All Chapters of 私の事が大嫌いだったはずの旦那様が記憶喪失になってから、私を溺愛するようになったのですがこれは本当に現実ですか!?: Chapter 41 - Chapter 50

56 Chapters

第40話

「それに…服自体少なくない?」 湊さんが、クローゼットの中を覗き込んだまま、ぽつりと呟いた。 その視線の先には、ドレスの横に並ぶ、わずかな私服。 上着が四枚、ズボンが二本、スカートが一枚。 それだけだった。 自分でも、少ないとは思っていた。 けれど、それが“普通”になっていた。 服を選ぶことが怖くなってから、私は新しい服を買わなくなった。 何を着ても似合わない。 そう思い込んでいたから。 湊さんの言葉に、私は少しだけ肩をすくめて、曖昧に笑った。 「スーパーに行くくらいしか、着る機会もなかったから」 私は、クローゼットの中の服を見つめながら、静かに言葉を継いだ。 本当は、もっといろんな場所に行きたかった。 季節ごとの服を選んで、カフェに行ったり、映画を観たり、たまにはおしゃれをして、街を歩いたりしたかった。 でも、そんな機会はほとんどなかった。 湊さんはいつも忙しくて、私は家にいることが多かった。 外に出る理由がなければ、服も必要ない。 そうやって、少しずつ自分のための服が減っていった。 気づけば、クローゼットの中は、実用性だけを重視した服ばかりになっていた。 「デートとか…しなかったよね、ごめん」 湊さんの声が、少しだけかすれていた。 彼は、クローゼットの中を見つめたまま、どこか遠くを見ているような目をしていた。 記憶を失っているはずなのに、まるで何かを思い出しているような表情だった。 そのごめんは、今の彼の気持ちから出たものなのだろう。 過去の自分が、私に何もしてこなかったことを、今の彼が悔やんでいる。 「湊さんが謝ることじゃないよ」 私は、静かにそう言った。 記憶を失っている彼に、過去のことを責めるつもりはなかった。 それに、あの頃の私は、何も言えなかっ
last updateLast Updated : 2025-11-28
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第41話

「お待たせしまし…」ドアを開けて湊さんの前に立った瞬間、言葉が喉の奥で止まった。視線が湊さんの姿を捉えた途端、声が出なくなってしまった。いつもはスーツ姿で、どこかよそよそしい印象だった湊さんが、今日は柔らかな色味のニットに、落ち着いたデニムを合わせていた。その姿が、あまりにも自然で、見慣れないはずなのにどこか懐かしく感じた。胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚。言葉を続けようとしても、口がうまく動かない。「待ってないよ。それにしても、やっぱり何着ても似合うね」その言葉に、心臓が跳ねた。何着ても似合うのは貴方の方ですが…。私は、ただ手持ちの服の中から、少しでもマシなものを選んだだけ。久しぶりにスカートを手に取って、鏡の前に立ったとき、少しだけ不安になった。似合わなかったらどうしよう。そんな考えが頭をよぎって、何度も着替えようとした。でも、湊さんに会うのに、少しでも“ちゃんとした自分”でいたかった。「湊さんの私服、初めて見たかも」ふと、口をついて出た言葉だった。湊さんの私服姿があまりにも新鮮で、思わず見とれてしまった自分をごまかすように、軽く笑いながら言った。でも、それは本心だった。「クローゼットの中にあるのを選んだんだけど、変じゃない?」湊さんは、少し照れたように笑いながらそう言った。その笑顔が、どこか少年みたいで、思わず胸がきゅっとなる。普段の彼からは想像できない、柔らかくて、少し不安げな表情。私の目にどう映っているのか、気にしてくれている。それが、なんだか嬉しかった。むしろ、こんなに自然に服を着こなせる人、そういな
last updateLast Updated : 2025-11-29
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第42話

