・∮。・★・。 石川さんが出て行った瞬間、鉄平はがっくりとうな垂れながら、ものすごく小さな声で呟く。「石川にアレを見られてたなんて、しくじった……。今後一切、壮馬に手を出しちゃいけないな」「ここでしたキスもそうだけど、給湯室のキスも珍しかったもんね。いつもは、うまくあしらって終了なのに」 悔しそうな顔で長机をバシバシ叩きまくる恋人に向かって、宥めるように話しかけた。それなのに、まったく効力がなかったらしい。 ムスッとしたまま、俺の頬をぐりぐりする。八つ当たりもほどほどにしてほしい。「坊ちゃんが全部悪いんだ。もっとしっかりしてくれたら、俺がこんなに苦労せずに済むんだぞ」 ずっと長机を叩いて気が済んだのか、最後に大きな音を立てるようにグーで殴り、じろっと俺を睨む。「え~、俺ってばしっかりしてると思う。社内にいる問題児をこの手で成敗した上に、悪さができないようにコントロールもバッチリやってのけたでしょ?」(俺としては鉄平に、そんなに苦労させてるつもりはないのにな)「……おまえ、石川が悪さをしていたという相談、いつの間に受けたんだ?」「受けてないよ、あれはハッタリをかましただけ」 舌を出して肩を竦めたら、眉間に皺を寄せて不快感をあらわにした。「うわぁ、危ない橋を渡りやがった。どんな神経してるんだ」「ついこの間入社したばかりの新人相手に、男の襲われたなんていう相談を、わざわざしないと思うけど」「坊ちゃんはただの新人じゃない、社長の息子だろ。というかあのとき石川に論破されたら、どうするつもりだったんだ?」 額に手を当ててうんうん唸る鉄平に、へらっと笑ってみせた。「別に。なるようになるかなぁと」「まったく……。考えもなしにそうやって突っ込んでいくから、目が離せないんだ」 もしや俺が良かれと思ってやってることが、鉄平の苦労の種だったりするのか!?「俺としては昔も今も、鉄平の視線をひとりじめしたいだけなんだよ」「これ以上の我儘を言うな、さっさと戻るぞ。石川が戻ってるのに、俺たちが戻らないんじゃ示しがつかない」 少しでも甘い雰囲気にもっていくべく、会話をそんな感じにしたというのに、ひとりでやってろと言わんばかりの冷たい態度を、思いっきりとられてしまった。「鉄平ってば、せっかくふたりきりになれたのに。ちょっとくらい」
last update最終更新日 : 2025-12-04
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両片思い25

「思ふには 忍ぶることぞ負けにける 逢ふにしかへば さもあらばあれ 俺もその気持ちに応えたいと思った。だから、もっともっと強くならなきゃいけないって。愛しい貴方を守るために」 貴方を恋しいと想う気持ちには 我慢しようとしても負けて逢ってしまう。逢えるのならば この身がどうなってもかまわない。 俺は意味を理解する前に、告げられた和歌を必死になって覚えた。鉄平の気持ちが込められたものだと、本能で嗅ぎとった。「壮馬……」 珍しく俺の名前を呼ぶ鉄平の顔は赤いままで、困惑とは違う種類の表情を浮かべていた。「抱き合うだけじゃなく、好きだと愛の告白をするだけじゃなく、あんなふうに自分の気持ちを伝える術を知ってる、先生の傍にずっといたい」 超絶久しぶりに、先生という言葉を使ってみた。それを聞いた恋人は、瞳をちょっとだけ開いて、ふっと息を飲む。だけど気持ちの切り替えをさっさとしたのか、頭を振るなり、いつもの上司の顔に戻した。「しょうがないな、まったく」 鉄平の腕を掴んでいる手が無理やり外され、やがてそれはあたたかいものに包まれた。 恋人つなぎしている手と柔らかい笑みを浮かべた顔を、思わず交互に見てしまう俺は、もしかして馬鹿だろうか。 だってここは会社の廊下で誰かに見られたら、奇異な目で見られること間違いなしの行為なのに。「無鉄砲で、考えもなしに行動するおまえの傍にいなきゃ、心臓がいくつあっても足りないだろ。頼むから俺の目の届く範囲内で、危ないことをしろ」「上司命令だもんな、言うことをちゃんと聞く」 引っ張られながら弾んだ声で答えると、恋人つなぎされた手がぎゅっと握りしめられ、次の瞬間には鉄平の前へと放り出されてしまった。