All Chapters of 私の事が大嫌いだったはずの旦那様が記憶喪失になってから、私を溺愛するようになったのですがこれは本当に現実ですか!?: Chapter 71 - Chapter 80

98 Chapters

第70話

「……もうこんな時間か」 時計の針が、夕方の五時を少し過ぎていた。 窓の外は、すでに薄暗くなりはじめていて、カーテンの隙間から差し込む光も、どこか頼りない。 洗濯物を取り込んで、掃除機をかけていたら、あっという間だった。 家が広いと、やることも多い。 ひとつ終われば、またひとつ。 気づけば、手はずっと動いていた。 でも、心はずっと、湊さんのことを考えていた。 そろそろ帰ってくる頃だ。 夜ごはんの支度を始めないと。 今日は、何がいいだろう。 疲れてるだろうから、あたたかくて、ほっとするものがいいよね。 冷蔵庫を開けながら、私はふと、昨夜の自分の言葉を思い出す。 「……ちゃんと、謝らないと」 ぽつりとつぶやいた声が、静かなキッチンに溶けていく。 彼が帰ってきたら、まずは「おかえりなさい」って言おう。 それから、ちゃんと顔を見て、「ごめんね」って伝えよう。 そして、今日のことを、たくさん聞かせてもらおう。 どんな一日だったのか、どんな人たちと出会ったのか、どんな気持ちで過ごしていたのか。 私はエプロンの紐を結び直した。 まずはスープから。 玉ねぎを薄くスライスし、人参とじゃがいもを小さめに切る。冷蔵庫の奥に残っていたベーコンも刻んで、鍋にオリーブオイルをひいて、じっくり炒める。 じわじわと立ちのぼる香ばしい匂いに、少しだけ肩の力が抜けた。 水とコンソメを加えて煮込みながら、その間にグラタンの準備に取りかかる。 マカロニを茹でて、ホワイトソースを作る。 バター、小麦粉、牛乳。 焦がさないように、木べらでゆっくり混ぜ続ける。 とろみがついてきたら、塩と胡椒で味を整え、茹でたマカロニと炒めた玉ねぎ、鶏肉を加えて混ぜる。 耐熱皿に流し込み、チーズをたっぷりのせて、オーブンに入れる。 タ
last updateLast Updated : 2025-12-30
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第71話

「会いたか……何かあった?」 手首の痛みを上手く隠してたつもりだった。 ミトンの隙間から跳ねたグラタンのソースは、思った以上に熱くて、皮膚の奥まで焼けつくような痛みを残していた。 それでも、笑顔を作って玄関に駆け寄った。 なのに、湊さんは私の顔を見るなり、そう言った。 まるで、すべてを見透かしていたかのように。 隠していたものが、あっさりと暴かれたような気がした。 「え?」 声が裏返った。 自分でも驚くほど、動揺していた。 湊さんの目が、まっすぐに私を見ている。 「どうしてそんな顔してるの?」 「ただ、昨日のことで……湊さんに、ひどいこと言っちゃったから」 とっさに出た言い訳だった。 そう言えば、きっと納得してくれると思った。 火傷のことには触れずに済むかもしれない。 それに、それは完全な嘘ではなかった。 昨日、私は湊さんにきつい言葉をぶつけた。 記憶をなくした彼に、どうしてそんなことを言ってしまったのか自分でも分からないまま、後悔だけが残っていた。 「ほんとにそれだけ?」 湊さんの声が、少しだけ低くなった。 私の言葉の奥にあるものを、見逃さないという意志がにじんでいた。 私はうなずくしかなかった。 「……うん」 視線は合わせられなかった。 目が合えば、きっと嘘がばれてしまう。 私は、湊さんの前では、どうしても嘘がつけない。 だから目を伏せて、声を小さくして、自分の中の不安をごまかすしかなかった。
last updateLast Updated : 2025-12-31
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第72話