駐車場に車を停めたあと、エンジンを切ると、車内に静けさが戻った。さっきまで流れていたラジオの音も、エアコンの風の音も消えて、隣にいる湊さんの気配がやけに近く感じられた。「運転お疲れ様、ありがとう」湊さんの声が、静けさの中にふわりと落ちた。私はハンドルから手を離し、深く息を吐いた。緊張していたのが、自分でも分かる。久しぶりの運転。それだけでも十分に肩がこるのに、隣に湊さんがいるというだけで、私はいつもより慎重になっていた。「これぐらい、全然だよ」でも、きっと気づかれていた。ハンドルを握る手が汗ばんでいたことも。緊張で、肩が上がっていたことも。車を降りると、冷たい風が頬をかすめた。季節はもう冬の入り口だった。デパートの自動ドアが、二人の前で静かに開いた。温かい空気がふわりと流れ出し、香水や焼き菓子の甘い匂いが鼻をくすぐる。館内は週末らしく、ほどよく賑わっていて、遠くから子どもの笑い声や、アナウンスの音が聞こえてくる。私はふと、湊さんの横顔を見上げた。「どこから見る?」私は少し歩調を緩めて、湊さんの返事を待った。館内の暖かさに、ようやく緊張がほどけていく。「そうだなぁ…」湊さんはそう言いながら、ゆっくりと足を止めた。入り口近くに設置されたフロアガイドの前。壁に貼られた案内図を見上げるその横顔は、どこか懐かしくて、でも今の彼とは少し違って見えた。記憶を失っているはずなのに、こうして自然に立ち止まる場所や、視線の動かし方が、昔の湊さんと重なって見える。私は少しだけ距離を詰めて、その案内図を一緒に見上げた。湊さんはポケットから手を出し、案内図に指を伸ばす。
last updateLast Updated : 2025-11-30
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第43話

言葉の続きを飲み込んだまま、私はショーウィンドウの中を見つめた。そこは、ガラス張りのショーウィンドウが並ぶ、少し高級感のあるブティックだった。煌びやかなドレスがずらりと並び、店内には柔らかな照明が落ちている。どのドレスも、鮮やかな色彩と繊細な装飾に彩られていて、まるで舞台衣装のようだった。こんなに華やかな店だったなんて。私は思わず、苦笑いを浮かべた。湊さんが私に選んでくれていたドレスは、どれも地味で落ち着いた色ばかりだった。主張しない色、控えめなデザイン。まるで「目立たないように」と言われているみたいで、少し寂しかった。でも今、こうしてこの店の前に立ってみて、思う。この店で、あんな地味なドレスを選ぶ方が、よっぽど難しいんじゃないかって。むしろ、どうやって見つけたのか聞きたいくらいだ。「センスがいいのか、悪いのか…」小さく呟いた声は、湊さんには聞こえなかったようだった。それとも、聞こえていて、あえて流してくれたのか。どちらにしても、私はそのまま、繋いだ手を見つめた。湊さんの手は、変わらず私の手を包んでいる。その温もりが、過去と今をつなぐ、たったひとつの証のように思えた。湊さんは、私の視線に気づいたのか、少しだけ顔をこちらに向けた。その目は、どこか探るようで、でも優しかった。そして、静かに口を開いた。「彩花ちゃんのドレスが全部このお店のだったから、なにか理由があるんじゃないかと思って」その言葉に、私は息を呑んだ。クローゼットの中のドレスを見て、タグを見て、この店に辿り着いたんだろう。そして、私をここに連れてきてくれた。私は、そっと湊さんの顔を見上げた。そして、ゆっくりと口を
last updateLast Updated : 2025-12-01
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第44話