「だったらサボった分だけ、とっとと仕事をしろ」「はーい」 放り出された勢いよろしく、部署の扉を開けかけたそのとき。「早く仕事を終えたら、ご褒美が待ってるかもしれない」 ぽつりと告げられたセリフで、みるみるうちにやる気がみなぎってきた。「坊ちゃん、ちなみにさっきのは上司命令じゃなくて、恋人からの命令だからな。肝に銘じろよ」 握っていたはずだった主導権が、鉄平の小さな呟きで強引に奪われてしまう現状は、俺としては正直おもしろくない。だけどこうしてるのが、居心地の良さを一番感じられる。 きっとそれは俺だけじゃなく、鉄平も同じ気持ちで
last update最終更新日 : 2025-12-05
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恋のマッチアップ

*** クラスで仲のいい友達に誘われて、小学生からバスケをやってきた。市内にある少年団のクラブを経て、中学でも迷うことなくバスケ部に入り、それなりに活躍した。お蔭で全国大会の試合でスタメン入りし、その流れで高校は推薦で入学。 中学同様に活躍できると思っていた。あのときまでは――。 「昨日寝坊しちまって講義に出られなかった分のノート、写させてくれよ」 机に頬杖をつきながら足を組んでこちらを見据える姿は、人にものを頼む態度にまったく見えない。むしろ、どんどん不快感が増していった。「俺じゃなく、他のヤツに頼めば」「チームメイトのよしみで頼むって」 早く差し出せといわんばかりに、左手を見せる。 加賀谷将紘(かがやまさひろ)――容姿端麗なこの男は、特待生としてここに入学してきた。 イケメンで背がそれなりに高く、どんなところからでもシュートを確実に決める、黄金の左手(レフティ)を持つバスケ選手だった。 だからこそバスケ部ではエース級の存在になれるというのに、面倒くさいのひとことで練習をズル休みする。大学の講義もまた然り。特待生で大学に入ったとは思えないこの態度も、人としてどうかと思われる。 俺はずっと続けてきたバスケの技術をあげたくて、県外にある体育大学に入学した。 県大会で何度も優勝している大学での練習は、とてもためになるものが多い上に、講義内容もメンタル面の強化に役に立っている。スキルアップを図るべくして、眠い目を擦りながら、毎日大学に顔を出しているというのに。「練習に参加しないヤツが、チームメイト面すんなよ」「だってここでの練習って、怠くてやってらんねぇし」「俺だっておまえのために、講義に出ているわけじゃないんだからな!」 教員がくるまであと少し。なんとかして、この男を隣から追い払いたかった。「知ってる。写させてもらうお礼に、間違ってるとこをきちんと直してやるからさ」 バスケがうまいのもさることながら、見るからに容姿端麗なコイツは、めちゃくちゃ頭がいいというのを、同じ高校から入学したチームメイトに聞いていた。講義を受けていなくても、渡したノートを見ただけで、その内容を理解できる能力は羨ましい。 凡人である自分を恨みながら、差し出されている手にルーズリーフ数枚乗せてやった。「渡すもの渡したんだから、別な席に移動してくれ。そばにいるだ
last update最終更新日 : 2025-12-06
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恋のマッチアップ2

