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62 Chapters

恋のマッチアップ9

「よく無神経って言われる」「それよく分かる。デリカシーの欠片がない感じとか」「ひどい言われようだけど事実だもんな。それよりもコートに入って来い」「……なんで?」「いいからいいから。えーっと確か、この辺りだっけ」 左右の手を使ってドリブルしながら、思い至る場所へひとりで歩いて行く。 入って来いと呼ばれたが、どうしてもコートに入る気になれず、壁際から加賀谷の様子を眺めた。「笹良、そんな顔して突っ立っていたら、襲っちゃうかもしれないぞ?」 無邪気さを感じさせる笑みで告げられたせいで、言葉の効力はあまり感じられなかったものの、仕方なく出向いてやる。「初顔合わせのときのバスケの試合。俺がパスしたボールを、ここから笹良はシュートして決めたよな」「そうだっけ」「俺は絶対に忘れない。目の前で見事なスリーをされて、忘れるほうが難しいって」 瞳を輝かせながら熱弁される分だけ、冷や水を浴びせられた気分になる。「加賀谷、いい加減にしてくれ。俺にそのシュートを打たせようとしてるだろ」「今は試合じゃない。笹良はプレッシャーを感じる必要はないからできる」「俺はおまえとは違う。何も知らないくせに、できるなんて言いきるなよ」 怒りと苛立ちを含んだ俺の声が、ドリブルの音を一瞬だけかき消した。 俺の怒号を合図にしたのか加賀谷はドリブルを止めて、両手の中にバスケットボールをおさめる。「加賀谷はいつから、バスケをはじめたんだ?」「中学に入ってからだけど」「俺は小学4年からはじめた。少年団に入ったんだ」 右手に拳を作ってぽつぽつ語る俺を、何を考えてるかわからない表情で加賀谷は眺めてきた。「なんか納得した。だから笹良は、基礎がしっかりしてるんだな」「中学でも迷うことなくバスケ部に入った。その当時は背が低いだけじゃなく、小柄だったから、背の高い先輩たちにパワー負けした。それでもそれを生かしたプレイをしたよ」「シューティングガードか。俺が今、受け持ってるポジションをしていたんだな」 ゴール下では圧倒的に不利な体形だったため、アウトサイドからゴールを狙った。「はじめて中体連に出たのは1年のとき。1年生でスタメン入りしたのは俺だけだった」「そこは経験者だからだろうな。その頃の俺は、必死こいてボール磨きをしていたっけ」 加賀谷は左右の指先だけを使って、ボールを細や
last updateLast Updated : 2025-12-14
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恋のマッチアップ10

 沈黙が流れる中で、加賀谷のハンドリングの音だけが耳に聞こえてきた。(あのときもこんな音がしたんだった。インからのシュートが打てなかった先輩が、パスしたボールと一緒に、バッシュがキュッと鳴って……)「……高校1年のときに出た試合、準決勝の相手は去年の優勝校だった。かなりの接戦でね、互いに点を取り合ったよ」「まさに、手に汗を握る試合だったんだな」「試合終了間際、3年の先輩から俺にボールが託された。この日の俺は一度もゴールを外すことなく、シュートをすべて決めていた。だからこそボールが回ってきたんだと、すぐに悟って、スリーをしようとジャンプした」 首をもたげながら視線を伏せて、床をじっと見つめる。そんな俺に、加賀谷の視線が痛いくらいに刺さった。それは責めるものじゃないはずなのに、外さずにはいられない。 着ているTシャツの胸元を握りしめつつ、呼吸を乱しながら、やっとのことで告げる。「これを決めれば、俺のチームは決勝に進める。そう思った瞬間に、右腕の筋肉が引きつった。それはゴールポストに向かってボールを放つという、とても大事なときだった。結果は言わなくてもわかるだろ」「もしかして、その試合がきっかけになったのか」「誰も俺を責めたりしなかった。1年でここまでよく健闘したよなって慰められて、余計につらかった」「笹良、こっちを向け」 明かしたくない過去を口にした俺に、加賀谷の我儘が炸裂した。 いい加減にしてくれよと思いながら顔をあげると、ふたたびボールが飛んでくる。さっきよりも勢いのあるそれを、下半身に重心をのせながらキャッチした。「おまえはその失敗について、思いっきり責められたかったのか? もしかしてドМなのかよ」 デリカシーのない言葉に心底呆れて、頭痛がしそうだった。「そんなわけあるかよ。加賀谷のバカ!」 受け取ったばかりのボールを、加賀谷の顔面に向かってパスした。「よっ! ナイスボール!」「加賀谷にパスするボールは、どうしてうまくいくんだろうな。あの試合以降はゴールはおろか、パスさえも意識したらミスするっていうのに」「あ~それであのとき、ディフェンスに徹底して、ボールを受けないようにしていたのか」 大学での初試合のとき、オフェンス側に回らないようにしていたというのに、隙があれば加賀谷がボールをパスしてきた。自分のゴール下が、ガラ空きの
last updateLast Updated : 2025-12-15
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