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第81話:SP×SPの妄想暴走⑥

青年SP――名札には『高橋』とある――は、ニカっと人懐っこい笑みを浮かべた。さっきまでの狂犬のような鋭さはどこへやら。今は完全に、イベント会場で意気投合したオタク仲間のような顔をしている。 「じゃあ、さっきのリーダーさんとのやり取りは……?」 「ああ、あれっすか? あれはまあ、半分地で半分演技っすね」 「演技?」 「うちのリーダー、あんな感じで超カタブツなんすけど、たまに俺が反抗的な態度取ると、すげーいい顔するんすよ。『仕方ないな』みたいな、呆れと包容力が混ざった顔。……それが見たくて、つい煽っちゃうんすよね」 高橋さんが、悪戯っぽく舌を出した。 (……っ!! な、なにそれ尊い!! 無自覚天然タラシの上司と、それを計算づくで煽って楽しむ確信犯の部下!? 高度すぎる……! 天王寺家の警備班、人材の宝庫かよ……!) 感動のあまり、震える手で彼の腕(スーツ越し)を握りしめそうになり、ギリギリで理性を働かせて止める。 「すごい……すごいです高橋さん! その観察眼と実行力、まさにプロフェッショナル……!」 「へへっ、恐縮っす。……まあ、仕事は退屈なんで、こういうとこで楽しみ見つけないとやってらんないんすよ」 彼はそう言って、ポケットからタブレット菓子を取り出し、口に放り込んだ。その仕草すら、どこか「手慣れた男」の色気が漂っていて悔しい。 「あ、そうそう。これ、あげるっす」 高橋さんは懐を探ると、一枚の名刺……ではなく、小さなメモ用紙を私に渡してきた。達筆な文字でIDのようなものが書かれている。 「俺の裏垢(SNS)っす。今日の『上司観察日記』、後でアップするんでよかったら見てください」 「えっ、いいんですか!?」 「同志は助け合いっすから。……それに」 彼はふと真面目な顔になり、会場の方角――総帥や輝くんがいるであろう場所を見つめた。 「アンタの彼氏……輝様、だっけ? あの方、すげー頑張ってると思うっすよ」
last updateآخر تحديث : 2026-01-02
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第82話:SP×SPの妄想暴走⑦

会場に戻ると、パーティーは終盤に差し掛かっていた。ざわめきは少し落ち着き、招待客たちも三々五々、帰路につき始めている。 人混みを縫って、輝くんの姿を探した。 「……栞」 すぐに、名前を呼ばれた。 振り返ると、柱の陰で待っていた輝くんが、ほっとしたような表情で駆け寄ってくる。 「遅かったね。大丈夫? 気分悪くなったりしてない?」 「ううん、平気だよ。ちょっと……面白いことがあって」 「面白いこと?」 「うん。……天王寺家にも、意外と『話の分かる人』がいるんだなって」 含み笑いを浮かべると、輝くんは不思議そうに首を傾げた。 まさか、彼の父親のSPとBL談義に花を咲かせていたなんて、口が裂けても言えない。これは私と高橋さんだけの秘密だ。 「それより、輝くん。……お父様は?」 「……ああ。奥の応接室にいるみたいだ」 輝くんの表情が、スッと曇る。 先ほどのエリカ様との一件、そして総帥との対立。このまま何事もなく終わるはずがないことは、私たち二人が一番よく分かっていた。 「『後で来い』って言われてたよね。……行くの?」 「……行かなきゃ、終わらないからな」 輝くんは、握りしめた拳を見つめ、静かに、けれど力強く言った。 「俺は、父さんとは違う。家柄や利益のために結婚するなんて、死んでも御免だ。……俺は、俺の人生を生きる。そして、その隣には栞がいてほしい」 彼は顔を上げ、私の瞳をまっすぐに見つめた。その蜂蜜色の瞳には、揺らぐことのない決意の炎が燃えていた。 「栞。……ついてきてくれるか?」 「もちろん」 即答し、彼の手を両手で包み込む。 冷たくなっていた彼の手が、私の体温で少しずつ温まっていく。 「私は、輝くんが選んだ道なら、どこへだ
last updateآخر تحديث : 2026-01-03
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第83話:SP×SPの妄想暴走⑦

