大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜 のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

70 チャプター

6.不審な影

「ストーカー ? 」「いや、まだ断定は出来ないんだけどね」 突然話し出した岩井のワードに、海希が一番不信げに反応した。「え、何 ? どういう事 ? 女性関係複雑だったりするの ? 」「無いよ ! 本当にそれは ! 」 突然ストーカーが付くというのは、事実七割以上が顔見知りである。特に多い年代が二十代〜三十代。ストーカー法が出来た後、検挙率は徐々に低下傾向にはあるものの、あくまで警察に相談をした中での統計となる。 岩井も現在、警察に相談はしていないという。「心当たりがないから、余計に警察沙汰にしようがなくてさ」 話を聞いていた紫麻が岩井を見つめる。  嘘をついている風でもない。  海希とも、そう深い仲ではないように聞こえる会話。しかし今、悩みを話してしまっているのは追い詰められている証拠でもある。近すぎる周囲には相談できる人間がいないのだろう。「良ければ話をしてみませんか ? わたし達のような部外者の方が、割と安全かとも思いますよ」「……あぁ。確かに……そうですよね ? じゃあ、聞いて貰えますか ? 」 鹿野と海希も何となく岩井の卓に座り、次の言葉を待つ。「どこから話せばいいかな……まずは……俺が海希と同じ職場にいた頃から始まるんですけど」「え !? その期間も ?! 」 海希は予想だにしない岩井の告白に目を丸くした。「まぁ、聞こうじゃねぇ〜かぁ〜」「海希さん、馬鹿鹿からお酒を取り上げてください」「紫麻さん、笑顔で無茶振りやめて……」「これは俺の酒だぁ ! 渡さん〜」「あぁぁっ !! 集中出来ん !! いちいち絡むな !!  ……。  ……失礼いたしました。どうぞお話ください」「は、はぁ……」 □□□□ 岩井の話はコンセプトカフェに勤務していた頃に遡る。 その日、勤務を終えた岩井は店長に挨拶を告げるとすぐに帰路へついた。 まず最初に気付いたのはアパートの出入口からほんの僅か離れた電柱の影に立っていた者だった。  黒い帽子にベージュ色のウィンドブレーカー。黒いパンツスタイル。「全身黒とかじゃないんだねぇ」 海希が首を捻る。  如何にも怪しい者となると黒ずくめはよくある話ではある。「足がさ、細いんだよね。痩せ型の男かと思ったんだけど、背は156〜くらい ? どちらとも言えない感じでさ。ほら、ジョギングとか
last update最終更新日 : 2025-12-18
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7.お迎え

「女を見かけた三日後かな。郵便物が荒らされてたの。ビリビリに破かれてて。うちのアパートって郵便受けに鍵とか無いから。  でも、その前にも頼んだはずの置き配が届かなかったり、取り寄せた講習会のパンフレットが届かなかったりしてたんだ。  どこからが被害なのか分からないけど、とにかくカフェ勤務始めた頃から始まって……」 ──その後。  帰り道でも視線を感じるようになった。「付けられてる感じがするんですよね。でも振り返っても、知らない通行人ばかりだし、あの夜見たような女っぽい奴もいなくて」 一番最初に岩井の相談を受けたのはカフェの店長だった。「本当に元の奥さんじゃないの ? じゃあ……客の中にいるのかもね。心当たりない ? 」 彼女は至って真面目に事情を聞いた。「男性客が殆どですし。でもだとしたら余計にあの不審者とは合わないです」「恐怖心で見間違えたり、相手が変装してたり可能性はあるんだし。  郵便物荒らしだけでも実害が出てるんだから警察に相談とかどうかな ? 」「警察…… !? 」「もしもの話をしたらキリが無いけどさ。実害が出てるって事は、結構な執着だよね ? 警察に行く岩井さんの姿や情報を、相手が見たら抑止にならないかな ? って思うんだよね」「あぁ、そういう……。でももしかしたらアパートの……例えば他のご家庭からの嫌がらせとかかもしれませんし……」「うん。そうだね。でも、岩井さんが悪いわけじゃないんだから、念頭に置いてみたら ?   その為の警察なんだしさ」「母と……相談してみます」 勤務中、女性スタッフ目当てに楽しむ客たちを眺めながら、疲労で回らない記憶を頼りに不審者を当てはめていく。女性客も来るが、どうにもあの闇夜に佇んでいた不気味さを彼女たちからは感じ取れなかった。それどころか、ここでは海希や他のコスチュームを来た女性達がメインの空間だ。一応、迷彩服風のコックコートに身を包んだ岩井達やホールのボーイもいるが、ただの裏方。岩井に執着心を向けてくる客は身に覚えがなかった。 おかしな
last update最終更新日 : 2025-12-19
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8.連れ去り事案