鏡の前で一度深呼吸をして、スカートの裾をそっと整える。普段の自分なら絶対に選ばないような、淡いラベンダー色のワンピース。レースの装飾が可愛らしくて、どこか落ち着かない。でも、湊さんが「似合うと思う」と言ってくれたから。その言葉を信じて、私はカーテンの端に手をかけた。心臓が、少しだけ早くなる。ほんの数秒の沈黙のあと、意を決して、ゆっくりとカーテンを引いた。「どう、かな」声が少しだけ震えていた。鏡の中の自分が、いつもよりも少しだけ華やかに見える。でも、それが本当に“似合っている”のか、自信はなかった。だからこそ湊さんの反応が怖くて、でも知りたくて、私はそっと彼の顔をうかがった。湊さんの目がふっと見開かれて、すぐにやわらかく細められる。何も言わなくても、その表情だけで、少しだけ安心できた。「よく似合ってるよ」湊さんの声は、迷いがなくて、まっすぐだった。照れくさくて、でも嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなる。「うーん、でもやっぱり丈が短いような…」私はそう言いながら、スカートの裾をそっと引っ張った。 伸びるわけじゃないのに、なんとなく落ち着かなくて。鏡に映る自分の脚が、いつもよりずっと目立って見えた。湊さんの前で、こんなに脚を出すなんて。そう思ったら急に恥ずかしくなって、私は無意識に足を揃えて立ち直した。「確かに。そんな可愛いドレスを着たら、みんな見惚れちゃうか。じゃあ、次はこれ着てみて」湊さんのその言葉は、あくまで軽やかで、冗談めいていた。けれどその奥にほんの少しだけ、独占欲のような響きが混じっていた気がして。私は胸の奥がきゅっと跳ねるのを感じた。私
last updateLast Updated : 2025-12-02
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第45話

「湊さ…」口を開いた瞬間、声が途中で途切れた。試着室のカーテンを開けると、さっきまでそこにいたはずの湊さんの姿がどこにも見えない。私は思わず眉をひそめた。ここで私が着替えるのを待ってるって言ったのにどこに行ったの。周囲を見渡しても、ふっと風にさらわれたみたいに、気配すら残っていない。胸の奥に、じわりと寂しさが滲んだ。ほんの数分のことなのに、どうしてこんなにも心細く感じるのだろう。 「佐藤様なら、他のお召し物をご覧になっておられますよ」突然、すぐそばから声がして、私は驚いて振り返った。そこには、上品な制服を着た店員さんが立っていた。柔らかな笑みを浮かべて、丁寧に頭を下げている。私は一瞬、言葉を失ったまま、ただ頷くしかなかった。「あ、そうなんですね、」ようやく絞り出した声は、どこか間の抜けた響きだった。もう、ほんとに自由なんだから。心の中でそう呟いて、私は小さくため息をついた。 でも、どこかで安心している自分もいた。「もしかして彩花様でしょうか?」その言葉に、私は一瞬、思考が止まった。 私は反射的に身を引いた。どうして、私の名前を…。そんな疑問が頭をよぎる。「はい、そうですが…」声が少しだけ震えていた。自分でも気づかないうちに、緊張していたのだろう。店員さんの視線は穏やかで、敵意などまったく感じられない。すぐに、湊さんの顔が思い浮かんだ。彼は有名な人だ。その関係者として、私の名前を知っていても不思議じゃない。そう思おうとした。
last updateLast Updated : 2025-12-03
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第46話

