彼女の姿が視界から消えた瞬間、全身を裂き走る傷の痛みに膝がくじけた。 その場に片膝をついたまま、痛みがわずかでも薄れるのを待つ。 熱をはらみ、気道をふさごうとする力に逆らい、無理矢理喉を押し開いて呼吸をつなげた。 早く追わなくては。 ぼたぼたと血が塊となって落ちる腹部の傷を手でふさいで、レンジュは立ち上がる。 切り結びあう音と足音が近付き、仕切り布のすぐ向こうまできたと思ったら、仕切り布を引き裂いて盗賊の一人が倒れこんできた。「なんだ。いきなり消えたと思ったら、ここにいたのか。 どうだ、お目当ての彼女は見つかったか?」 レンジュの足元で事切れている盗賊の背中をばっさり割った剣を壁に向かって振り切り、付着していた血を飛ばしながらハリが言う。「! おまえ、その傷!」「……馬、借りるぞ」 穴のそばにくくりつけてある自分の馬をとりに行っている余裕はない。傷だらけの体を引きずり、横を抜けようとするレンジュに、ハリは血相を変えた。「借りるって、まさかその体で馬に乗る気か!?」 おいと肩を掴まれた衝撃が傷口に伝わって、レンジュは声もなく岩壁に身を寄せる。「乗れるわけないだろっ。ただでさえひどい傷だってのに、そんなことしたらますます傷口が広がるじゃないかっ」 気を抜けば瞬時に意識を失ってしまいそうな激痛を噛み殺すレンジュに、ハリがまくしたてる。 腸がこぼれるぞ、とはおどしだろうが、まんざら嘘でもない。 レンジュにもわかっている。けれど、どうしても行かないわけにはいかなかった。 イルクは彼女を凌辱しようとしていた。空を飛んだことから察するに、やはり彼は人ではないのだろう。彼女と同じ言語を話していたようだから、彼女と同じ世界の者かもしれない。 それなら万一のことがあっても命に別状はないだろうが、それは、命さえ助かればどんな目にあってもかまわないというわけではない。 泣きながら、かけ寄ってきた。気丈な彼女が、あんなにも震えて……彼女を傷つ
最終更新日 : 2026-01-07 続きを読む