「もしもし山口さん ? 今日は結香がお世話になって〜、いえありがとうございました〜。  あのお聞きしたいことがあるんですけど、結香のお迎えは……。え ? 伯母さん ? わたしの娘が !?  ……あ、いえ……そうでしたか。いえ、なんでも……」 母親が電話を切りしばらくの沈黙。「母さん !! 」「だってまさかこんな事になるなんて ! だいたい保育園は確認もしないで結香を引き渡したの !? 」「そ、それが身分証を見せて貰ったとか聞いたけど……」「身分証 !? 」 その後、岩井は姉に確認をとったが姉は都会に就職したまま多忙で本日もまだ勤務中だった。リモート映像から見えるデスク後ろの社員たちが慌ただしくも通りすがる様子を映していた。『え !? そんな事があったの !? ちょっとちょっとヤバいよ〜。  実はわたし、二週間前に財布落としたの ! 』「落とした !? 身分証も !? 」『落としたって言うか忘れたっていうか……気付いたらバッグから無くなっててさ。  口座とかは止めて貰ったから、実害は現金五千円くらいだったんだけど……。  それ本当にわたしの身分証だった ? 免許証だと思うけど……』「明日……保育園で確認してみるよ」 □□□「それで今日も、保育園に行っていたんだ」「解決してないの ? 」 岩井はなんとも言いにくそうに額をサリ……っと撫で付けた。「それがさ。その次の日、すぐに保育園に確認しに行ったんだよもしかしたら偽の不審者が姉貴の身分証使ったとしたら、誘拐じゃん ?  でも話を聞いた保育園側に平謝りされて……」「はぁぁぁ !? 岩井、それ飲んだの ? 」「身分証出されたら、誰だって信じちゃうだろ ? 安本先生も悪気があった訳じゃないし。  でも警察には相談だけはするって言ったんだ。そしたら保育園が安本先生を解雇するから警察沙汰にするなの一点張りで……」「いやいや ! 行きなよ ! おかしいじゃん ! 」「うん……」 煮え切らない岩井の様子に紫麻が不思議そうに問う。「なにか行けない事情が ? 」「事情っていうか……母親が大事にするのが気が進まないらしくて。『警察に行くなんて、余程のことだ』と聞かなくて」「あぁ、そういう事か」 鹿野が溜息をついて頷いた。「お母さんって言うと今、六十代くらいか ? その世代っ
last update最終更新日 : 2025-12-20
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9.堕天した二人

『連続女児誘拐事件特別捜査本部』 達筆で書かれた墨字の会議室から険しい顔をした刑事達が出てくる。慌ただしく、それぞれの持ち場へ散っていく。 その中に柊の姿があった。「あれ ? 柊じゃん」 会議室から出たのを見計らい、人員不足の為招集された巡査が柊に声をかけた。「あ、賀川……」 賀川は柊と同期である。「今は鏡見さんと組んでるんだよな ? 今日は別動なのか ? 」「あのさぁ〜。なんかさぁ、実は今回鏡見さん外されたんだよねぇ」「そうなの ? あぁ……」 賀川は思い当たる節があるようで、すんなり受け入れた。「まぁ、可能性は……無くないからなぁ……」「みんなに聞いてもそんな反応すんだよ。なんかあるん ? 俺なんも聞いてないんだけど〜」「お前、過去の記録見てないの ? 昔もあったんだよ。砂北から砂南まで広域だけど、子供狙いの事件でさ、女児連続殺人」「あぁ、知ってはいますけど……」「砂北小学校の裏に集合住宅が何棟か建ってるだろ ? あの時代の事件は鏡見さんの実家もだよ」「え…… !? 」「十六年前。ガイシャは妹さん……。あとは自分で見ろよ。ってか、今回の件との繋がりもあるかもしれないからって話に出てただろ ? しっかりしろよ。 そんなわけで捜査から外されたんだな。鏡見さんなら冷静さを欠くことはないと思うけどな〜。ただでさえ人いねぇのにな〜。じゃあな」 柊は口を尖らせると資料に視線を落とす。 十七年前から十六年前にかけての犯行の中、砂北小学校 六年生で被害者になった女児に鏡見という姓の子供がいた。 鏡見はどこか重苦しい空気を纏っている。その理由を考えたことは無かった。柊にとって鏡見の印象はストイックで、ビジネスというスタイルを崩さない優秀な刑事。 一
last update最終更新日 : 2025-12-21
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10.海希の母親

