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BL小説短編集 のすべてのチャプター: チャプター 81 - チャプター 90

106 チャプター

恋のマッチアップ番外編 膠着状態10

 俺の意見を完全に無視して、両腕を使って躰を抱きしめる。痛みを強く感じる抱擁に、顔をうんと歪ませた。「加賀谷、痛いって。しかも苦しい」「これが俺の気持ち。理解してほしんだけど」 耳元で囁かれた言葉に、それ以上の苦情を告げることはできない。自分の気持ちを可視化できないのが悔しいと言った加賀谷が、抱きしめてそれを表してくれていることを感じた途端に、恐怖心が自然となくなっていく。「笹良、大好き」「ぅ、うん……」「すっげぇ好き。どうしていいかわからないくらい好き」「そ、そうなんだ……」 聞いたことのない甘い声で囁かれる愛の言葉の連続に、頭が爆発しそうになる。恐怖心がなくなったのと入れ違いで、胸がドキドキして苦しくなってきた。心臓は所定の位置で高鳴っているというのに、まるで耳元で鳴ってるように感じた。「笹良の全部がほしい」「全部なんて言われても……。やれないって」 痛いくらいの動悸を抱えながら、加賀谷と会話を交わしつつ、この窮地をどうやって脱するか。そればかりを考える。「やれないなんて、冷たいこと言うなよ。こんなに求めてるのに」 加賀谷は頬にくちづけてから、俺の腰に硬くなったモノを押しつけ、ちょっとだけ上下させる。「やめろって!」「笹良がほしくてたまらない」 抵抗する間もなく、唇が奪われてしまった。触れる加賀谷の唇から舌が入り込み、俺の舌に絡めようとする。「ンン、あっ」 唯一動かせることのできる頭を必死になって動かし、加賀谷のキスから逃れようと試みたが、そんなのお構いなしに、激しく舌を出し入れされた。そのせいであらぬ方向に、妄想が進んでしまう。(この舌が加賀谷のアレで、俺の中に出したり挿れたりなんて……) 妄想が頭の中で映像化された瞬間、出し入れされる加賀谷の舌先を、思わずちゅっと吸ってしまった。「くっ、しゃしゃら…」「あ、ああぁ…ちがっ」 慌てて加賀谷の舌を解放したが、一瞬でも求めてしまったのは事実。まじまじと直視する視線に、ぶわっと頬が赤くなっていくのがわかった。「笹良、可愛い」「かっ可愛くなんてない!」「可愛いって。俺のキスに感じて、おまえのチ――」「言うなよ! これ以上変なこと言わないでくれ! もう嫌だ……」 恥ずかしさのあまりに喚き散らす俺を、加賀谷はしてやったりな顔で見下ろす。
last update最終更新日 : 2026-01-03
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態11

「笹良も一緒に気持ちよくなろう?」 小さく笑いながら腰に押し当てていたモノを、わざわざ移動して俺のに押しつける。「やっ、やめっ」「布地越しでもわかる。笹良のすげぇ熱くなってる」「あっあっ、動かすな」 上半身をキツく抱きしめられているので、これ以上は逃げられない。というか逃げようとした時点で加賀谷のモノに擦れてしまって、自ら感じることになってしまう。「加賀谷、こんなふうに無理やりは嫌だ……」 震える笹良の声に、加賀谷の動きがぴたりと止まった。「笹良は俺のこと、嫌いじゃないんだろう?」 顔に寄せられる加賀屋の顔。まっすぐ視線を注がれるせいで、逸らすことができない。「き、嫌いじゃないけど……」「けど?」「気になる存在というか、なんというか――」 口ごもる俺に、加賀屋は柔らかく微笑みかけた。「笹良、どうしたら俺のことが好きに変わる?」「無理に変えなくても、このままでいいんじゃないかと」 他にもなにか言いわけめいたことを告げると、加賀谷はまっすぐな視線を俺に送りながら語りかけた。「俺は笹良が好きだよ。だから笹良にも同じ気持ちをもってほしい」「うっ!」 唐突な告白に頬を赤らめつつ、視線を右往左往させるしかない。「笹良、大好き」 隙だらけの俺に、加賀屋はゆっくり顔を近づけてキスをする。今までされた中で、それは一番優しいキスだった。押しつけられる唇はとても軽く、それがなぜだか不安になる。「か、がや……」 喋れるくらいに余裕のありすぎるキスの最中、思わず話しかけると、加賀屋は少しだけ距離をあけた。だけどそれは近くて、俺の目に加賀屋の顔がぼやけて映る。「笹良?」「そんなキスじゃ嫌だ……」 思わず口走った自分の言葉に驚きを隠せず、慌てて両手で顔を覆い隠した。「どうした?」「なんでもない! 間違っただけだから!」「間違ったって、なにが?」「やっ、えっとそのぅ」 間髪入れずに問いかける加賀屋に、頭の中は混乱をきたした。愛の告白をされただけでも返事に困ったというのに、自らキスを強請ってしまったことについて、説明のしようがない。「笹良は意外とエッチだからな、激しいのが好みなんだろう?」「そんなことないっ! 絶対に!」「そんなことあるって。体育館で抱き合ったときも――」「終わったことをグチグチ言うなよ!」 覆い隠した顔の熱が
last update最終更新日 : 2026-01-04
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態12