「湊さん、もう大丈夫な気が」蛇口の下で流れ続ける水音の中、私はそっと声を漏らした。湊さんは、私の背後からそっと腕を回し、火傷した手首を支えてくれている。まるで、背中にぴたりと寄り添うような体勢で。気づけば、これはほとんど、後ろから抱きしめられているような格好だった。冷たい水に手をさらしながら、私は別の意味で顔が熱くなっていた。「まだ駄目」湊さんの声が、私の耳元で低く響いた。その声に、背筋がぴくりと反応する。怒っているわけじゃない。むしろ、私のことを本気で心配してくれているのが伝わってくる。でも、こんなに近くで囁かれると、心臓が変なリズムで跳ねてしまう。私は視線を逸らしながら、小さく息を吐いた。「でも、冷たい、」思わず、弱音がこぼれた。水の冷たさが、皮膚の奥まで染みてくる。けれどそれ以上に、湊さんの手のぬくもりが、私の手首を通してじんわりと伝わってくる。その温度差がなんだかくすぐったくて、余計に意識してしまう。「あと十分だけ我慢して」湊さんの声は、やさしくて、でもどこか切実だった。私は小さく頷いて、また水に手を戻した。「……彩花ちゃん」湊さんの声が、私のすぐ耳元で落ちた。低くて、やわらかくて、でもどこかためらいを含んだ声。何かを言おうとして、言葉を選んでいるような。そんな間。背後からそっと支えられているこの体勢のまま、名前を呼ばれるのは、なんだか不思議な感覚だった。「何?」私は、少しだけ首を傾けて、彼の顔を見ようとした。でも、振り返るには近すぎて、視線は宙を泳いだままだった。「僕は、ちゃ
last updateLast Updated : 2026-01-01
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第73話

「彩花ちゃん……?」 湊さんの声が、頭の上から落ちてきた。 その響きには、驚きと戸惑い、そしてどこか不安の色が混じっていた。 私は彼の胸に顔をうずめたまま、何も言わなかった。 すると湊さんは、ゆっくりと腕を動かし、私の肩に手を添えた。 「こ、このままでいて」 思わず声が出た。 自分でも驚くほど、必死な響きだった。 このぬくもりを手放したら、もう二度と、こんなふうに素直になれない気がした。 今だけは、湊さんの腕の中にいたかった。 「でも、」 湊さんがためらう。 彼の手は、まだ私の肩に触れたまま。 引き離すことも、抱きしめ返すこともせず、そのまま、宙ぶらりんに止まっていた。 手を冷やすのが最優先だと、湊さんは思っている。 それが正しいって、私だって分かってる。 でも、私は今、心の奥にあるものを伝えたい。 この体勢じゃなきゃ、言えないから。 「お願い」 私はそっと囁いた。 それは、湊さんに向けた言葉でもあり、自分自身の弱さを許してほしいという、小さな祈りでもあった。 「……分かった」 湊さんは短くそう言って、蛇口に手を伸ばした。 水の音が止まり、洗面所に静けさが戻る。 その瞬間、彼の腕が、そっと私の背中に回された。 優しく、でも確かに。 「湊さん」 胸に顔を埋めたまま、私は小さく名前を呼んだ。 声が震えていたのは、冷えた手のせいじゃなかった。 「ん?」 湊さんの返事は、すぐに返ってきた。 低くて、やわらかくて、私の不安をそっと包むような声だった。 「私、本当は、ずっと怖かった」 自分の声がこんなにも頼りなくて、でも、こんなにも本音だったことに、自分でも驚いた。 湊さんの体がわずかに動いた気がした。 驚いたのか、それとも何かを言おうとしたのか。 ただ、私の背中に添えられた手が、少しだけ強くなった。 「……うん」 否定も、慰めも、急かしもしない。 私は、少しだけ息を吸い込んだ。 「だけど、怖いなんて言う資格、私にはないと思った」 言葉にした瞬間、喉の奥が詰まった。 自分の中にあった罪悪感が、まるで濁った水のようにあふれ出してくる。 怖がっていい立場じゃない。 泣いていい人間じゃない。 そうやって、ずっと自分を押し込めてきた。 「どうして?」 湊さんの声は、驚くほどやさしかった。
last updateLast Updated : 2026-01-02
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第74話

