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279 チャプター

この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――5

*** 町はずれに作られたゴーカートのサーキット場は、周りを森林が取り囲んでいるお蔭で、どんなにエンジン音が響いても気にならないところにあった。プレオープンということもあり、そこそこのお客様が来場していて、それなりに賑わっている様子に、橋本を含めた4人も自然と笑顔になる。「陽さん見てください。大人と子ども別々に、サーキット場があるみたいですよ」「助手席で事前にパンフを見ていたくせに、どうして気づかなかったのかわからないな」「えへへ、サーキットのコーナーの難解さに見惚れてしまって、それ以外の情報を全然読んでなかったっす☆」「クレイジーな走り屋の雅輝らしいと言えばいいのか……」「橋本さんと宮本さん、和臣が呼んでます。ちょうど受付が終わったみたいですよ」 大きなテントで受付を終えた和臣の傍で、榊が手を振りながら大きな声をあげてふたりを呼び寄せる。弾んだ足取りで合流すると、受付の奥から係員が出てきて説明をはじめた。「いらっしゃいませ! 今日はよろしくお願いします。どうぞこちらに」 誘導する係員に連れられ、小さなテントにぞろぞろ入った。中にはパイプ椅子と机がそれぞれ4つずつ置かれていて、先客でふたつ埋まっていた。「どうぞおかけください。えっと榊さんおふたりに、橋本さんと宮本さんですね。係員の佐々木と申します」 1番左の椅子に宮本が颯爽と座り、その隣を橋本が陣取ると、榊、和臣の順で席が自然と決まった。「ここで使用するカートは、大人用と子供用で分かれておりまして、大人用には200ccエンジンを搭載しています」「へぇ。結構馬力が出るんじゃないですか?」 身を乗り出すように嬉々として宮本が訊ねると、佐々木は瞳を輝かせながら声を弾ませて答える。「そうなんですよ! ゴーカートは路面と近いので、自動車とはまた違った迫力がありますし、体感速度は120キロくらいあるんです」「120キロか、ワクワクします! それだけスピードが出るなら、コーナリングも難しくなっちゃいますね」(雅輝のヤツめ、120キロくらいじゃワクワクしないクセに、よくもまぁそんなに楽しげに話せるもんだな)「恭ちゃん、120キロも体感速度があるんだって。大丈夫?」「う〜ん。あまり感じないように、アクセルを思いっきり踏まなきゃいいだけの話だろ……」 上がりまくる宮本のテンションを他所に、榊と
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――6

 堂々と恋人を放置して、佐々木と盛り上がることに不安を覚えた榊が話しかけると、橋本は肩を竦めながら呆れたように答えた。すると和臣が羨ましそうに宮本の様子を眺めつつ、ぽつりと零す。「僕ははじめての人に対して、どうしても身構えちゃうので、宮本さんがすっごく羨ましいです」「和臣、俺が宮本さんみたいに、ああやってほかの人と盛り上がっていたら、おまえは入ることができないだろう?」「そんなこと、僕には絶対に無理だよ」「つまりだ。蚊帳の外に居続けられる橋本さんのメンタル、すごいと思わないか?」「あ……、確かにそうかも!」 榊のひとことにより、宮本から自分に矛先が移ったことで橋本はドキマギしながら、羨望のまなざしを注ぐふたりを見やる。「恭介、変なことを和臣くんに吹き込むなよ。俺はそんなに、ご立派な人間じゃねぇし……」「だったら密かに、ヤキモチ妬いていたんですかねぇ」「恭介っ、てめぇ! あとでオデコ百叩きの刑だからな!」「陽さん?」 忍び笑いする榊に橋本が怒鳴り声をあげたら、宮本がやっとそれに気づき声をかけた。「なんでもねぇよ。おまえは気にせずに話を続ければいいだろ」 思いっきり顔を背ける橋本の頬に宮本は手をやり、容赦なく抓った。「いででっ! なにするんだ?」「よそ見をしてほしくなかったんです。話を聞いてください」「すみません。僕が宮本さんとゴーカートの話で盛り上がってしまって……」 済まなそうに謝った佐々木に、榊が苦笑いを浮かべながら口を開く。「いえいえ。宮本さんはそういう話が大好きだっただけですし、おふたりの邪魔になるかと思って、あえて車の話題に俺らはついていかなかっただけですので、そこのところはお気遣いなく」「それでは失礼して、説明を続けさせていただきます。今回は体験走行ということで、ひとり一台ゴーカートに乗っていただき、僕のあとについて2周走ることになります」 流暢に説明を終えた佐々木に和臣はきちんと向かい合い、緊張を隠すように両手に拳を作りながら話しかける。「コースの長さは、どれくらいあるんですか?」 人見知りする話を事前に聞いていたので、積極的に質問した和臣を見て、橋本と榊は意味深に目配せしてから微笑みあった。ふたりのその様子を、宮本は微妙な面持ちでじっと眺める。「一周400mです。二周するので800m走行することになります
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――7