「エッチな俺は嫌?」「俺は男だ、そんな対象じゃないだろ」 俺が喚くと、加賀屋は顔の前にある両手を力ずくで外した。まっすぐ注がれるまなざしに、うっと言葉を飲む。「そんなの関係ない。だって笹良だから」「でも……」「笹良の全部を、俺のものにしたい」「うぁ、そんな、の」「このまま強引にしようと思えば、スムーズにコトを進められる。だけどそれをしたくない俺の気持ち、わかってくれよ」「加賀屋……」「俺のこと、気になってるんだろ?」「ぅ、うん」 加賀屋に導かれるように、すんなりと答えてしまった。それは嘘偽りのない気持ちだったので、あっさり告げることができたのだが――。「気になる俺に触れられるの、嫌か?」「嫌……じゃなく、恥ずかしくて」「俺も恥ずかしいよ。だけど笹良だから、全部見せられるんだ」「加賀屋も?」 恐るおそる訊ねたら、加賀屋は満面の笑みを浮かべた。「大好きな笹良に、俺のすべてをあげることができる。もらってくれないか?」 徐々に掠れる加賀屋の声を聞いただけで、なぜだかさっきよりも躰が熱くなった。触れられるだけじゃなく、見られることでも羞恥心を煽られていたのに、今はそれすらいいやと思えるようになった。 俺は喉を潤すべく、ごくんと飲み込んでから、意気込んでセリフを告げる。「加賀屋になら、あげてもいい、よ……」 そう口にした瞬間に、加賀屋の両腕が痛みを感じるくらいに俺の体を強く抱きしめた。「笹良を大事にしたいから、いきなりはしない。だから安心してくれ」 耳元で囁かれる声に、黙ったまま首を縦に振った。「笹良、好きだよ」 甘い吐息と一緒にくちづけられたせいで、返事が宙に舞う。(――俺もだって言いたかったのに、加賀屋のヤツはまったく) 抱かれる悦びに躰を震わせながら、加賀屋に身をまかせたのだった。
last update最終更新日 : 2026-01-05
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態13

