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All Chapters of BL小説短編集: Chapter 71 - Chapter 80

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恋のマッチアップ19

そして3ヶ月が経ったある日、大きな試合に向けてのスタメン発表で、笹良はレギュラー入りした。俺は控えの選手として選ばれた。 黄金のレフティから、短期間でレギュラーを奪った異例の選手として、笹良は大学構内で、突如注目されることになった。 以前とは違う、笹良との距離。ガラッと変わった環境下、驚きながら困惑しているアイツの周りには、いつも誰かが傍にいた。 それはまるで、俺から笹良を守っているようにも見えた。安易に近づいちゃいけないと思わされた。 そんな笹良に喋ることができる唯一の時間といえば、練習が終わってからの帰り道だけ。 大学を出て、約5分ほど歩いた先にある、上り坂の頂上の交差点で別れるまでの、ほんの僅かな時間。夕日はとうに落ち、街灯がふたり分の影を作っていた。 重なることのない距離のある影をぼんやりと眺めながら、重たい口を開く。「スタメン入りおめでと。やったな」 絞り出した声でやっと告げた。本当は発表された日に言いたかったのに、いろんな感情がないまぜになってしまい、なかなか言えずにいた。「ひどい顔でおめでとうなんて、心にもないことを言うなよ」「そんなことない! やっぱり笹良はすげぇよな。俺が見惚れただけある」 これ以上嫌われないように、必死になって笑顔を作りながら褒めると、笹良が俺の首根っこを左腕で絡めた。 日頃俺がする、ボディタッチのようなそれを不思議に思いつつ、そっと顔をあげると、大きな影が覆いかぶさってきた。「うわっ!」 驚きのあまり、思わず声をあげてしまった。そんな声に物怖じせずに、笹良は唇を重ねる。勢いが余ったのか、それとも角度が悪かったのか。互いの歯茎が当たった衝撃に、さらに驚いた。「うっ!」「ごめん。自分からこんなことをしたのがはじめてだったから、加減がわからなくて」 笹良は俺の首から素早く腕を引き抜き、後退りしてちょっとだけ距離をとる。「おまえ、なんでこんなことをしたんだよ?」 俯きながら自分の唇に触れる笹良に、上擦った声で訊ねてみる。「うーん。お礼って感じ」「お礼? なんのだよ?」 礼をされる覚えがなかった俺の頭の中に、たくさんの疑問符が浮かびまくった。「ほら、短期間でイップスを治す練習メニューを、わざわざ作ってくれたり、いろんなアドバイスをしてくれたろ」「確かに……」「他にも練習と称しながら、俺
last updateLast Updated : 2025-12-24
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態

加賀屋の黄金のレフティは、滅多にゴールを外さないと思っていた。しかしながら最近にいたっては、練習でもゴールを決められない機会が増えたため、当然レギュラー入りすることなく加賀谷は補欠のまま。俺はレギュラー入りをなんとか維持している。 休憩時間になったので、タオルで汗を拭いながら加賀屋の姿を探す。目立たないようにするためなのか、体育館の隅っこにひとりきりで座っていた。「加賀屋!」 思いきって声をかけると、見るからに渋い表情を顔面に作り込みつつ、大きなため息を吐いてから口を開いた。「お疲れ……。調子良さそうじゃん」「加賀屋らしくない。もしかして、イップスになったんじゃないだろうな?」「残念ながら、たぶんなってると思う……」「マジかよ!」「ああ。恋という名のイップスにな!」「は?」 堂々と告げられた、くだらなすぎる内容のせいで、思いっきり呆れたまなざしを飛ばしているというのに、加賀谷はまったく気にならないのか、瞳をキラキラ輝かせた。(――まったく。さっきの暗い表情は、加賀屋なりの演技だったのか。そうまでして俺の気を惹きたいなんて、本当に物好きなヤツ!)「だってさ、レギュラー入りしたら、めでたく笹良と付き合えるじゃん。そのあとのことをアレコレ考えたら、妄想がどんどん広がって、頭の中を支配するんだ」 神妙な顔つきから一転、デレっとした表情に変化した。正直なところ、イケメンが台無しになっていると思われる。せっかくのイケメンが崩れている理由は、いただけない妄想のせいだと、容易に想像ついた。(傍に駆け寄って加賀屋を心配した、俺がバカだった――) 額に手を当てながら、眉根を寄せて後悔する俺を見ているのに、加賀屋は弾んだ口調で言の葉を続ける。「誰とも付き合ったことがない笹良と付き合ったら、この俺が笹良のはじめてを全部独占できるだろ。それを考えただけで、嬉しくてたまらなくってさ」「悪いけど、このままゴールの成功率が下がり続けていたら、いつまでたっても俺と付き合えないと思う」 最悪の事態をキッパリ言いきったというのに、加賀屋は利き手の左手を見せつけながら微笑んだ。追い詰められているというのに余裕のありすぎる態度は、間違いなく試合ではとても有効だろう。「だってさ、しょうがないだろ。ゴールを決めようと左手を伸ばした瞬間に、めちゃくちゃエロい笹良の姿が、こ
last updateLast Updated : 2025-12-25
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態2

