All Chapters of 大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜: Chapter 11 - Chapter 20

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10.海老のチリソース〜千本西行傘入り〜

 後日──23:45 駅前のアパートメント。「なんかお腹空いた〜」 梨花子はその日寝つきが悪く、寝室からダイニングキッチンへ戻ってきた。「なんだよ。珍しいな」 男性が一人 、酒を飲みながらテレビを観ていた。「たまにはいいよね。夜食♡」「また太るぞ」 男性が酒を飲んでいるテーブルの上には、銀色に光るペアのリングが二つ並んでいた。「今日送られて来たやつ ? 」「そう。お義母さんもマメだよね〜。わたしが料理しないって嫌味 ? どうせ明日で終わるのに。 あ、でも美味しそう ! エビチリだ ! 」 冷凍のパウチ。ふんだんに海老が入ったご飯のお供。取り出した冷蔵庫のそばには送り主の書かれたダンボールが残されていた。 宛名は梨花子夫妻宛、中身は食品の冷凍便。ただしいつもとは義母の字が違うことに梨花子は気付かなかった。湯煎で気長に温める。「俺によこせよ」「半分 ! 」 余りご飯に乗せて丼物で食べ尽くす。「……なんか……」「うん……。不思議な味。冷凍食品ってこんなに美味しいの ? 」「この青い刻み、葱 ? 」「ニラじゃない ? 」「エビチリにニラって入れる ? 普通玉ねぎじゃない  ? それにこの刻みキノコ」「うん。多分このキノコが出汁良いんだね。うちの実家はブロッコリーとかでかさ増ししてたけどね」 二人夢中で完食。「お義母さんには連絡しておいて。お高そうな冷食ありがとう、貰えるだけでも助かります〜って」「高いものイコール美味しいじゃねぇだろ。 それより仕事ちゃんと探してんのか ? アッチで稼いでるんだろうけど、これから離婚するのに元嫁が金に困ってるなんて言われたくねぇからな。俺は真っ当に仕事してるんだ。人の目も気になる」「してます〜。そうだ。こないだ行った大衆中華屋さん、あそ
last updateLast Updated : 2025-11-18
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11.『神の意思』と呼ばれた者

「そっちのスマホも寄越せ。  お、オークションサイトがズラリだ。これ全部使ってんだろうな。……こっちのファイルは他人の口座の一覧だ。多分、祐介の他にもいるぞコレ。  しかし……転売したあいつらをどうにかするのは難しいんだぜぇ」「必ず私用に使っているコミュニケーション的なものがあるはず。それを探してくれ」     紫麻は豊潤な黒髪の隙間だけから触腕を伸ばすと、真っ赤なドレスに戻っていく。暗闇で見る赤は案外頼りないものだ。特に海の中では。 「コミュニケーション…… ? ああ、SNSとかか ? 」 一つ一つ開いていく。夫の仕事関係のファイルも存在した。恐らく本来はその為にここにあったパソコンなのだろう。しかし娯楽的なソフトやアプリ、画像データは全て梨花子のアカウントであろうネームで活動されていた。 その中の一つ。スマートフォンから祐介とのやり取りを見つけた。ヘヨンと表示された祐介との熱いやり取り。  どうやら梨花子の方は初め乗り気じゃなかったが、徐々に心を開き始めていたようで、今ではヘヨンを熱心に愛しているようだ。「浮気がバレて離婚か。おまけに働かず転売ヤー。旦那が愛想をつかした訳だな」「しょうもないな」 鹿野は更にファイルを見ていく。そしてその中の一つの情報に首を傾げ、カモシカの横長の瞳孔を細める。「ん〜 ? おかしくねぇか ? 」「どういうことだ ? 」「ヘヨンは祐介なんだろ ? 口座名義もヘヨンだぞ ? 普通、偽名で口座は作れねぇよな ?   って事は、梨花子は通帳を受け取った時にヘヨンが偽名だという事に気付いてない。梨花子はヘヨンはまだ韓国人だと信じている可能性があるよな ?  」「ああ。それに今はだいぶ熱を上げているようだしな。  だが元々転売用の口座目当てだったんだ。相手はなんだっていいのだろう。梨花子の目的は口座だ」「……おかしいと思わねぇか ? 祐介は転売ヤーの梨花子に乗ったんだ。なら恋人の関係なんて終わらせて、ビジネスと
last updateLast Updated : 2025-11-19
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12.現場