「ありがとうございます。恭ちゃんでも、最後まで走ることができそうな距離でよかったね!」「和臣に俺の心配をされるとは、思いもしなかった……」「だって恭ちゃんはペーパードライバーなんだから、心配して当然でしょ」「榊さん、大丈夫ですよ。普段乗らないからこそスピードを出しちゃいけないと体が自然とセーブするので、危ない運転にはならないと思います」「そうなんですか。だったら普段運転する僕らは、気をつけなければいけないですね」 人当たりのいい佐々木の対応に、和臣は緊張せずに相づちを打ちながら嬉しげに笑った。「雅輝の場合はどうなるんだろうな。普段の乗り方を考えると、コーナーを突き破ってしまうような気がする」「陽さん酷い! そんな危ない運転、俺は絶対にしませんからね」「宮本さんのご職業はなんですか? 普段の乗り方って……」 疑問に思ったのか、橋本と宮本の会話に割って入った佐々木。きょとんとした表情で、目の前にいる面々を見やる。真相を知っている榊と和臣は、互いに顔を見合いながら苦笑いを浮かべていた。「えっと俺は、トラック運転手なんです……。大きい車を運転してるからって、荒っぽいことは危ないからしていないというのに」「ちなみに俺はハイヤー運転手で、隣のコイツはペーパードライバーだから、俺が代わりに運転手してる。和臣くんは会社の営業で、時々乗るんだったよな?」 しどろもどろに答える宮本を他所に、橋本は榊たちの分まで丁寧に説明をして、佐々木の返答を待った。「あ~ドライバー同士だから運転のことについて、お互いいいネタになりそうですね」「そうなんです! 陽さんは本当に容赦なく、いろいろ突っ込んでくるから」「容赦なくコーナーに突っ込んでいるのは、どこのどいつだよ?」 普段見ることのできるふたりの様子に、榊は笑いを堪えながら話しかけた。「はいはい、そこまで! おふたりが仲良くしているせいで、佐々木さんが困っているでしょう。そろそろ本題に入らせてあげたらどうです?」「恭介悪い。雅輝は無視したままでいいから、佐々木さんどうぞ本題に移ってください」 食ってかかりそうになっている、宮本の視線を完全無視した橋本はきちんと前を向き、営業スマイル全開で佐々木と対峙する。そのことでしょぼくれた宮本と、崩れることのない微笑みを頬に湛える橋本、気を遣いまくる榊と和臣という微妙なカ
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――8

