All Chapters of 私の事が大嫌いだったはずの旦那様が記憶喪失になってから、私を溺愛するようになったのですがこれは本当に現実ですか!?: Chapter 61 - Chapter 70

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第60話

「……そうだったんだ」 湊さんの声は、静かだった。 その声に、私はそっと顔を上げた。 彼の表情は、どこか遠くを見つめるようで、けれど確かに私の言葉を受け止めていた。 私は少しだけ、肩の力を抜いた。 言ってよかったのか、まだ分からない。 けれど、伝えられたことに、ほんの少しだけ救われた気がした。 「割れたものを置いておくなんて、縁起悪いのにね。分かってたのに…」 私は自嘲気味に笑いながら、ぽつりとこぼした。 本当は、ずっと気づいていた。 壊れたものを手元に置いておくことの意味。 それが、どれだけ未練がましくて、どれだけ過去に縛られているかを。 でも、捨てられなかった。 それを手放すことが、二人の記憶をなかったことにするようで、怖かった。 湊さんにも、そう言われるだろうと思っていた。 いつまでそんなものを置いてるんだ。 もう終わったことだろう。 そんなふうに冷たく言われたら、私はきっと、もう立ち直れなかった。 だから、食器棚には触れられないように、そっと奥に隠していた。 見つからないように。 気づかれないように。 まるで、秘密のように。 「ううん。大事にしてくれて嬉しいよ」 その言葉に、私は思わず目を見開いた。 湊さんが、あの皿を大事にしていたことを、喜んでくれるなんて。 一瞬、耳を疑った。 けれど、彼の表情は穏やかで、嘘をついているようには見えなかった。 そのまなざしは、まっすぐで、やさしかった。 「嬉しいなんてそんなこと…」 私は思わず呟いていた。 あのお皿は、母が結婚祝いでくれたものだった。お皿と、マグカップと、カトラリーのペアセット。 白くて、縁にだけ淡いグレーが走る、控えめでやさしいデザイン。 私の好みをよく知っている母
last updateLast Updated : 2025-12-19
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第61話

「食後のコーヒーどうぞ」湊さんがそっと差し出したマグカップから、ふわりと湯気が立ちのぼる。その香りは、どこか懐かしくて、やさしかった。私は両手でカップを受け取りながら、自然と笑みがこぼれる。 「ありがとう。皿洗いもありがとう」私はそう言いながら、湊さんの目を見た。感謝の言葉が、こんなにも素直に出てくるなんて、自分でも少し驚いた。いつもなら、「ごめんね」が口をついて出ていたはずなのに。気を遣わせたこと、迷惑をかけたかもしれないこと、そういうことばかり気にしていたのに。「どういたしまして」私はそっとカップを口に運び、一口含む。さっきまで冷たかった指先が、じんわりと温まっていく。「…ん、美味しい」思わず、声が漏れた。苦すぎず、でも香りはしっかりと立っていて、口の中にやさしく広がる甘さが、今日のこの空気にぴったりだった。「良かった」湊さんの声が、どこか嬉しそうだった。その一言に、私は胸の奥がふわりとほどけるのを感じた。「どうして、」私は不思議そうに尋ねた。だって、ブラックコーヒーじゃなかったから。「昨日、苦そうだったから。角砂糖二個入れてみた」湊さんはそう言って、いたずらっぽく笑いながら、指でVのポーズを作った。その仕草に、私は思わず目を細めた。ふざけているようでいて、どこか照れ隠しのようにも見える。きっと、私が昨日、無理して飲んでいたことに気づいていたんだ。それでも何も言わず、今日こうして、さりげなく甘くしてくれた。カップの中のコーヒーから立ちのぼる湯気が、まるで湊さんのやさしさそのものみたいに思えて、私はそっと唇を開いた。「私、ブラックが飲めないこと隠してたの」カップを両手で包みながら、私はそっと言った。湊さんがブラックを好んでいたから、私もそうしなきゃいけない気がしていた。苦くても、平気なふりをしていた。それが、ふたりの距離を保つための、小さな嘘だった。…それだけじゃないけど。「もしかして、僕がまたなにか…」湊さんの声が、少しだけ揺れた。その揺らぎに、私ははっとする。まるで、自分を責めるような響きが混ざっていた。私の言葉が、彼を傷つけてしまったのかもしれない。そんなつもりじゃなかったのに。私は慌てて顔を上げ、首を横に振った。これは、湊さんのせいじゃない。私が勝手に、そうしなきゃって思い
last updateLast Updated : 2025-12-21
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第62話