 Prrrrrr.Prrrrrr.「あ、鏡見さん。着信です〜。  おはようございます田中さん。何か出ましたか ? 」 梨花子のアパートには鏡見と柊が立ち行っていた。鑑識からの着信に柊がスマホを取り出す。「柊です。……そうですか。はい。ではぁ保健所に通報ですか ?   いえ、俺たちは今近くの公園で……はい。分かりました」 柊は通話を切ると鏡見を見上げる。「食中毒に間違いないですが……二人が食べたのはレトルトのエビチリだそうです。毒キノコの成分が出てるとか」「毒キノコ ? 薬物ではなく ? 」「はい。違法薬物は検出され無かったそうです。前科も無いですしねぇ」「尿検査も白。たまたまか……。いや、そもそもエビチリにキノコというのが不自然じゃないか ? 」「普通は入れないっすけど、現物見てないんでなんとも。隠し味や粉末出汁に混入してたのかもですし。    だってわざわざ毒キノコ食べますかね ? 」「中にはいる。好き好んで食べる連中がな」 鏡見は銀縁眼鏡を上げると部屋中を見渡す。「柊、アチコチ触るなよ。救急隊が去った後、どさくさに紛れて部屋を見て回ってるだけだ。捜査令状は出ていない」 食中毒で違法薬物、または異物混入でも考えられないものが出た場合、医師から警察に連絡が行く。それで鏡見と柊は先陣を切った訳だが、聴取の内容からするとレトルトのエビチリが怪しいという。 レトルトだとすれば、ここから保健所の合同捜査となる「うむ〜まどろっこしいっすねぇ〜。  あれ ? 鏡見さん、これ」 柊がドアノブの異変に気付く。  銀色のステンレス。鉄の重い玄関のドアで、油が少ないのかギィギィと鳴る。  そのドアノブに見慣れた粘膜質の分泌液を見つける。「これは……まさか…… ! あの闇バイトの仲間割れ現場にもあったネトネトじゃ…… ? 」「……ありえない。この夫婦は誰も見ていないんだ。二人だけの離婚前夜だった」
last updateLast Updated : 2025-11-20
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13.暴露

 梨花子のアカウントは瞬く間に炎上した。 今や自宅や家族の写真まで出回っている始末だ。 それもそのはず。 昨晩紫麻と鹿野がやったのは梨花子の私生活のアカウントと、転売活動する際に使うアカウントを紐ずけした。オークションサイトやSNS、裏のアカウント。それを全て「自分本人です」と宣言して自己紹介する作業。 更に転売に関しては『さも自慢げに』投稿した。「思惑通りだ。一瞬で個人を特定してしまうネットの世界は恐ろしいものだな。家族にまで迷惑をかけるつもりは無かったのだが……。身から出た錆と言うものだろうか」 アカウントの乗っ取りやハッキングなど、紫麻と鹿野に出来るはずもなく、アナログな方法だが鹿野の用意した食材で紫麻が義母を装い冷凍食品を送り付けた。そしてそれを食うまで待ったのだ。毎夜毎夜あのアパートに擬態して侵入し、梨花子の生活も垣間見た。遂には鹿野の用意した茸を用いたエビチリをついに胃に入れたのが昨夜ということだ。「インスタ……グラム ? これも見た気がするな……いや、Xだったか ?  あぁ、Tiktok ??? ここは誰かのまとめがあるな……。ふむ……上手くいったようだ」 動画には梨花子本人が薄いモザイクのみで晒されていた。『転売を舐めた結果、炎上したオバサン』 沢山のグッズを抱え、はしゃぎまくる梨花子が映し出される。『現在メーカーが対応中〜本当に迷惑だね』 そして一度見ると次々におすすめ表示される転売関係の動画。 その僅かな情報だけでも、成功したのが把握出来た。梨花子は社会的制裁を受けるだろう。ネットの中は突き立てる槍のような言葉の嵐。「おっと……もうこんな時間か」 紫麻は新聞に目を通しながら煙草に火を付ける。「スマホは良くないな。時間が溶ける。新聞が半分も読めやしない」 薄紫のドレスにふわりとした白い下地が見え隠れする個性的なデザイ
last updateLast Updated : 2025-12-01
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14.白い傘の悲恋