「彩花ちゃん、やっぱり顔見てもいい?」その声は、驚くほど優しかった。無理に覗き込むでもなく、焦らすでもない。私は湊さんの胸元に顔を埋めたまま、動けずにいた。見られたくない。こんな顔、見せたくない。湊さんの声には、そんな私の弱さごと、受け止めようとする気配があった。だからこそ、余計に苦しくなる。「……駄目」小さく、でもはっきりとそう答えた。喉の奥がつまって、声がかすれる。それでも、伝えたかった。今はまだ、見ないでほしい。「泣いてる?」湊さんの問いかけは、まるで答えを知っていながら、それでも私の口から聞きたがっているようだった。「泣いてなんて……」言いかけて、言葉が途切れた。否定したかった。でも、声が震えた。その震えが、すべてを物語っていた。「ねぇ、彩花ちゃん」湊さんの声が、すぐ近くで響く。その呼びかけに、私は小さく息を呑んだ。名前を呼ばれるだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられるなんて。「……何?」ようやく絞り出した声。湊さんは気にする様子もなく、ただ優しく続けた。「今度は、僕のお願いも聞いてくれないかな」その言葉に、私ははっとした。さっき、私は「このまま話を聞いてほしい」と言った。それを、湊さんは何も言わずに受け入れてくれた。私の涙も、弱さも、全部、黙って抱きしめてくれた。だから─────私は、そっと息を吸った。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
last updateLast Updated : 2026-01-03
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第75話

「僕もす……え、今なんて」 湊さんの声が、ふいに裏返った。 彼の目が、驚きと戸惑いと、どこか信じられないような色を浮かべて私を見つめている。 私は、ほんの少しだけ視線を逸らした。 言ってしまった。 もう取り消せない。 むしろ、ようやく言えたことに、少しだけ肩の力が抜けた気がした。 ひとつ、深呼吸で押し出して、もう一度、湊さんの目を見た。 「好きだよ。大好き」 言葉にした瞬間、胸の奥が熱くなった。 自分の声が震えていないか、少し不安になる。 でも湊さんの目が、ふわりとやわらかくなっていくのを見て、その不安は少しずつほどけていった。 私は、彼の目をまっすぐに見つめたまま、もう逃げないと決めた。 この気持ちは、本物だから。 どんなに複雑でも、どんなに怖くても、 私は、湊さんが好きだ。 「……もう一回言って」 その声は、かすれていた。 でも、どこまでもまっすぐで、私の心に深く届いた。 湊さんの目が、少し潤んでいるように見えた。 「好き。湊さんが好き」 今度は、はっきりと。 震えずに、まっすぐに。 私の中にある気持ちを、そのまま言葉にして、湊さんに届けた。 その目に映る私は、泣き顔のままでも、ちゃんと見てもらえている気がした。 「初めて好きって、言ってくれたね」 私は、胸の奥がちくりと痛んだ。 そうだ。 私は、ずっと言えなかった。 怖くて、逃げて、「好き」
last updateLast Updated : 2026-01-04
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第76話

