「おい ! おめぇ、何者だ !? 」 暗い屋敷の廊下。 押し入り強盗の懐中電灯で照らされたソレは、光りに気付きゆっくり振り返る。 顔は女人。 首下も人間。振り返った拍子に、裸体の豊満な乳房が上下に弾む。 だが男はその不可解な異形に、思わず懐中電灯を落とし声を漏らした。「ヒッ !! 」 女の瞳の瞳孔は山羊のように横長で妖しく吊り上がり、玩具のように真っ赤な唇が笑みを浮かべる。その唇は何かを咀嚼している。転がった懐中電灯が照らす女の口の端に、まだピクりと動く人の小指が引っかかっていた。 一緒に来た強盗仲間の青年に馬乗りになり、血肉を咀嚼しながら、人間とは思えぬ冷笑を浮かべる。 女の下肢は大きな蜘蛛のようで、床に粘膜を撒き散らしながら這いずる。黒々とした縞模様が蠢いて、青年の臓物を次々と口に運ぶ。 壁に当たって止まった懐中電灯が、天井にまで飛び散った血飛沫を照らした。 男は堪らず腰を抜かして尻もちを付いて命乞いをするのだった。「頼む !! 命だけは !! 」「……今まで老人達にそう言われた時、あなたは命を助けましたか ? 」「……んな事、言われたって…… !! 」「あなたも美味しそうです」 □□□□□ 海の日。 七月のその日、洗ったばかりでペトペトのシャツを着た中年男性がふらふらと歩いていた。 男の背のベルトには、たった今使用したばかりの包丁が挟まれていた。 都会から程遠い田舎町だが、新幹線の駅街が出来るとたちまち人口が増えた市街地になった。 駅前通りは華やかではあるが、駅裏は些かまだ商業施設は少なく、代わりに市役所や警察署が大通りに建ち並んでいる。 交差点の教会を住宅地方面へ曲がれば、すぐに地元民しか立ち寄らないような寂れた路地裏が四方に伸びている。 男性は一度立ち止まり、辺りを見渡す。 その路地裏の一角に町中華の看板が見えたのだ。 真っ赤な下地に黄金色の筆字で書かれた『大衆中華 八本軒』という、ケバケバしくもどこかレトロな存在感。 店先に並んだプランターの朝顔が、何本も綺麗に軒先まで延びてグリーンカーテンになっている。 男性は古くても手入れの行き届いていそうな店だと思った。背の包丁を黄ばんだシャツで簡単に隠し、暖簾をくぐった。「いらっしゃいませ」 厨房から女が一人振り返る。 店の規模からすると、この女一人
Last Updated : 2025-10-24 Read more