☆☆☆ 安全のために、きちんとヘルメットを装着後に、ゴーカートにそれぞれ乗り込む。前を先導する佐々木の後ろには榊を筆頭に、和臣、橋本、宮本の順番で縦に並んで走行することになった。 出発する前に「ゆっくり走りますので、焦らずついてきてくださいね」と言われていたこともあり、ついていくのに支障のないスピードで佐々木が走行するお蔭で、榊が安心して運転していることを、コーナーでのハンドリングやブレーキ操作で橋本は感じとった。(和臣くんも当然問題なしだが、一番の問題児はいったい、どんな運転になっているやら――) 大きなコーナーのあとはちょっとした直線コースだったので、橋本は素早く振り返り、宮本の様子をチェックしてみる。「……アイツ、なにやってんだ?」 思わず呟いてしまうような運転を、宮本が背後でしていた。橋本の後ろをピッタリついていると思っていたのに、実際はかなり後方を走行しているだけじゃなく、微妙な蛇行運転を繰り出している状態。 遅い理由はそのせいなのが丸わかりだったが、どうしてわざわざ小刻みにハンドルを切っているのか、そこのところの理由がさっぱりわからなかった。(もしや、タイヤのグリップ力を調べているのか。それともタイヤと路面の相性を調べているのかわからないが、雅輝がクレイジーな走りをしていないだけ、まだマシだと言える……) なにも見なかったふうを装うべく、橋本はすぐに前を向き、和臣の後ろを模範的に走行する。距離をあけて背後を走っている走り屋の恋人に、俺の真似をしろと言わんばかりの丁寧な運転を見せつけたのだった。
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――9

☆☆☆ コースを下見するように、慎重に走った一周目よりも、少しだけスピードをあげて二週目を走行したお陰様で、ほどよくレースの雰囲気を味わえた4人は、ゴーカートを降りてから笑顔でヘルメットを外した。「意外と楽しかったな」 橋本が榊に話しかけると、興奮を抑えられないように弾んだ声をあげる。「ほんの少しだけアクセルを多く踏んだだけなのに、すごく早く走った気分になりました。二周目がめちゃくちゃ早く終わった感じです!」「恭ちゃん、上手に運転していたね。運動神経がいいせいかな、僕よりもカーブの曲がり方が良かったと思うよ」 3人で感想を言い合っているところに、佐々木が宮本と並んで傍にやって来た。完走後に、いろんなことで一番反応しそうな宮本が話に加わらなかったことを不審に思った橋本は、すぐさま話しかける。「雅輝、なにやってたんだ。おまえらしくなく、ずっとトロトロ走って……」「えへへ。実はテントで説明を聞いてるときに、佐々木さんからサーキットでレースができる話を聞いていたので、今こっそり申し込んできたんです!」「いつ間に……」「陽さんたちが盛り上がっていたときですけど。蚊帳の外で寂しかったっす!」 宮本はちょっとだけむくれながら、橋本に体当たりを食らわせた。寂しさを表すような体当たりは、橋本の躰を大きく揺らすものだった。「橋本さん、榊さん、コースにいるゴーカートがはけてからレースを開催しますので、もう少しだけお待ちくださいね」「げっ! 俺たちのために、サーキット場を貸し切りにするのかよ!」「宮本さんがポケットマネーを使ってくれたお蔭です」「佐々木さんっ!」 しれっと内情を暴露した佐々木に、宮本が止めに入ったがすでに遅し。和臣が宮本の傍に慌てて駆け寄り、ぐいぐい袖を引っ張った。「宮本さんひとりで決めるなんて、あんまりですよ! みんなで出かけているんだから、ちゃんと僕らに相談しなきゃいけないことです」 和臣の持つ大きな瞳でキツく睨まれた宮本はピキンと固まり、視線だけで橋本に助けを求める。(おーおー、可愛らしい和臣くんに怒鳴られて、雅輝のヤツすっげぇ困ってる。たまには俺の苦労を思い知りやがれ!) 宮本からのヘルプをやり過ごすべく、橋本が明後日のほうを向くと、榊が和臣を宥めるように頭を撫でた。
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――10