「湊さん、明日から出勤だけど、その…」 言葉を選びながら、私はそっと視線を落とした。 胸の奥が、じんわりと熱い。 明日から始まる新しい日々。 その入り口に立つ湊さんの背中を、私はどうやって支えればいいんだろう。 「頑張って」と笑って送り出すこともできた。 でも、それじゃ駄目な気がした。 「僕のことなら心配しないで」 湊さんの声は、いつも通り穏やかだった。 でも、その優しさが、今は少しだけ苦しかった。 心配するのもおこがましいような気がした。 こんなことになったのは私のせいなのに。 私は、ただ見ていることしかできない。 心配しかできない自分が情けなくて、胸の奥がじんわりと痛んだ。 それでも、心配せずにはいられなかった。 湊さんが無理をしていないか、本当は不安を抱えていないか。 そんなことばかりが頭をよぎっていた。 「そう…なんだけど、」 私は、かろうじてそう返すのが精一杯だった。 心配しないでと言われたのに、それでも心配で、胸がざわざわしていた。 私の気持ちは、ただの自己満足だ。 でも、何もしないでいることのほうが、もっと苦しかった。 「覚えることは沢山ありそうだけど、きっと何とかなるよ」 その声には、不安も焦りもなかった。 まるで、自分に言い聞かせるような、私を安心させようとするような。 私は、彼のために何もできていない。 ただ、こうして見ているだけ。 それが、もどかしかった。 彼の隣にいるのに、何もできない自分が、悔しかった。 「…湊さんのために、何かできたらいいのに」 言葉にしてしまった瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。 ずっと心の中にあった想い。 それは、勝手な気持ち。 彼はきっと、自分の力でちゃんとやっていける。私なんかが出る幕じゃない。 それでも、何かひとつでも、彼の力になれたらと思った。 それがどんなに小さなことでもいい。 彼の背中を、ほんの少しでも支えられるなら。 そう思ったら、言葉が自然とこぼれていた。 「じゃあ、一つだけお願い聞いてくれる?」 湊さんの声が、少しだけやわらいだ。 その響きに、私は思わず顔を上げる。 彼の表情は、どこかいたずらっぽくて、でもその奥に何かを隠しているようにも見え
last updateLast Updated : 2025-12-22
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第63話

昼下がりの光が、カーテン越しに部屋を照らしていた。 レースの布を通してやわらかくなった陽射しが、床に淡い模様を描いている。 その光は、まるで水のように静かに部屋の隅々へと広がって、 私の足元にも、ソファの肘掛けにも、そっと触れていた。 時間が止まったような、そんな午後だった。 時計の針の音さえ、今日はやけに遠く感じる。 湊さんはベランダに出て、洗濯物を干していた。 風に揺れるシャツの裾が、陽に透けて、やわらかく光っている。 彼は無言で、でも手際よく洗濯バサミを使って、一枚一枚、丁寧に干していく。 私はクッションを抱えたまま、ぼんやりとその背中を見つめていた。 その姿には、何も飾り気がない。 ただ、静かに、淡々と、でもどこかやさしさがにじんでいた。 ふと、湊さんがこちらを振り返る。 目が合った瞬間、私は思わず小さく笑ってしまった。 「なに?」と湊さんが首をかしげる。 その声は、いつもより少しだけやわらかくて、 まるで、私の心の中を覗き込むようだった。 私は少しだけ頬を緩めて、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。 「私も手伝うよ」 ただ見ているだけじゃなくて、私もこの空間の一部でいたかった。 湊さんの隣で同じことをして、同じ時間を過ごしたかった。 それは義務でも責任でもなくて、ただ、そうしたいと思ったから。 けれど、湊さんはすぐに首を横に振った。 「彩花ちゃんは座ってて。そこにいるだけで充分」 その言葉に、胸の奥がふっと揺れた。 何かしていないと、私はここにいていいのか分からなくなる。 ただいるだけの自分を、まだどこかで許せていない。 「そんなこと言ったって、」 声に、わずかな棘が混じったのが自分でも分かった。 本当は、感謝の気持ちを伝えたかったのに。
last updateLast Updated : 2025-12-23
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第64話

