「横島さん ! スピード上げて ! 」「んな事言われたってこのヘアピンカーブじゃ…… !! 」「クソ ! なんであの女が俺たちを追ってくるんだよ ! 海希〜っ、お前なにかゲロったな !? 」 祐介が海希の髪を鷲掴みにして思い切りシートから引き剥がす。そのまま力任せに足元まで頭を下げると極めて残酷なに左右に振る。「い、痛い ! 言ってない ! 言ってないって !! 自分の本名だって言ってない ! リカコが本当に転売してるのだって知らなかったのに ! 」「チッ ! 」 束になって抜けた海希の髪をパンパンと払うと、今度は当てつけに海希の身体を座席横から何度も蹴りを入れる。 その時横島がルームミラーを見て怪訝な顔をする。「……女……消えたぞ。撒いたか ? 」 祐介が振り返る。 確かに先程までの紫麻の姿が無い。「早目に横道に逸れるか。目的地までそう違わねぇ距離だ」 横島が本来のルートから外れ、更に険しい山道へ入る。小枝や茂みの葉が車にぱちぱちとあたる。 海希はぐったりと祐介から止んだ暴力に安堵しながら、再び最後になるかもしれない外の風景を見つめる。 祐介の怒りぶりと、紫麻が現れた事で計画は悪い方へ転んでしまった。山へ梨花子の遺棄をしに行く──恐らく海希も一緒にそこで処理されるだろう。 すると途端に冷静になるもので海希は無言で木々の隙間の動く物に気付いた。 紫麻のバイク……ではない。山は背の高い薮が生えた激坂。それも舗装されていない場所をバイクが走れる訳がない。 だがそれは上下に揺れながら、猛追してくる。そしてその謎の物体の上にいるのはやはり紫麻に見えた。「…… ? 」 目を見張るが笹薮ですぐに景色が遮断される。「着いたぞ。スコップ出せ」「海希、お前もだ」「……」
Last Updated : 2025-12-08 Read more