単刀直入な切り出し。総帥の眉が、ピクリと動く。 「……理由は?」 「愛していないからです」 「愛だと? ……くだらん」 総帥は鼻で笑った。輝くんの言葉を、幼子の戯言として切り捨てる嘲笑だ。 「結婚とは、家と家との契約だ。個人の感情など、二の次、三の次だ。……お前も天王寺の人間なら、それくらい理解しているはずだろう」 「理解しています。……だからこそ、俺は拒否するんです」 輝くんが一歩前に出る。その背中から、熱気が立ち上っているように見えた。 「俺は、天王寺家のための道具じゃない。一人の人間です。……誰を愛し、誰と生きるか。それは、俺自身が決めることです」 「……ほう」 総帥の目が、危険な光を帯びて細められる。 「それが、お前の答えか。……その、どこの馬の骨とも知れぬ小娘を選ぶと?」 「彼女は馬の骨なんかじゃない! 栞です! 月詠栞という、かけがえのない女性です!」 輝くんが声を張り上げた。 その声には、怒りと、そして深い愛情が込められていた。 「彼女は……俺がどんなに辛い時でも、そばにいてくれた。俺が『天王寺輝』という看板に押しつぶされそうな時でも、ただの『輝』として見てくれた。……彼女がいなければ、俺はとっくに壊れていたかもしれません」 胸が、熱くなる。 そんなふうに思ってくれていたなんて。私はただ、彼と氷室くんの恋を応援していただけだったのに。……いや、それはもう過去の話だ。今は、私も彼を支えたいと、心から思っている。 「……美談だな」 総帥は、パチパチと乾いた拍手をした。その音は、部屋の中に空虚に響き渡る。 「だが、現実は甘くないぞ、輝。……その娘を選べば、お前は天王寺家のすべてを失うことになる」 「……え?」 「勘当だ。……家も、金も、地位も、すべて置いていけ。この屋敷から一歩でも出れば、お前はただの貧
last updateآخر تحديث : 2026-01-04
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第84話:同棲生活スタート!?①

 屋敷の重厚な扉が背後で閉ざされると、夕暮れ時の生温かい風が私たちの髪を撫でていった。 空は茜色から群青へと溶けかけ、じっとりと肌にまとわりつくような湿気を孕んでいる。「輝くん……」 私は彼の方へ向き直り、恐る恐る声をかけた。「……ん」 彼は足を止め、ゆっくりと私を振り返る。その表情は、憑き物が落ちたように穏やかで、けれどどこか頼りなくも見えた。「あの、これから……どうしよっか」 口にしてから、事態の深刻さが改めて身に沁みる。 移動するための車もない。帰るべき家もない。財布すら持たず、まさに着の身着のまま放り出されたようなものだ。 輝くんは少し困ったように眉尻を下げ、それから自嘲気味に口の端を上げた。「そうだな……正直に言うと、まったくのノープランだ」「えっ」「あんなに早く追い出されるとは思ってなかったからな。……でも、後悔はしてない」 彼は私の頬へ手を伸ばし、親指の腹でそっと輪郭をなぞった。その指先の微かな震えと温かさが直に伝わり、心臓がトクンと大きく跳ねる。「お前を守るためなら、これくらいの代償、安いもんだよ」 耳をくすぐる甘い声。蕩けるような瞳。 そんなふうに見つめられたら、不安なんて全部吹き飛んでしまいそうだ――そう思った矢先だった。 鼻先に、冷たいものが当たった。 見上げれば、鉛色の空からポツリ、ポツリと雨粒が落ちてきている。 ◇ 空模様は、私たちの状況をあざ笑うかのように、瞬く間に機嫌を損ねていった。 最初は遠慮がちだった雨粒は、数分のうちにアスファルトを叩きつけるような激しい本降りへと変わる。 乾いた土と埃が濡れていく独特の匂いが、むっと鼻腔を刺激した。 私たちは屋敷から続く長い坂道を下っていたけれど、生活感を排除した高級住宅街の並木道には、雨宿りできそうな軒先ひとつ見当たらない。「くそっ、タイミングが悪すぎるな……」 輝くんが悔しげに呟き、天を仰ぐ。 その端正な顔立ちに、無遠慮な雨が容赦なく打ち付けた。濡れた前髪が額に張り付き、水滴が長い睫毛を伝って、顎のラインへと滑り落ちていく。 その様子があまりにも美しくて、私は不謹慎にも息を呑んでしまった。 まるで、傷ついた騎士が戦場の雨に打たれているような、そんな凄みのある美しさ。「栞、こっちへ」 彼は自分のことなど気にする素振りもなく、ジャケット
last updateآخر تحديث : 2026-01-05
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第85話:同棲生活スタート!?②