「彩花ちゃん、着替え終わ…わぁ、」 湊さんの声が、ふいに止まった。 「あ、湊さん、どうかな」 以前の私なら、こんなふうに湊さんに尋ねることすらできなかった。 でも今は、少しだけ勇気が出せる。 今の湊さんは、私を肯定してくれるから。 その安心感が、私の背中をそっと押してくれていた。 「すっごく可愛いよ。よく似合ってる」 私は、その言葉を信じたいと思った。 でも、心のどこかで本当に?と問い返してしまう自分がいる。 …さっきの話を聞いてしまったから。 「ありがとう」 そう言いながら、私は自分の手をぎゅっと握った。 今、私は“普通”でいられているだろうか。 心の中は、ぐちゃぐちゃなのに。 きっと大丈夫。昔から、気持ちを隠すのは得意だった。 湊さんに本命がいても、私は今、この幸せのために知らないふりをする方がいい。その方がいいにきまってる。 今この瞬間、彼が私を見て笑ってくれている。 その事実だけで、私は救われてしまう。 だから、知らないふりをする。 問い詰めたりしない。 この幸せを壊したくないから。 たとえそれが、偽物だったとしても…。 私は、今だけは“本物”だと信じていたい。 それが、私の選んだ“幸せ”のかたちだった。 「よし決めた!この服全部下さい!」 その言葉が放たれた瞬間、空気が一瞬止まったように感じた。 全部って、まさかさっき試着したドレス全部? 私は慌てて湊さんの方を向いた。 湊さんの横顔はどこまでも穏やかで、何も問題がないかのように微笑んでいた。まるで子どもが欲しいおもちゃを見つけたときのような無邪気さがあった。 けれど、その無邪気さが、私には少しだけ怖かった。 全部。その言葉の重さが、私の胸にずしりとのしかかる。 「かしこまりました」 店員さんの声は、落ち着いていて、何の迷いもなかった。 この店では、こういう買い方が“普通”なのかもしれない。 でも、私にとっては、非日常だった。 まるで、映画の中のワンシーンを見ているような気分だった。 私は、現実感を失いかけながらも、その場に立ち尽くすしかなかった。 心の中では、何かがざわざわと騒ぎ始めていた。 「湊さん、ドレスは一着でいいよ。パーティーは二ヶ月に一度しかないんだから、三着持ってても着る機会ないし、」 そう。二ヶ月に一度。
last updateLast Updated : 2025-12-04
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第47話

「湊さん、申し訳ないんだけど、私こんなに高価なワンピース着れないよ」 言葉を選びながら、私は湊さんの顔を見上げた。 声はできるだけ穏やかに、でもはっきりと。 胸の奥では、ずっと引っかかっていた。 湊さんの優しさは分かってる。 でも、私はその優しさを、素直に受け取れるほど強くない。 だから、せめて今、ちゃんと伝えたかった。 私は、これを着る資格がない。 そう言ってしまいたい気持ちを、「着れない」という言葉に変えて、私は精一杯の勇気で口にした。 「せっかく買ったのに?」 湊さんの声は、少しだけ拗ねたような響きを帯びていた。 その言い方に、私は胸の奥がちくりと痛んだ。 無言の圧力のように感じられてしまった。 私は、彼の期待を裏切ってしまったのだろうか。 そんな罪悪感が、じわじわと広がっていく。 「今からでも返品を…」 言いながら、自分でも無理なことを言っているのは分かってた。 でも、何か方法があるなら、このままじゃいけないという気持ちが勝っていた。 湊さんの好意を無下にしたいわけじゃない。 ただ、自分の中の“限界”を越えてしまっていることに、どうしても目を背けられなかった。 「さっき店員さんが返品はできないって言ってたでしょ?」 確かに、そんなことを言っていた気がする。 でも、そのときの私は、金額の衝撃と、私の価値の無さに、すっかり心を支配されていた。 湊さんの声も、店員さんの説明も、まるで水の中で聞いているようにぼやけていた。 「じゃあどうすれば、」 声が震えていた。 自分でも情けないと思う。 返品できない事実が、私の逃げ道を完全に塞いだ。 私はただ、問いかけるしかなかった。 「彩花ちゃんが着てよ」 湊さんは、私がこのドレスに見合う存在だと、疑いもなく信じているみたいだった。 そのまなざしには、一点の曇りもなかった。 「だけど…」 それ以上の言葉が、出てこなかった。 言いたいことは山ほどあるのに、喉が詰まって声にならない。 私はそのドレスに似合う人間じゃないと、誰よりも分かってる。 鏡に映る自分は、確かに少しだけ綺麗に見えた。 布の質感、カッティング、色味。 すべてが完璧に計算されていて、それを身にまとうだけで、誰でも“それなり”に見えるようにできている。 でも、それはドレスの力であって
last updateLast Updated : 2025-12-05
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第48話