「見た目は同じでも、中身は別人だから。だから…」 言いながら、喉の奥が詰まるような感覚がした。 目の前にいる彼は、たしかに湊さんなのに、あの頃の彼とは違う。 声のトーンも、目の奥の光も、私の名前を呼ぶときのやさしさも。 全部、少しずつ違っていて。 それが嬉しくて、でも怖くて、この気持ちに名前をつけるのが、ずっとできなかった。 「僕からしたら、どっちも僕だよ」 その声は、静かでまっすぐだった。 まるで、私の迷いを見透かしたように、何のためらいもなく、そう言ってくれた。 彼にとっては、記憶があってもなくても、自分はひとつなのだ。 でも、私にとっては、どうしてもふたりに見えてしまう。 あの頃の湊さんと、今の湊さん。 どちらも好きになってしまったからこそ、その違いが、余計に苦しかった。 「でも、今の湊さんは優しくて、昔と全然違うくて、」 視線を落としながら、指先でスカートの裾をぎゅっと握った。 あの頃の彼は、私に対する嫌悪感が溢れていて、私のことを避けているような、そんな距離感があった。 それでも、私は彼に惹かれていた。 今の彼は、別人みたいに優しくて、私の言葉に耳を傾けてくれて、まっすぐに向き合ってくれる。 「記憶がないから、否定はできないけど」 そう言って、彼はぽりぽりと頭を掻いた。 その仕草が、なんだか子どもみたいで、思わず笑いそうになる。 でも、笑えなかった。 胸の奥に、ずっと引っかかっていた言葉が、喉の奥でつかえている。 「浮気してるみたいな…」 ぽつりとこぼれた。 ふたりの湊さんを同時に好きになってしまった。 それが、どうしようもなく苦しかった。 どちらかを選ばなきゃいけない気がして。 でも、選べなくて。 どちらも私にとっては大切な人で、どちらにも心を動かされてしまった。 そんな自分が、許せなかった。 どちらも裏切っているような気がして、胸が痛んだ。 「それは浮気じゃなくて、ずっと僕を好きでいてくれたってことだよ」 その言葉に、息が止まった。 まるで、誰かに赦されたような気がした。 涙が出そうになるのをこらえながら、私は、彼の顔を見つめた。 「ずっと好きでいた?私が…?」 思わず、問い返していた。 私は、ずっと迷っていた。 これは本当に好きなのか、それともただ、思い出に縛られているだ
last updateLast Updated : 2026-01-05
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第77話

「落ち着いた?」 その声が、耳元でふわりと響いた。 低くて、やさしくて、まるで深呼吸みたいに胸の奥に染み込んでくる。 あれから私は、自分でも驚くほど泣いてしまった。 どうしようもなく涙があふれてきて、気づけば彼の胸元を濡らしていた。 湊さんは何も言わずに、私をお姫様抱っこしてソファに運んでくれた。 その後もずっと背中をさすってくれて、その手のひらのぬくもりが、何よりも心強かった。 言葉じゃなくて、その手のひらが、私の涙を受け止めてくれた気がした。 「…うん」 喉の奥がまだ少し痛くて、鼻もつまっていて、きっとひどい顔をしているんだろうなと思った。 目元は熱く、頬は涙で少し冷たくて、呼吸もまだ浅い。 でも、彼の前では、もう取り繕う気になれなかった。 全部見られてしまったから。 泣き顔も、弱さも、言葉にならない想いも。 それでも彼は、何も言わずにそばにいてくれた。 「ははっ。目、真っ赤だよ」 そう言って目元を優しく拭う。 彼の指先が、そっと頬に触れる。 まるで壊れものに触れるような、慎重なぬくもりだった。 もう泣きたくないと思っていたのに、そのぬくもりに触れた瞬間、また涙がこぼれそうになる。 「もう、どうして笑うの」 私は思わず目を伏せた。 恥ずかしかった。 泣き顔を見られたことも、こんなに取り乱した自分を見せてしまったことも。 それなのに、笑うなんて。 泣きすぎて、顔も声もぐちゃぐちゃなのに、そんな私を見て笑うなんて。 ずるい。 「可愛くて」 その一言に、心臓が跳ねた。 思わず彼の顔を見上げると、彼はまっすぐに私を見ていた。 その目に、嘘はなかった。 「さっきは私が泣くと悲しいって言ってたのに」 言いながら
last updateLast Updated : 2026-01-06
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第78話