「その席でよろしいですか ? お冷はセルフです」「はい。……あの、少しお話したくて……」「構いません。わたしでよろしければ。神父もいます」「そう、ですね。神父なんでしたっけ ? 」「怠けもんだがな〜。鹿野  敦夫だ。よろしくなぁ」「仲江  宏美です……よろしく神父様」 紫麻と鹿野の注目を浴びながら、宏美はカウンターの上をジッと見つめてから、ゆっくりと話し始めた。「リカコって人、退院したらユウ君と住むんです」 絶賛炎上中の梨花子。職もなく、顔と住所を晒され、夫とは離婚の予定だった。「よくよく聞いたら、ユウ君がリカコと元から住む予定だったとか……」 紫麻と鹿野はネットで暴露されている事だけに限って話さなければならない。記憶を辿り紫麻が尋ねる。「梨花子さんは御結婚されていたのですね ? まとめで少し見ました」「はい。あの人、そんな事……ユウ君に言ってたのかな ? その辺はよく分からないんですけど……。  それで、わたしが追い払われちゃって……」「ヘヨンさんとヒロミさんはご兄妹で実家にいらっしゃったのでは ? 」 こう聞くしかない。分かっている話の中ではこう話すのがベストなのだ。  だが鹿野は直球に聞いてしまう。「あんた、兄妹ってのは嘘だよなぁ ? 」「いえ、あの。嘘をつこうとしてた訳では……なんで知ってるんですか ? 」「俺も紫麻も鼻が効くんだよ」 宏美は驚いた顔をすると紫麻を見上げる。「え !? 最初から ? バレてました ? 」「ふふ。色んなお客様が来ますので。一緒に住んでいる方で同じソープや整髪料を使っていたとしても、何故か嗅ぎ分けられるものです。例えるなら、蛸の吸盤にはそれぞれ嗅覚がある様に、です」「蛸…… ??? そ、そうなんですね……」 急な蛸ネタに宏美は混乱しながらも慎重に話し続ける。「ユウ君とは長いんです。顔も好みだし、すごく優しいし。わたしが夜職を
last updateLast Updated : 2025-12-02
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15.舐め合う傷口

 ヘヨンというのが祐介の祖父であることは事実だ。  しかしもう亡くなった祖父の口座を作ることは出来ない。たまたま相続手続きが未処理の口座を見つけた事から始まった。  本来、使用の最中、銀行側が気付けばすぐに確認が入る。だが、それを掻い潜り祐介は祖父の口座を使い始めた。 何より、その口座を今持っているのは梨花子である。「盗まれた祖父の口座だ」と祐介が言い切れば、梨花子の方が不利な状況だ。 祐介はヘヨンと名乗り続けた。  そして、暇つぶしに不特定多数の女性と関わり合い続けたのだ。彼女たちの恨みを買いながらも、急激に膨れ上がる貯金と泡銭。  偽の韓流を装いながら、流行とはこんなにも武器になるのかと金を握りしめ笑いが止まらなかった。男性アイドルとは程遠い自分でも、人気国籍と偽り、AIに聞いたほんの少しの韓国語を使い、ベッドでぎこちない言葉を囁くだけで彼女たちは祐介のATMとなった。 本来、祐介は梨花子も嵌める予定だった。  だが予想外に梨花子は最初から転売の片棒を担がせるつもりで出会った。 祐介は転売を手伝いながら、宏美が稼いで用意した家で、梨花子をジワジワ落としてきたのだ。「ヘヨン ! 」 祐介の借りたアパートに梨花子がやってきた。「ごめん。ヒロミがしょっちゅう入り浸って五月蝿いから……内緒にしてて」「妹さんだもんそんなものよ。ごめんね、突然転がり込んじゃって」「いいんだ。そろそろ身を絡めるつもりだったし。おかしなことがきっかけになってしまったけどさ」「ヘヨン……。ありがとう」「リカコの為だ。ヒロミの私物多いけど、さぁ上がって ! そうだ ! 今日は俺が夕食を作るよ ! お祝いだ ! 」「ヘヨン……」「いいんだ。そうだ。あの……スマホとか、預かろうか ? その……ネットは見ない方がいいよ。精神衛生上良くない」 梨花子はショルダーを下ろしながらも、少し躊躇うようにスマホを見つめる。そのスマホの電源は切れている。ここに来るまでの間、拡散された個人情報のせいで無限に知らない人間からの着信が続き、充電が無
last updateLast Updated : 2025-12-03
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16.ホワイトアンブレラの失恋