***(ああもう笹良のヤツ、めちゃくちゃ可愛かったな――)「ううっ、もぅ嫌だ……」 ふたり並んだベッドの上で、笹良は俺に背を向けたまま、他にもブツブツ文句を言い続ける。それに耳を傾けながら、優しく話しかけた。「気にすることないって。俺しか知らないことだろ」「気にするに決まってるだろ! 普段はこんなに早くないんだからな!!」 勢いよく起き上がりながら喚き散らした笹良の顔は、見たことのないくらいに赤く染まっていた。耳朶まで赤くなっていることに吹き出しそうになりつつ、にっこり微笑みながら口を開く。「実際俺もイキそうだったし。ずげぇ気持ちよかったよな!」「嘘つくなよ……。加賀屋のと俺のを擦り合わせて、ほんの数回だけだったのに。あんな短時間で、イキそうになるわけないだろ」「ホントだって! 笹良のがビクビク震えて、びゅーってイったときの衝撃は、かなりの気持ちよさを感じた!」 恥ずかしさで俯く笹良を、ぎゅっと抱きしめる。素肌から伝わってくる熱が心地よかった。もう一度抱きたい衝動に駆られるくらいに――。「加賀谷、今日はもうショックすぎて無理だから。その……腰に当たってる」「しょうがないだろ。三擦り半でイった笹良が可愛くてつい」「だからそれを言うなって。これ以上頭があがらなくなる……」 しょぼくれた笹良の頬に、触れるだけの優しいキスをした。「だったらさ、次の機会で1分は持たせろよ」「は?」 唐突に提案した言葉を聞いた笹良は、口を開けっぱなしにしながら、目の前にある顔を見つめる。呆けた笹良の視線を独り占めしていることに喜びを感じつつ、胸を張って説明した。「今の現状、バスケでは笹良が優位に立ってるけど、ベッドの上だと俺が優位なわけ」 告げられた内容が否定できないセリフだったせいで、笹良の心情は大変複雑だったらしく、顔をしかめたままだった。「バスケとコレを一緒にする、加賀屋の神経が信じられない」「だってお互い向かい合ってるだろ。これって、マッチアップだと思うけどな」「マッチアップ。こんな俺が加賀屋に評価されてるのか?」「普段は、早くないんだろう?」 痛いところを絶妙なタイミングで突っ込んだ俺に、笹良は顎を引いて言葉を探す。「は、早くない、と思うけど」「実力を出し切るには俺ってば、すっげぇいいライバルで恋人だと思わないか?」
last update最終更新日 : 2026-01-06
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恋のマッチアップ番外編 膠着状態14

抱きしめながら偉そうに胸を張り続けると、笹良は俺に冷凍庫並みに冷たい視線を送った。「自画自賛するなんて、加賀谷らしい……」「バスケもエッチも上手な俺のこと、笹良は意識しない?」『好き』という言葉をあえて封印して、笹良が答えやすいように誘導する。そんな考えをあっさり見破っているだけに、笹良は素直に答えるのが悔しくてならなかった。「どうだろうな……」「気にしろよ」 意味深に微笑むなり、笹良の背中に触れていた手が、ゆっくり下りていく。背中から腰へ、そして――。「ちょっと待てっ!」 リーチの長い俺の腕を、笹良は慌てて掴んで動きを止めた。「さっきは、指2本しか入らなかったからな。あと1本増やして、次回は是非とも俺のを挿入できるように、少しでも馴らしておきたいなと思ってさ」「2本でもヤバかったのに、これ以上俺の躰を改造しないでくれ……」 俺の腕を握る手の力を、笹良は視線を伏せながらぎゅっと込める。「笹良、どんな感じでヤバかったんだ?」 動きを止められた腕をそのままに、笹良の耳元で囁きかけた。「そりゃあ、裂けそうな感じというか」「2本くらいで裂けるかよ。俺のを挿れるのに、あと何本必要かわかってるだろ?」 艶を帯びた声に、目の前で笹良はあくせくする。「あと何本って、そんなの――」「俺ので笹良の中を、めちゃくちゃにしたい。感じるところをごしごし擦って、俺のカタチを覚えさせながら、笹良を絶頂させたいんだ」「絶頂っ、なに言ってんだ加賀屋……」「イってるときの笹良、可愛いしエロいし、すっげぇ大好き」 わざと耳に吐息を吹きかけて、笹良を感じさせた。すると俺の腕を掴んでいた手の力があっという間に緩んだのをきっかけに、双丘を鷲掴みする。「ひっ!?」 簡単に再燃した笹良の躰の事情を知ってるくせに、あえてそこには触れずに、ほどよく筋肉のついた双丘を優しく揉みしだいた。このまま流されてくれますようにという卑猥な想いを込めながら、ベッドの上で仕掛けた俺の行為に抗いたい笹良は、目を白黒させる。「加賀谷、怖いんだ。すべてをあげたあとでおまえに捨てられたら、イップスを患った頃に戻ってしまうんじゃないかって。そうなったら絶対に立ち直れな――」 ありえない話を震える声で語る笹良に、言葉を奪うくちづけをした。自分の中にある想いを注ぎ込むようなそれに、笹良は黙って
last update最終更新日 : 2026-01-07
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不器用なふたり 新たなる挑戦