微妙な心境を抱えながら隣を見たら、うんざりする表情をありありと浮かべていた。「試合なんてものは、出たいヤツが出ればいいんだって。面倒くさいし」 一言目はダルい。二言目には面倒くさいと文句を言う。みんなが羨む才能を、どうしてコイツは有効活用しないのだろうか。「面倒くさい言うな。もったいない!」「俺が出ないことで、出られないヤツがスタメン入りするんだから、それでいいんじゃねぇの」「なんだよ、それ。そんな優しさ、俺なら必要ない」「……スタメン入りして、試合に出たくないのか?」 遠慮がちな声が、俺をさらに苛つかせる。 ただでさえイライラさせられているというのに、図々しい態度を平然としていられるところとか、本当に無神経なヤツだと思った。「そりゃあ試合には出たいさ。そのために成果は出てないけど、頑張って練習を地道にやってる」 注がれる視線をやり過ごすべく、思いっきりそっぽを向いた。「俺よりもおまえのほうが、バスケのセンスはあると思うんだ」「は?」(なんだよ、それ。ルーズリーフを貸し渋った、俺に対する嫌味なのか?)「バスケ部の初顔合わせのときだったか、同じチームになって一緒にプレイしたことがあったろ?」「あったな」 そのときのことを、頭の中で思い出す。正直なところ、あまりいいものではないと記憶していた。「俺さ、はじめて魅入ったんだ。他人のシュートフォームに目を奪われるなんて、今までしたことがなかった」「ん? そんなにすごいヤツ、チームにいたっけ?」 同じチームになったメンツを思い出しながら視線をもとに戻すと、頬を染めて自分を見つめる、微妙な表情のアイツがそこにいた。 ペンを握りしめる左手がカタカタ小さく震える様子に、首を捻るしかない。「おい、大丈夫なのか?」 苛立ちを隠して心配したら、意を決した顔で俺を凝視する。「おまえが一緒に練習してくれたら、真面目になってやる」「なんの脅しだよ、そりゃ……。最初から真面目に、練習に出ればいいだけだろ」 まじまじと見つめられる覚えがなくて、思いっきり狼狽えてしまった。「俺としてはおまえと一緒に練習をしてみたかった。サボって気を引いたら、心配して練習に誘ってくれると思っていたのに、全然声をかけてくれなかったよな」「俺から加賀谷に声をかけるなんて、するわけないだろう。それに俺とじゃレベルが違
last update最終更新日 : 2025-12-07
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恋のマッチアップ3

*** 大学でバスケをプレイした、あの日。笹良と同じチームになった。 笹良が気になった理由は、先輩に誘われてバスケの練習試合をし終えたあとに、声をかけられていたからだった。『すごいね。あんなにスリーポイントシュートが決まったら、バスケが楽しくてしょうがないだろう?』 興奮を抑えられない感じで話しかけてきた笹良に、そのときは適当に相槌を打った。そんないい加減な返事をしたというのに、瞳を輝かせながら口を開く。『ずっとバスケをしてきたから、試合でのスリーポイントシュートの難しさを知ってる。君とは違って俺の場合は、どんなに練習しても成果が出なくでね』 ハッキリと言いきった笹良のセリフが気になったこともあり、原因を突き止めようと考え、積極的にボールを回してやった。 見た感じ、悪いところがないように思えた。基本がとてもしっかりしていて、フォームも問題なし。指先から放たれるボールの動きの感じから、ものすごく丁寧に扱っていることがわかった。 ゴールが決まらない他の要因をさがしていたそのとき、俺が苦手だと思う角度からのスリーポイントシュートをすべく、笹良がセットポジションに入る。その姿に、はっとさせられた。 ジャンプした瞬間に飛び散る汗や、舞い上がった衝撃で、躰に貼りつくユニフォーム。他にもボールを放つ繊細な指先の動きのすべてが、スローモーションに見えた。 あまりにも魅入っていたため、ボールが飛んでいく音で、やっと我に返る始末。 笹良が放ったバスケットボールは、大きな半円を描きながら回転し、吸い込まれるようにゴールポストに飲み込まれた。『やった! 久しぶりに決まった。加賀谷、アシストサンキューな!』 嬉しさを表すように破顔した笹良が、俺の背中を叩いてから、セットポジションに戻って行く。 動揺を隠しきれない俺は、その場に突っ立ったままでいた。ボールが目の前を掠めたというのに、カットすることもできない。「今のは、いったいなんなんだ?」 ぞくっとするものが背筋に走った謎の衝撃は、筆舌しがたいものがある。 自分が苦手とする位置からのシュートだったからこそ魅入ってしまったのか、あるいはそれ以外の理由があるのか。原因がさっぱりわからなくて、模索しながらその後も笹良の動きに注目し続けた。『ナイスシュート!』 点差が開いていなかったので、あえて得意のスリーを封
last update最終更新日 : 2025-12-08