「夕食の食材を買いに行くよ」 ソファから立ち上がった祐介を見上げて梨花子が不安そうな顔を見せた。「い、行くよ。わたしも一緒に」「それじゃあ楽しみにならないじゃん。俺がやるからさ。ゆっくりしてて」 祐介は梨花子を抱き寄せ肩を優しく撫でる。既に祐介に国外感はない。もし他人が馴れ初めを聞けば不信に思うだろう。祐介はもう『ヘヨン』を演じていない。そこにあるのは、梨花子の望む理想の男性像を演じたモノだった。  梨花子は俯き、静かに頷いた。「身バレはどうしようもないし、それでも俺は側にいるからさ。案外みんな他人のことなんてすぐに忘れるものだよ」「でも……今まで使った口座の一覧が……」「俺は協力してたんだから、自分で提供した……それでいいじゃん。他の奴のだって、お金の欲しい人達が使ってない口座を預けてたし、並び屋とか抽選枠のバイトとして見返りがあったじゃん。リカコだけが悪いわけじゃない」「うん……」「じゃあ、行ってくるね。一時間で戻るよ」 祐介は部屋から出ると足早に駐車場へ向かう。「転売くらいで慌てすぎだな」 気楽に呟くとスーパーへ車を走らせた。その途中、花屋を見つけ一度路上に車を停める。  色とりどりの花達。華やかな中で店員が手早く花を選び束にしていく。その手捌きを眺めてから、車をゆっくり駐車場へ入れた。「いらっしゃっいませ ! 」「あの、花束をお願いします」「お花の希望ありますか ? 色とか組み合わせとか ! 」「赤い薔薇を十二本。ラッピングはお任せで」「わ♪プロポーズとかだったりします ? 応援します ! サービスしますよ ! 」「あはは ! ありがとう ! 」 □□□ 祐介がスーパーでレジに並ぶ頃だった。  一人の男がドス黒い雨雲を見上げながら、スマートフォンからコールする。 prrrrrr.purrrrr 呼び出し音が数回鳴ったが、すぐに留守番電話サービスの案内が流れる。「
last updateLast Updated : 2025-12-04
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17.蛋花湯と紫麻の料理法

 暫く宏美は泣いていた。  鹿野を見送った後も。  同情を惹きたいがための泣き方ではない。自身の不甲斐なさと後悔に打ちひしがれた激情の涙だった。「少し食べた方がいいです。身体にいいものを用意致します。  ですが……この暗幕は、決して覗いたり開けたりしないで下さい」「…… ? はい……」 紫麻はカウンターに取り付けた真っ赤な暗幕をシャッと閉める。  宏美は訳も分からずホールに取り残された。  直後、蛍光灯がチリッと音を立てて消えた。「え…… !? 」 停電か。  否。  裸電球は点いている。 昼間だと言うのに真っ暗な客席。赤い倒福《ダオフー》のタペストリーと唐辛子。ボンヤリと浮かぶ提灯と深紅の房飾り。  闇と赤の空間。  厨房からは鉄鍋の音が聞こえて来る。 宏美は躊躇いながらソッと暗幕に指をかけ、捲ってしまった。 大きな中華鍋の湯に筍や人参が泳ぐ。その中華鍋を握っているのは人の手では無かった。細長い触手のようなもので縞模様が色濃く出ている。更には野菜を湯切りしたと共に、今度は出汁スープが鍋に投入され、別の触手が少量の片栗粉を溶き、そのまた隣では別の触手が卵を溶き始める。「 !!!! 」 あまりの驚きに声が出なかった。 その触手は紫麻の艷めく髪や本来あるであろう手の部分から生えている。  薄紫のドレスが炎を前に唐紅に染まる。袖に入ったスリットからヒラリと舞う白いふりる。そこから生える触手には吸盤がある事に気付く。「……っ」 反射的に暗幕を元に戻す。 宏美は頭が真っ白になるも、感情が追いつかなかった。  布一枚隔てた先に居るのは明らかに人間ではない。言うなら人に化けた怪物。 だが、そんな化け物が御丁寧にも一心不乱に大鍋を振り自分に食事を作っているとは何とも不思議に恐怖が無かった。  宏美のすり減ってしまった精神状態がそうさせたのかもしれない。  ただ無言で待った。
last updateLast Updated : 2025-12-05
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18.本性