「和臣の言うことは、確かに正しいと思う。だけど宮本さんは俺たちがここに来て、楽しそうにしているのを間近で見ていたから、急にサプライズしたくなったのかもしれないぞ」「キョウスケさん……。ありがとうございます、そうなんです」「ほらな!」 榊のナイスアシストに、宮本は瞳をキラキラさせながら声高に話しかける。「俺、また4人で出かけることができて、すっごく嬉しかったんです。しかもみんなでこうやって、走ることの喜びを分かち合えたのが、さらに嬉しさを引き出したというか……」 走ることになると嬉しさのあまりに口数が増える宮本を、橋本は微妙な面持ちで眺める。いつもなら自分だけが見ることのできる姿だけに、複雑な心境だった。「和臣さん、あの…この間一緒に出かけたときの罪滅ぼしに、俺に払わせてもらえませんか?」「罪滅ぼしなんて、そんなこと全然気にしてないですよ。ねぇ恭ちゃん!」「ああ。宮本さんにそんなふうに思わせているなんて、俺たちのほうが心苦しくなってしまう」「恭介、和臣くん、悪いが雅輝の気持ちを立ててやってくれないか? コイツ、言い出したらまったくきかない上に、話をややこしくする男だからさ!」 宮本の肩を叩きながら、いきなり話に割って入った橋本が、ふたりを納得させる話を展開させていく。(元はと言えば、俺が恭介に恋心を抱いたことが原因なんだから、この場合俺が払うのが筋なんだけど。代わりに雅輝が進んでしてくれたことに、感謝しないといけないな)「陽さん……」「いつもワンテンポ遅れるおまえが、こうして積極的に行動したこと、すごく嬉しく思う。ということで、俺はありがたく乗っかることにする」「じゃあ僕らも――」「そうだな、宮本さんありがとうございます!」 榊と和臣は宮本に向かって、丁寧に頭を下げる。「俺に頭を下げてる場合じゃないですよ。これから4人でレースをするんですから、闘志を燃やしてもらわなきゃ!」 偉そうに胸をそらす宮本に、橋本は苦笑いを浮かべながら指をさす。「コイツ、俺たちに勝つ気が満々みたいだぞ。雅輝に言われたとおりに、闘志を燃やしながら作戦を考えないとな」 4人でこれからおこなわれるレースを想像し、子どものようにはしゃぎながら話をしているうちに、サーキット場の準備が整ったことを、佐々木から声をかけられて知る。「横一列に並ぶよりも、実力差で縦に
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――11

(白銀の流星と呼ばれたクレイジーな雅輝の後ろに、俺がつくわけないだろ! わざわざいらないプレッシャーをかけようとしやがって) 思いっきり口元を引き攣らせた橋本は、わざとらしく満面の笑みを頬に滲ませながら、宮本に話しかける。「雅輝くん、なにを言ってるのかなぁ? このメンツでいちば~ん早く走れるくせに、そんなことを言うなんて。帰ったらお仕置きだぞ♡」「お仕置き……。陽さんからお仕置きされる。むぅ……」 優しく注意を促した橋本のセリフに反応した宮本が、その場でフリーズした。次第に表情が崩れていく宮本の面持ちに、橋本がヤバみを感じた瞬間、榊が場を引き締めるような一本締めをした。「さ、さぁそろそろ、みんなでレースをしないと、待ってるお客さんの迷惑につながっちゃいますよ!」 この場に流れる空気を瞬時に悟った榊の采配に、橋本は心の中で拍手を送った。「そうだそうだ、早いとこはじめるぞ!」 橋本はだらしない宮本の顔を引き締めるべく、背中を強く叩いてから、颯爽と自分が乗るゴーカートに向かった。背中の痛みに顔を歪ませた宮本が、小走りで橋本の横に並ぶ。「陽さん、俺の走りを見ててくださいね」「練習ではずっと、俺のあとを追いかけてたくせに。そんな大口叩いて大丈夫なのか?」「上手な陽さんの運転をずっと眺めることができるこの瞬間だからこそ、幸せを感じていたかったんですよ。こんな機会、滅多にないでしょ?」「おまえ、そんな理由であんな走りをしていたのか……」 宮本らしい返答に、橋本までも幸せを感じてしまった。「だけど今度は俺の運転を、陽さんに見てもらいたいなって」 宮本は甘さを感じさせるような声色で告げながら、橋本のてのひらをぎゅっと掴んだ。掴まれた衝撃をそのままに、橋本は小さく微笑む。「おまえから目を逸らすわけがないだろ。ちゃんと見ていてやるよ」「お仕置きも約束ですからね!」 橋本を掴んだてのひらがぱっと放された途端に、隣にいた宮本が逃げるように去って行く。「雅輝のヤツ、俺に拒否権を発動させないように逃げたな。どうしてお仕置き込みなんだよ……」 苦笑したままヘルメットを被って、ゴーカートに乗った橋本。自分よりも後ろに控えている宮本の顔がだらしないことになっているのは、容易に想像できたのだった。
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――12

