Home / BL / 龍君の花嫁代わり / Kabanata 41 - Kabanata 50

Lahat ng Kabanata ng 龍君の花嫁代わり: Kabanata 41 - Kabanata 50

52 Kabanata

41話 焔と雪のあわい

 夜が深まっていた。 外の山路では、細かな雪が土を薄く覆っているだろう。洞の奥まで冷たい空気が吹き込み、細い笛のような音を運んできた。 瑞礼は火床の傍に腰を下ろし、焔を囲む石のあいだから手を伸ばして、木片をひとつ足した。ぱちりと音がして、橙の光が瑞礼の頬を照らす。 その光の向こうでは緋宮が黙して身を横たえていた。瞳の奥に炎を映しながら、静かに何かを思っているようだった。「――この焔の匂いが、懐かしいです」 瑞礼がふと呟いた。「里でも、冬が近づくころになると、皆で火を囲みました。木々の枝を折って燃やし、その煙で穀を燻して、来年の実りを祈るんです」「人は、祈るのが好きだな」 緋宮の声は淡く響いた。「……生きるというのは、祈ることと同じなのかもしれません」 瑞礼は笑みを浮かべたが、その笑みはどこか遠かった。 炎の揺らぎが瞳に映る。 しばらく沈黙ののち、瑞礼は小さく息をついた。「……妹が、いました。瑞白といいます。まだ幼くて、いつもわたしのあとをついて回っていたんです」 緋宮がゆるやかに顔を上げた。「お前がここに来た日、花を手渡してくれたと言っていたな」「ええ。春になると野を白く染める花を、里を離れる朝に手渡されました。『わたしだと思ってお供させてください』と言って。 白い、小さな花です。……あの子は、花の匂いが好きで、よく摘んでは髪に挿していました」 瑞礼の声が細く震えた。「……いつか、もう一度会いたいと思います」 焔の音がひときわ大きく弾けた。 緋宮は炎を見つめながら、低く言った。「やはり、帰りたいと思うのだな」「……そうですね」 瑞礼は目を伏せ、しばし考え込む。「けれど、この淵にも瑞白の名残が咲いています」 そう言って、火床の向こうを指さした。 果実の木の足元に、白い花が咲いている。龍ノ淵に来た時植えた花は、その数を増やしていた。 冷たい空気の中でなお、咲き誇るように揺れている。夜の火に照らされて、花弁が雪のように光っている。「手を掛けてやると、冬でも咲き続けるのです」 瑞礼は微笑した。「人の手が届かぬところでも、生は続いている。……瑞白も、きっと同じです」 緋宮の瞳がかすかに揺れた。 しばしの沈黙のあと、低く問う。「……なぜ、お前がこの地に来ることとなったのだ?」 瑞礼は焔を見つめたまま、ゆっくり
last updateHuling Na-update : 2025-12-05
Magbasa pa