*** 大好きな笹良の苛立っている感じが、端的に交わされる会話が進むごとに伝わってきたからこそ、俺なりに気を遣って場を和ませようとした。自分の素直な気持ちのすべてを吐露した俺を心配して、手首を掴んだ笹良の行為が嬉しかった。 触れられたところから伝わる笹良の熱で、どうにかなりそうだったのに、ほどなくしてあっけなく外されてしまった手首を、意気消沈しながら掴む。そこから感じとれるものは、もちろんなにもなく――。「笹良……」 勝手にしろと捨て台詞を吐かれながら顔を背けられた時点で、目の前が真っ暗になる。 もうひとりの俺が慌てふためきながら笹良の背中に指をさし、「追いかけて謝り倒せ!」と喚いていたが、体育館の床に根をおろしたように両足がピクリとも動かなかった。(――笹良は悪くないのに、自分の非を認めたくなくて、アイツのせいにした)「ごめんな、笹良……」 妄想にとらわれるのは、それだけプレイに集中していない証拠。エロい格好で俺を誘う笹良の魔の手をかいくぐり、きっちりゴールを決めなければならない。「これって笹良のイップスよりも、超難題じゃね?」 ひとりごとを呟いて、頭を抱えながらしゃがみ込む。そのタイミングで、集合を促す笛の音が響いた。ふらついて立ち上がり、集まってるメンバーの最後尾に群れる。 視界の先に、大好きな笹良の後頭部が目に留まった。周りのヤツと違い、柔らかそうな髪質をしていて、艶のあるその黒髪からいい匂いがこちらに漂う気がしたので、穴が開く勢いでじっと観察してみる。 生真面目な笹良とは反比例した、寝癖のついた笹良の襟足の髪。ちょっと動くと揺らめくその様子に、可愛い!の言葉を連呼したくなる。(ボールばかり目で追っていたけど、笹良の背中を追いかけたら、襟足がひょこひょこ動くさまが見られるんだろうな♡) そう考えついて、反射的にゾッとした。自分の思考に、ヤバみを感じずにはいられない。そのことによりバスケ以上に、笹良のことが好きになってしまったのを、思いっきり自覚したのだけれど――。 俺は目をつぶり、困難な自分のイップスについての攻略を考える。これ以上笹良に嫌われないようにしなければと、必死になってあらゆる手を思考したのだった。
last updateLast Updated : 2025-12-26
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態3