試着室を出るたびに「これも似合う」「あれもいい」と言われて、気づけば両手いっぱいの紙袋が湊さんの腕にぶら下がっていた。私はというと、小さなショルダーバッグひとつだけ。何も持っていない自分が、申し訳なくて、少しだけ居心地が悪かった。湊さんは涼しい顔をしていたけれど、あれだけの荷物を持っていれば、腕も疲れるはずだ。それなのに、「湊さん、半分貸してよ」さっきから何度言っても渡してくれなくて、湊さんは首を横に振るだけだった。「これぐらい持てるから大丈夫」その表情には、疲れも不満もなかった。穏やかで、優しさに満ちていたけれど、私の中には少しだけ寂しさが残った。私だって、少しは役に立ちたいのに。「重たいでしょ?」私は湊さんの腕にぶら下がる紙袋の数を見つめながら、そっと声をかけた。そもそも、それは全部私の荷物なのに。「重たくないよ」湊さんは、まるでそれが本当のことかのように、さらりとそう言って笑った。その笑顔は穏やかで、私の心をふわりと包み込むようだった。ただ、私はその言葉を素直に受け取れなかった。「でも、私はこんなに小さいカバンしか持ってないのに、申し訳ないよ。何か一つでも持たせて?お願い」それは遠慮でも、気遣いでもなく、どこか懇願に近い響きだった。私は、ただ荷物を持ちたいわけじゃない。湊さんと“対等でいたい”という気持ちが、この言葉の奥に隠れていた。彼の優しさに甘えるだけじゃなくて、私も何かを背負いたい。そうしないと、この関係がどこか不安定なものに思えてしまうから。私は彼の顔を見上げた。その目に、私の気持ちは映っているだろうか。「そこまで言うなら&helli
last updateLast Updated : 2025-12-06
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第49話

「いただきます…」 スプーンを手に取り、そっとパフェの上の苺をすくう。 艶やかな赤い果実に、ふわふわのホイップクリームが絡んで、その下にはバニラアイスとサクサクのパイ生地が重なっていた。 口に運んだ瞬間、甘酸っぱい苺の香りが広がり、冷たいアイスが舌の上でとろけていく。 思わず目を閉じて、頬が緩んだ。 「んっ、美味しい」 美味しいなんて言葉じゃ足りない。 この幸福感をどう表現したらいいのか、分からないくらい。 気づけば、夢中でスプーンを動かしていた。 周りのことなんて忘れて、ただこの一口に集中していた。 「ハムスターみたいで可愛い」 その言葉に、スプーンを持つ手がぴたりと止まった。 顔を上げると、湊さんが微笑んでいた。 ただ純粋に、私の様子を楽しんでいるようだった。 でも、私は一瞬で顔が熱くなるのを感じた。 頬張りすぎて口の中はアイスでいっぱい。 私は慌ててスプーンを置いた。 「…ごめんなさい」 小さな声で、そう呟いた。 視線は下を向いたまま。 さっきまでの幸せな気持ちが、一気に恥ずかしさと後悔に変わっていく。 もっと上品に食べればよかった。 もっと落ち着いて味わえばよかった。 あの場でこんな事をしてしまったら、一度でアウトだ。 それよりも、湊さんに子供っぽいと思われたかもしれない。がっついてると、引かれたかもしれない。 そんな不安が、胸の中で膨らんでいく。 私は、せっかくの楽しい時間を、自分の無意識な行動で壊してしまったような気がして、心の中で小さくうずくまった。 「褒めてるのに、どうして謝るの」 湊さんの声は、驚くほど優しかった。 その言葉に、私は顔を上げる。 彼は、変わらず穏やかな目で私を見ていた。
last updateLast Updated : 2025-12-07
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