「一体いつまで待たせるつもり?」 その第一声は、思っていたよりもずっと鋭かった。 電話越しなのに、まるで目の前で言われているような圧があった。 私は思わず背筋を伸ばし、壁に背を預けていた身体を起こす。 喉がきゅっと締まる。 言い訳は通じない。 そう分かっていても、何か言わなければという焦りが胸を締めつける。 「すみません。気づくのが遅くなってしまって」 そう言った自分の声が、小さく、頼りなく響いた。 ほんの数秒、ためらっただけ。 それだけのことなのに、電話の向こうからは、すでに冷たい空気が流れ込んできていた。 私は無意識に背筋を伸ばし、スマートフォンを持つ手に力が入る。 「あらまぁ。言い訳までして。いつの間にそんなに偉くなったのかしら」 その言葉は、まるで刃物のようだった。 やわらかい口調の中に、確かな棘が潜んでいる。 私は思わず息を呑み、言葉を失った。 そんなつもりはなかった。 私の沈黙は、きっと反抗に見えるのだろう。 だから私は、また形だけの言葉を並べるしかなかった。 「……いえ、そんなつもりはありません。申し訳ありません」 言いながら、胸の奥がじわりと痛んだ。 謝ってばかりの自分が、情けなかった。 でも、反論する勇気もなかった。 「分かっていると思うけれど、近いうちにそちらに伺うわね」 その言葉は、まるで通告のようだった。 伺うという丁寧な響きの裏に、拒否の余地はなかった。 私はスマートフォンを耳に当てたまま、視線を床に落とす。 その瞬間、胸の奥に冷たいものが流れ込んでくるのを感じた。 彼女は二ヶ月に一度のパーティーの前に、必ず私に会いに来る。 それは形式的な挨拶でも、ただの親しみでもない。 それは、確認であり、監視であり、私がきちんとしているかを
last updateLast Updated : 2025-12-24
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第65話

「ごめんね、急に席外しちゃって」 そう言いながらリビングに戻った。 けれど、湊さんの顔をまっすぐ見ることができなかった。 目が合ったら、何かを悟られてしまいそうで。 いや、もうとっくに気づかれているのかもしれない。 それでも、見なければなかったことにできる気がした。 手に残るスマートフォンのぬくもりが、さっきの通話が現実だったことを、静かに証明していた。 「いいけど……大丈夫? なんか顔色……」 湊さんの声は、いつもと変わらずやさしかった。 私の中の何かが、ぎゅっと縮こまる。 心配してくれていると分かっているのに、その気持ちに応える余裕が、今の私にはなかった。 私は笑うふりをして、首を小さく振った。 笑顔の形だけを口元に貼りつけて、なんとかやり過ごそうとした。 「もちろん、全然だよ。大した用事じゃ、」 言いかけて、言葉が喉の奥でつかえた。 大した用事じゃない。 そう言い切るには、あまりにも重すぎた。 あの一言が、何度も何度も反響して、私の中の静けさをじわじわと侵食していく。 言葉にしようとするたび、喉の奥がきゅっと締まって息が詰まりそうになる。 「誰からだったの?」 その問いに、私は一瞬だけ動きを止めた。 でも、すぐに笑うような声をつくって、話を逸らすように言葉を重ねた。 「んー? あ、そろそろ夕食の準備しなきゃ」 そう言って、キッチンへ向かう。 背中に湊さんの視線を感じながら、冷蔵庫の取っ手に手をかける。 その手が、ほんの少しだけ汗ばんでいた。 冷気が頬に触れて、少しだけ現実に引き戻された。 でも、心はまだ、あの通話の中に取り残されたままだった。 「彩花ちゃ──」 「今日はシチューにしようと思って」 湊さんの言葉を遮るように、声をかぶせた。
last updateLast Updated : 2025-12-25
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第66話

