胆沢の里に束の間の、そして硝煙の味のする静寂が降りていた。 戦の昂ぶりは初春の夜風に削り取られ、今はただ掘立柱の家々の隙間から漏れる頼りなげな火光だけが点々と灯っている。 瑞礼は、獣の脂と煙が染み付いた自宅の厚い皮垂れをくぐった。 途端、燻された干し肉の濃厚な香りと、家屋を包む湿った熱気が肺を満たす。それは外の戦場に満ちていた鉄と内臓の生臭さとは対極にある、泥臭くも愛おしい生の臭気だった。「――兄さま!」 奥から、弾かれたように身を乗り出した影があった。 妹の瑞白だ。麻の衣に鹿皮を重ね、夜の色を映した髪を後ろで束ねたその姿は、この北の大地に根ざした野の花のように、逞しくも愛らしい。「無事だったのですね……!」 駆け寄る彼女の瞳に、瑞礼の胸当てにこびりついた乾きかけの黒ずんだ血が映る。瑞白は一瞬吐息を凍らせたが、すぐに兄の瞳の奥に宿る理性を見出し、安堵の震えを漏らした。「ああ……今日はただの小競り合いだ。心配はいらない」 瑞礼は言った。だがその言葉は、自身の喉の奥で重い泥のように停滞した。 朝廷との諍闘はもはや外交という名の均衡を捨て、純粋な殺戮へと変質している。 特に今日の敵は退き際が不気味なほどに整っていた。闇へ消えた彼らの背後には、まるで次なる刃が目に見えぬ糸で手繰り寄せられているような、確信に満ちた死の予感だけが残されていた。 瑞礼はその不吉を心臓の裏側へ押し込み、声音だけを柔らげた。「お前こそ、怖くはなかったか」「怖くなんてありません。だって、兄さまたちが守ってくれているもの」 瑞白は気丈に、あるいは自分に言い聞かせるように微笑った。「それに、今日は特別なご馳走があるんです。熊の脂身と、山菜を丹念に煮込んだ汁物ですよ」 囲炉裏の鍋が低い唸りのような音を立てている。 瑞礼は武具を解いた。鉄の重みから解放された肩が、皮肉にも、より深く沈み込むような倦怠感を覚える。火のそばに座り、凍てついた手足の末端に炉火の熱を招き入れ
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