 大学生のとき、友人だと思っていた同性から好きだと告白された。好きの意味が恋愛感情だというのは理解できたものの、それ以上の感情で友人を見ていなかったため、困惑しながら断った。 それでも友人は俺のことを諦めずに、何度も告白を繰り返した。結局そのしつこさに根負けして、付き合うことにした。 同性とのはじめての付き合いは、異性との交際に比べて楽しかった。友達よりも親密な関係になることに最初は戸惑いもあったのに、それを吹き飛ばしてしまったのは、友人が俺のことを心から愛してくれたからだろう。 その想いに報いようと、俺も友人を愛した。その結果、束縛する気持ちが芽生えはじめ、友人の友達付き合いを狭める言動が増えてしまった。そのことに耐えられなくなった友人は、ほどなくして俺に別れを告げた。 そんな自業自得を払拭すべく自分の好きなことに没頭しようと、お金を貯めて中古車を手に入れ、峠を走ることに喜びを見出した。 そこで新たな友人に恵まれ、走りにより一層磨きがかかった。 だけど楽しかったのは最初だけだった。気がつけば俺の走りについていける者がいなくなり、『白銀の流星』という二つ名がつけられ、友人たちとの距離をあけるものになってしまった。 そんなつまらない毎日を変えてくれたのは、峠で休憩しているデコトラの運転手だった。普段見慣れないトラックに惹かれてそばに駆け寄り、年配のドライバーに話しかけた。 トラックに興味のあることを告げると、デコトラから受ける見た目の悪さで最近はなかなか仕事がないことや、ある程度の年齢になったら躰にガタがきて、荷物の搬入をするのもつらい仕事だということと一緒に、大変な境遇だけど楽しく仕事を続けている現実を、年配のドライバーは丁寧に教えてくれた。俺の耳に語られるもの、すべてが新鮮に聞こえた。「おじさんの後継者になりたい!」と思いきって告げたのに、年配のドライバーは笑ってやり過ごした。 数か月後ふたたび峠で休憩しているデコトラに、勇んで話しかけに行った。「おじさん俺、大型自動車の免許を取った。いつでもこのデコトラを運転できるよ」 俺の情熱に押された年配のドライバーは、助手席に乗せて仕事を渋々教えてくれた。 この頃は会社員として働いていたが、仕事の両立をするにはやはりキツいこともあり、一般企業をすっぱり辞めてデコトラの仕事だけに集中した。するとそ
last update最終更新日 : 2026-01-08
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不器用なふたり 新たなる挑戦2

*** せっかくの出逢いを無にしないため、俺は橋本の黒塗りのハイヤーを探し出し、エナジードリンクをいただいたお礼を告げつつ、友達になってくれと頼み込んでみた。探し出す際に見た橋本のドライビングテクニックに惚れこんだのが理由のひとつだった。 最初は難色を示していた橋本だったが、俺の過去の恋愛話を偶然耳にしたのがきっかけで、あっさり友達になってもらえた。 顔を突き合わせながら言葉を交わしていくうちに、乗ってみたいと憧れていた車を橋本が所有していることがわかり、恋心がさらに加速した。それと同時に、橋本に片想いしている相手がいることを知った。その人は、ハイヤーを日頃から使っている同性の既婚者だった。 見た目が残念すぎる自分を好きになってもらえるチャンスがあるかもしれないと淡い期待を抱き、橋本の愛車を借りて、峠のコーナーを攻めてみた。橋本にいいところを見せるべく、ここぞとばかりに頑張ってしまった結果、助手席で失神させてしまったという悲しい出来事になったが、橋本の心を動かすことに成功し、付き合うことになった。 レールのないジェットコースターのような走りをする俺の隣に乗っているうちに慣れて、失神することがなくなった橋本は、道路状況を即座に分析し、的確なアドバイスをした。そのお蔭で、走りにより磨きがかかった。 そんなある日、「あのさ、面白そうなコーナーを見つけたんだ。新規のお客様を乗せたときに、それを偶然見つけたんだけど」という橋本の言葉がきっかけとなり、休日にふたりでその場所にでかけた。☆☆☆ 橋本が面白そうなコーナーだと称した県境の裏道に向けて、お昼過ぎに出発した。ふたりの休日が久しぶりにそろった貴重な時間を満喫すべく、俺のテンションが最高潮だったのはいうまでもない。「雅輝、少し眠ったらどうだ。現地に着いたら起こしてやるぞ」 県境までは、橋本がインプのハンドルを握った。走り慣れない峠道を高速走行する俺の集中力を考え、進んで運転手役を買って出たというのに、助手席にいる恋人はそんな気遣いを他所に、嬉しそうな顔でスマホをいじる。「雅輝、いい加減に」「陽さん、いつも通りに運転してくださいね♡」「は?」 妙に弾んだ俺の声に橋本が反応して、啞然としながら隣を見た次の瞬間、スマホのシャッター音が車内に響き渡る。連射モードだったらしく、機械的な音が橋本の耳に雑音と
last update最終更新日 : 2026-01-09
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不器用なふたり 新たなる挑戦3