「ねぇ。何があったのか、ちゃんと話して」 湊さんの声は、いつもより少しだけ低かった。 優しさと焦りが混ざったような声。 きっと、もどかしいのだろう。 「ほんとに、何もなかったです」 自分でも驚くほど声は冷たく、乾いていた。 まるで、誰か他人が話しているみたいだった。 心の中では、言いたいことが山ほどあった。 でも言えなかった。 だから、何もなかった。そう言い聞かせるように、私は唇を結んだ。 けれど、そんな言葉が通じる相手ではないことも、私はよく知っていた。 「そんな顔してるのに、何もないわけないよ」 湊さんの指先が、そっと私の頬に触れた。 その手は、あたたかくて、やわらかくて。 そんな顔って、どんな顔だろう。 泣きそうな顔? 怒っている顔? それとも、ただの諦めた顔? 自分ではもう、どんな表情をしているのかも分からなかった。 次の瞬間、心の奥にしまっていた痛みが、そのぬくもりによって呼び起こされてしまった。 私は、反射的に顔を逸らした。 その動作は、無意識だった。 でも、湊さんの手が空を切った瞬間、私は自分の中にある拒絶のかたちを、はっきりと自覚した。 拒んだのは彼の手ではなく、彼の今だった。 記憶を失った彼に、私は何を求めているのだろう。 でも、心は、そう簡単に割り切れなかった。 「俺じゃ、頼りにならない?」 湊さんの声が、かすかに揺れた。 その問いかけには、自分への自嘲と、私への不安がにじんでいた。 違う。そうじゃない。 「そうじゃなくて…」 私は、かすれた声でそう答えた。 でも、それ以上の言葉が出てこなかった。 ただ、私の中に残っている痛みが、あなたの言葉でまた疼き出してしまっただけで。 「言ってくれないと、守りたく
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第67話

家を飛び出してから早二時間。私は玄関にかかった上着だけを着て、ファミリーレストランにいた。店内はほんのり暖かく、外気に冷えた頬がじわじわと緩んでいくのを感じた。けれど、そのぬくもりは身体の表面だけで、心の奥までは届かなかった。この時間は、家族層がちらほら、夕食をとっていた。向かいのテーブルでは、小さな子どもがハンバーグを頬張っている。その隣で、母親が笑いながらナプキンで口元を拭ってやっていた。父親はスマホをいじりながらも、時折顔を上げては、「おいしいか?」と声をかけている。そんな中、私は1人コーヒーを飲んでいた。笑い声が弾けるたびに、私は少しだけ肩をすくめた。それは、うらやましいとか、妬ましいとか、そういう感情ではなかった。ただ、そんな何気ないやりとりが、今の私にはまるで別世界の出来事のように思えた。幸せそうな人たちの中に、自分だけが取り残されているような気がして、私はそっとカップを持ち上げた。冷めかけたコーヒーの苦味が、今の私にはちょうどよかった。本当なら今頃は…湊さんと一緒にシチューを食べていたのに。そう思った瞬間、胸の奥がじんと痛んだ。財布も持たずに飛び出したけれど、電子決済が出来るからその心配はしなくて…こんなときに、電子決済が使えることに安堵している自分が、なんだか滑稽に思えた。でも、そうでもしないと、現実に押し潰されてしまいそうだった。だから私は、どうでもいいことに意識を向けて、自分を保とうとしていた。「はぁ…」私は小さくため息をついた。そんな心配、してる場合じゃないのに。私は、カップを両手で包み込むように持ち直した。あんなことを言ってしまうなんて。
last updateLast Updated : 2025-12-27
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第68話