 駅まではまだ距離がある。バス停も見当たらない。視界が白く煙るほどの雨脚に、二人の体温も奪われていく。 輝くんの上質な白いワイシャツは完全に水を吸って透け、肌にぴったりと張り付いていた。そのせいで、鍛え上げられた胸の厚みや、腹筋の起伏が露わになり、背中の筋肉が動くたびに濡れた布地が突っ張るのが見える。 水も滴るいい男、という言葉があるけれど、今の彼はまさにそれだ。 雨に濡れることで、彼の野性的な色気がむき出しになっている。(だめだめ、こんな時に何考えてるの私) 私はぶんぶんと頭を振り、邪念を追い払った。 今は緊急事態なのだ。彼を早くどこかへ避難させないと、本当に風邪を引いてしまう。「輝くん、私の家……アパートに行こう」 私は意を決して彼の袖を引いた。「ここからなら、駅に向かうより私のアパートの方が近いの。狭いし、ボロいけど……でも、雨は凌げるから」 輝くんは一瞬、驚いたように足を止めた。「……いいのか」「もちろんだよ。他にどうするの。行く当てなんてないんでしょ」「そうだけど……お前のテリトリーに、こんな転がり込むような真似をするのは……」 彼は何かを言い淀み、複雑な表情を浮かべた。 プライドだろうか。それとも、私の生活空間に土足で踏み込むことを躊躇っているのだろうか。「そんなこと言ってる場合じゃないよ。早く行こう」 私は彼の手を強く引っ張った。 躊躇う彼を強引に連れ出すなんて、まるで立場が逆転したみたいだ。 でも、そのことが少しだけくすぐったくて、嬉しかった。 いつも守られてばかりの私が、今は彼の手を引いている。ほんの少しだけ、彼を支えられているような気がして。 私のアパートまでの道のりは、永遠のように長く感じられた。 激しい雨音にかき消されそうになりながらも、私たちは途切れ途切れに言葉を交わした。「……昔、母さんと別れた日
last updateآخر تحديث : 2026-01-06
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第86話:同棲生活スタート!?③

 やがて、見慣れた古びたアパートが見えてきた。 築三十年、木造二階建て。オートロックなんて気の利いたものはないし、外壁は黒ずんで薄汚れている。天王寺家の豪邸と比べれば、犬小屋以下かもしれない。 けれど、今の私たちにとっては、砂漠に見つけたオアシスのように輝いて見えた。 カンカンカン、と乾いた音を立てる鉄製の外階段を駆け上がり、203号室の前に立つ。 屋根のある外廊下に入った瞬間、雨音が遠ざかり、ふっと息がつけた。 私はバッグの中から鍵を取り出そうと、震える指先でゴソゴソと中を探る。 その間、輝くんは私の背後で黙って立っていた。 鍵が見つかり、ドアノブに差し込んだ時、背後からふわりと気配が近づいた。「……栞」 低く、掠れた声が耳元で響く。 振り返ると、ずぶ濡れの輝くんが、捨てられた大型犬のような瞳で私を見つめていた。 濡れた前髪の隙間から覗く瞳は、不安と、期待と、そして抑えきれない熱情に揺れている。 ワイシャツは肌に完全に張り付き、逞しい胸の輪郭や、寒さで少し強張った身体のラインを露わにしていた。水滴が鎖骨の窪みに溜まり、そこからツーっと胸元へ流れていく。 その色っぽさに、私は思わず喉を鳴らしてしまった。 彼は、震える手で壁に手をつき、私をその腕の中に囲い込むようにして顔を近づけてきた。 いつもの自信満々な「壁ドン」ではない。 すがるような、弱々しい、けれど切実な距離の詰め方。「……会いたかった」 彼は、まるで何年も会っていなかったかのような口調で、そう言った。 さっきまでずっと一緒にいたのに。 でも、その言葉の意味が私には痛いほど分かった。 天王寺家の嫡男としてではない。ただの「輝」として、私に会いたかったのだと。「ずっと、こうしてお前と……何のしがらみもない場所で、ただの男と女として、向き合いたかった」 彼の熱い吐息が、冷え切った私の頬にかかる。「俺にはもう、何もない。…&hel
last updateآخر تحديث : 2026-01-07
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第87話:同棲生活スタート!?④