☆☆☆ 4人がそれぞれのゴーカートに乗り込み、準備ができたことが傍からわかると、場内に響き渡るような放送が耳に聞こえてきた。「これからおこなわれるレース第三回目は、男性4人組のお客様になります! 二周する間に見られるであろう、火花散る友達同士のやり取りをお楽しみください!!」 その放送で、場内にいる客からの視線を一斉に浴びることになった4人は、自然と緊張感が増していった。(――間違いなく雅輝の走りに、ここにいる全員が魅了されるんだろうな) 橋本が微妙な気持ちに陥ってる間に、目に映る信号が赤から青に点灯し、大きな破裂音がした。先頭にいる榊が勢いよくスタートすると、それを追いかける和臣が、榊のすぐ後ろをついていく。 少しだけ離れた位置からふたりを追いかけた橋本の背後に、宮本の気配がなかった。(俺と同じように遠くから前の車の動きを見て、走行ラインを決めようとしているのかもしれない) 目の前に左回りのコーナーが迫った。ブレーキングして適度にスピードを落とし、最短距離で攻めるべく、前の車と同様にイン側のラインを走行する。 イン側を綺麗に攻めたゴーカート三台を、一番後方にいた宮本は外から抜かした。それもあっという間にアウト側からサクッと抜かされた出来事について、橋本は驚きを隠せない。「雅輝っ!?」 ブレーキでスピードを落としているコーナーだからこそ、抜かされること自体不思議じゃなかった。自分たちは減速しているのに対して、宮本の運転するゴーカートはアクセル全開でコーナーを駆け抜けていったので、なにがいったいどうなっているのかわからなくなる。 先頭にいた榊と宮本の距離が、あからさまに離れていった。「まったく。相変わらずどんな車でも自分のものにして、ポテンシャルを引き出しちまうんだから、すげぇとしか言えない」 ぽつりと独り言を呟いた橋本だったが、もう一台意外な運転をするヤツを目にする。 圧倒的なドライビングテクニックを使い、ブレーキもそこそこに、アクセルワークでコーナーを次々と突破していく宮本に追いつこうと、榊が必死に追いかける姿だった。 尋常じゃない速さの宮本に引き寄せられるように、人が変わったような走りを見せる。いつもの冷静沈着な榊は、そこにいなかった。(なんていうか、和臣くんを追いかけてる恭介を表している感じと言うべきか) クレイジーな走行
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――13