「それでね〜、記念に写真撮ったんですよ〜」「まぁ、これが鹿野の汚部屋だったとは ! 見違えた」 海希が刀削麺の生地を練る紫麻のそばでお喋りに夢中だ。本来、就職先でこうはいかないが紫麻も鹿野も海希が今、本来精神の安定を図る期間だというのを理解している。  今はただ内に籠らないよう見守ることだ。 だが一つの気がかりもあった。「そう言えばよぉ海希ちゃん」 鹿野がずっと言い出しにくかった話題。酔いの力もあ思い切って踏み込んだ。「約束だった、家族に連絡をするってのは順調かい ? 」 海希が鹿野の教会に住み、教会と八本軒の雑用をする事で生活を保証する。その代わり、海希は家出してきた実家に現況を伝えるのが条件だった。「あ……手紙を書きました。直接話すより……。居場所と電話番号と」「海希さん出身地は ? 」「宮城です。仙台の郊外に……」「ここより住みやすそうじゃねぇか。蔵王なんてお仲間がまだ餌は豊富だとか噂で……。  そんで、家族からアクションあったか ? 」「いえ。元々、あたしには合わない人達だったし。伝えた事は伝えたし」「海希ちゃんって、スマホの着信って友達のは100%とるよなぁ ? 部屋が離れてるから会話まで聞こえねぇが、夜中までお喋りしてるだろ ? でも、たまに取らねぇ着信があるよな ? 親御さんじゃねぇのか ? 」「……」 図星だった。「れ、連絡は取りましたよ。ただ会話するとは別に……会話なんてしたら……」 次の瞬間、海希のポケットから着信音が鳴る。 手に取らない海希に鹿野が勧める。  浮かない顔をしたまま、海希は渋々通話ボタンをタップした。「はい……。あ、うん。……ご、ごめん……。……でも……はぁ !? やだよ ! えっ ? 待って待って ! 」 ガラララ ! タイミング良く開く八本軒の入り口。 そこにはずんぐりむっくりとした中年女性が立っていた。柄物に柄物を合わせたクセの強いファッション
last update最終更新日 : 2025-12-22
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11.富富士の店主

 八本軒の朝顔のグリーンカーテンに隠れ、一人の女が海希の母親の背を見ていた。 質素な装いではあるが垢抜けた顔をしたスレンダーな身体。 その女は富富士にいた客で、海希の母親が食事するのを、たまたま同じカウンターで昼食時に見ることになった。 大将とつい話し込み、海希の母より大分後に八本軒の前を通りかかったが、あの大声で怒鳴るように喋る母親の声だ。思わず立ち止まってしまった。「ああいう親も大変ね」 何事もなく済んだ八本軒を見上げながら、そう静かに呟くのだった。 ◇◇◇◇ すっかり酒の酔いが冷めてしまった鹿野はカウンターで大人しく画集を見ていた。 海希は午後の仕込みが終わると、紫麻を見る。「 し、紫麻さん、それ手伝います ? 」「うぎぎっ ! だ、大丈夫だ ! 」 大きなロース肉に、これでもかと凧糸を巻いていく。きっちりやらないと緩んでしまうし、凧糸も一般的な物より太めで肉を持つのも巻くのも力を要する。 これが終わったら鶏肉も巻く。鳥も皮を内巻きに、今度は細めの凧糸で繊細に巻く必要がある。 それらはチャーシューや角煮、鶏ハムなどにするのだ。余ったスジや骨は寸胴でスープになる。 紫麻の髪から二本の触腕が別のシンクでゆで卵を割っている。こちらはスープや麺類の付け合せ分や、煮卵になる玉子たちだ。「紫麻さんの……タコ足って食べれるんですかね ? 」「ヒュっ !! 」 紫麻がゾッと海希を振り返る。「わ、わたしを食べても美味くはないぞ !? 」「い、いえ。お寿司屋の話が出たからたまたま ! 」「寿司屋か……」 紫麻は一度厨房から出ると、出入り口の扉を開ける。 目の前に佇む一軒の平屋。手入れされた松の木に大きな躑躅。藍色のシックな暖簾がかかっている。「富富士だ」「いつも静かですよね ? 」「ふん。ここの店主も大概だぞ ? 」 そう
last update最終更新日 : 2025-12-23
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12.搾菜炒飯と芙蓉蛋の聴き込み