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恋のマッチアップ4

*** 笹良相手に、不覚にもときめいてしまった。見ているだけで腹が立っていたのに、どうして胸が高鳴ってしまったのか。 かったるいゆえに、勉強なんてさっぱりしていないから、頭がおかしくなった可能性は低いが……。因数分解の公式のひとつ。 >(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3 物理・力学エネルギーE E=K+U ただ公式を覚えるだけじゃ使えない。正しい公式を用いつつ、意識して使わなければ、まったく意味をなさないものになる。そうすることにより、必ず答えが導き出されるのだから。 テストに出される問題のすべてにおいて、答えがあるから書くことができた。たまにわからない問題があっても、なんとかして解き明かし、白紙で回答を出すことなんてしなかった。(しかも今回の問題は、自分の躰に起こったことについてだというのに、さっぱり意味がわからないなんて) もしや連立方程式が恋立方程式になってしまった結果、胸がときめいてしまったというのだろうか。しかもときめいた相手が男なんて、笑い話にもなりゃしない。 この謎を解くために、あえて積極的に笹良と接点を持つべく、話しかけた。以前よりも接点を増やすことで、ヒントがあるんじゃないかと思った。 そう考えたものの、普段気安く喋ったりしない相手だからこそ、自然に話しかける理由がなかなか思いつかなかった。 嫌がられる恐れがある、講義の内容を写させてもらうことを最終手段にして、不自然にならないように話しかけた。 こうして強引にコミュニケーションをとりながら、難題について答えを導き出そうと試みたのに、いまひとつピンとこない。無理やりに写させてもらっているせいか、友達のようなやり取りじゃなく、お互い半分くらいはケンカ腰になってる気がする。 だけど最近、何かがきっかけでバスケの話になった際に、眉根を寄せて俺を見る笹良のまなざしが、シュートを放つ瞬間に見せる表情とリンクすることを発見した。 それ以来、似たような顔を目の当たりにしたとき、ほんの一瞬だけど胸の奥がチリッと疼くようになってしまった。 友達はおろかチームメイト未満の関係だというのに、どうしてこんな反応をするのか。考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎ去っていく。 そんな矢先に『おまえが好きなんだ』という爆弾発言をしてしまったのである。
last update最終更新日 : 2025-12-09
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恋のマッチアップ5

***「笹良に話があるんだ」 加賀谷に変なことを言われて以来、気持ち悪くて思いっきり避けていた。それなのに、こうしてしつこく話しかけてくる。「悪いけど、話をする気になれない」 持っている文庫本に視線を落とした。目の前の相手をスルーすべく、栞を挟んだページを素早く開き、印刷された文字を追いかける。「弁解させてほしいんだ!」「弁解?」 必死な様子を表すような声色を聞いて、仕方なく顔をあげた。加賀谷は俺を見ずに、落ち着きなく両目を泳がせながら口を開く。「心にもないことを口走った件について、その……。話の内容が特殊だから、授業が終わってからふたりきりで話がしたい」 ふたりきりで話がしたいというワードに、引っかかりを覚えた。危ない可能性があるのが明白だ。「加賀谷が俺に二度とつきまとわないと約束するなら、顔を出してやってもいい」「ああ、約束する。短時間で済ませるから。場所は」「体育館がいい。今日は練習がオフなんだ」 ふたりきりでも距離がたくさんとれるであろう、体育館を提案したのはナイスだと思える。「わかった。必ず来いよな」 悲壮感を漂わせながら念押しした加賀谷は、俺の視線を振り切るように去って行った。明らかにいつもと違う様子に、嫌な予感が胸の辺りに充満しはじめたのだった。
last update最終更新日 : 2025-12-10
