「よく無神経って言われる」「それよく分かる。デリカシーの欠片がない感じとか」「ひどい言われようだけど事実だもんな。それよりもコートに入って来い」「……なんで?」「いいからいいから。えーっと確か、この辺りだっけ」 左右の手を使ってドリブルしながら、思い至る場所へひとりで歩いて行く。 入って来いと呼ばれたが、どうしてもコートに入る気になれず、壁際から加賀谷の様子を眺めた。「笹良、そんな顔して突っ立っていたら、襲っちゃうかもしれないぞ?」 無邪気さを感じさせる笑みで告げられたせいで、言葉の効力はあまり感じられなかったものの、仕方なく出向いてやる。「初顔合わせのときのバスケの試合。俺がパスしたボールを、ここから笹良はシュートして決めたよな」「そうだっけ」「俺は絶対に忘れない。目の前で見事なスリーをされて、忘れるほうが難しいって」 瞳を輝かせながら熱弁される分だけ、冷や水を浴びせられた気分になる。「加賀谷、いい加減にしてくれ。俺にそのシュートを打たせようとしてるだろ」「今は試合じゃない。笹良はプレッシャーを感じる必要はないからできる」「俺はおまえとは違う。何も知らないくせに、できるなんて言いきるなよ」 怒りと苛立ちを含んだ俺の声が、ドリブルの音を一瞬だけかき消した。 俺の怒号を合図にしたのか加賀谷はドリブルを止めて、両手の中にバスケットボールをおさめる。「加賀谷はいつから、バスケをはじめたんだ?」「中学に入ってからだけど」「俺は小学4年からはじめた。少年団に入ったんだ」 右手に拳を作ってぽつぽつ語る俺を、何を考えてるかわからない表情で加賀谷は眺めてきた。「なんか納得した。だから笹良は、基礎がしっかりしてるんだな」「中学でも迷うことなくバスケ部に入った。その当時は背が低いだけじゃなく、小柄だったから、背の高い先輩たちにパワー負けした。それでもそれを生かしたプレイをしたよ」「シューティングガードか。俺が今、受け持ってるポジションをしていたんだな」 ゴール下では圧倒的に不利な体形だったため、アウトサイドからゴールを狙った。「はじめて中体連に出たのは1年のとき。1年生でスタメン入りしたのは俺だけだった」「そこは経験者だからだろうな。その頃の俺は、必死こいてボール磨きをしていたっけ」 加賀谷は左右の指先だけを使って、ボールを細や
Last Updated : 2025-12-14 Read more