 紫麻が『仕込み中』のプレートを『営業中』へと返しに外へ出ると、鏡見が立っていた。「……」「……いらっしゃいませ。どうぞ、営業時間です」「ああ」 鏡見は素直に店に入った。  ようやく紫麻が気付く。  鏡見の違和感。今日はスーツを着ていない。「メニューをどうぞ。夜間はおつまみセットがお得です。お冷はセルフサービスです」「ああ……じゃあ、カウンターに」「……」 これには紫麻の方が面食らう。  当然、鏡見には少なくとも好かれてはいないと分かっているからだ。 無言でお品書きを見る鏡見。一体どう言うつもりなのか、考えてるうちに腹がたってくる。「お決まりになりましたら、ベルを鳴らし下さい」 ピシャ。 鏡見がカウンターに座ったというのに、厨房との間のブラインドを閉めてしまった。  そして拒絶反応か、暗幕も締め切る。「く……一体なんなんだ ? 海希は上手くやってるし、話を聞きたければ教会へ行けばいいものを何故ここに…… ! 」 チーン♪「ヒィ ! 」 お品書きを持ったままキョロキョロする鏡見の元へ、貼り付けたような笑みで紫麻が厨房から出てくる。「お決まりになりましたか ? 」「搾菜炒飯と芙蓉蛋《フーヨータン》を」「かしこまりました。お待ちください」 厨房に戻った紫麻が頭を抱える。「嫌だぁぁぁ…… ! あいつに飯、作りたくないぃぃぃ……」 紫麻は鏡見の記憶はあるものの、それは当時の幼い姿と子供の匂いだ。まさか彼が今、警察官になっているとは思っていない。何某か疑いを持たれているとは勘付いているが、この所出入りする他の事件絡みだと思い込んでいる。「そもそもなんでここに来るんだ ? 私服……いや、私服とはいえ警察だ。……あのヘラついた相方もどこかで見てるのか ? 」 触腕を伸ばし窓の鍵をチェックする。「厨房は大丈夫だな。とにかく、早く食べて出ていって貰
last update最終更新日 : 2025-12-24
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13.左手首のサイン

「向かいにある寿司屋さんはいつの間にか店主が変わってたんですね。俺が知ってるのはもっと年配の方だったんだが、さっき仕入れの荷を運んでる方を見て驚いた」「意外でしたか ? 人は更生するものです」「そうだな。彼の顔は警察学校時代にみている」 富富士のリュウは跡継ぎのいない先代からそのまま店を引き継いだが、修行を終えてからの話だ。その為、リュウが事件になったのは十年前。「……失礼ですが、大変お若く見られましたので、新人の警官かと思っていました」 紫麻は皮肉混じりにクスクスと笑う。 鏡見はむっとした顔色を見せたが、特に反抗しなかった。 本題に入らないまま時が過ぎる。「ところで、仲江 海希がここでバイトしていると富富士で聞きましたが…… ? 」「ええ。真面目に勤務されています。お母様にお会いになられましたか ? 」 ここは紫麻が先手を打つ。法律と戦う気は無い。「いや、仲江の母親ですか ? 」「ええ。先程、富富士で食事を召し上がってからここへ来ました。 海希さんはまだ事情もありますから、ご家族へ連絡するようわたしと常連客がしつこく言ってしまったのですが……誤った判断でした」「と、言いますと ? 」「海希さんを温かく見守って下さるとばかり……。ですが現実は複雑なものです。わたしですら、あの母親と暮らすのは苦痛だろうと思えてなりませんでした」「ならば、余計に保護シェルターなど、公的支援が必要では ? 」「それは彼女が望みません。成人ですし、彼女自身にカウンセリングも必要です」「…… ? ここに住んでるんですか ? 」「いいえ、大通りの教会です」「……あそこは活動等をしているイメージはありませんが……。よくここへこられている司祭ですよね ? 」「ふふ。
last update最終更新日 : 2025-12-25
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2025年、サスペンスホラーで這った一年 !!