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恋のマッチアップ6

*** 最後の講義が終わって教室を出たら、躰を左右に揺するように前を歩く、加賀谷の背中が目に留まった。 このままついて行ったら、アイツのあとを追いかける形になる。それが嫌だったので、歩くスピードを思いっきり落としながら体育館に向かう。 のらりくらりと歩いて、階段を下りた先にある体育館の重い扉の前にたどり着いた。中からリズミカルな音が、響いた感じで聞こえてくる。それは聞き慣れた、バスケットボールをドリブルする音だった。 ダンダンダン、シュッ! その場に突っ立ったまま、そっと目を閉じる。しばしの間の後にゴールポストに吸い込まれるボールの映像が、まぶたの裏に流れた。 黄金のレフティから放たれるボールは、絶対に外れることはない。イップスという不治の病にかかった、俺とは違う。彼は選ばれた人間なのだから。 意を決して勢いよく扉を開け放つと目に映ったのは、ジャンプしてボールを手放す、まさにその瞬間だった。 ちょっとだけ襟元がくたびれたTシャツにジーンズといういでたちの加賀谷の姿が、オレンジに濃いブルーのラインが入った、バスケ部のユニフォームを着ている錯覚に陥る。 俺が突然現れたことに驚き、ほんのわずかに後方にジャンプした躰がぶれて、バランスを崩した状態でボールが放たれた。 どんな体勢からでも確実に決めることを、アイツの躰が知っている。だからこそ俺は、この結末の行方がわかっていた。 ガンッ! いつもより大きな弧を描いたバスケットボールは、ゴールポストに軽く接触してから、網の中をゆっくりと落ちていく。「っ、びっくりした……」 加賀谷の声をかき消すように、吐き出されたボールが何度も体育館の床をバウンドする。俺は無言のまま、それをじっと見つめた。「来てくれてサンキューな」「加賀谷、弁解ってなんだよ?」 平らなはずの床を、音もなく転がるボールを見たまま訊ねた。「あのな、好きって言ったけど、あれには深い意味はなかったというか」「深い意味がないなら、あんなことを安易に言うなって」 そのせいでここ数日間、対処に困ったのだ。告白されるという免疫がないせいで、余計に困惑しまくった。「俺さ、高校のとき、全国大会に出てるんだ」「へえ……」 唐突な話題転換に、気のない声で反応した。「最優秀選手賞にも選ばれた」「頭の中身だけじゃなく、バスケも超万能だもんな
last update最終更新日 : 2025-12-11
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恋のマッチアップ7

「加賀谷のすごさを偉そうに語られても、話がさっぱり見えないんだけど」「好きなんだ」 自分の両手を胸の前で握りしめながら、頬を染めて告白されても、最初のくだりがあるため、そこまでドキドキせずに済んだ。(バカと天才紙一重って言うけど、加賀谷ってばまんまおバカじゃないか)「あのさ、最初に言ったよな。深い意味はないって。それなのに同じ言葉を使うのは、どう考えてもおかしいだろう?」 呆れながら指摘すると、難しそうな表情を浮かべて下唇を噛みしめる。「加賀谷が答えないなら、俺はもう帰る。貴重な時間を無駄にしたくない」 妙な沈黙に耐えきれず、踵を返して体育館を出て行こうとした瞬間に、腕を掴んで引止められてしまった。「待ってくれ、答えたいんだ。答えたいのに、笹良が満足するような答えが見つからなくて」「頭のいい加賀谷が答えられないなんて、ものすごい難題なんだな」「ああ。考えれば考えるほどに、わけがわからなくなってくる。