42話 雪の墜ちる音

 風が低く鳴っていた。夜明けの光はまだ地に届かず、洞の天蓋の裂け目から薄く雪が降りてくる。 瑞礼は洞の縁の岩に積もる雪を見つめながら、凍えた息を吐いた。白い吐息が夜気にほどけ、雪片はひとひらごとにかすかな光を帯びて、音も立てずに地へ吸い込まれてゆく。 火床の火はとうに消え、灰が沈んでいた。瑞礼は手を伸ばし、指先で残り火を寄せる。けれども、ぬくもりはもうほとんどなかった。 いつもなら、まだ眠っている時間。けれど――その朝はなぜか胸騒ぎがした。夢の底で太鼓の音を聞いた気がする。遠く、雲の下で鳴っているような、くぐもった響き。 祭祀の記憶を呼び起こすその音が、まだ耳の奥に残っていた。 その時、湖の方で何かが砕ける音が響いた。鈍く、骨の内側まで響くような衝突音。 ――グシャリ。 それは、水音と言うにはあまりに重く、湿った衝突音だった。何かが氷を砕き、その下の水面を叩きつけたのだ。 瑞礼は弾かれたように顔を上げた。 洞の空気が震えている。ただの氷柱が落ちた音ではない。「肉」と「骨」を持った何かが、高みから叩きつけられた音だ。 嫌な予感が背筋を駆け上がる。瑞礼は無我夢中で湖へ駆け出した。足元の雪は深く、踏み出すたびに軋む。息が荒くなり、喉が痛む。 それでも足を止められなかった。胸の奥のざわめきが、理由もなく彼を急かしていた。 湖の中央近く、氷膜が軋み、鈍い音を立てて割れている。白い霧の奥から、暗い影がゆっくりと浮かび上がった。 それは最初、ただの木か獣の影のように見えた。けれど、水面を撫でた風がその形をめくると、淡い布が揺れ、肌の色と広がる赤が覗いた。 瑞礼は足を止め、次の瞬間、氷の方へと身を乗り出した。薄い膜がひびを広げ、きぃ、と乾いた音を立てる。 それでも構わず進んだ。揺れる氷に足を取られながら、裂けた縁に膝をつく。息が白く弾け、肺が焼けるように痛んだ。 それは――若い女だった。手は何も握らず、胸の前で固く組み合わされている。薄衣の裾は水とともに凍りつき、髪は湖水の冷たい指に絡め取られていた。唇は紫に染まり、まつげには細かな氷の粒が雪のように白く積もっている。 あまりに静かな顔だった。祈りの途中で眠りに落ちたのかと錯覚するほどに。 瑞礼は女の袖を掴み、必死で氷の上に引き揚げる。滑る布を何度も掴み損ね、そのたびに指が裂けた。手のひらを染める
last updateHuling Na-update : 2025-12-06
Magbasa pa

43話 封ぜられた理

 雪は夜のうちに止み、朝の光が薄く射していた。湖の上では氷が軋み、裂け目から淡い霧が立ち上っている。 瑞礼は火床のそばで、ひとり膝を抱えていた。昨日の出来事がまだ胸に残っている。あの女の白い顔、緋宮の沈黙、そして――「血が呼んでいる」という言葉。 背後から、柔らかな衣擦れの音がした。振り返ると、緋宮が洞の奥から現れていた。光を透かした銀髪が淡く揺れ、瞳には冷たい金紅が差している。「眠れなかったのか」「……ええ。少し、考えていました」 瑞礼は膝の上で手を組み、視線を落とした。「緋宮様。――訊ねたいことがあるのです」 緋宮は火床の脇に胡座をかき、黙って頷いた。火の名残りが赤くくすぶり、灰が静かに沈んでいく。「あなたを、この淵に封じたのは……誰なのですか。朝廷、なのですか?」 緋宮はしばらく答えなかった。炎の残光がその頬を淡く照らす。 やがて、低く静かな声が洩れた。「人が俺を封じたのではない。――人はただ、己の都合で封を重ねただけだ。 この底に我を縛めたのは、古き神々だ。天より降り、地を支配したあの者どもが……俺を沈めた」 その声には、氷の底に沈んだ時間の重みが滲んでいた。 瑞礼は息を呑む。「古き神々……?」「天の名を持つ神らよ。大地を組み上げ、火を熾し、水脈を呼び起こす者どもだ。俺もかつては、水と風の理を預かるものとして、その列に連なっていた。 ……だが昔、俺は、その理を己の気まぐれでねじ曲げた。神々はそれを戒めと呼び、この底へと俺を沈めた」 緋宮の金紅の瞳が細められる。その声には、押し殺した嘆きがかすかに混じっていた。「では、我々人間が緋宮様に供え物を捧げるのは……その古き神々の命によるものなのですか?」「違う。人の捧げものは、俺とは何の関わりもない。あれは、俺ではなく、自分たちの欲と恐れに捧げているのだ。――人は恐れのかたちを知らぬゆえに、それを祈りと呼ぶ。 朝廷はその恐れを利用した。封を保つためと称して、贄を沈めつづけている。実のところは、封を保つことが目的ではない。我の力をかすめ取るためだ」「かすめ取る……?」「この地を潤す水脈、その気だけをちぎり取り、神威と称して祈祷や戦のまじないに注ぎ込む。人は古来、神の力を血に換え、その血を政へとつなげてきた。 ――あれは封ではない。ただの収奪だ」 瑞礼は思わず
last updateHuling Na-update : 2025-12-07
Magbasa pa
PREV
123456
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status