鍬を振り下ろす瑞礼の背に、低い声がかかった。「……お前は、いつも真面目だな」 振り向けば、ちょうど濡れ縁に緋宮の姿があった。灯を宿すような金紅の瞳が瑞礼の姿を映し、その口元にわずかな笑みが浮かぶ。 緋宮は袖をすっとたすきに掛けると、そのまま濡れ縁から土の上へと降り立った。 その動きに畑を耕していた女たちが一瞬だけ顔を上げ、やがて遠慮がちに頭を垂れた。その仕草には、静かな敬意とわずかな畏れが滲んでいた。「花嫁が働いているというのに、俺だけ何もしないわけにはいかぬだろう」 淡々と告げる声は冗談とも本気ともつかず、しかし瑞礼の胸を強く揺さぶった。 緋宮はためらいなく鍬を手に取り、柄を握った。 その姿に、瑞礼は思わず呟いた。「……そんな姿、似合わない」 けれど緋宮は微笑を崩さず、ゆるやかに土を割った。大きな手が振り下ろすたび土は深く耕され、瑞礼よりも整った畝が出来ていく。 緋宮と肩を並べて鍬を振るうふたりの姿に、女たちは目を細めて笑った。「……仲睦まじいこと」 その囁きに瑞礼は思わず顔を赤らめ、土に視線を落とした。 鍬を振り下ろすたびに緋宮の衣の裾が揺れ、土の匂いと共にその気配が近くなる。 その並びは不思議なほど自然に溶け合い、まるで昔からこうして並び立ってきたかのようだった。――なぜ、こんなにも懐かしく感じるのか。 胸裏に残るのは夢の中で見た焚火の光、並んで座したぬくもり。あれはただの夢なのか。それとも、かつて確かにあった記憶なのか。 瑞礼は鍬を握る手に力を込め、土の匂いに意識を縫いとめようとした。だが隣から伝わる気配は、夢と現を重ね合わせるように瑞礼の心を揺さぶり続けていた。 作業を終え、再び湯殿に案内された。 瑞礼は衣を脱ぎながらわずかに声を潜める。「……一人ずつ、入ろう」 その言葉に緋宮は振り
Huling Na-update : 2025-11-05 Magbasa pa