皆様、2025年本当にお世話になりましたm(_ _)m特に前作 Psycho-wの奨励賞に続き、勢いをそのままに同ジャンルで出来た八本軒でした。わたしじしんq、町中華のレトロな雰囲気とシンプルな中華そば、単品で贅沢なエビ料理に飲み物かってほど美味い天津飯。ここ十年ほどあちこち趣味で歩き、サスペンス✖️女性店主✖️犯罪というテーマで決まった『大衆中華』というコンセプトでした。紫麻の名前で某伝説家政婦を思った方もいたのでは ? あのプロフェッショナルな感じも好きですが、今作 黒月 紫麻に関してはミミックオクトパス(別名 ゼブラオクトパス)ということもあり、シマシマ模様→紫麻となったしだいで、更に担当様にプロットを送った時はまだ和風美女っぽくなかなかの見切り発車でした。なんか、彼女ならいけるきがして紫麻は俗に言う『ダークヒーロー』なのでしょうが、それを正当化させないのが私の仕事です。犯罪を学びながら、読者様を犯罪に巻き込まれなければと。日々治安の悪い情報を漁っている毎日です。子供がいると、余計に気をつけてますね(>_本棚や資料が恐ろしいものだらけになりますのでカバーも必須アイテムだったり。カバーをしてどれがなんの本か分からなくなったりてんてこ舞いしていますwそれでも来年もこのてんてこ舞いが出来るよう精進して参ります☀︎それでは皆様、良いお年を !
last update最終更新日 : 2025-12-31
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14.宇佐美 真子

 岩井が駅のホームに立っていると、後ろから肩を叩かれた。「岩井♪」「宇佐美さん ! 」 岩井の肩を叩いたのは、前に岩井と海希が務めていたカフェの店長 宇佐美 真子だった。「久しぶりねー。なんだか顔色いいじゃない」 宇佐美はシルバーグレイのタイトスカートに黒いシャツ。スレンダーで柔らかそうな巻き髪が通行人の視線を奪う。「あ〜。あの時は本当にご迷惑おかけしました。最近もまだちょっと……」 岩井が工場勤務になってから宇佐美は海希など他のスタッフに噂を聞く程度だった。心配はしていたが、別な職場に就職したことを聞き随分回復したのだと思い込んでいた。しかし、岩井への被害はまだ続いている。 宇佐美は口元を抑え、少し困惑した様子を見せる。「うそ……まだ続いてるの ? 」「嫌がらせっていうか……」 岩井は先日あった子供のお迎えトラブルの話をした。「それ、誘拐じゃない ! どうしてすぐ警察に行かないのっ」「警察……は……。そんな大事じゃないかと……」「大事だから ! 子供が知らない人に連れ出されたんだよ !? お母さんに相談しながらじゃないと何も出来ないの !? しっかりしなさいよ ! 」「……そうですよね……」「私もさ。夜に仕事じゃない ? 離婚してから、夜は一人きりで留守番させて子供に申し訳ないと思ってて。今さ、昼間に営業できるカフェの経営を考えてるの」「え ? それなら今の店を昼営業に変えればいいんじゃ……」「ミリタリーがコンセプトだと客層がね……仕事終わってからくる人も多いし、オフィス街の真横って立地だしさ」「確かにあの店の客層ってサラリーマンが殆どでしたね」「モデルガン、今は規制厳しい
last update最終更新日 : 2026-01-01
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