☆☆☆ 運転席で疲労困憊の相を露にした橋本がいるのに、助手席にいる俺の笑みがとまらない。目的地につくまでにかみ合わないやり取りが、延々と続いたせいだった。「たくさんの写真をまとめるのに苦労しそうだけど、いろんな顔の陽さんがコレクションできるのは嬉しすぎる♡」「あー、はいはい。運転交代だぞ、気を引き締めろよ」「わかってますって。最初は普通に登って行くので大丈夫ですよ」「おまえの普通は普通じゃねぇよ……」 橋本は峠の登り口の脇道にインプを停めて手際よくシートベルトを外し、颯爽と車外に降り立つ。入れ代わりに俺がシートに躰を埋めた。「陽さんのぬくもりを感じながらハンドルを握る、この瞬間がたまらなく好き♡」 シートから伝わるぬくもりを両目を閉じて噛みしめていたら、これまでの苦労を吐き出すように深いため息をついた橋本が、冷たいひとことを告げる。「きちんとシートベルトしろ。ニヤけすぎだろ……」「ニヤけちゃうのは見逃してくださいって。俺にとっては、至福のひとときなんですから」 指摘されたというのにもかかわらず、だらしない顔を晒し続ける俺に、橋本は呆れながら助手席に座った。じわりと伝わるあたたかみに、同じような表情にひきずられそうになるのを横目で捉える。俺の手前、だらしない顔を晒すわけにはいかないのだろう。橋本は必死になって、真顔を決め込んだらしい。「陽さん、シートベルト締めましたか?」「OKだ。いつでも行ってくれ」 真顔を保っているつもりでいても、隠しきれない感情が声になって表れる。ぬるい声色で返事をしたことにヤバいと思った橋本の隣で、俺は頬をパシパシ叩いてからシフトレバーに手をかけた。「白のワンエイティのあとを追いかけます」 後方確認をしながら告げた瞬間に、アクセルが勢いよく踏み込まれた。その勢いを示すように、躰がシートにぐっと吸いつく。キビキビ走る前の車を追いかけるために、アクセルが深く踏み込まれたみたいだったが、「普通に登って行く」と宣言した言葉とは裏腹な走りに、橋本は焦りを覚えた。 これまでの俺の運転の経験から遠心力で躰が投げ出されると予想して、橋本は左手でアシストグリップを握りしめながら、前方を走るワンエイティを見つめる。「雅輝くん、これ普通の走りじゃないと思うんだが」「そうなんですけど……。ワンエイティを追尾するには、これくらいの
last update最終更新日 : 2026-01-10
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不器用なふたり 新たなる挑戦4

