「湊さん、私がするよ?」私はカウンター越しに立ち、シンクに向かって皿を洗っている湊さんに声をかけた。袖を少し捲って、真剣な顔でスポンジを動かすその姿が、なんだか妙に板についていた。「駄目駄目。当分は家事禁止だから」湊さんは手を止めることなく、泡立った皿をくるくると回しながら、少しだけ眉を上げて私を見た。その目は冗談めいているようで、でもどこか本気だった。禁止って、そんな大げさな。まるで私が大怪我でもしたみたいな言い方に、少しだけむずがゆい気持ちになる。「そんなこと言ったって…」私は思わず言い返した。だって、私がしないと誰がやるの。湊さんは仕事があるし、私が家のことをやるのは、もうずっと当たり前のことだった。私は自分の手首を見つめながら、心の中でぐるぐると考えを巡らせていた。数日だけハウスキーパーの人に来てもらう?でも、他人に家の中を見られるのは落ち着かないし、それに、そんなことをするくらいなら自分でやったほうが早い。そう思ってしまうのは、きっと私が頼ることに慣れていないからだ。「明日から、家事は全部僕がするから」「…ん?」一瞬、聞き間違いかと思って、私は首をかしげた。もしかして、全部って言った…?掃除も洗濯も料理も?私が何もせずに、湊さんが全部やるってこと?そんなの、現実味がなさすぎて、頭が追いつかない。私は思わず湊さんの顔を見つめた。「ん?」湊さんが聞き返す。私は思わず、もう一度問い直した。「湊さんが家事をするの?全部?」湊さんはようやく手を止めて、泡のついた手を軽くすすぎながら、
Last Updated : 2026-01-09 Read more