 再びカチャリと鍵を閉めた瞬間、世界が私たちの内側と外側に分断されたようだった。 狭いワンルームの玄関。 二人で立つにはあまりに窮屈なその空間に、雨の冷たさを纏った輝くんがいる。それだけで、見慣れた景色が異世界のように歪んで見えた。 ポタ、ポタ、と彼から滴る雫がタタキを黒く濡らしていく。「あ、えっと、とりあえず上がって。タオル持ってくるから」 私は慌てて靴を脱ぎ捨て、部屋の奥へと駆け込んだ。 電気をつけると、散らかり放題のオタク部屋が白日の下に晒される。壁に貼られた『Fallen Covenant』のポスター、棚に並んだフィギュア、読みかけの同人誌……。 一瞬、羞恥心で死にそうになったけれど、今はそれどころではない。 クローゼットから一番大きなバスタオルと、自分がダボっと着るために買ったオーバーサイズのTシャツ、そしてスウェットパンツを引っ張り出す。 振り返ると、輝くんが玄関に立ったまま、遠慮がちに室内を見回していた。「……入っていいのか」「うん、どうぞ。狭いし汚いけど……ごめんね」「いや。……いい匂いがする」 彼は小さく鼻を鳴らし、ふわりと笑った。 その無防備な笑顔に、また胸がぎゅっとなる。 彼が革靴を脱ぎ、部屋に足を踏み入れる。 私の生活圏に、学園の王子様が侵入してくる。その背徳感と非現実感に眩暈がしそうだ。「とりあえず、その濡れた服、脱いで。風邪引いちゃう」 私がバスタオルを差し出すと、彼は素直に頷き、ワイシャツのボタンに手をかけた。 白く長い指が、濡れて透けた生地からボタンを一つ、また一つと外していく。 そのたびに、鍛え抜かれた鎖骨、厚い大胸筋の谷間、引き締まった腹筋が露わになっていく。(待って待って、刺激が強すぎる) 私は慌てて目を逸らそうとしたけれど、本能がそれを許さなかった。 雨と汗で濡れた肌が、安っぽい室内の照明を弾いて艶かしく光っている。 彼は躊躇な
last updateآخر تحديث : 2026-01-08
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第88話:同棲生活スタート!?⑤

 ベッドがきしむ音がして、ドキッとする。「髪、まだ濡れてるね」 私は誤魔化すように新しいタオルを手に取り、彼の後ろに立った。「拭いてあげる」「……ああ」 彼は素直に頭を預けてきた。 ワサワサとタオル越しに髪を拭く。濡れた髪はいつもより色が濃く、少し冷たい。 私が動くたびに、彼の頭がコクリコクリと揺れるのが、なんだか大型犬みたいだ。 指先が彼の首筋や耳に触れると、ビクッと肩が反応するのが伝わってくる。「ごめん、痛かった?」「いや……。気持ちいい」 低く、甘い声が、お腹の底に響く。 私は手を止めず、丁寧に水分を拭き取っていった。 ふと、タオルの隙間から、彼のうなじが見えた。 髪の生え際の、少し無防備な部分。 そこにある小さな黒子を見つけた瞬間、なぜか急に「彼が私の部屋にいる」という現実が押し寄せてきた。 雲の上の存在だった彼が、今は私の安物の服を着て、私のベッドに座り、私に髪を拭かれている。 全てを捨てて、私を選んでくれた人。 衝動的に、私はタオルの上から彼を抱きしめていた。 背中から首に腕を回し、濡れた髪に頬を寄せる。「……栞?」「輝くん……私……」 言葉にできない感情が溢れて、喉が詰まる。 彼は私の腕の上から自分の手を重ね、ゆっくりと撫でた。 その手は大きくて、温かくて、微かに震えていた。 彼もまた、不安だったのかもしれない。 慣れ親しんだ世界を捨て、何もない場所へ飛び込むことが。 それでも、私を選んでくれた。「ありがとう。……来てくれて、ありがとう」 私が絞り出すように言うと、彼は私の腕を引いて、自分の方へと振り向かせた。 タオルがふわりと床に落ちる。 見上げると、少し乱れた髪の彼が、熱っぽい瞳で私を見下ろしていた。
last updateآخر تحديث : 2026-01-09
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第89話:同棲生活スタート!?⑥