☆☆☆『加賀屋のせいで、こんなに乱されるなんてっ、あぁっ!』 妄想によるイップスをなんとしてでも攻略しようと真面目に考えているのに、笹良のエロい声がどこからともなく聞こえてきて、脳内に響き渡る。『やっ、はじめてなの、にぃ…恥ずかしぃっ。こんな俺をっ、ンンっ! 加賀屋に見せたくない』 そのうち声だけじゃなく笹良本人の乱れた姿が、まぶたの裏にほわわ〜んと映し出された。場所は更衣室。長椅子をベッド代わりにして、ユニフォームを捲りあげた笹良が、喘ぎ声と一緒に甘い吐息を漏らした。 俺だって、男を相手にするのははじめて。だからホモビで勉強しまくった。ナニをどうすれば感じるのか――そりゃあもう熱心に勉強した結果が、目の前に転がっている!『やっ! 腰動かさないで! 変になるって』 そんなことをお願いしてるのに、自分から腰を動かす笹良。細い腰がしなるたびに俺のをぎゅんぎゅん締めつけて、絶頂に導こうとする。 ゴールを外すたびに見せていたつらそうな表情じゃなく、口を半開きにして息を切らすその面持ちは、淫靡な雰囲気をこれでもかと醸していた。普段は見られない貴重な笹良の姿に、俺の中にあるボルテージが、否応なしに高まっていく。 とまぁこんなふうにものすごく詳細に妄想できるわけは、以前体育館にてふたりきりで話し合いをしたせい。 俺が見惚れたシュートをやってのけた笹良に抱きつき、熱のこもった肌に直接触れた。今まで抱いた女よりも肌質が極上で、むしゃぶりつきたい衝動に駆られてしまうレベルは、すごいことだと思う。 そして残念なことに、あのとき中途半端で終わっているゆえに、妄想が暴走しているらしい。与える快感に容易く流される笹良を知ったあのとき、ヤれるところまで突き進めば、こんなことにはならなかったかもしれない。 今の俺にとってコートでプレイしている笹良は、どんな表情でもあっち系に結びつけることが可能だし、スリーをしようとする笹良の右腕の筋肉のちょっとした動きや、ボールを放つ指先すらも、エロに紐付けすることができる。(――俺ってば、マジで天才かもしれない!) 下半身をおっ勃てたまま、そんなことを考えついてしまったゆえに、情けなさも手伝って、イップスを攻略してやるぞという気持ちだけが萎んでいった。「それではここから、選抜メンバーを中心に練習試合をおこなう。解散!」 ぱんっと
last updateLast Updated : 2025-12-27
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態4

*** 加賀屋が練習に来なくなって、1週間が経った。大学の講義にも顔を出していない。煩いヤツ兼ライバルが目の前からいなくなった事実は、いつもの日常を取り戻したことになる。 以前の俺なら加賀谷を気にせず、変につきまとわれないことに安堵して、毎日を送っていただろう。しかし残念ながら、心をかける相手がいるという状況が、考えを一変させた。(俺が友達やめるなんて言ったのがショックで、落ちるところまで落ちて動けなくなってるわけじゃないよな) 練習の途中で帰ったのも、熱が出たからというのを同期から聞いていたので、病気が治れば呑気な顔して、また現れるだろうと思った。だけどもしかして、普通の病気じゃなかったのだろうか。そのせいで、今まで調子があがらなかったのかもしれない。「笹良、動きが止まってるけど、そろそろパス練再開してくれないか?」「ごめん。あのさ!」 ボールをパスした同期に、思いきって話しかけた。「なに?」「加賀屋、ここのところ姿が見えないなって」「ああ。ちょっと前に熱出したときの風邪が、相当悪いのかもな。LINEしても返事が遅いし。生きてるのは確かだけどさ」「風邪……」 同期は渋い表情で、ボールを勢いよく投げて寄越した。「1週間前、後半のトレーニングの説明を聞いてる最中に、俺の隣でかなりつらそうな顔して、変な呻き声をあげててさ。だから声かけたんだ、大丈夫かって」(――俺と話をしたときは、そんなふうに見えなかった。もしかして具合が悪いのを、加賀谷なりに隠していたのか?) パスされたボールを手に、その場に立ち止まってしまう。 加賀谷の状況がわからないだけじゃなく、自分の心に迷いがあったせいで、なかなか行動に移せなかった。だけど病気で困っているかもしれないアイツに、手を差し伸べなければいけないことが、自然と湧き上がってくる。「……加賀屋のお見舞い行きたいんだけど、住んでるところ知ってる?」 気づいたら、居所を訊ねる言葉が口を突いて出た。「ポジション争いをするライバルの見舞いなんて、笹良は優しいのな。加賀屋なんて放置しとけば、そのうちケロッとした顔で練習に参加しそうなのに」「確かにそうだよね。ハハッ……」「アイツが住んでるアパート知ってるから、練習が終わったら教えるよ。とりあえず今はプレイに集中! ほらほら、パスを回してくれって」 笑顔で
last updateLast Updated : 2025-12-28
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態5