「さ、食べようか ! 」 祐介がテーブルへ並べていく料理はどれも手馴れたイタリアンだった。「凄い〜 ! お店で見るメニューみたい ! 」「高校生の頃、飲食店にいたんだ。隣町のイタリアンバルで土日アルバイト」「…… ? 高校生の時…… ? 留学って事 ? 」「……。そう。短期間だけど半年だけ。交換留学ってあるじゃん ? あれだよ」「交換留学って結構自由なんだね。だってお父さんの仕事の都合で日本に来たりで…… ? 」 祐介の顔が一瞬、凍る。  冷蔵庫を開け小さく舌打ちをする。「昔の話だよ。  シャンパン開けようか ! 」「飲む !   嬉しいなぁ〜。お花もありがとう。こういうのって貰った事なかったなぁ〜」 祐介の買ってきた花束は食卓へ活けられた。 祐介のアパートは外観より小綺麗な内装で、家具はステルス家具が好きなのか統一感が生活臭を出さない。 故に夢が覚めないのだ。 祐介はシャンパンをこれ見よがしに笑顔で開けると、二つのグラスにキッチンで注いでしまう。その片方に薬包紙に包まれた粉を盛った。「さぁ ! 乾杯しようか ! リカコ」「嬉しい ! 」 楽しげにシャンパングラスを受け取った梨花子を祐介も笑顔でグラスを掲げて傾ける。「二人の新生活に乾杯」「乾杯」 梨花子が半分程飲み干す。「ん ! 美味しい ! なんだか酔っちゃいそうだけど」「構わないよ。嫌なことは忘れちゃおうよ」「そうね ! 今日くらいいいよね ! こぉ〜んな美味しそうな料理もあるし、それも彼のお手製 ! 幸せ過ぎない ? 」「さ、どうぞ」 祐介は甲斐甲斐しく梨花子の皿へサラダやパスタを取り分ける。「ん〜♪最高 ! 美味しい !! 」「クス……そう ? シャンパン、まだあるよ」 二杯目へ。一杯目は飲み干してしまった。  祐介の中で安堵は
last updateLast Updated : 2025-12-06
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19.猩々緋色の旗袍

「お疲れ様。死んだ ? 」「はい。疲れました。まさか俺も転売やらされるなんて」「何十年って訳じゃない。高々一年ちょいだろ。俺なんて五年こいつに縛られたんだ」「実家金持ってましたからね」 祐介のアパートに現れたのは、先日離婚したばかりの梨花子の元夫だった。「包んだ ? 前回糞漏れたかんな」 ロマンス詐欺。 この二人に限っては二段構えで金の無心をするのがやり口だ。 まずは夫役が口説き落とし結婚後、獲物──つまり妻の情報を祐介に伝えるのだ。夫役は微妙な距離感で時には横暴に、金を親戚中から借りるまで妻に依存する。そして妻が愛想を尽かした頃、趣味趣向を知り尽くした祐介が現れるのだ。 梨花子のSNSにヘヨンというアカウントが表示されたのも、元夫の別アカウントが親密に梨花子とヘヨンの中継点を務める事で目に付いたのだ。 全てが演技。 元夫、横島 武史と木村 祐介。 五年に渡り梨花子から金を毟りとってきた。梨花子が今回の件で実家へ帰れないようにする為にも、横島は嘘の診断書を並べ立て梨花子の親戚から医療費や生活費と偽り借金を重ねたのだ。「ちゃんとやりましたよ。あいつ来てます ? 」「見張りに立たせてる」 そして横島と梨花子が先に婚姻関係を構築している間に、祐介は別な女性を騙し、上手く行けば横島と同じ行動をとるが、その女性のタイプによっては口車に乗せより稼げる労働へと陥れる。この構造を把握しているのは二人の更に上にいる者達なのだ。 梨花子は長らく祐介に役所勤め等と宣っていたが、転売以外にも親族からの手厚い支援があったため奪り尽くすのに時間がかかった。 今回もう一人、被害者がいる。「今から運ぶから。人来たら……」「分かってる……」 一台の乗用車。 その隣に、震えた手でスマホを握る宏美の 姿があった。 横島が大きなキャリーケースを転がしてくる。祐介はその後ろから大きなゴミ袋を何個も抱えて付
last updateLast Updated : 2025-12-07
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