結局夜になって家に帰った。 外の空気はすっかり冷え込んでいて、ファミレスを出た瞬間、頬に触れた風がひどく冷たく感じた。 数時間、コーヒーを飲み続けただけだった。 空腹感はとうに通り過ぎて、代わりに胃のあたりが重たくなっていた。 コーヒーの苦味も、最後の方はもう味が分からなかった。 ただ、何かを口にしていないと、落ち着かなかった。 だから何度も「すみません、ブレンドを」と言って、店員さんの笑顔に曖昧に頷いて、ひたすらカップを口に運んでいた。 お腹がいっぱいになったというより、心が空っぽなまま、何かで埋めようとしていたのかもしれない。 何度も電話があったけど、出ることができなかった。 スマホの画面には、湊さんの名前が何度も並んでいた。 着信履歴の数字が、私の罪悪感を静かに増幅させていった。 でも、どうしても出られなかった。 声を聞いたら、きっとまた泣いてしまうと思った。言い訳をしてしまうと思った。 だから私は、ただ画面を見つめるだけだった。 震える指で何度もスリープボタンを押して、通知を消して、それでもまた画面を見てしまう自分がいた。 心配だから居場所だけでも教えてと言われ、ファミレスにいるとだけ返した。 そのメッセージを打つまでに、何度も書いては消してを繰り返した。 「ごめんね」って入れようとして、やめた。 「大丈夫だよ」って書いて、消した。 結局、最低限の情報だけを送った。 “ファミレスにいる” それだけ。 それ以上の言葉を添える勇気がなかった。 送信ボタンを押したあと、すぐにスマホを伏せた。 返事が来るのが怖かった。 でも、来なかったら来なかったで、それもまた、怖かった。 「ただいま…」 玄関のドアをそっと開けて、小さな声でそう呟いた。
last updateLast Updated : 2025-12-28
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第69話

まぶたの裏に、ぼんやりと朝の光が差し込んでいた。私はゆっくりと目を開ける。まだ夢の中にいるような、現実との境目が曖昧な感覚のまま、私は無意識に隣へと手を伸ばした。けれど、そこには誰もいなかった。指先が触れたのは、冷たくなったシーツの感触。湊さんのぬくもりは、もうどこにも残っていなかった。一瞬、何か大切なことを忘れているような気がして、私ははっとして身を起こした。何かが、遅れている。何かが、間に合っていない。枕元のスマホに手を伸ばし、画面を点ける。「……えっ、9時半!?」思わず声が漏れた。一気に血の気が引いていく。湊さんの初出勤の日。絶対に起きて、朝ごはんを作って、笑顔で送り出すつもりだったのに。それに、目覚ましもかけていたはずなのに、どうして。私は慌てて枕元の目覚まし時計を手に取る。液晶には、無情にも「切」の文字が表示されていた。その表示を見た瞬間、頭が真っ白になった。昨日、確かにセットした。時間も確認して、アラームの音量まで調整したはずだった。なのに、どうして。指が震える。でも、もしかしたら湊さんまだいるかも。私は、ぼんやりとした頭のまま、リビングへと駆け出した。寝起きの身体が重たくて、視界も少し霞んでいる。それでも、心だけが焦っていた。まだ支度中かもしれない。声をかければ、間に合うかもしれない。そんな淡い期待を胸に、私はリビングのドアを勢いよく開けた。けれど、そこには誰もいなかった。朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、部屋の中を静かに照らしていた。
last updateLast Updated : 2025-12-29
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