*** こじんまりしたアパートの1階、『加賀谷』という表札をしっかり確認してから、インターフォンを押してみた。ピンポーン♪という音が響き渡ったものの、それ以外の音がまったく聞こえてこない。(大学にも顔を出さず、自宅を留守する理由。バイトをしている話も聞いてないし、それ以外で加賀谷がやっていることと言えば、たったひとつだ!) ジーンズのポケットからスマホを取り出して、アパート近くにある公園を検索した。ここから徒歩5分の場所にあることがわかったので、地図を頼りに向かってみる。 米兵とストリートバスケをしている話を以前聞いていたからこそ、そこを目指した。(公園にいなければ、探すあてがないな。加賀屋の住所を教えてくれた同期に、行きそうな場所を訊ねてみるか――) 加賀谷がいなかったことを考慮しながら歩いていると、背の高いバスケのリングとバックボードが、木々の間から見え隠れする。ドリブルやその他の音がしないか耳を澄ましてみたのに、なにも聞こえなかった。 それでも確認しなければと、コートを目指した俺の目に映ったのは、ど真ん中で大の字に倒れている加賀屋だった。「うわっ、大丈夫かっ?」 目の前の事態に、心臓が破裂しそうな勢いでバクバクした。絡まりかける足を動かし、加賀屋の傍に駆け寄る。「加賀屋っ、加賀屋しっかりしろ!」 上半身を慎重に抱き起こしてから、頬を叩いてみる。 見たことがないくらい髪はボサボサで顔色は青白く、目が虚ろな状態だった。抱きしめた躰からは湿気った熱がじわじわ伝わってきて、素人の俺でもただごとじゃないというのがわかる。「加賀屋…加賀屋っ!」 音が鳴るくらい頬を叩いているのに、荒い息を繰り返すばかり。救急車を呼ぼうと考えたタイミングで、力ない声が聞こえてきた。「俺もぅ死ぬのかな。笹良がすぐ傍にいる感覚がある……」「なに馬鹿なことを言ってるんだ。おまえの傍に、俺がいるっていうのに」 存在を知らしめるために両腕の力を込めて、ぼんやりする加賀屋を抱きしめてやった。「本物の、笹良?」 重たそうな瞼をやっと開けて、俺の顔を見上げた。「そうだよ。なんでこんなことになってるんだ? まさか、また無茶な練習をしたんじゃないだろうな」 俺の問いかけに、バツの悪そうな顔をする。 目を頼りにしないシュートをするために、馬鹿みたいな練習を何度もする加
last updateLast Updated : 2025-12-29
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態6

「それで、加賀谷はなんの練習に励んでいたんだ? こんなになるまでやり込むって、やっぱりイップスを治すためだったりする?」 俺はその場に腰を下ろし、加賀谷の頭を膝にのせてやる。「イップスというか、う~……その、すげぇ言いにくいことなんだけど」「言いにくいこと?」 とげを含んだ口調で訊ねた瞬間に、加賀谷は視線を右往左往させた。「えっと俺ってば、頭いいじゃん。想像力が豊かだからこそ、そこからいろんな分野に繋げて、うまいこと勉強してるんだ」「頭がいいヤツは自分のことを、そんなふうに言わないと思う」「だから言いにくかったんだって!」 白い目で見下ろす俺に、加賀屋は頬を染めながら喚き散らした。「その頭の良さと今回の練習が、どうやって繋がるんだよ?」 俺は凡人ゆえに、まったく理解が追いつかない。確かに加賀谷は、頭はいいと思う。だがちょっとズレがあるため、無駄な努力をしている可能性が無きにしも非ず。だからこそ、目が離せないのも事実だった。(友達やめる宣言までしたのに、こうして自宅まで押しかけてしまったことは、結局加賀屋が気になって、仕方がないせいなんだよな)「クソ真面目な笹良に言ったら、ドン引きされる。間違いない」「ここで倒れてる時点で、かなりドン引きしてるよ。バカ……」「だって笹良が好きだから。また前のようなチームメイトの関係だけなんて、どうしても嫌だったんだ!」 震える左手が、俺のシャツを掴んだ。力ない黄金のレフティを、俺は迷うことなく両手で包み込んでやる。「笹良、好きなんだ……」「この間は、ちょっと言い過ぎたかなぁと思った」 加賀屋の告白をあえてスルーした。顔を上げて、視線をゴールポストに移す。まじまじと下から見つめる加賀谷のまなざしが恥ずかしくて、どうにも耐えられなかった。 頬が熱い――胸が張り裂けそうなくらいドキドキしている現状に、どうしていいかわからなくなる。「笹良、この間の話、無しにしてくれるのか?」 包み込む加賀屋のレフティが、痛いくらいに俺の手を握りしめる。まるで捕まえたと言ってるようで、恥ずかしさのあまりに放り出したくて堪らない。「ああ言えば加賀屋が真面目なプレイに励むと、俺なりに考えたんだって。まさかこんなことになるとは、予想してなかった」「一生懸命になるさ。死にものぐるいでおまえの妄想に打ち勝とうと、練習するに
last updateLast Updated : 2025-12-30
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態7

