「……そうだったんだ」 湊さんの声は、静かだった。 その声に、私はそっと顔を上げた。 彼の表情は、どこか遠くを見つめるようで、けれど確かに私の言葉を受け止めていた。 私は少しだけ、肩の力を抜いた。 言ってよかったのか、まだ分からない。 けれど、伝えられたことに、ほんの少しだけ救われた気がした。 「割れたものを置いておくなんて、縁起悪いのにね。分かってたのに…」 私は自嘲気味に笑いながら、ぽつりとこぼした。 本当は、ずっと気づいていた。 壊れたものを手元に置いておくことの意味。 それが、どれだけ未練がましくて、どれだけ過去に縛られているかを。 でも、捨てられなかった。 それを手放すことが、二人の記憶をなかったことにするようで、怖かった。 湊さんにも、そう言われるだろうと思っていた。 いつまでそんなものを置いてるんだ。 もう終わったことだろう。 そんなふうに冷たく言われたら、私はきっと、もう立ち直れなかった。 だから、食器棚には触れられないように、そっと奥に隠していた。 見つからないように。 気づかれないように。 まるで、秘密のように。 「ううん。大事にしてくれて嬉しいよ」 その言葉に、私は思わず目を見開いた。 湊さんが、あの皿を大事にしていたことを、喜んでくれるなんて。 一瞬、耳を疑った。 けれど、彼の表情は穏やかで、嘘をついているようには見えなかった。 そのまなざしは、まっすぐで、やさしかった。 「嬉しいなんてそんなこと…」 私は思わず呟いていた。 あのお皿は、母が結婚祝いでくれたものだった。お皿と、マグカップと、カトラリーのペアセット。 白くて、縁にだけ淡いグレーが走る、控えめでやさしいデザイン。 私の好みをよく知っている母
Last Updated : 2025-12-19 Read more