「価値とかそういうことじゃなくてさ」 湊さんは、まるで子供を諭すような、どこまでも穏やかで優しい声を出す。 「湊さんは、自分が何を失ったのか分かってないだけだよ」言い聞かせているのは湊さんにではなく、自分自身に対してだった。どうしてこんなことを言うのか自分でも分からなかった。離れて欲しい訳じゃないのに。離れようとするならすがってしまいそうなのに、言葉だけが私の意志を裏切って、彼を突き放そうと躍起になっている。湊さんの過去を奪った私が、幸せになる資格なんてない。そう思わなければ、いつか罰が下る気がして怖かった。 「彩花が、俺にとっての全部なんだよ」 その言葉は、あまりにも唐突で、暴力的なほど真っ直ぐに私の鼓動を跳ねさせた。 「全部?」 湊さんの瞳があまりに真剣で、淀みなく私を映しているから、否定する言葉が喉に張り付いて出てこない。世界中を敵に回しても構わないと言わんばかりの、究極の純愛だった。その熱量に当てられて、頭の芯がぼうっとしてくる。私がどれだけ理屈を並べても、彼はそのすべてを好きだという一言でねじ伏せてしまう。 「昔の俺がどんな人間で、どれだけ立派なものを持ってたなんてどうでもいい。彩花が笑ってるとそれだけで救われるし、彩花が辛そうにしてると俺も苦しくなる」湊さんの声に熱がこもる。それは嘘偽りのない、今の彼の真実なのだと思い知らされる。 「だから、価値があるから一緒にいるとかそんなんじゃないよ」 その決定的な一言が、私の中に残っていた最後の抵抗を崩し去った。理由なんて後付けでしかないのだ。 湊さんの胸に、自分の額をコツンと預ける。 固くて温かい彼の体温が、服越しに伝わってくる。その鼓動が、私の震えを鎮めてくれるような気がした。 「彩花…?」 頭上から、戸惑ったような湊さんの声が降ってくる。私の突然の行動に、彼は動揺しているのだろう
Last Updated : 2026-05-14 Read more