「おまえがどこかに行かないように、時々ブレーキをかけてやんないとさ」「陽さん以外、誰のとこにも行かないっす」 橋本に言われたように、アクセルを緩めながらワンエイティとの車間距離をあけて、後方から車の動きがしっかり見えるように走行した。「雅輝ってば、穴を開けそうな勢いで、ワンエイティのケツを追っかけ回してたくせに」 執拗に自分を責める宮本の性格を知っているせいで、橋本の口から出た言葉だった。「陽さんなら、俺がそうなる理由くらいわかるでしょ?」「まぁな。ワンエイティのドライバーの動きから、ここを走り込んでる自信が走りに表れてるし、コーナリングもべらぼうに安定感がある。雅輝とは別の意味で、センスのあるヤツなんだろう」 タイトなヘアピンカーブの遠心力をやり過ごしながら指摘した橋本に、感嘆のため息をこぼした。「俺のセンスとワンエイティのドライバーのセンス、どう違うんですか?」「こんな険しい峠を口にしちゃいけない速度で、平然と走る神経。つまり、頭のネジが外れてるって意味でだ。雅輝が左のネジなら、相手は右のネジじゃねぇの」「陽さんその表現、どうかと思いますけど!」「おっ、そろそろ頂上だな。……ってなんか大勢のギャラリーがいるこの感じ、三笠山で見た光景に似ている気がする」 既視感のある雰囲気に、橋本は顔をひきつらせた。ワンエイティを羨望のまなざしで見つめるギャラリーの多さに、嫌な予感が胸を走る。「雅輝、離れたところに車を停めろ。地元のヤツに絡まれてバトルにでもなったら、間違いなく面倒なことになる」 走り慣れていない場所でのバトル――三笠山で崇め奉られていた俺がバトルで負けたとなったら、えらい騒ぎになるのは火を見るよりも明らかだった。「わかった。向こうの空いてるスペースに停めるね」 ギャラリーの目から離れるように、指示された場所に向けて大回りで徐行した。「よっ陽さん、ヤバい~!」「どうした?」 無言のまま、左手親指で後方を指差す。それにつられて、橋本は後ろを振り返った。「ゲッ! インプのケツにワンエイティがくっついてる!」「なにか気に障ること、俺ってばしちゃったのなかぁ」「おまえが途中まで車間距離つめて、ここぞとばかりにワンエイティを追いかけ回していたからだろ。きっとどんなヤツが乗ってるのか確認しに、わざわざついて来てるんだと思う」 俺
last update最終更新日 : 2026-01-11
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不器用なふたり 新たなる挑戦5

「ねぇまーくん、インプのナビシートに乗ってみたいな。まーくんの走りを、すぐ傍で見てみたい」「それは駄目っス! 信用してる人しか乗せないことにしてるので」 速攻断った俺に、橋本はニヤけそうになる。信用に値する自分が優位にたっていることについて、女に自慢したくなった。「そこにいるおじさんは、まーくんが信用する人なんだ」「陽さんは、おじさんじゃないですって!」「いやいや。若い彼女から見たら、充分におじさんだろ。しょうがないさ」 女に負けない笑みを、橋本は顔面に表した。普段お客様にしている営業用のスマイルではなく、嬉しさに揺れるような会心の微笑みだった。 ふたりが微笑みあっている姿に、どうしていいかわからなくなる。しかも谷間に腕を挟まれた状態を脱したいのに、皮膚に感じるふにふにした柔らかさのせいで、下手に動かすことができなかった。「まーくん、彼女いるの?」「付き合ってる人がいるので、この腕を離してくださいっ!」 俺が即答したのに、女は脇を締めて豊満な胸でさらに腕を包み込む。「まーくんってば、嘘ついてるでしょ?」「嘘じゃない、本当のことなんです!」「そうだぞ。コイツこう見えて年上キラーでさ、美人の彼女持ちだ」 しれっと自分のことを言った橋本に、俺は目を見開いて固まった。「まーくんが年上キラー……。なんか意外かも」 橋本の言葉を聞いて、女は腕をやっと解放する。それに安堵しながら、ふたたび何かされないように、じりじりと距離をとった。すると橋本が俺の前に立ち塞がり、さりげなく壁になってくれる。「まーくん、その彼女の写真見せて!」 ふたりそろってホッとしたのもつかの間、女に写真をせがまれて、ぶわっと緊張感が高まった。「えっと彼女ってば写真が苦手で、撮影許可がおりなくて。一枚も持ってないっす」 実際は橋本の撮影会をさきほど車内でやって、ここぞとばかりに写しまくったことを口が裂けても言えないと思った。「本当に一枚もないの?」「あ、はい。頭(ず)が高くて、なかなか頼めなくて」 頭(ず)が高いってなんだそりゃと、橋本は振り返って背後にいる恋人を白い目で見つめる。その視線に気がつき、苦笑いでやり過ごすしかなかった。「そんなんじゃセックスするのも、いちいち頭を下げて頼んでるの?」 女は大きい胸を強調するように両腕を組み、ニヤニヤしながら橋本の影
last update最終更新日 : 2026-01-12
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