瑞礼は、石積みの祠に耳を押し当てた。 分厚い木戸の向こう側から、かすかな、しかし神経を逆撫でするような音が漏れ聞こえる。 じゃり、がりっ……。 石床を金属が擦る音。誰かが重い鎖を引きずり、身じろぎをしている音だ。そのたびに鎖が皮膚を噛む、湿った気配が混じる。「……緋宮様、聞こえますか?」 瑞礼は声を殺して問いかけた。その呼気は白く凍り、祠の冷たい内壁に吸い込まれていく。 一瞬、擦過音が止まった。死のような沈黙が降りる。 やがて、闇の底から地を這うような低い声が返ってきた。「……ずいぶんと、間の抜けた問いだな」 聞き覚えのある、皮肉めいた声音。だがその響きは以前よりも枯れ、砂利を含んだように傷ついている。それでもなお、その底には隠しきれない安堵の色が、一滴の蜜のように滲んでいた。 瑞礼は凍えた指で戸を引き開ける。 石段の先、太い格子の向こうに、彼はいた。 龍ノ淵で見たときよりも、幾分か痩せている。 白衣は薄汚れ、泥と血の染みが点々と花を咲かせていた。乱れた銀髪が顔にかかり、その隙間から覗く肌は陶器のように蒼白い。 首と両手首には、肉に食い込むほど分厚い鉄の環が嵌められ、そこから伸びる鎖が石壁の奥深くへと打ち込まれている。 まさに、囚われの獣。あるいは、翼をもがれた神の末路。 だが、その金紅の瞳だけは死んでいなかった。決して飼い慣らされぬ熾火のような光を放ち、暗闇の中から瑞礼を射抜いた。「……瑞礼、か」「はい……瑞礼です」 格子の隙間から身を乗り出す。指先が震えるのは、寒さのせいだけではない。 目の前のこの惨状。神を繋ぐという冒涜。それが許せなくて、無力な自分が悔しくて、視界が熱く滲む。 緋宮は呆れたように息を吐き、鎖をじゃらりと鳴らして額を押さえた。その動作だけで、痛みに顔をしかめているのが見て取れた。「なぜ戻ってきた。&hel
Last Updated : 2026-01-19 Read more