☆☆☆ 宮本がゴールした瞬間に、盛大なファンファーレが場内に鳴り響いた。ヘルメットをかぶっていてもハッキリわかるくらいのボリュームは、相当なものだと思われる。「ゴーカートを自分の手足のように操り、安定感のある走りで圧倒的な勝利!! トップは一番後方を走っていた宮本さんです! タイムは今までのコースレコード! 8秒も縮んでます!」 うるさいくらいに盛り上がるサーキット場を尻目に、静かにゴールした橋本は、晴れやかな気持ちでゴーカートを降り、ヘルメットを外した。先にゴールしていた笑顔の宮本に、榊と和臣が興奮を隠しきれない様子で話しかけているので、どうにも中に入りにくく、足が重たくなる。「陽さん、お疲れ様でしたっ!」 3人の輪に入りにくそうに近づく橋本にいち早く気づいた宮本が、両手を左右に大きく振ってアピールする。誰よりも先に自分の存在を察知した恋人に、橋本は少しだけ照れながら声をかける。「ぉ、おう。雅輝すごいな! あの走りは後ろで見ていても、驚きしかなかったぞ」 苦笑いした橋本が話に加わると同時に、テントで放送していた佐々木も、走ってやってきた。「宮本さん、本当に素晴らしい走りでした! 僕の出した記録を、簡単に超えちゃうなんて」「えっと…あのすみません。皆で走るのが楽しくて、つい暴走しちゃいました」 暴走という言葉で自分の走りを表現した宮本に、橋本をはじめ榊や和臣までもが、意味ありげな微笑みを絶やさなかった。「宮本さんは、なにかやっていたんですか?」 なにも知らない佐々木の問いかけに、宮本は呆けた顔を見せる。「へっ?」「僕はゴーカートの全国大会に何度か出ているんですけど、宮本さんのような走り方を見たことがありません。なんていうか、独特のリズムがある感じですよね」「あ、その……むぅ」「雅輝は公道で走り屋をしていた。ただそれだけだ」 宮本が口ごもると、橋本が代わりに真実を告げた。「公道で走り屋……。それであんな走りができたんですね」 佐々木は瞳をキラキラさせながら、宮本の右手を両手に取り、ぎゅっと握りしめる。すぐ傍でそれを見ていた橋本は、黙ったまま繋がれた手を眺めた。
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この想いをゴーカートのスピードにリンクさせて――14

「恭ちゃんの走りも凄かったと思うんですけど、橋本さんはどう思いましたか? 僕、全然追いつくことができなくて!」 妙な空気を素早く読んだ和臣が、不機嫌になりかけた橋本に話しかけると、宮本はやんわりと佐々木の手を解き、橋本に向き合った。「陽さんってばもっと早く走れるくせに、俺らの走りを特等席から堪能するなんて、本当にズルいです」「あ、まぁな。和臣くんも恭介を追いかける姿、すげぇ感動した。というか、恭介の神経はいったいどうなってるんだ? ペーパードライバーとは思えない走りをしていたぞ」 橋本はふたりに気を遣わせてしまったことがどうにもいたたまれなくて、思わず榊に近寄り、前髪をあげてからいつものようにおでこを叩いた。「いたっ! 八つ当たりするなんて橋本さん酷いです」「八つ当たりじゃねぇよ。褒めてやってるんだ」 ふたりのやり取りを間近で見ていた佐々木は、お腹を抱えて笑いだした。「四人とも、本当に仲がよろしいんですね」 いきなり褒められたことが信じられなかった橋本は、ぽかんとして佐々木の顔を見つめた。橋本にオデコを叩かれた榊が、痛んだところを撫でながら、宮本に視線を飛ばす。「宮本さんは橋本さんに、こういうことをされていないんですか? これはこれで仲がいいと言われちゃうと、俺としては疑問なんですけど」「恭ちゃんと橋本さんのやり取りは、微笑ましいものがあるって。だから佐々木さんは、仲がいいと言ったんだと思うよ」 おっとりした宮本が答える前に、和臣が流暢に答えてしまった。バラバラなやり取りを繰り返しているというのに、皆が笑顔をキープしたままだからこそ、佐々木に仲がいいと言われたんだろうなと、橋本は勝手に納得してしまった。「陽さん、キョウスケさんに手を出しちゃ駄目ですよ。そういうのは俺だけにしてください」「おいおい、みずからドМ発言して、わざわざ自分から笑いを取りに行くなよ……」 榊の質問をスルーして、すごいことを強請った発言で、宮本以外大爆笑に陥ったのは言うまでもない!
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