おまえのシュートする姿を見て、最近では勃っちゃって」「ちょっ、それは……」 掴まれていた腕を、慌てて振り解いた。じりじりと後退りをして、加賀谷との距離をとる。「笹良がシュートを外したあとに、苦しそうな顔をしているのを見たら、妙にクるものがあってさ」 左手をぎゅっと握りしめながら熱く語られても、内容が気持ち悪いものなので、当然同調できるはずがない。「加賀谷に告白されただけでもぞくっとしたのに、それ以上の何とも言えない、躰の事情を説明されながら迫られる、俺の身にもなってくれよ」「わかってる。俺だって正直なところ嫌なんだ。同性相手にこんなことになるなんて」「そうか……」(もしや神様がすべてを兼ね備えた加賀谷を狂わせるために、ゲイになる操作をしたんじゃないだろうか)「だからいろいろ考えた。笹良がシュートを外さなければ、俺は勃起しなくて済むんじゃないかって」「は?」 どうしてそんな答えに着地したんだ、やっぱりバカなヤツ。「笹良はいつから、シュートを外すようになったんだ? 教えてくれ」 ひどく神妙な顔つきで、後退った分だけ迫ってくる。プレッシャーを与えるような雰囲気に飲まれないようにしながら、ふたたび後退ると、背中に壁が当たった。「逃げるなって、答えろよ」「ひいぃ!」 言葉と一緒に突き立てられた加賀谷の両腕を見て、思わず悲鳴をあげ
last update最終更新日 : 2025-12-12
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恋のマッチアップ8

 情けなさを晒したくはなかったが、震える躰を両手で抱きしめながら、その場にしゃがみ込んだ。「笹良の気持ちを考えずに、怖がらせて悪かった。答えが見つからないせいで、どうしていいかわからなくて焦っちゃって」「必死になるのも分かるけど、その……。加賀谷が導き出したそれを俺がしたら、勃つモノが勃たなくなるのか?」 たどたどしさを表す俺の問いかけに、突っ立ったままでいる加賀谷の表情がみるみるうちに曇った。「加賀谷、おまえその顔」「可能性の問題だ。実際にやってみないとわからない」「やるって、何をするんだ?」「それをするのに原因が知りたい。いつからシュートを外しはじめた?」 心の奥底に封印している思い出――そのことを考えたら躰の震えは止まったが、代わりに違う感情がメンタルをじわじわと支配する。「笹良、俺さ、おまえに教えられたことがあるんだ」 なかなか口を割らない様子を見て、加賀谷が先に話しかけてきた。「俺が教えたこと?」「ああ。スタメン入りできない選手について、まったく考えてなかった」 不意に背中を向けて歩き出し、ゴール下に転がったままのボールを取りに行く。「バスケの上手いヤツがスタメン入りするのは当然のことで、それ以外は練習や努力の足りないダメなヤツっていう扱いをしてた。ソイツらが汗水たらして頑張っても、スタメン入りできない悔しさをもっているのを知らなかったんだ」(うわぁ、加賀谷らしい上から目線発言。すべてにおいて恵まれてるせいで、補欠組のヤツをバカにしていたんだな)「加賀谷がチームで浮いてる存在になってるのは、その考えが原因だろう」 躰がだいぶ落ち着いてきたので、立ち上がりながら指摘してやる。するといきなり、バスケットボールが投げつけられた。「わっ! ビックリした」 加賀谷からパスされたボールはそれほど勢いがなかったので、難なくキャッチできたが、突然パスされるのは心臓に悪い。「答えを導き出すために、笹良とバスケの話をしただろ。話をしているうちに、見えてなかったところが鮮明になったら、俺はバスケをプレイする資格がないと思ったりしてさ」「それでズル休みして、練習に出てなかったのか。そうすることで補欠組からレギュラー入りできる、新たなメンバーが投入されるから」(俺のことといい、やることなすこと、すべてが両極端すぎる)「普段の練習だけじ
last update最終更新日 : 2025-12-13
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