 長い、長い口づけの後。 名残惜しそうに唇が離れると、銀色の糸が一本、ふっと引いて切れた。 そのあまりに艶めかしい光景に、私はカッと熱くなり、彼の胸に顔を埋めた。「……顔、見せて」「むり……恥ずかしい……」「はは、可愛いな」 頭上で彼がクスリと笑い、大きな手が私の頭を優しく撫でた。 ぽん、ぽんとリズムよく叩かれる手つきは、幼子をあやすようでもあり、大切な宝物を慈しむようでもある。「……夢みたいだ」 彼が私の髪にキスを落としながら、独り言のように呟いた。「家を出て、全てを失ったはずなのに。……今、俺は世界で一番満たされてる」 彼は私の肩を抱き寄せ、そのままベッドにゆっくりと体を預けた。 軋むスプリングの音と共に、私たちは狭いシングルベッドに横たわる。 当然、二人で寝るには狭すぎる。 けれど、今はその狭ささえも心地よかった。隙間なく密着できるから。「ねえ、輝くん」 彼の胸板に指先で触れながら、私は問いかけた。「……後悔、してない? 本当に」 ふかふかの羽毛布団も、広々としたキングサイズのベッドもない。 明日からの生活の保証も、何もない。 それでも、彼は私の目を見て、力強く頷いた。「ああ。一度だってしてない」 彼は私の手を握り、その指先に口づけを落とす。「俺にとっての『家』は、あの冷たい屋敷じゃない。……お前がいる場所が、俺の帰る場所だ」 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった不安の塊が、すうっと溶けて消えていった。 私が彼を支えなきゃ、と思っていたけれど。 彼もまた、私を支えにしてくれている。 互いに寄り添い合えば、どんな嵐も怖くない。そんな気がした。「……じゃあ、ここが今日から輝くんの家だね」「ああ。&
last updateآخر تحديث : 2026-01-10
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第90話:新しい日常①

 小鳥たちのさえずりも、カーテンの隙間から差し込む朝の光も、今日ばかりは私の味方をしてくれそうにない。 ……んぅ。 重い。 金縛りにでもあったかのように、身体がピクリとも動かないのだ。けれど、不思議と不快ではなかった。むしろ、その重みと一緒にじんわりと伝わってくる熱が、肌の奥まで溶け込んでくるようで心地いい。 それもそのはずだ。私の安物のシングルベッドの上には今、私以外の質量――それも、とびきり巨大で温かい物体が鎮座しているのだから。 まぶたを薄く持ち上げると、視界いっぱいに白く滑らかな肌が広がった。首筋から鎖骨にかけてのラインが、朝の光を浴びて艶めかしく浮き上がっている。 ドクン、ドクン。 規則正しいリズムが、私の頬に直接響いてくる。 温かいというより、熱い。 鼻先をくすぐるのは、昨夜の雨の湿った匂いと、彼が元々まとっている微かなムスクの香り。そこに、男の人特有の体臭が混じり合った、濃厚な気配。 ……あ、そっか。 寝ぼけて霧がかかっていた脳が、ゆっくりと現実の輪郭を結んでいく。 昨夜の嵐のような出来事。絶対的な権力者である総帥への啖呵。そして、地位も名誉もすべてを脱ぎ捨てて、私の元へ転がり込んできた彼。 夢じゃなかったんだ。 私はシーツが擦れる音を立てないよう、そっと視線を上げた。 そこには、学園の王子様であり、私の恋人であり、そして今日から私の同居人となった、天王寺輝くんの無防備な寝顔があった。 ……っ。 思わず息を呑む。 至近距離で見ても、いや、吐息がかかるほどの距離だからこそ、その造形の美しさが暴力的なまでに目に沁みる。 長く伸びた睫毛が、目の下に淡い影を落としている。いつもは自信に満ちた光を宿して射抜くような瞳が閉じられ、スッと通った鼻筋も、薄い唇も、今は安らかに緩んでいた。 私のTシャツ――サイズが合わなくてピチピチだ――を身に着け、私の狭いベッドに窮屈そうに身体を丸め、まるで私を抱き枕か何かのように抱え込んで眠っている。
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