瑞礼と緋宮の沈黙の間を、都特有の脂を含んだ生ぬるい風が吹き抜けていた。 やがて、瑞礼は唇を開く。言葉は乾いた喉に張り付いて、うまく音にならなかった。 「……では、緋宮様は、どうされるおつもりなのですか」 「さあな」 緋宮は縁に背を預け、天井を仰いだ。薄い板の向こうで、風が家の骨組みを揺らすように軋んでいる。「人は、御影山の理を気に入ったのだろう。 龍ノ淵を『国の聖なる縁』と呼ぶなどと言い出したあたりから、嫌な予感はしていた」 瑞礼は、胃の腑に冷たい石が沈むのを感じた。「……昼間、中臣様が仰っていた、『新たな縁』というのは」 「淵の理を、ここへ写そうとしているのかもしれん」 緋宮は静かに、けれど確信を持って言った。「龍が鎮まるための座。それをこの地にこしらえれば、『龍は都に留まった』という欺瞞の物語が完成する」 その底へ沈められるのは、いつだって誰かだ。その現実が、瑞礼の胸を重く圧迫する。 御影山の淵では、幾人もの贄が水の底へ沈んでいった。今度は、この都で。宮中のどこかに、新たな淵をこしらえ、その底へ――。 想像するだけで喉が引きつる。瑞礼は唾を飲み込んだが、乾きは癒えなかった。「そんなこと、させては――」 言いかけたところで、緋宮が首を振った。「暴れれば、止められるかもしれん」 ぽつりと落とされた言葉だった。 「俺が都の空ごと裂き、風と水でこの御所を洗い流せば、そんな儀礼の座など、簡単に壊せるだろう」 瑞礼は思わず息を呑んだ。御影山で見た雷よりも、昨夜の風よりも、今その言葉の方がよほど恐ろしく、そして甘美な誘惑のように聞こえた。「だが」 緋宮はゆっくりと目を閉じた。 「それもまた、『守るために滅ぼす理』だ。 御影山で人がやってきた愚行を、俺が己の手でなぞることになる」 しばしの沈黙。「俺はもう、その役を引き受けたくない」 その告白は、呟きよりも小さかったが、瑞礼
Última atualização : 2025-12-26 Ler mais