「いやいや! 俺の愛の告白に、笹良ってば顔を真っ赤にしたじゃん! 全然落ち着いてなかったって」「好き好き言われ慣れていないからだよ。しかも加賀屋は、なにか誤魔化そうとするときに限って、この言葉を使ってるような気がしてならない」「そんなことないっ! 俺は笹良が好きなんだ、誰にも負けないくらい大好きだ!!」「言えば言うほど、墓穴を掘ってる。なおさら信ぴょう性が感じられない上に、俺の気を逸らして話を変えようとしてるだろ?」 互いに一歩も引かない口論が続く。俺は意地でも負けないぞという気持ちを込めて、加賀屋を睨みつけた。「笹良を好きな気持ちを、可視化できないのが悔しい……。どうすればわかってくれるんだ」 力任せに黄金のレフティが手の中から引き抜かれ、いきなり俺の首根っこを掴む。「ちょっ、加賀屋っ」 さっきまでへばっていたのに、そんなことを感じさせない腕力で、俺の顔を加賀屋にぐぐっと近づけた。「笹良の元気、少し分けて」「いや待て、もうかなり元気になってるだろ!」「黙ってキスしろよ、早く」 ギリギリのラインで、加賀屋の腕の力が抜かれる。あとは俺から、目の前にある唇に触れればいいだけにされてしまった。「しょうがないな……」 憧れてる加賀屋だからじゃなく、それなりに気になる存在だったし、こんなことで元気になるんだったらと考え、自分からキスをした。この間のように失敗せずに、加賀屋の存在をしっかり感じるキスになった。「キス、うまくなってるじゃん」 ほんのりと唇に残る加賀屋の熱。それを逃したくなくて、少しだけ唇を噛みしめる。そんな心情を悟られないように、眉根を寄せながら口を開いた。「あんな失敗は痛いし、もうしたくない」「だけどもう少し、熱烈なのが良かったなぁ」 こんなところで、キスするだけでもヒヤヒヤものなのに、熱烈なんてそんなの――。「加賀谷には空気を読むことと、羞恥心というものを自覚してほしい。ここは外なんだぞ!」 見るからにさっきよりも元気になったので、加賀屋の頭を膝から落としてやる。「笹良のケチ。久しぶりに逢えたんだから、ちょっとくらいイチャイチャしたっていいじゃん」 落とされたまま、ブーたれた顔で他にも文句を言う加賀屋に呆れ果てたので、逃げるように立ち上がった。「加賀屋を心配して損した。もう帰る!」「待ってくれ。肩を貸してもら
last updateLast Updated : 2025-12-31
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態8