「そっか」そう言うと、少しだけ目を細めて微笑んだ。そして、まるで私の気持ちに触れるように、そっと私の目元に触れる。「もう少しだけ、こうしてていい?」私はそっと目を伏せて、湊さんの手のひらに頬を預けた。本当は、まだ離れたくないの代わりだった。この静けさが、心地よかった。「…もちろん」彼の手がそこにあるだけで、私の中のざわめきが、少しずつ静まっていく。「湊さんの手、あたたかくて…触れられると、ほっとする」その言葉は、思ったよりも簡単に口からこぼれた。恥ずかしいはずなのに、今の私には、もう隠すものなんてなかった。彼の指先が、私の涙をそっと拭ってくれたあの瞬間。言葉にしなければ伝わらない気がした。「え?」湊さんの声が、少しだけ裏返った。その反応があまりにも彼らしくて、私は思わず、ふふっと小さく笑った。「安心するの」そう言った自分の声が、思ったよりも小さくて、まるで胸の奥からそっとこぼれ落ちたみたいだった。触れられているだけなのに、まるで深く抱きしめられているみたいに、優しく包まれる感覚。それはきっと、湊さんだから。「ねぇ」その声は、私の頬に触れたままの手から、じんわりと伝わってきた。湊さんの声は、いつもより少し低くて、どこかためらいがちで、でも真剣だった。私はそっと顔を上げる。彼の目が、まっすぐに私を見ていた。その静かな呼びかけに、私は自然とやわらかく返した。「ん?」ほんの少しだけ首をかしげて、言葉の続きを待った。「キスしてもいい?」私は一瞬、息
last updateLast Updated : 2026-01-07
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第79話

「美味しいよ」 湊さんはそう言って、湯気の立つグラタンをスプーンですくい、ためらいなく口に運んだ。 焦げ目のついた表面を気にする様子もなく、ふっと目を細めて微笑む。 あんなに焦がしてしまったのに。 それでも美味しいと言ってくれる優しさが、胸にじんと染みて、言葉にならない何かが喉の奥でつかえてしまった。 「無理しないで」 私はそう言った。 作り直すと言ったのに、湊さんは首を横に振って、これがいいと言って聞かなかった。 その頑なさが、優しさから来ていることくらい、分かっていた。 でも、私はまだ自分を許せていなかった。 焦がしたことも、昨日のことも、全部。 「焦げててもちゃんと美味しいよ」 湊さんは、まるで私の心の中を見透かしたように言った。 私はうつむいて、何も言えなかった。 本当は、もっと上手に作りたかった。 疲れが吹き飛ぶような、ちゃんとした味にしたかった。 「ほんとは、もっと上手に作りたかったんだけど…」 そうつぶやいたとき、私は無意識に、手首に貼られたガーゼをそっとなぞっていた。 湊さんが手当してくれたときの、あの静かな時間が、ふいに蘇った。 キスをしたあと、湊さんは何も言わずに立ち上がって、救急箱を持って戻ってきて。 「手当の続き、しなきゃね」 そう言った声は、まるで何もなかったかのように穏やかで、私はうなずくことしかできなかった。 丁寧にガーゼを巻いてくれて、私はただ、その手元を見つめていた。 「……何か考え事してたの?」 ふいに、湊さんの声が落ちてきた。 顔を上げると、彼はスプーンを口に運びながら、こちらを見ていた。 私は一瞬、言葉に詰まった。 「え?」 思わず、間の抜けた声が漏れた。 あ、グラタン焦がしたから。 考えごとなんかしてなければ、こんなに派手に焦がすこともなかったのに。 全部が胸の中で絡まり合って、言葉にするにはあまりにも重たくて、私はただ、視線を落とした。 火傷の痕はまだじんわりと熱を持っていて、それが、昨日の自分の未熟さを責めているように思えた。 湊さんの前で泣いて、怒って、何もかも投げ出して。 それでもこうして、彼は目の前にいてくれる。 昨日の私の態度も、言葉も、全部、焦げついて、苦くて。 「…ごめんなさい」 ようやく絞り出した声は、かすれていた。 謝ってばか
last updateLast Updated : 2026-01-08
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