*** 肩を貸して連れ帰る道中は互いに話をすることなく、無言のまま足を動かし、加賀屋の住むアパートに向かった。「お疲れ様。もう体力がなくなるような、無理な練習するなよな!」 アパートに到着後、肩を貸してる加賀屋の腕を外し、帰ろうと身を翻した。すると俺の背中をぎゅっと掴む手に、動きを止められる。「笹良、ベッドまで運んでくれ……」(ここに来てそんなことを言うなんて、本当に加賀谷ってば我儘大王だな)「そんなの、自力で這いずって行けよ」 白い目で加賀屋を見下ろして、はじめて気がついた。つらそうにアパートの扉に寄りかかりながら、両足を震わせる姿に言葉が出なくなる。「笹良ぁ……」「ああもう、どんだけへばってるんだよ。とっとと鍵をよこせ!」 背中を掴む加賀屋の手をぶった斬るように外し、ふたたび肩にかけて、鍵を強請った。「ほら、早く鍵をよこせって」「お願いしやーす!」「調子に乗るな、まったく」 手際よく解錠し、玄関に上がりこむ。苛立ちながら屈んで加賀屋の靴を手荒に脱がせてから、自分の靴を脱いで室内にお邪魔した。「ここに来て加賀屋の介護をするとは、夢にも思わなかった……」 心底うんざりしつつベッドまでたどり着き、抱えていた大荷物をよいしょと置いた。心情的には放り投げたかったけど、そこまで俺も鬼じゃない。「じゃあな」 素っ気ない声で言った瞬間、目の端になにかが映った。日々おこなっているバスケの練習のせいで反射的に気をとられ、ピタリと動きを止めた刹那、腰に加賀屋の両腕が巻き付き、すごい力で躰を抱きしめられ、あっという間にアパートの天井が視界に映り込み、背中にふわふわしたものを感じた。「なっ、なんで!?」「ここは体育館や外でもない。誰の目を気にすることなく、笹良を好きにできる場所だ」 あまりの事態に躰を竦めながら瞬きしていると、視野が天井から加賀屋の顔に変わった。明らかにいつもとは違うギラギラしたまなざしで、俺を見下ろす。「なんで加賀屋、おまえ立てないくらい、フラフラしていたんじゃないか」「俺は計画を立てた。笹良が絶対逢いに来るように、入念に企てたんだ……」「計画って、なんだよそれ!」 妙に掠れた声が、俺の焦りを表す。頭のいい加賀屋の計画を考えると、どうにも嫌な予感しかない。「どのくらいの期間になるかわからなかったが、俺が大学に行かなく
last updateLast Updated : 2026-01-01
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態9

「それ以上なんか、そんなの――」 言い淀んでいたら、加賀屋は着ていたTシャツを手早く脱ぎ捨て、床に放り投げた。「加賀屋、なんで脱ぐんだ……」 部活の着替えで裸は見慣れているはずなのに、加賀谷の上半身がやけに艶めかしく目に映る。そのせいで、顔がさらに熱くなるのがわかった。それを意識した途端に、躰の全部が熱くなる。「だってこれから、汗をかくことするし。ここまで運んでくれたお礼に、笹良を脱がせてやるよ」「ぬっ脱がせなくていいって! もう帰る!」 帰ると言ったものの躰が固まっているせいで、思うように動かせない。瞬きするのと、口答えするだけで精いっぱいだった。「ここまで来て、笹良を帰すわけないだろ。好きなんだぜ、おい」「好きとか言われても困る! お、俺はまだそこまで、加賀屋のこと好きじゃない!」「好きじゃない相手に、笹良は平気でキスするヤツなのか。それって酷くない? 俺は弄ばれた感じ? 笹良ってば酷い男だよな」 クスクス笑いながら俺が着ているシャツに手をかけ、手際よくボタンを外していく。「やっ、やめろよ。こんなのおかしい……」 躰がこわばったままでいるため、加賀谷の手を止めることができなかった。開けたところから部屋の空気が伝わってきて、これからスルことを思い知らされる。「大好きな笹良を抱きたい気持ちは、おかしなものじゃない」 キッパリ言いきったセリフに、俺は二の句が継げられない。ベッドの上に追い詰められた状況は、バスケの試合でも感じたことのない、今までで一番危機的なものだった。「加賀谷……俺怖い」「怖い? どうして?」 晒された素肌を、加賀谷のてのひらがやわやわと撫でていく。「やっ、はあぁっ」 触れられた衝撃で鼻にかかった変な声が出てしまい、両手で口元を慌てて押さえた。目を白黒させる俺を、加賀谷は瞳が見えなくなるような笑みを浮かべて見下ろす。「怖がってるくせに、しっかり感じてるんじゃないか」「それは加賀谷が触るからだろ。感じたくないのに……」「笹良はこういうことするの、はじめてなんだよな?」 浮かべていた笑みを消し去り、真面目な顔をして訊ねる。「誰かさんみたいにモテないんでね。どうせバカにしてるんだろ」「バカにしてないって。だって俺もはじめてだから」「えっ?」 信じられない加賀谷のセリフに、口元を押さえていた手の力が緩み
last updateLast Updated : 2026-01-02
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